今回のテーマ「だ液の働き」について見ていこう。
だ液がでんぷんの分解に働いていることは小学校の理科で学習したと思うが、詳細までは覚えていないという人が多いのではないでしょうか。
今回はそんなだ液の働きついて、でんぷんの分解以外にも触れながら、東大生物学科卒で生物に詳しいライターAEON2と一緒に解説していきます。

ライター/AEON2

東京大学理学部生物学科出身で、在学中は塾講師として高校受験生物の指導をすること多数。また高校時代には、国際生物学オリンピックの国内選考で銅メダルを受賞した経験あり。趣味はボディビルディング。

だ液の働きとは?

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今回は、だ液の働きについて解説していきます。

だ液は口腔内の唾液腺から分泌される物質です。だ液の重要な働きとして食品に含まれるでんぷんを分解するというものがありますが、実はそれ以外にも様々な働きが存在しているのです。それぞれの働きの要点に注意しながら、一つ一つ見ていきましょう。

口(口腔)の健康を守る機能

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まずはじめに、だ液が口腔)の健康を守る役割について紹介していきます。

口腔粘膜の保護

最初に紹介する唾液の機能は、口腔粘膜の保護です。

口の中は、通常の皮膚)とは異なる粘膜という組織から構成されているのですが、この粘膜は乾燥に非常に弱い性質を持っています。粘膜が乾燥すると、そこから傷ができて炎症が起きたり出血したりするというわけです。そこで、常にだ液を分泌することで乾燥を防ぎ、口腔粘膜が傷つけられることを防いでいます。肌にはこのような粘液質の成分を分泌する機能はないですが、内臓の壁などの粘膜は、そのほとんどがこの機能を持っていることを知っておきましょう。

また、だ液には上皮成長因子神経成長因子と呼ばれる物質が含まれており、これにより、口腔内に傷がついた場合でも速やかにそれらが元通りに回復するようになっています。

口腔粘膜の洗浄・保護

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続いて紹介するだ液の機能は、口腔粘膜の洗浄と殺菌です。

粘膜が乾燥に弱いことは解説しましたが、肌よりも弱い構造しか持っていないため、さらに細菌や汚れにも弱いという特徴があります。この弱点を補ってくれるのがだ液というわけです。

だ液が分泌されることで、口腔内に残った食べかすプラーク歯垢)の一部が洗い流されます。これにより、口腔内が清潔な状態に保たれるというわけです。

また、唾液には、リゾチームと呼ばれる細菌を殺す成分が含まれています。リゾチームは、細菌の持つ細胞壁を構成する物質を分解する機能を持っているため、強力な殺菌作用を示すというわけです。リゾチームはその殺菌作用に着目して、卵白から抽出した物が商用的に利用されていることも知っておくと良いでしょう。

リゾチーム以外には、だ液中に含まれるラクトフェリンと呼ばれるタンパク質も強い殺菌効果を持ちます。ラクトフェリンの作用する仕組みは、細菌の生存に必要な鉄を細菌から奪い取ることでその活動を停止させることです。

\次のページで「だ液と食事の関係は?」を解説!/

だ液と食事の関係は?

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続いて紹介するのは、だ液が食事を補助する働きです。

小学校や中学校で学習する内容も含まれているので、思い出しながら読んでいただくと理解が深まるでしょう。

アミラーゼとは?

だ液中には、アミラーゼという酵素が含まれていますが、これは、でんぷんを構成する糖分子の結合に対してハサミのように働き、より小さなマルトース麦芽糖)という物質に変化させることができます。

でんぷんとは、ご飯パンなどのいわゆる糖質食品に多く含まれ、非常に大きな分子構造を持っている物質です。生物の体は、主に小腸に存在する絨毛じゅうもう)という組織から栄養素を吸収するようになっていますが、この絨毛の壁を栄養素が通過するためには、十分小さい分子に作り替えられていることが必要となります。

食品に含まれるでんぷんは、だ液中のアミラーゼ、膵臓から分泌される膵液に含まれるアミラーゼ小腸の壁の消化酵素の3種の酵素が働くことで、吸収可能なグルコースブドウ糖)へと姿を変えていくのです。

ちなみに、でんぷんの有無を調べるにはヨウ素液が用いられ、マルトースやグルコースの有無を調べるにはベネジクト液という試薬が使われることも知っておくと良いでしょう。

潤滑剤としての機能とは?

だ液の持つ重要な働きとして、潤滑剤として機能することが挙げられます。

食べ物の中には、水分をあまり含まないパンのようなものがありますが、これをもしだ液がない状態で飲み込もうとすると、うまく飲み込むことができずに気管に入ってしまう可能性がありますね。だ液が食品と混ざることで、食品には湿り気が与えられ、うまく飲み込むことが可能になるというわけです。また、だ液により食品が湿って一体化することで、噛み砕くことを容易にするという側面もあります。

だ液に含まれるアミラーゼにより、高分子であるでんぷんは、より単純な分子であるマルトース麦芽糖)へと作り替えられます。

また、だ液が食品に湿り気を与えることで、噛み砕いたり飲み込んだりすることを用意にしていました。

緩衝作用とは?

