この間新宿で隠れ家的なバーを見つけたんです。新宿はいつも人出が多いけど、そのバーがあるのは隅っこの方だからあんまり人がいないんですね。で、めちゃくちゃ安くておいしいのですが、店が猫の額のような広さなんです。

ん?「猫の額のような広さって何?」って顔してますね。「額」というのは「おでこ」のことですが、猫におでこってあると思います?そこから考えてみましょう。院卒日本語教師の筆者が解説していきます。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学で2年間働き、日本で大学院修士課程修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「猫の額」の意味や使い方は?

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「猫の額」という言葉、あまり聞きなれないかもしれません。そもそも猫に額(おでこ)ってあったっけ…と思った方もいるのではないでしょうか。まずは、その「猫の額」の意味と使い方を見ていきます。

「猫の額」の意味は「場所が狭い」

最初に、「猫の額」の意味を辞書を参考にしつつ確認していきましょう。「猫の額」は国語辞典では次のような意味が掲載されています。

場所が狭いことのたとえ。

出典:明鏡国語辞典 第二版(大修館書店)「◆猫の額(ひたい)」

「猫の額」は「場所が狭い」という意味の慣用句です。ある土地や空間の面積が狭いことを表す際に使用します。

では、なぜ狭いことを表す言葉が「猫の額」なのでしょうか。身近に猫がいる人は猫の顔を見てください。いない人は猫の画像を検索してみてましょう。「額(ひたい)」とはおでこのことですが、猫の顔は額があるのかないのか分からないくらい、額が狭いですよね。このことから「場所が狭い」という意味で「猫の額」という言葉が用いられるようになったと考えられています。

「猫の額」の使い方を例文とともに確認!

次に、「猫の額」の使い方を例文とともに確認していきましょう。「猫の額」はある土地や空間の面積が狭いことを表す際に使用しますが、心や器量が狭いことに対しては使用できません

\次のページで「「猫の額」の類義語は?」を解説!/

1.都市部で一軒家を買うと、庭があってもその面積は猫の額くらいの場合がほとんどだ。
2.東京の都市部の小学校の校庭は猫の額くらいしかないことがある。
3.田中さんは築30年の木造平屋建てに暮らしている。田中さんは「猫の額のような狭い家」と言うが、私にはとても広く感じる。

×山田さんは猫の額くらいの度量しかないので、少しのお金も貸してくれない。

例文1と2は、都市部に暮らしている人なら想像しやすいかもしれません。都市部は住宅や商業施設などの建物が密集しており、家や学校の面積もどうしても狭くなってしまいます。庭があっても物干し台を置いたらほとんど開いている場所がなくなってしまうことも。校庭についても同様で、特に東京都内では面積の狭い校庭をもった学校が散見されますね。

そして、「猫の額」が表す「狭い」という意味は、あくまで主観的です。自身が「狭い」と思えば「猫の額」という言葉を用いることができます。その例として例文3では、田中さんは自身の家を「狭い」と考えているので「猫の額」という言葉を使用していますが、私はそうは思っていないことが記されていますよね。

そして、×の例文のように、面積以外の心や度量、器量などの広さについては「猫の額」は使用不可です。

「猫の額」の類義語は?

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次に、「猫に額」の類義語を見ていきましょう。「猫に額」の類義語は「ウサギ小屋」「尺寸の地」です。意味やニュアンスを確認した上で、「猫に額」との比較を行っていきます。

「ウサギ小屋」:狭い家

「ウサギ小屋」は日本人の狭い住居環境を自虐的に表現した言葉です。現在では「狭い家」という意味で使用されています。

この言葉は、1979年にEC(ヨーロッパ共同体・EUの前身)の報告書の中で使用された、日本人の住宅環境を形容した「rabbit hutch」という言葉を翻訳したものです。当時の日本は高度経済成長期を経て人口が激増し住宅も激増していました。しかし日本の面積は狭いので、団地やマンションのような集合住宅が一般的となっていきます。そのような集合住宅は欧米の住宅に比べるととても狭いので、「rabbit hutch」という言葉が使用されたのでしょう。

なお、「ウサギ小屋」は基本的に住宅の面積以外には使用しません。ここが「猫の額」との違いですね。

「尺寸の地」:ほんのわずかの広さの土地

「尺寸の地(せきすんのち)」は「ほんのわずかの広さの土地」という意味の慣用表現です。「尺寸(せきすん)」は「しゃくすん」と読んでも問題ありません。この「尺寸」という言葉は、「ほんのわずか」「きわめてわずか」という意味を表します

「猫の額」との意味やニュアンスの違いはほぼありませんが、「尺寸の地」は土地以外の面積に対しては用いられません

\次のページで「「猫の額」の英語表現は?」を解説!/

「猫の額」の英語表現は?

