今回はゲノムや染色体、遺伝子といったキーワードについて解説するぞ!
生物という科目の中でも特に重要な単元となるのがこのゲノムや染色体、遺伝子です。
しかし、これら3つのキーワードの違いを正しく理解できている人は多くないようです。
近年、遺伝子の解析や編集といった技術はものすごいスピードで発展しているので、バイオ業界で活躍したい人は必ず押さえておいてほしい内容です。


ではさっそく、生物に詳しいライターオリビンと一緒に解説していきます。

ライター/オリビン

大学のバイオ系研究室で実験助手を務めている。研究室では遺伝子を解析して先天性疾患を見つけたり、遺伝子を編集して大腸菌やマウスに埋め込んだりしている遺伝子のスペシャリスト。

DNAとは

image by iStockphoto

遺伝子や染色体について解説する前に、まずはDNAについて押さえておきましょう。DNAはデオキシリボ核酸(DeoxyriboNucleic Acid)の頭文字をとったものです。DNAはデオキシリボース・リン酸・塩基という3つの構造(ヌクレオチド)が鎖のようにたくさんつながっています。塩基にはA(アデニン)、T(チミン)、C(シトシン)、G(グアニン)の4種類があり、この塩基が結合した順番を示したものが塩基配列です。塩基配列ではA,T,C,Gが様々な順番で並んでいるわけですが、この配列には方向性があり、ある一方の方向からでないと読めません。

この1本の鎖のように連なったDNAには向かい側にもう一本のDNAがくっついており、らせん状になっています。これが二重らせん構造と呼ばれる構造です。二重らせん構造をとることで物理的に丈夫になりますし、片方の鎖に異変が起きてももう片方の鎖でリカバリできるというメリットがあります。また、らせん状になっていることで省スペースにDNAを保管できるのです。

遺伝と遺伝子

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先程DNAとはヌクレオチドが鎖のようにつながったものであると言いましたね。では遺伝子とは何でしょうか?

生物の形質が母親や父親から子へ受け継がれることを遺伝と呼びます。この遺伝する情報を含んでいるDNAを遺伝子というのです。DNAは約31億塩基対あると言われていますが、そのなかで遺伝子は約25000個しかありません。そして遺伝子はその配列によっていろいろな種類のタンパク質を合成しているのです。遺伝子はタンパク質の設計図の役割をする部分(エキソン)と、蛋白質(タンパク質)の合成を管理する部分(イントロン)でできています。タンパク質を合成するときに一度mRNA(メッセンジャーRNA)へ遺伝子の情報が転写されますが、どの部分から転写するかを決める部分(開始コドン)によって、細胞や組織の中でどの部分の遺伝子を発現するのかが調整されてるのです。無駄がなく、必要なところには必要なものができるようにちゃんとコントロールされているなんて神秘的ですよね。

遺伝子から合成されるタンパク質とは

・筋肉や皮膚などの構造

・体の機能を保つための酵素

ゲノムとは

ゲノムとは

image by Study-Z編集部

ゲノムとはDNAの全配列のことです。ゲノムという言葉の由来は「遺伝子(gene)」と「全てを表す接尾語(ーome)」を合わせた造語だと言われています。先程、人間のDNA(ヒトゲノム)は31億塩基対といいましたが、この全ての配列が解明されたのは21世紀の始め頃とつい最近なんです。1953年にワトソンとクリックが二重らせん構造を発見してからわずか50年ほどでここまで科学技術は進歩したなんてすごいことですね。

染色体について

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遺伝子が収納されている器官が染色体です。DNAはむき出しになっているわけではなく、ヒストンというタンパク質に糸巻きのように巻き付いて、数珠状になっています。通常は体細胞の中の細胞核と呼ばれる部分に広がって存在していますが、細胞分裂のときにはそれが凝縮し、染色体となって顕微鏡でも見れるようになるのです。人間には23対46本の染色体があり、そのうち1対は性染色体と呼ばれる性別を決定するための染色体なんですよ。残りの22対44本の染色体は常染色体と呼ばれています。

