この記事では「針の筵」について解説する。
端的に言えば針の筵の意味は「居心地が悪いこと」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
今回は広告会社で経験を積み、文章の基本と言葉の使い方を知るライターのHataを呼んです。一緒に「針の筵」の意味や例文、類語などを見ていきます。
ライター/Hata
以前は広告会社に勤務しており、多くの企業の広告作成経験を持つ。相手に合わせた伝え方や言葉の使い方も学び、文章の作成や校正が得意。現在はその経験をいかし、ライターとして活動中。
「針の筵」には、次のような意味があります。
一時も心の休まらない、つらい場所や境遇のたとえ。
出典:デジタル大辞泉(小学館)「針の筵」
「針の筵(むしろ)」とは、心が休まらない居心地の悪さを表した慣用句。周囲の非難や批判にさらされ、安らぐことのできない状況で用いられます。一般的使われる言葉なので、耳にすることも多いかもしれません。
また、他者から責められるだけではなく、自責の念も含んだ言葉です。失敗をした時や居たたまれない気持ちのまま、周囲の冷遇を受けて辛い思いをする状況で「針の筵」という言葉は使われます。
次に「針の筵」の語源を確認しておきましょう。
「筵(むしろ)」とは、藁(わら)や藺草(いぐさ)といった植物を編んで作られた敷物のこと。畳が登場する前の日本ではよく用いられていました。この敷物に、もし針が植えられていたとしたらどうでしょうか。非常に居心地が悪く、心が休まらない想いをするでしょう。
「針の筵」とはこの状況を比喩表現とし、「針」を“周囲の批判や視線”、「筵」を“(座らなければならないような)状況”とたとえた言葉。“針の植えられた敷物に座るような心地”や“針が敷き詰められて囲まれた状況”として使われます。
なおこの言葉は江戸時代には使われていました。当時の『世間万病回春(せけんまんびょうかいしゅん)』という談義本の中で「夫をおして居んとすれば針の筵に尻すへるがごとくしばらくも安き心はない筈也」 という一節があり、これが「針の筵」の由来とも言われています。
\次のページで「「針の筵」の使い方・例文」を解説!/
「針の筵」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。
1.自分のミスで皆を急な残業に付き合わせてしまい、針の筵の心地だった。
2.学生時代、同じクラスの女子を泣かせてしまったことで、周囲の女子からの視線が一斉に痛くなった。あれは針の筵だったよ。
3.病気の母に暴言を吐いたことで兄は家族の中で針の筵にされたが、自業自得だと思う。
4.根も葉もない噂が会社に広がり、まるで針の筵のような思いをさせられた。
周囲の視線が痛く、居心地が悪い時に使うのが「針の筵」です。そのため例文のように、他者から指摘されるような辛い状況で用います。また意図しない非難にさらされた場合でも、例文4のように用いることが可能です。
針のような周囲の非難を受けざるを得ない状況や心情を説明する際に、「針の筵」を用いるといいでしょう。
「立つ瀬(せ)がない」とは、“面目を失くして周囲に合わせる顔がない苦しい状況”を指す慣用句。「立つ瀬」とは立場や面目を意味し、それを失った状況で用いる言葉です。
周囲の目が気になり辛い状況に陥る、という点で「針の筵」の類語表現と言えます。
ただし「立つ瀬がない」は名誉が傷つくこと、世間に顔向けできないという意味合いを強く持つ言葉。そのため、周囲の非難そのものより、自分の失態やミスなど自責の念が強いニュアンスで用いられます。
「針の筵」でしっくりこない時に言い換えてみるなど、それぞれの言葉のニュアンスを使い分けるといいでしょう。
\次のページで「「身の置き所がない」」を解説!/
「身の置き所がない」は、いたたまれない様子やその場にいられないことを指す言葉です。いたたまれない居心地の悪さを表す言葉として、「針の筵」と類義語に挙げられます。
ただし「身の置き所がない」は、羞恥心を感じる状況で用いられるのが一般的。自責の念というよりも、周囲にどう見られるかが気になって恥ずかしく思うシーンで使います。
こちらも状況に応じて使い分けるようにしましょう。
周囲の非難により居心地が悪くなる状況を表したのが「針の筵」。その反対の意味とはどんな言葉になるでしょうか。ここでは「針の筵」の対義語表現を見ていきましょう。
「有利になる」は、状況がプラスに転じるときに用いる表現です。
「針の筵」とは周囲の非難により、居心地が悪くなっている状況。物事が不利な状況に進んでいることを表現した言葉です。その点で物事が「有利になる」のは、反対の状況を示す言葉と言えます。
「針の筵」の正確な対義語表現と言えるものはありません。ですが、このように表現したい内容や状況に応じて対義語表現を用いるようにしましょう。
「bed of nails」の「nail」は“釘”のことを指し、「bed of nails」は直訳すると“釘(くぎ)のベッド”のこと。針の敷物に座る心地を、釘のベッドに横たわる心地と別の比喩表現を使って表したもので、“針の筵”の英語訳です。
ただしこの英語表現はあくまで、その状況と居心地の悪さを説明したものに過ぎません。「針の筵」が持つ、“周囲の批判にさらされて”という原因を含んだ表現ではないため、英語で表現したい時には何故このような状況に陥ったのか理由も加えて表現するといいでしょう。
なお「nail」ではなく、“棘(とげ)”を意味する「thorn」の英単語で言い換えることも可能。この場合は「bed of thorns」と表現し、“棘のベッド”という直訳になりますが、意味する内容は変わりません。
\次のページで「「針の筵」を使いこなそう」を解説!/
この記事では「針の筵」の意味・使い方・類語などを説明しました。
針の敷物に座る居心地の悪さを覚えなくて済むよう、日頃から注意を払っていたいものですね。