今回は大気と海水の大規模運動について解説していきます。

大気と海水が連動しているのはなんとなくわかると思う。この記事では特に大気の循環運動について詳しく紹介していく。

今回は物理学科出身の理系ライター・トオルと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

大気・海水が担う南北熱輸送の役割

image by iStockphoto

大気と海水は地球規模で大きく循環しています。大気と海水の循環は地球環境にとって非常に重要なものです。まずは大気と海水の循環の原因について見てみましょう。簡単に言えば大気と海水の運動の原因は温度差です。そして、地球の大域的な温度は太陽入射と地球放射の差し引きできまります。太陽入射と地球放射によって生まれる地球の温度差が大気と海水の最も大きな運動の原因です。

その1:太陽入射と地球放射

NASA earth energy budget ja.gif
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太陽からの光を地球の大気・海洋および地表面が受け取る量、すなわち太陽入射量地球大気の外から宇宙へ逃げていく赤外線の量、すなわち地球放射量地球の全体としては釣り合っています。

しかし、太陽光線は、低緯度では昼間はほぼ天頂から照らされるのに対し、高緯度では一日中地平線近くから照らされているのです。そのため、入射から反射を差し引いた正味の太陽入射量、地表の水平面において赤道では300W/㎡強であるのに対し、両極では100W/㎡を下回ります。上記の画像は地球のエネルギー収支の簡略画像です。

その2:大循環と南北熱輸送

もしも、大気や海洋の運動がなく、太陽入射量と地球放射量が緯度ごとに釣り合うとすると、赤道と極の間の温度差は100K以上になると計算されますが、実際には大気や海水の地球規模の運動(これを大気大循環・海洋大循環といいます)が、低緯度から高緯度へと熱を運ぶ(これを南北熱輸送といいます)のため、地球表面の赤道と極の温度差はせいぜい50K程度です。南北熱輸送と地球放射によるエネルギーの流出は太陽入射によるエネルギー流入と釣り合います。

つまり、低緯度と高緯度での温度差が大気大循環および海洋大循環の根本原因であり、その主な役目は南北熱輸送ということです。ちなみに、地球放射量の南北差は100W/㎡程度に収まります。

その3:潜熱輸送

大気大循環や海洋大循環を理解することは大気や海洋の熱エネルギー輸送の形態を三次元的に捉えることにほかなりません。大気の熱輸送には直接熱を運ぶ顕熱輸送と、水蒸気の輸送で間接的に熱を運ぶ潜熱輸送とがあります。

気体の水蒸気は液体の水に変わるとき凝結熱を発するので、水蒸気が南から北に運ばれ、運ばれた先で凝結し降水となれば、南から北へ熱を輸送したことになるのです。大気と海洋の熱輸送の割合は2対1になります。大気は主に中緯度で、海洋は主に低緯度で、熱輸送を担っているようです。つまり大気の熱輸送には直接熱の移動がおこる顕熱輸送と、凝結熱によって間接的に熱の輸送がおこる潜熱輸送が存在するということになります。

\次のページで「低緯度と中高緯度で実体に異にする大気の子午面循環」を解説!/

低緯度と中高緯度で実体に異にする大気の子午面循環

ここからは大気の大循環について詳しく見ていきましょう。この大気の大循環は地球の気候や天気の基本的なパターンを決定しています。

その1:大気の熱対流

熱エネルギーの差を解消する大気運動の一つは熱対流です低緯度では強い太陽入射によって地表面の空気は温められます。高温の空気は相対的に軽いので対流圏界面付近に達するまで上昇するのです。対流圏界面より上には空気は上昇しにくくなるので、その空気は高緯度側へ流れます。逆に、高緯度側の空気は地球放射による冷却効果のため低温です。低温の空気は相対的に重いので下降し、地表面にそって低緯度側に流れ込んでいきます。

その2:大気と角運動量保存則

もしも地球が自転していなければ、この熱対流が赤道から極までを支配するはずです。地球の自転を考えると、子午面における熱対流が東西方向の運動をともなうことになります。私たち人間だけでなく地上の空気も、地球の自転にしたがって東向きに動いているのです。地球の自転軸からの距離は高緯度ほど小さいので、高緯度の空気の方が地球の回転分を加えた東向きの速度は小さくなります。角運動量保存の法則を考えると地球の回転分を加えた東西風速と地球の自転軸からの距離の積が一定であることがわかるはずです。

その3:ハドレーの提案

したがって、地球に対して静止した空気を高緯度から低緯度へ運ぶと必ず東風になるのです。1735年にハドレーは低緯度において東風である貿易風が吹く理由をこのように議論しました。ただし、この議論にもとづくと地表面ではすべて東風になってしまい、現実の中高緯度の西風を説明できません。また、角運動量保存の法則を考えると上空で低緯度から高緯度へ空気が運ばれるときに、非現実的な強い西風が高緯度上空に吹くことになってしまいます。したがって、熱対流以外の熱輸送なしに観測事実を説明することはできないのです。

その4:子午面循環

Earth Global Circulation - en.svg
Kaidor - 投稿者自身による作品 based on File:NASA depiction of earth global atmospheric circulation.jpg, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

子午面循環とは北極と南極を結ぶ子午線を横軸にとり、高さを縦軸にとって、経度方向に平均した循環のことです。子午面循環の一部としては夏冬ともに赤道よりやや夏半球側から上昇し、冬半球亜熱帯で下降する流れがあります。これは熱対流そのものであり、貿易風成因論のハドレーにちなんでハドレー循環と呼ばれているものです。ただし、ハドレー循環は両半球とも亜熱帯までしか達していません。ハドレー循環の下降気流である亜熱帯は亜熱帯高圧帯とよばれ、下降気流のために乾燥しています。したがって、この領域には、砂漠、スッテプあるいはサバンナが形成されるのです。上記の画像は、子午面循環の立体画像になります。