染色体が2本で1対の構造をとっているのは、細胞分裂で1つの細胞が2つに分かれるときにそれぞれの細胞へ染色体が受け継がれるためです。よって、対になる染色体は同じDNAをしていることになります。1つずつに分かれた染色体は複製され、また2本で1対の構造へなるのです。

遺伝子組み換えとは

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除草剤を使ったときに枯れない農作物がほしい、水質が悪くなったときに体色が変化する魚がいたら環境調査に便利なのに、と思う人がいたとします。このような願いを叶えられる技術が遺伝子組み換えです。

遺伝子組み換えではある生物の遺伝子の一部を他の生物の遺伝子と置き換えて、本来持っていなかった性質をもたせたり、元々あった性質を消したりします。その結果、除草剤に強い農作物や、不思議な色をした観賞魚が生み出されるわけですね。このように遺伝子組み換えがなされた農作物を遺伝子組み換え農作物といい、近年問題に成ることが多いです。

\次のページで「遺伝子組み換えの問題点」を解説!/

遺伝子組み換えの問題点

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除草剤に強い農作物であれば、畑の雑草を取り除きたいときにとても便利なのに、なぜ遺伝子組み換えが問題に成るのでしょうか。

遺伝子というのはその配列に対応したタンパク質を合成するという話をしてきましたね。せっかくその生物に必要なタンパク質を作るための配列があるのに、遺伝子組み換えで無理やりその配列を変えてしまうと正直なにが起こるかわからないのです。今は除草剤に強いだけの普通の農作物ですが、いずれ他の生き物に有害な性能を持つかもしれません。

また、このような作物や生き物が野生に放たれてしまったとき、他の生き物に有害な性質をもった生き物が更にその他の生き物と掛け合わされて新たな形質を持ち、生態系を壊す恐れもあるのです。筆者も仕事で遺伝子組み換えを行ったマウスや大腸菌を飼育していますが、絶対に研究室から外に出さないように徹底した管理の中実験を行っています。また、遺伝子組み換え生物を取り扱うには講習会を受けなければならないなど、教育も徹底されているんですよ。

身近な遺伝子組み換えにはどんなものがあるか考えてみよう

遺伝情報を担っている遺伝子ですが、DNA全てが遺伝子ではなく、全ゲノムの中のほんの一部分だけだったとは驚きましたね。

そして遺伝子組み換えとはその遺伝子を取り除いたり、他の生き物の遺伝子を組み込んだりすることで、合成されるタンパク質を変化させることでした。今回は農作物を例に、遺伝子組み換えの問題点を指摘しましたが、医療業界では難病の診断に使われたり新薬を作るためには重要な技術です。私達が生きるために絶対不可欠な遺伝子について、身の回りの遺伝子組み換え生物から感じてみましょう。

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理科生物細胞・生殖・遺伝

「ゲノム」とは何か?染色体や遺伝子との違いをバイオ系研究室の実験助手が5分でわかりやすく解説!

今回はゲノムや染色体、遺伝子といったキーワードについて解説するぞ!
生物という科目の中でも特に重要な単元となるのがこのゲノムや染色体、遺伝子です。
しかし、これら3つのキーワードの違いを正しく理解できている人は多くないようです。
近年、遺伝子の解析や編集といった技術はものすごいスピードで発展しているので、バイオ業界で活躍したい人は必ず押さえておいてほしい内容です。


ではさっそく、生物に詳しいライターオリビンと一緒に解説していきます。

ライター/オリビン

大学のバイオ系研究室で実験助手を務めている。研究室では遺伝子を解析して先天性疾患を見つけたり、遺伝子を編集して大腸菌やマウスに埋め込んだりしている遺伝子のスペシャリスト。

