今日は「ファラデーの電気分解の法則」について勉強していこう。
電気分解は産業界にとて大切な分解手法です。今回は、その内容から実用例まで理系大学院卒ライターこーじと一緒に解説していきます。

ライター/こーじ

元理系大学院卒。小さい頃から機械いじりが好きで、機械系を仕事にしたいと大学で工学部を専攻した。卒業後はメーカーで研究開発職に従事。
物理が苦手な人に、答案の答えではわからないおもしろさを伝える。

ファラデーの電気分解の法則とは

image by iStockphoto

ファラデーの電気分解の法則は2つの法則から構成されています。1つ目は、電極で変化するイオンの物質量は流れた電気量に比例する。2つ目は1molの物質を析出させるのに必要な電気量は、物質の価数に反比例する。ここで価数とはイオンの電荷の数です。例えば、水素イオンなら価数は+1、硫酸イオンなら価数は-2になります。

電子1個の電気量は1.6×10-9C、それに1molの物質量6.0×1023を乗じて電子1molの電気量はー96500(C / mol)です。また、この電気量を発見者のファラデーにちなんでファラデー定数(F)とも言います。この関係をもとに化学反応式からそれぞれの法則を見ていきましょう。

電気量と物質量の関係

では、一つ目の法則について説明していきます。
一つ目の法則は「電極で変化するイオンの物質量は流れた電気量に比例する」です。水の電気分解の例題に考えていきます。

水の電気分解の化学反応式
2H++ 2e → H2
2H2O → 4H++ O2 + 4e

陰極の化学反応式を考えると、電子2molが流れると水素が1mol発生する。また、電子量が倍になると水素の発生量も倍になる。これが、ファラデーの電気分解の法則の第1の法則です。

では、2つ目の法則について説明していきます。2つ目の法則は「1molの物質を析出させるのに必要な電気量は、物質の価数に反比例する」です。価数が1と2の物質の化学反応式を比べてみましょう。

単体金属での反応式
Ag+ + e → Ag
Cu → Cu2+ + 2e

電気量1molを与えたと仮定しそれぞれの発生量を計算してみましょう。価数1のAgは、1molの電子量で1molのAg反応し、価数2のCuでは1molの電子量で0.5molのCuが反応します。つまり、同じ電気量を与えても原子の価数だけ反比例し生成物が発生するのです。

電気分解とは

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電気分解は、電気エネルギーを利用し化学反応を起こすことです。分解したい対象物質を溶解させた溶液(電解液)に電圧をかけて電流を流すことで、化合物に対して陽極側で酸化反応、陰極側で還元反応を引き起こします。

ここで、電池の化学反応を考えてみましょう。電池は電極と電解質の間で酸化還元反応が起き、この化学エネルギーを電気エネルギーとして取り出す装置です。一方、電気分解は電流を流すことで、酸化還元反応を起こしています。つまり、電池と電気分解のエネルギーの受け渡しは正反対の仕組みによるものです。

電気分解の構成要素は、電極、電源、電解槽となり電源から電極に電流を流し電解槽内の溶液を分解します。電極の物質は、用途に合わせて様々です。電極の正極、負極ではそれぞれ化学反応が起こっています。この反応に合わせた電極を選択することが重要です。

\次のページで「電極での化学反応」を解説!/

電極での化学反応

電極での化学反応

image by Study-Z編集部

電極での化学反応は、電源のプラス側が陽極、マイナス側が陰極です。電流は陽極から陰極へと流れます。一方、電子の流れはその逆です。そのため、陽極では電子の放出が起こり酸化反応、陰極では電子の受け取りにより還元反応が生じています。

また、電極での化学反応は、電極や電解質などによって変わるため注意が必要です。

陰極における化学反応

陰極から説明していきます。陰極での反応は、水素が発生するか、金属が陰極に析出するかの2種類です。

水溶液中の陽イオンが、イオン化傾向の大きい金属の陽イオンが存在する場合や、酸性の水溶液の場合は、水素が発生します。イオン化傾向が高い金属の陽イオンは、リチウムイオンやアルミニウムイオンなどです。一方で水素イオンより、イオン化傾向が小さい金属の陽イオンが存在する場合は、金属単体として析出します。

陽極における化学反応

次に陽極の説明をします。陽極での化学反応は、ハロゲン単体の生成、酸素が発生もしくは、陽極が溶解の3種類です。特に、陽極の材料が銅や銀など、金や白金以外の金属を用いている場合は酸化反応により溶解します。

陽極の材料が白金や金、炭素の場合はハロゲン単体の生成もしくは酸素の発生です。水溶液中の陰イオンによって還元反応は異なります。フッ素を除くハロゲン化物の陰イオンが溶液中に存在する場合には、ハロゲン単体が生成。また、硫酸イオンや硝酸イオン、水酸化イオンが含まれている場合は、酸素が発生します。

電気分解の実用例

溶融塩電解

Voltage source with electrolytic solution.svg
User:ARTE - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, リンクによる

溶融塩電解法は、アルミニウムやナトリウムといったイオン化傾向の高い物質の金属析出をさせる方法です。アルミニウムやナトリウムは、水溶液中で電気分解しても所望の金属の析出しません。そのため、電解質に溶融塩を用います。

