今日は授業中に「弓を引く」という言葉を何となく使ったのですが、生徒たちから「弓を引くってどういう意味ですか?」と質問がありました。確かに、時代劇をあまり見ない人にとってはなじみのない言葉かもしれませんね。

この「弓を引く」というのは、簡単に言えば「反逆する」という意味の言葉です。今回はこの「弓を引く」について、院卒日本語教師の筆者が解説していきます。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学に再就職した、日本で大学院修士課程修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「弓を引く」の意味や語源は?

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「弓を引く」という言葉、あまり見聞きしたことがないという人が多いのではないでしょうか。時代劇を見る人は、その中で聞いたことがあるかもしれませんね。現代語としても使用できる表現ですよ。まずは、その「弓を引く」の意味と語源を確認していきましょう。

「弓を引く」の意味は「反抗する」

最初に、「弓を引く」の辞書での意味を確認していきましょう。「弓を引く」は、国語系の辞典には次のような意味が掲載されています。

1.弓に矢をつがえて射る。
2.反抗する。そむく。楯つく。保元物語「兄に向つて弓を引かんが冥加なきとは理りなり」

出典:広辞苑 第七版(岩波書店)「弓を引く」

「弓を引く」は「弓に矢をつがえて射る」「反抗する」という2つの意味を持った言葉です。1つ目の意味は、文字そのままの大元の意味ですね。今回は2番目の「反抗する」という意味を中心に解説していきます。主君や君主、現代では上司など目上の人に対して反抗することを表す表現です。

「弓を引く」の語源は、矢を射る相手といえば…

では、なぜ「弓を引く」は「反抗する」という意味を持つようになったのでしょうか。意味のコーナーで紹介した通り、「弓を引く」の大元の意味は「弓に矢をつがえて射る」です。では、矢を射る相手は誰でしょうか?もちろん敵ですよね。

弓を引く相手は敵とみなされることから、目上の人に対して敵対する…つまり「反逆する」という意味が派生していったと考えられています。

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「弓を引く」の使い方を例文とともに確認!

次に、「弓を引く」の使い方を例文とともに確認していきましょう。「弓を引く」は主君や君主に対する反抗を表現する際に使われるものでしたが、現代では上司など、単に目上の人に逆らう場合も使われるようになりました。詳しく見ていきましょう。

1.本能寺の変を起こした後、明智光秀は自身に味方をする武将を募ったが、主君に弓を引いた光秀に味方をする者は、ほとんどいなかった。
2.独裁国家において、指導者に対して弓を引くことはまさに命がけの行為だ。
3.部長のパワハラにはもう我慢できない。弓を引くことを決意したよ。

例文1では、「主君に謀反を起こした光秀に味方をする者は、ほとんどいなかった」という意味で「弓を引く」が使用されています。主君や君主に対する謀反、反逆行為に「弓を引く」は多用されていますね。

例文2では、「指導者に対して反抗すること」という意味で「弓を引く」が使用されています。具体的には反政府デモを起こしたり、指導者に対して批判的な投稿をしたり、武装蜂起したりすることですね。日本のように言論の自由が保障された国では、首相や与党に対して言いたい放題出来ますが、そうでない国の方が多いのです。

例文3では、「部長に反抗することを決意したよ」という意味で「弓を引く」が使用されています。この場合は、部長のパワハラや不正を告発したり、部長と対立している誰かの味方をしたりすることを表しますね。

「弓を引く」の類義語は?

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次に、「弓を引く」の類義語について確認していきましょう、「弓を引く」の類義語は「謀反を起こす」「反逆する」「反旗を翻す」です。意味やニュアンスを確認し、「弓を引く」と比べてみてください。

「謀反を起こす」:国や主君に背き兵を挙げる

「謀反を起こす(むほんをおこす)」は「国や君主に背いて兵を挙げる」という意味の表現です。自身が仕えている主君や、国家、君主に対して背き、その主君や国家、君主を滅ぼすために挙兵することをいいます

「謀反を起こす」には「兵を挙げる」という意味が含まれますが、誰か上の立場の人に反抗する際に、実際に兵を挙げない場合でも比喩的に使用可能です。

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「反逆する」:国や権力に逆らい、背く

「反逆する」は「国や権力に逆らい、背く」という意味の表現です。国家や主君以外にも、広く目上の立場の人に対して逆らったり、反抗したりする場合に使用可能という特徴があります。

