
正確に時刻を計れる訳
そもそも時刻は何を基準に設定されたのでしょうか?もともとは、地球が1回自転する時間を基準に1秒は設定されていました。しかしながら、地球は月の引力の影響で、自転に掛かる時間が一定でないことが分かり、現在は、セシウム133原子の基底状態で9,192,631,770回振動する時間と定義されています。これは、セシウムに特定の周波数の電波を当てた時に、セシウムの状態がわずかに変化する(励起状態)性質から導かれました。
要するに、原子に特定の周波数を当てて変化するのであれば、その特定の周波数を正確に計れるということです。この正確な周波数で、クォーツ(水晶)の振動を調整することで、原子時計は正確に時刻を計っています。
使用される原子
最初の原子時計は、アンモニア分子を利用し開発されましたが、精度はクォーツ時計以下でした。現在は、セシウムやルビジウム、水素など周期表の第1族の原子が多く使われているようです。セシウム133(セシウム同位体の中で放射能を出さずに、自然界で安定している)は、1秒の定義にも利用され、原子時計に利用される最もポピュラーな原子ですが、現在はルビジウム原子を利用し、小型で低コストな原子時計が開発されたりと、新しい原子を用いた原子時計の開発が活発に行われています。
原子時計の使われ方
原子時計はその時刻の高い正確性から様々なところで利用されています。実際に原子時計を搭載し利用するものもあれば、原子時計の時刻情報を受信し、間接的に利用しているものもあり、現代社会にとっては欠かせないキーアイテムの一つです。
例えば、電波時計は、原子時計を元に生成した時刻電波(標準電波)を受信し、時刻を補正することで高い時刻精度を誇りますし、PC、スマートフォン、スマートウォッチなどの電子機器内の時計は、インターネット経由の時刻同期の仕組みを用いて原子時計の恩恵を受けているため、身近なところで原子時計は活躍しています。
人工衛星

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スマートフォンやカーナビで正確な位置を計算するためには、人工衛星が正確な時刻を保持していることが重要です。そこで人工衛星には原子時計が内蔵され、地上の管理局との通信により人工衛星間の完璧な時刻同期がなされています。
人工衛星は世界中を網羅する軌道を飛行するGNSSと局所的な地域を補完する軌道を飛行するRNSSの2種類に分けることができ、アメリカのGPS、ロシアのGLONASS、ヨーロッパのGalileo、中国のBeiDouがGNSSとして飛行し、日本のQZSS、インドのNavICがRNSSとして上空を飛行していて、たびたびGPS=人工衛星と紐付けることが多いですが、GPSは人工衛星の種類の一つです。

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~地上位置の計算方法~
・人工衛星の原子時計と地上の時計の差(Δt)を取る
・光の速度を掛けて、地上位置と人工衛星間の距離(r)を4つ計算する
・衛星は決まった軌道を飛行しているため衛星の位置(X, Y, Z)は分かる
・自身の位置(x, y, z)と時計誤差(地上の時計は正確ではないため)を未知数として、4つの連立方程式を立てる
・連立方程式を解くことで、地上の位置が求まる
証券取引所

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ITインフラが整っている現代では、証券取引において1秒は非常に重い意味を持ちます。例えば、ドイツからの株入札とアメリカからの株入札が別の証券取引所で同時にあったとした時、時刻情報が正確でなければ株価情報に齟齬が発生してしまいますよね。
そこで、証券取引所では衛星電波から受け取った原子時計の時刻を元に、注文を受け付けることで、各証券取引所間での時刻整合性を担保しています。そのため、証券取引所は世界中に在りますが、どこの証券取引所で取引したとしても、その取引は原子時計により同じ市場となるため、ユーザは安心して取引ができるのです。
正確な時刻で生活していくために
壁時計や腕時計、スマートフォンなど世界にはさまざまな時計が溢れています。その中でも、原子時計を基準に時刻同期している時計が1番正確です。機械式時計などあまり精度がよくない時計でも、時折、手動で原子時計に同期している時計で時刻を合わせて上げるだけで、そのデメリットは無くなります。お手持ちの時計を原子時計の時刻に合わせ、正確な時刻で生活していくことを心掛けましょう!