今回は「熱平衡状態」について解説していきます。熱平衡という単語が出てくるのは、高校物理の教科書だと思う。高校物理での概念が基本として、大学では熱力学、伝熱工学と応用されていきます。今回の記事では、熱平衡の原理と熱力学第0法則、その応用の温度計、過熱と過冷却の原理と応用を解説した。熱力学、伝熱工学を勉強する方には興味深い内容になっているので、是非読んでみてくれ。
大学では熱流体工学関係の研究し、プラント関係で設計を行っているアヤコと一緒に解説していきます。

ライター/アヤコ

現役のプラントエンジニア。大学では熱流体分野の研究を行い、就職後もプラントエンジニアとして流体に関係する仕事を行っている。流体力学は多くの人が難しいと思い毛嫌いする分野の半面、身の回りの現象は多い。楽しく理解できるよう解説していく。

熱平衡とは

image by iStockphoto

平衡と言う単語は、化学平衡、電離平衡など使われますが、つり合いがとれた状態を意味します。つまり熱平衡とは、熱がつり合っている状態であり、エネルギーのやりとりが発生していない状態です。例えば、空気中に置かれたコップに温かい水が入っていることを想像してください。これを放置すると、温かい水がやがて常温になり、それ以上温度変化がない熱平衡状態になるのです。

また、温かい物質と冷たい物質をお互いにエネルギーのやりとりができるように接します。充分時間が経過した後はある温度になり、エネルギーのやりとりのない、熱平衡状態になるのです。ただし、最終的に平衡になる温度が中間の温度とは限りません。それは接する物質の比熱や密度によって平衡になる温度が変わってくるからになります。

熱力学第0法則について

熱力学第0法則について

image by Study-Z編集部

熱力学第0法則状態Aと状態C状態Bと状態Cがそれぞれ熱平衡の関係にあるならば、状態Aと状態Bも熱平衡の関係にあるです。
例えば上図のように、温度60度の水Aと温度30度の水Bを同量、同熱容量、完全に断熱する水槽に入り、それらはバルブで連結されており、バルブは閉になっております。まずはバルブを開き、十分な時間が経過し、水槽Aの温度と温度計Cの温度が同じ温度45度の平衡になると仮定するのです。また水槽Bの温度と温度計Cの温度も同じ温度45度になり平衡になったとします。その場合熱力学第0法則より水槽Aと温度計Cが平衡であり、水槽Bと温度計Cが平衡となるので、水槽Aと水槽Bも平衡になるということです。ここで温度計が登場したのですが、温度計においては熱平衡が重要になります。

\次のページで「温度計について」を解説!/

温度計について

温度計について

image by Study-Z編集部

温度計の性能の一つに熱平衡のなりやすさがあります。熱平衡になりにくいと、計測体の温度になるまでに時間がかかり使い難いからです。熱平衡になりやすくするには、熱伝導がよく熱容量が小さいもの(計測体より熱容量が小さいと計測体の温度が平衡時の温度になりやすい)で接触させるとよいとされます。それではなぜ水銀式の体温計が主に使われていたのでしょうか。

水銀は主に金やアルミニウムと比べて熱容量が小さいことが分かります。一方で金やアルミニウムよりは熱伝導率が劣りますが、ガラスや水、空気よりは熱伝導率は大きいです。つまり水銀は熱伝導が小さくなく、熱容量が小さいために計測体の温度と近い温度になりやすい、言い換えると平衡になりやすいため体温計で使われていたと言えます。

過熱と過冷却

Meta-stability.svg
Georg Wiora (Dr. Schorsch) - self made drawing, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

熱の交換が可能な物体間に、熱の移動がなく相の変化がないときに熱平衡と言い、熱平衡の状態を安定な状態ともいいます。またゆっくりと平衡状態で温度を上げた場合沸点よりも高い温度になり気体にならずに液体の状態となり、これを過熱と言うのです。熱を加えておりますが、この状態は加熱ではなく過熱と言い、この状態を準安定状態といいます。その理由は、安定しているのですが、衝撃などが起こった場合にすぐに沸騰が発生してしまうからです。上図は、1が過熱の状態であり、衝撃を加えられ、2のエネルギーを超えてしまうと、そのまま3の沸騰の状態が発生するイメージなります。

また冷却も同様に、液体凝固点よりも温度が下がっても固体にならずに液体を維持する状態過冷却と言うのです。この場合も衝撃を加えると固体になりはじめます。

突沸(とっぷつ)について

Kochendes wasser02.jpg
By user:Markus Schweiss - Own work, CC BY-SA 3.0, Link

電子レンジなどでお味噌汁を温め、かき混ぜようとしたときに泡がでてきたことはありませんか。これは突沸という現象です。これは味噌汁が過熱状態にあり、かき混ぜるという振動を加えたために過熱状態から突沸が発生した例になります。カレーなどの粘性が高い食品を加熱する場合は、特にカレー内の対流が起こりにくいため、よく混ぜなければ局所的に高温部となり、低温部により沸騰が起こりにくくなることから過熱現象が発生することがあるのです。つまり、カレーの中でも過熱現象が発生する過程で熱平衡になります。