だ液の持つ機能として、緩衝作用を最後に紹介します。なかなか聞き慣れない言葉ですが、どのような意味合いなのでしょうか。

\次のページで「緩衝の仕組み」を解説!/

緩衝の仕組み

生物の体の中は、組織によって適切な酸性アルカリ性の度合いとしてpHピーエイチ)が決まっており、それを維持するための仕組みが緩衝となります。特に緩衝作用を持つ液体のことを緩衝液と呼ぶのですね。

緩衝液は、一般的には弱酸と、その元となるえん)を混ぜ合わせて作られます。詳細な機構は今回は省略しますが、この緩衝液に酸性の液体を加えた場合も、アルカリ性の液体を加えた場合も大きくpHが変わることはありません。興味がある方はぜひその機構も調べてみてくださいね。

緩衝液としてのだ液

だ液もこの緩衝液としての機能を持っており、口腔内のpHを6.7~7.6に維持しています。化学においてはpH7を中性と呼び、酸性にもアルカリ性にも傾いてない状態のことを指しますが、これを踏まえると、口腔内もほぼ中性に保たれていると言えますね。基本的には中性な口腔内ですが、食べたものの酸や、細菌が生産する酸によってpHが変動する場合もあります。その際に、だ液の持つ緩衝作用により、大きくpHが動くことが防がれているというわけです。


ヒトのだ液は重炭酸塩リン酸塩タンパク質の3つの緩衝システムによって調整されていることがわかっています。

image by Study-Z編集部

だ液は様々な機能を持つ

今回はだ液の機能について解説しました。

一般的にはだ液の働きというと、でんぷんを分解するという知識が多いと思いますが、実は他にもすごい機能がたくさん詰まっていましたね。是非、身近なだ液についてこの機会に色々考えてみてください。

イラスト使用元:いらすとや

" /> 5分で分かる「だ液の働き」アミラーゼとは?リゾチームとは?東大生物学科卒が分かりやすくわかりやすく解説 – Study-Z
タンパク質と生物体の機能理科生物

5分で分かる「だ液の働き」アミラーゼとは?リゾチームとは?東大生物学科卒が分かりやすくわかりやすく解説

今回のテーマ「だ液の働き」について見ていこう。
だ液がでんぷんの分解に働いていることは小学校の理科で学習したと思うが、詳細までは覚えていないという人が多いのではないでしょうか。
今回はそんなだ液の働きついて、でんぷんの分解以外にも触れながら、東大生物学科卒で生物に詳しいライターAEON2と一緒に解説していきます。

ライター/AEON2

東京大学理学部生物学科出身で、在学中は塾講師として高校受験生物の指導をすること多数。また高校時代には、国際生物学オリンピックの国内選考で銅メダルを受賞した経験あり。趣味はボディビルディング。

だ液の働きとは?

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今回は、だ液の働きについて解説していきます。

だ液は口腔内の唾液腺から分泌される物質です。だ液の重要な働きとして食品に含まれるでんぷんを分解するというものがありますが、実はそれ以外にも様々な働きが存在しているのです。それぞれの働きの要点に注意しながら、一つ一つ見ていきましょう。

口(口腔)の健康を守る機能

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まずはじめに、だ液が口腔)の健康を守る役割について紹介していきます。

口腔粘膜の保護

最初に紹介する唾液の機能は、口腔粘膜の保護です。

口の中は、通常の皮膚)とは異なる粘膜という組織から構成されているのですが、この粘膜は乾燥に非常に弱い性質を持っています。粘膜が乾燥すると、そこから傷ができて炎症が起きたり出血したりするというわけです。そこで、常にだ液を分泌することで乾燥を防ぎ、口腔粘膜が傷つけられることを防いでいます。肌にはこのような粘液質の成分を分泌する機能はないですが、内臓の壁などの粘膜は、そのほとんどがこの機能を持っていることを知っておきましょう。

また、だ液には上皮成長因子神経成長因子と呼ばれる物質が含まれており、これにより、口腔内に傷がついた場合でも速やかにそれらが元通りに回復するようになっています。

口腔粘膜の洗浄・保護

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続いて紹介するだ液の機能は、口腔粘膜の洗浄と殺菌です。

粘膜が乾燥に弱いことは解説しましたが、肌よりも弱い構造しか持っていないため、さらに細菌や汚れにも弱いという特徴があります。この弱点を補ってくれるのがだ液というわけです。

だ液が分泌されることで、口腔内に残った食べかすプラーク歯垢)の一部が洗い流されます。これにより、口腔内が清潔な状態に保たれるというわけです。

また、唾液には、リゾチームと呼ばれる細菌を殺す成分が含まれています。リゾチームは、細菌の持つ細胞壁を構成する物質を分解する機能を持っているため、強力な殺菌作用を示すというわけです。リゾチームはその殺菌作用に着目して、卵白から抽出した物が商用的に利用されていることも知っておくと良いでしょう。

リゾチーム以外には、だ液中に含まれるラクトフェリンと呼ばれるタンパク質も強い殺菌効果を持ちます。ラクトフェリンの作用する仕組みは、細菌の生存に必要な鉄を細菌から奪い取ることでその活動を停止させることです。

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