続いて、「猫の額」の英語表現を確認していきましょう。ことわざや慣用句はその言語独特のものであるので、そのまま日本語を直訳しても英訳にはなりません。「猫の額」の意味から英訳を考えてみましょう。

「small」:面積が狭い

「猫の額」の英語表現は、ずばり「small(スモール)」です。簡単すぎて拍子抜けした人もいるかもしれませんね。しかし、「猫の額」の意味は「場所が狭い」ですから、面積が小さいことを示す「small」がぴったりの訳語となります

例文を確認していきましょう。

1.Dr. Smith's house has a small warehouse where he keeps frogs, snakes, and turtles and studies their ecology.
スミス博士の家には猫の額ほどの広さの倉庫があり、そこでカエルやヘビ、カメなどを飼育し、生態を研究している。

2.Insect nests are very small, but within them are countless numbers of insects.
昆虫の巣は猫の額ほどの面積しかないが、その中に無数の虫がいる。

「猫」を使ったその他の表現

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「猫の額」以外にも「猫」を使用したことわざや慣用句は日本語には実はたくさんあるのです。今回は、その中でも特によく使用される「猫に小判」と「猫の手も借りたい」をご紹介します。

「猫に小判」

「猫に小判」は「価値の分からない人に貴重なものを与えても無駄である」という意味のことわざです。猫は当然ですが小判(昔のお金)の価値は分かりませんし、与えたところでおもちゃになるだけでしょう。このように、どんなに貴重なものでも、価値のわからない人に与えたらただの無意味な物になってしまう…ということを表しますね。

「猫に小判」には、他の動物を用いた同じ意味を表すことわざがいくつかあります。「豚に真珠」「犬に論語」などです。

\次のページで「「猫の手も借りたい」」を解説!/

「猫の手も借りたい」

「猫の手も借りたい」は「非常に忙しいので、誰でもいいから手伝ってほしい」という意味のことわざです。もちろん猫が人間の手伝いをできるはずがありません。あまりにも忙しいので猫でも何でもいいから手伝ってほしい…というニュアンスを表します

この「猫の手も借りたい」には「誰でもいい」というニュアンスがついてくるので、手伝いの要請に使用するのは避けた方が良いでしょう。

そもそも猫におでこ(額)はあるのか…「猫の額」

今回は「猫の額」について解説しました。「猫の額」は「場所が狭い」という意味を表し、ある土地や空間の面積が狭いことを表す際に使用します。猫の額があるのかないのか分からないほど狭いことが由来となった言葉です。

猫に額があるのかないのか…は微妙ですが、とにかく猫はかわいいですね!そんな「猫」の字がつく慣用句の1つでした。

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国語言葉の意味

猫におでこ(額)ってあったっけ?「猫の額」の意味や使い方、類義語などを院卒日本語教師がわかりやすく解説

この間新宿で隠れ家的なバーを見つけたんです。新宿はいつも人出が多いけど、そのバーがあるのは隅っこの方だからあんまり人がいないんですね。で、めちゃくちゃ安くておいしいのですが、店が猫の額のような広さなんです。

ん?「猫の額のような広さって何?」って顔してますね。「額」というのは「おでこ」のことですが、猫におでこってあると思います?そこから考えてみましょう。院卒日本語教師の筆者が解説していきます。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学で2年間働き、日本で大学院修士課程修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「猫の額」の意味や使い方は?

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「猫の額」という言葉、あまり聞きなれないかもしれません。そもそも猫に額(おでこ)ってあったっけ…と思った方もいるのではないでしょうか。まずは、その「猫の額」の意味と使い方を見ていきます。

「猫の額」の意味は「場所が狭い」

最初に、「猫の額」の意味を辞書を参考にしつつ確認していきましょう。「猫の額」は国語辞典では次のような意味が掲載されています。

場所が狭いことのたとえ。

出典:明鏡国語辞典 第二版(大修館書店)「◆猫の額(ひたい)」

「猫の額」は「場所が狭い」という意味の慣用句です。ある土地や空間の面積が狭いことを表す際に使用します。

では、なぜ狭いことを表す言葉が「猫の額」なのでしょうか。身近に猫がいる人は猫の顔を見てください。いない人は猫の画像を検索してみてましょう。「額(ひたい)」とはおでこのことですが、猫の顔は額があるのかないのか分からないくらい、額が狭いですよね。このことから「場所が狭い」という意味で「猫の額」という言葉が用いられるようになったと考えられています。

「猫の額」の使い方を例文とともに確認!

次に、「猫の額」の使い方を例文とともに確認していきましょう。「猫の額」はある土地や空間の面積が狭いことを表す際に使用しますが、心や器量が狭いことに対しては使用できません

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