その5:フェレル循環

中緯度にはハドレー循環と逆向きのフェレル循環が、また極域にはハドレー循環と同じ向きの極循環が存在しています。フェレル循環はハドレー循環のような熱対流ではありません。なぜなら低温な高緯度側に上昇流があり、高温な程度側に下降流があるからです。フェレル循環の実態は南北熱エネルギー差を解消するもう一つの大気運動である大気波動によるものになります。

\次のページで「ハドレー循環」を解説!/

ハドレー循環

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次はハドレー循環について少し詳しく見ていきましょう。

その1:亜熱帯ジェット気流

ハドレー循環が運ぶ角運動量について考察しましょう。12月から2月にかけて、ハドレー循環は北緯30度程度まで達します。赤道の角運動量は少なくともこの緯度までは運ばれるので、前節で説明したようにこの到達点付近には非常に強い西風が吹いてることが期待されるはずです。たしかに北緯30度の対流圏境界面付近に秒速40m近い西風は吹いています。一方、南半球にも弱いながらやはり中緯度上空には西風が吹いているのです。この西風のことを亜熱帯ジェット気流といいます。

その2:温度風の関係

風と気温の間には実に興味深い関係があります。地上でも上空でも気温は低緯度で高く、高緯度で低いのですが、その気温の南北差の大きいところの上空に強い西風である亜熱帯ジェット気流が存在しているのです。このような風と温度の関係は温度風の関係と呼ばれ、中高緯度の大気・海洋の大規模現象でよく成り立っています。

その3:成層圏の温度変化

地上10~15km以高は成層圏です。加熱源のオゾン層に太陽光がどれだけあたるかは季節により大きく異なるため、成層圏の気温は対流圏と比べ物にならないほど季節変化が大きくなります。冬半球の極の成層圏には極渦と呼ばれる低温定圧な空気が存在しているのですが、この極渦のまわりには非常に強い極夜ジェット気流が吹いているのです。北半球の極渦は対流圏の波動活動にともなって時に大きく崩れ、極域の気温が急上昇することがあります。これが成層圏突然昇温です。

地球のダイナミズム

地球のダイナミズム

image by Study-Z編集部

海洋も大気と同じように地球規模で循環をしています。大気も海洋も主な循環の原因は熱輸送ですが、その循環が存在することにより、様々な環境が維持されているのです。地球のダイナミックな活動によって多様で美しい地球が存在しています。

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地学大気・海洋理科

3分で簡単「大気と海水の大規模運動」フェレル循環やハドレー循環とは?理系ライターがわかりやすく解説

今回は大気と海水の大規模運動について解説していきます。

大気と海水が連動しているのはなんとなくわかると思う。この記事では特に大気の循環運動について詳しく紹介していく。

今回は物理学科出身の理系ライター・トオルと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

大気・海水が担う南北熱輸送の役割

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大気と海水は地球規模で大きく循環しています。大気と海水の循環は地球環境にとって非常に重要なものです。まずは大気と海水の循環の原因について見てみましょう。簡単に言えば大気と海水の運動の原因は温度差です。そして、地球の大域的な温度は太陽入射と地球放射の差し引きできまります。太陽入射と地球放射によって生まれる地球の温度差が大気と海水の最も大きな運動の原因です。

その1:太陽入射と地球放射

NASA earth energy budget ja.gif
パブリック・ドメイン, リンク

太陽からの光を地球の大気・海洋および地表面が受け取る量、すなわち太陽入射量地球大気の外から宇宙へ逃げていく赤外線の量、すなわち地球放射量地球の全体としては釣り合っています。

しかし、太陽光線は、低緯度では昼間はほぼ天頂から照らされるのに対し、高緯度では一日中地平線近くから照らされているのです。そのため、入射から反射を差し引いた正味の太陽入射量、地表の水平面において赤道では300W/㎡強であるのに対し、両極では100W/㎡を下回ります。上記の画像は地球のエネルギー収支の簡略画像です。

その2:大循環と南北熱輸送

もしも、大気や海洋の運動がなく、太陽入射量と地球放射量が緯度ごとに釣り合うとすると、赤道と極の間の温度差は100K以上になると計算されますが、実際には大気や海水の地球規模の運動(これを大気大循環・海洋大循環といいます)が、低緯度から高緯度へと熱を運ぶ(これを南北熱輸送といいます)のため、地球表面の赤道と極の温度差はせいぜい50K程度です。南北熱輸送と地球放射によるエネルギーの流出は太陽入射によるエネルギー流入と釣り合います。

つまり、低緯度と高緯度での温度差が大気大循環および海洋大循環の根本原因であり、その主な役目は南北熱輸送ということです。ちなみに、地球放射量の南北差は100W/㎡程度に収まります。

その3:潜熱輸送

大気大循環や海洋大循環を理解することは大気や海洋の熱エネルギー輸送の形態を三次元的に捉えることにほかなりません。大気の熱輸送には直接熱を運ぶ顕熱輸送と、水蒸気の輸送で間接的に熱を運ぶ潜熱輸送とがあります。

気体の水蒸気は液体の水に変わるとき凝結熱を発するので、水蒸気が南から北に運ばれ、運ばれた先で凝結し降水となれば、南から北へ熱を輸送したことになるのです。大気と海洋の熱輸送の割合は2対1になります。大気は主に中緯度で、海洋は主に低緯度で、熱輸送を担っているようです。つまり大気の熱輸送には直接熱の移動がおこる顕熱輸送と、凝結熱によって間接的に熱の輸送がおこる潜熱輸送が存在するということになります。

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