過冷却のできる冷蔵庫について

image by iStockphoto

皆さんも飲んだことがあるかもしれませんが、過冷却されたビールや炭酸飲料があります。これは、過冷却のできる冷蔵庫によって冷やされたものです。およそ0から-7℃の温度で時間をかけ、均一的に冷却することにより、凍結するときに発生する氷の種(氷核)を生成しないため液体の状態を維持したまま冷却できるようです。つまり飲み物をゆっくりと冷却し過冷却にする過程でも、熱平衡が取り入れられているということです。

\次のページで「「熱平衡状態」について理解を深めよう」を解説!/

「熱平衡状態」について理解を深めよう

この記事では「熱平衡状態」について、熱平衡についての原理と熱力学第0法則、その応用の温度計、過熱と過冷却の原理と応用を説明しました。熱平衡は2物体の温度が時間経過後に等しくなり熱のやり取りがなくなる状態になることです。熱平衡が最も必要になる温度の技術は温度計だと思います。熱平衡を作れるのは、計測対象のものよりも熱容量を小さくすることです。また過熱と過冷却は準安定状態であり、衝撃によって沸騰や凍結が始まる状態ということを説明しました。そして過熱と過冷却も食品に関して発生することを説明したので身近な現象ということが分かったと思います。過熱および過冷却の技術はまだ発展途中と思いますので、この記事を読みこれらの技術に興味を湧いて頂けたら幸いです。

" /> 3分で簡単「熱平衡状態」温度計、過熱、過冷却の原理は?現役プラントエンジニアが分かりやすくわかりやすく解説 – ページ 2 – Study-Z
熱力学物理理科

3分で簡単「熱平衡状態」温度計、過熱、過冷却の原理は?現役プラントエンジニアが分かりやすくわかりやすく解説

温度計について

温度計について

image by Study-Z編集部

温度計の性能の一つに熱平衡のなりやすさがあります。熱平衡になりにくいと、計測体の温度になるまでに時間がかかり使い難いからです。熱平衡になりやすくするには、熱伝導がよく熱容量が小さいもの(計測体より熱容量が小さいと計測体の温度が平衡時の温度になりやすい)で接触させるとよいとされます。それではなぜ水銀式の体温計が主に使われていたのでしょうか。

水銀は主に金やアルミニウムと比べて熱容量が小さいことが分かります。一方で金やアルミニウムよりは熱伝導率が劣りますが、ガラスや水、空気よりは熱伝導率は大きいです。つまり水銀は熱伝導が小さくなく、熱容量が小さいために計測体の温度と近い温度になりやすい、言い換えると平衡になりやすいため体温計で使われていたと言えます。

過熱と過冷却

Meta-stability.svg
Georg Wiora (Dr. Schorsch) – self made drawing, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

熱の交換が可能な物体間に、熱の移動がなく相の変化がないときに熱平衡と言い、熱平衡の状態を安定な状態ともいいます。またゆっくりと平衡状態で温度を上げた場合沸点よりも高い温度になり気体にならずに液体の状態となり、これを過熱と言うのです。熱を加えておりますが、この状態は加熱ではなく過熱と言い、この状態を準安定状態といいます。その理由は、安定しているのですが、衝撃などが起こった場合にすぐに沸騰が発生してしまうからです。上図は、1が過熱の状態であり、衝撃を加えられ、2のエネルギーを超えてしまうと、そのまま3の沸騰の状態が発生するイメージなります。

また冷却も同様に、液体凝固点よりも温度が下がっても固体にならずに液体を維持する状態過冷却と言うのです。この場合も衝撃を加えると固体になりはじめます。

突沸(とっぷつ)について

電子レンジなどでお味噌汁を温め、かき混ぜようとしたときに泡がでてきたことはありませんか。これは突沸という現象です。これは味噌汁が過熱状態にあり、かき混ぜるという振動を加えたために過熱状態から突沸が発生した例になります。カレーなどの粘性が高い食品を加熱する場合は、特にカレー内の対流が起こりにくいため、よく混ぜなければ局所的に高温部となり、低温部により沸騰が起こりにくくなることから過熱現象が発生することがあるのです。つまり、カレーの中でも過熱現象が発生する過程で熱平衡になります。

過冷却のできる冷蔵庫について

image by iStockphoto

皆さんも飲んだことがあるかもしれませんが、過冷却されたビールや炭酸飲料があります。これは、過冷却のできる冷蔵庫によって冷やされたものです。およそ0から-7℃の温度で時間をかけ、均一的に冷却することにより、凍結するときに発生する氷の種(氷核)を生成しないため液体の状態を維持したまま冷却できるようです。つまり飲み物をゆっくりと冷却し過冷却にする過程でも、熱平衡が取り入れられているということです。

\次のページで「「熱平衡状態」について理解を深めよう」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: