
物質(分子)は電磁波(光)のエネルギーを吸収することが知られているが、そこには一定の法則があって「ランベルト・ベールの法則」と呼ばれている。
分析化学の分野では基礎的で大切な法則の一つです。この記事では「ランベルト・ベールの法則」の基本について述べたいと思う。
分析化学に詳しいSalviaと一緒に解説を解説をしていきます。
ライター/Salvia
理系大学院を修了後、食品の研究業務に携わり化学や物理を得意としている。受験だけでなく大学、社会で役立つ情報を伝える。
1 「ランベルト・ベールの法則」とは?

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ある物質(分子)を含む溶液(試料溶液)に単色光を通す際、入射光の強度よりも透過光の強度のほうが小さくなります。これは光のエネルギーが物質に吸収されるためにおこる現象です。そのエネルギーの吸収量には一定の法則があり、「ランベルト・ベールの法則(Lambert-Beer law)」と呼ばれています。大学の化学科等ではよく習う、基礎的な法則です。
1-1 「ランベルト・ベールの法則」の概要

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「ランベルト・ベールの法則」を式で表すとA(吸光度)=a(吸光係数)×b(光路長)×c(試料濃度)とシンプルな構造ですね。光の吸収量(吸光度)は透過する試料濃度と光路長(溶液中の距離)に比例するという法則で、一見するとそんなの当たり前では?と思える理論ですが、光を原理とした分析化学で重要となる法則一つとなっています。
この法則は「ランベルトの法則」と「ベールの法則」という二つの法則が組み合わさったものになりますので以下、各々の法則についてみていきましょう。
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1-2 ランベルトの法則

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18世紀にブーゲ(Bouguer)とランベルト(Lambert)によってまとめられた法則です。
試料溶液に光を透過させた際、透過光のエネルギーは通る距離に対して指数関数的に減少することを見出し、上図の式となります。
例えば、入射光P0が距離bを通過するときに25%のエネルギー減少が起こる際、さらに距離bを通過すると残りの75%のエネルギーのうちの25%が減少して、また更に…と指数関数的に減少することになりますね。
距離が長いと光のエネルギーが減少しそうなのは感覚的に分かりますが、指数関数的に減少するということをこの時代に示せたことがすごいですと思います。
1-3 ベールの法則

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続いてはベール(Beer)の法則について。
試料溶液に光を透過させた際、透過光のエネルギーは試料濃度に依存して減少することを示した法則です。式は上図の通りでランベルトの法則と似た形をしております。
溶液に含まれる物質の濃度が高いと光が通りづらいというのはイメージしやすいですね。なお、物質の濃度が高すぎる場合は注意が必要です。濃度が高いと分子が会合などを起こして、光の散乱が起こってしまします。吸収と散乱などが合わさってしまいますので、ベールの法則が成り立たちません。
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1-4 「ランベルト・ベールの法則」の定式化

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これまでに述べた「ランベルトの法則」と「ベールの法則」を上図の式のようにまとめて、「ランベルト・ベールの法則」と言います。定数aはkとk’を合わせた定数で吸光係数と呼ばれており、吸収する光の波長と物質の性質に依存した固有の値です。
さらに吸光度Aを導入すると、Aは物質の濃度c、光路長bと正の比例関係にあることが見えてきますね。また、吸光係数に分子量を掛けた値をモル吸光係数(分子吸光係数)といいます。モル吸光係数は分子の断面積のようなイメージで、この値が大きいほど光を吸収する物質ということになるようです。
また、光路長bを固定(測定する容器を一定に)するとモル吸光係数εも定数なので、吸光度は試料濃度だけに比例することがわかりますね。
1-5 吸光度測定の実際
ここまでで「ランベルト・ベールの法則」が意味することを述べてきましたが、実際に吸光度を測定する際の話をしたいと思います。
吸光度は分光光度計や紫外可視分光光度計といった装置で測定が可能です。この装置には光源があり、試料に特定の単色光を当てることが可能。光学セルという容器に試料を入れて装置にセットし、吸光度の測定を行います。光学セルは石英ガラスや硬質ガラスでできており、1wp_の直方体であることが多いです。セルは光が透過する2面(光の通り道に対して垂直な面)は透明で、通らない2面(光に対して平行な面)はすりガラスといった構造をとってます。
さて、「ランベルト・ベールの法則」より吸光度はA=ε×b×cです。光路長は1wp_で固定、モル吸光係数は物質固有であり吸光度と濃度が比例するね、と終われば簡単なのですが実際は少し注意が必要。
吸光係数は諸条件が決まれば物質固有の値となりますがこれは理論上の話。実際は先ほど挙げた機器の性能(光源強度など)や光学セルの寸法精度などによって数%オーダーの変動が起こってしまうそうです。
ですから、測定を行う際はその装置やセルの条件を一定にしたうえで、濃度が分かっている試料を複数用意して濃度と吸光度の関係(検量線)を求めます。その同条件下で調べたい試料を測定するのが通例です。
2 「ランベルト・ベールの法則」の実用性
この法則を利用した実践例として、未知試料の定量分析を挙げます。
まず、吸光度と濃度の関係を調べるため濃度既知試料の吸光度をいくつか測定。測定値から一次関数の式(y=mx+n)を得ることができます。yが吸光度、xが濃度、mとnが定数です。続けて、濃度が分からない対象物の成分を抽出して吸光度を測定、先ほどの関係式に代入することで濃度を求めることが可能となります。これが定量分析です。
身近な所では、医薬品中に含まれる薬効成分量の分析、機能性表示食品に含まれる関与成分量の分析などがあります。具体的な手法が気になる方はぜひ調べてみましょう。機能性表示食品については消費者庁の機能性表示食品の公表情報に具体的な分析方法が載っていますよ。
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