溶融塩とは、塩を高温加熱し液体化させたものです。塩化ナトリウムをバーナーで炙り溶融させ、溶融液体に対して電気分解をおこないます。電解液に含まれるイオンはナトリウムイオンと塩化物イオンだけです。そのため、陰極における還元反応ではナトリウムが析出し、陽極による酸化反応では塩素が発生します。このように、溶融塩電解とは溶融させ液体化させた塩に対して電気分解をおこなうことです。

\次のページで「廃液処理」を解説!/

廃液処理

電気分解の応用の1つに廃液処理があります。電気分解を用いると廃液中に溶解している陽イオンと陰イオンを分離できるからです。例えば、廃液に電気分解をおこなうと、陽極では陰イオンである硫酸イオンや塩化物イオンの発生し、陰極では陽イオンである銅イオンや鉄イオンが析出します。電気分解は、廃液の酸性物質や重金属の回収により、自然環境の保全にも貢献できる重要な現象です。

金属の電解精錬

電気分解の応用に電解精錬があります。鉱石などから純度の高い銅や亜鉛を精錬する手法です。これは、電極の陽極に粗銅、陰極な純銅、電解液に硫酸銅水溶液を使用します。注目する点は、陽極(酸化反応側)に純度の低い金属を用いることです。陽極側で銅イオンや不純物がイオン化され陰極で純度の高い金属を得る仕組みになります。

電気分解は現代社会を支える代表的な技術

電気分解は、現代社会を支える重要技術です。あなたが使用しているスマートフォンにも電気分解の技術は使用されています。言い換えれば、この技術がなければスマートフォンはありません。またた、ここまで半導体産業が進歩していたかもわかりません。
このように、電気分解という現象のみにとらわれるのではなく、社会にもたらす意味や意義も理解するしていきましょう。

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物理理科電磁気学・光学・天文学

3分で簡単「ファラデーの電気分解の法則」電気分解とは?実用例は?理系大学院卒ライターがわかりやすく解説

今日は「ファラデーの電気分解の法則」について勉強していこう。
電気分解は産業界にとて大切な分解手法です。今回は、その内容から実用例まで理系大学院卒ライターこーじと一緒に解説していきます。

ライター/こーじ

元理系大学院卒。小さい頃から機械いじりが好きで、機械系を仕事にしたいと大学で工学部を専攻した。卒業後はメーカーで研究開発職に従事。
物理が苦手な人に、答案の答えではわからないおもしろさを伝える。

ファラデーの電気分解の法則とは

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ファラデーの電気分解の法則は2つの法則から構成されています。1つ目は、電極で変化するイオンの物質量は流れた電気量に比例する。2つ目は1molの物質を析出させるのに必要な電気量は、物質の価数に反比例する。ここで価数とはイオンの電荷の数です。例えば、水素イオンなら価数は+1、硫酸イオンなら価数は-2になります。

電子1個の電気量は1.6×10-9C、それに1molの物質量6.0×1023を乗じて電子1molの電気量はー96500(C / mol)です。また、この電気量を発見者のファラデーにちなんでファラデー定数(F)とも言います。この関係をもとに化学反応式からそれぞれの法則を見ていきましょう。

電気量と物質量の関係

では、一つ目の法則について説明していきます。
一つ目の法則は「電極で変化するイオンの物質量は流れた電気量に比例する」です。水の電気分解の例題に考えていきます。

水の電気分解の化学反応式
2H++ 2e → H2
2H2O → 4H++ O2 + 4e

陰極の化学反応式を考えると、電子2molが流れると水素が1mol発生する。また、電子量が倍になると水素の発生量も倍になる。これが、ファラデーの電気分解の法則の第1の法則です。

では、2つ目の法則について説明していきます。2つ目の法則は「1molの物質を析出させるのに必要な電気量は、物質の価数に反比例する」です。価数が1と2の物質の化学反応式を比べてみましょう。

単体金属での反応式
Ag+ + e → Ag
Cu → Cu2+ + 2e

電気量1molを与えたと仮定しそれぞれの発生量を計算してみましょう。価数1のAgは、1molの電子量で1molのAg反応し、価数2のCuでは1molの電子量で0.5molのCuが反応します。つまり、同じ電気量を与えても原子の価数だけ反比例し生成物が発生するのです。

電気分解とは

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電気分解は、電気エネルギーを利用し化学反応を起こすことです。分解したい対象物質を溶解させた溶液(電解液)に電圧をかけて電流を流すことで、化合物に対して陽極側で酸化反応、陰極側で還元反応を引き起こします。

ここで、電池の化学反応を考えてみましょう。電池は電極と電解質の間で酸化還元反応が起き、この化学エネルギーを電気エネルギーとして取り出す装置です。一方、電気分解は電流を流すことで、酸化還元反応を起こしています。つまり、電池と電気分解のエネルギーの受け渡しは正反対の仕組みによるものです。

電気分解の構成要素は、電極、電源、電解槽となり電源から電極に電流を流し電解槽内の溶液を分解します。電極の物質は、用途に合わせて様々です。電極の正極、負極ではそれぞれ化学反応が起こっています。この反応に合わせた電極を選択することが重要です。

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