「反旗を翻す」:権威・権力などに逆らう

「反旗を翻す(はんきをひるがえす)」は「権威・権力などに逆らう」という意味の慣用句です。ある人物や団体に対し、反対の立場を鮮明にして行動を起こすことを表現します。下の立場の人間が上の立場の人間に対して逆らうことに使用される場合がほとんどです。ただ、まれに対等の立場同士の対立にも使用されることがあります。

「弓」が含まれるその他のことわざ・慣用句

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ここまで「弓を引く」について解説してきましたが、「弓」が含まれることわざや慣用句は、他にも日本語にいろいろと存在します。ここでは、その一部の「弓は袋に太刀は鞘」「弦なき弓に羽抜け鳥」を見ていきましょう。

「弓は袋に太刀は鞘」:天下泰平で武器の必要なし

「弓は袋に太刀は鞘(ゆみはふくろにたちはさや)」は「天下泰平で武器の必要なし」という意味の表現です。簡単に説明すると、「天下が平和であるために、武器を用意する必要がない状態」を表す表現ですね。日本では初期と幕末を除いた江戸時代が、まさに「弓は袋に太刀は鞘」の時代だったのではないでしょうか。

現在は、残念ながら世界各地で戦争が続いています。この地球が早く「弓は袋に太刀は鞘」の状態になることを祈るばかりですね。

「弦なき弓に羽抜け鳥」:どうしようもない、全く役に立たない

「弦なき弓に羽抜け鳥(つるなきゆみにはぬけどり)」は「どうしようもないこと」や「全く役に立たないこと」を例えた表現です。弦がない弓は矢を飛ばすことができませんし、羽がない鳥は空を飛ぶことができませんよね。

自身ではどうしようもない状況を嘆く場合や、ある人や物を「全く役に立たない」と評価するときに使用する表現です。

\次のページで「目上の人に「弓を引く」前に…」を解説!/

目上の人に「弓を引く」前に…

今回は「弓を引く」について解説しました。「弓を引く」は「弓に矢をつがえて射る」「反抗する」という2つの意味を持った言葉で、2番目の意味で使用される場合、主君や君主、現代では上司など目上の人に対して反抗することを表します。

皆さんは誰か上の立場の人物に腹が立って、「弓を引きたい」と思った経験はありませんか?ただ、もし「弓を引きたい」と思っても、焦ってはいけません。焦るとしての思う壷です。まずは「弓を引く」ための準備を整え、万端整った状態で「弓を引き」ましょう。

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国語言葉の意味

簡単に”引いて”はいけませんよ…「弓を引く」の意味や類義語などを院卒日本語教師が分かりやすく解説

今日は授業中に「弓を引く」という言葉を何となく使ったのですが、生徒たちから「弓を引くってどういう意味ですか?」と質問がありました。確かに、時代劇をあまり見ない人にとってはなじみのない言葉かもしれませんね。

この「弓を引く」というのは、簡単に言えば「反逆する」という意味の言葉です。今回はこの「弓を引く」について、院卒日本語教師の筆者が解説していきます。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学に再就職した、日本で大学院修士課程修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「弓を引く」の意味や語源は?

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「弓を引く」という言葉、あまり見聞きしたことがないという人が多いのではないでしょうか。時代劇を見る人は、その中で聞いたことがあるかもしれませんね。現代語としても使用できる表現ですよ。まずは、その「弓を引く」の意味と語源を確認していきましょう。

「弓を引く」の意味は「反抗する」

最初に、「弓を引く」の辞書での意味を確認していきましょう。「弓を引く」は、国語系の辞典には次のような意味が掲載されています。

1.弓に矢をつがえて射る。
2.反抗する。そむく。楯つく。保元物語「兄に向つて弓を引かんが冥加なきとは理りなり」

出典:広辞苑 第七版(岩波書店)「弓を引く」

「弓を引く」は「弓に矢をつがえて射る」「反抗する」という2つの意味を持った言葉です。1つ目の意味は、文字そのままの大元の意味ですね。今回は2番目の「反抗する」という意味を中心に解説していきます。主君や君主、現代では上司など目上の人に対して反抗することを表す表現です。

「弓を引く」の語源は、矢を射る相手といえば…

では、なぜ「弓を引く」は「反抗する」という意味を持つようになったのでしょうか。意味のコーナーで紹介した通り、「弓を引く」の大元の意味は「弓に矢をつがえて射る」です。では、矢を射る相手は誰でしょうか?もちろん敵ですよね。

弓を引く相手は敵とみなされることから、目上の人に対して敵対する…つまり「反逆する」という意味が派生していったと考えられています。

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