DNAとは

image by iStockphoto

遺伝子や染色体について解説する前に、まずはDNAについて押さえておきましょう。DNAはデオキシリボ核酸(DeoxyriboNucleic Acid)の頭文字をとったものです。DNAはデオキシリボース・リン酸・塩基という3つの構造(ヌクレオチド)が鎖のようにたくさんつながっています。塩基にはA(アデニン)、T(チミン)、C(シトシン)、G(グアニン)の4種類があり、この塩基が結合した順番を示したものが塩基配列です。塩基配列ではA,T,C,Gが様々な順番で並んでいるわけですが、この配列には方向性があり、ある一方の方向からでないと読めません。

この1本の鎖のように連なったDNAには向かい側にもう一本のDNAがくっついており、らせん状になっています。これが二重らせん構造と呼ばれる構造です。二重らせん構造をとることで物理的に丈夫になりますし、片方の鎖に異変が起きてももう片方の鎖でリカバリできるというメリットがあります。また、らせん状になっていることで省スペースにDNAを保管できるのです。

遺伝と遺伝子

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先程DNAとはヌクレオチドが鎖のようにつながったものであると言いましたね。では遺伝子とは何でしょうか?

生物の形質が母親や父親から子へ受け継がれることを遺伝と呼びます。この遺伝する情報を含んでいるDNAを遺伝子というのです。DNAは約31億塩基対あると言われていますが、そのなかで遺伝子は約25000個しかありません。そして遺伝子はその配列によっていろいろな種類のタンパク質を合成しているのです。遺伝子はタンパク質の設計図の役割をする部分(エキソン)と、蛋白質(タンパク質)の合成を管理する部分(イントロン)でできています。タンパク質を合成するときに一度mRNA(メッセンジャーRNA)へ遺伝子の情報が転写されますが、どの部分から転写するかを決める部分(開始コドン)によって、細胞や組織の中でどの部分の遺伝子を発現するのかが調整されてるのです。無駄がなく、必要なところには必要なものができるようにちゃんとコントロールされているなんて神秘的ですよね。

遺伝子から合成されるタンパク質とは

・筋肉や皮膚などの構造

・体の機能を保つための酵素

ゲノムとは

ゲノムとは

image by Study-Z編集部

ゲノムとはDNAの全配列のことです。ゲノムという言葉の由来は「遺伝子(gene)」と「全てを表す接尾語(ーome)」を合わせた造語だと言われています。先程、人間のDNA(ヒトゲノム)は31億塩基対といいましたが、この全ての配列が解明されたのは21世紀の始め頃とつい最近なんです。1953年にワトソンとクリックが二重らせん構造を発見してからわずか50年ほどでここまで科学技術は進歩したなんてすごいことですね。

染色体について

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遺伝子が収納されている器官が染色体です。DNAはむき出しになっているわけではなく、ヒストンというタンパク質に糸巻きのように巻き付いて、数珠状になっています。通常は体細胞の中の細胞核と呼ばれる部分に広がって存在していますが、細胞分裂のときにはそれが凝縮し、染色体となって顕微鏡でも見れるようになるのです。人間には23対46本の染色体があり、そのうち1対は性染色体と呼ばれる性別を決定するための染色体なんですよ。残りの22対44本の染色体は常染色体と呼ばれています。

染色体が2本で1対の構造をとっているのは、細胞分裂で1つの細胞が2つに分かれるときにそれぞれの細胞へ染色体が受け継がれるためです。よって、対になる染色体は同じDNAをしていることになります。1つずつに分かれた染色体は複製され、また2本で1対の構造へなるのです。

遺伝子組み換えとは

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除草剤を使ったときに枯れない農作物がほしい、水質が悪くなったときに体色が変化する魚がいたら環境調査に便利なのに、と思う人がいたとします。このような願いを叶えられる技術が遺伝子組み換えです。

遺伝子組み換えではある生物の遺伝子の一部を他の生物の遺伝子と置き換えて、本来持っていなかった性質をもたせたり、元々あった性質を消したりします。その結果、除草剤に強い農作物や、不思議な色をした観賞魚が生み出されるわけですね。このように遺伝子組み換えがなされた農作物を遺伝子組み換え農作物といい、近年問題に成ることが多いです。

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