今回は「推力と推進力の違い」について解説していきます。
「推力と推進力は何が違うのでしょうか」と考えたことはあるでしょうか。考えたことがある人は、エンジンや航空機、ロケットなどの勉強をしていた時だと思う。この記事では、推力と推進力を言葉の意味での違い、飛行機とロケットの例を使って説明した。理解が深まると思うので、是非読んでみてほしい。大学では機械工学を専攻とし、現在ではプラント関係の設計を行っているアヤコと一緒に解説していきます。

ライター/アヤコ

現役のプラントエンジニア。大学では熱流体分野の研究を行い、就職後もプラントエンジニアとして流体に関係する仕事を行っている。流体力学は多くの人が難しいと思い毛嫌いする分野の半面、身の回りの現象は多い。楽しく理解できるよう解説していく。

「推力」と「推進力」言葉の意味での違い

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推力(thrust)推進力(propulsion)は日本語では「進」が入るだけの違いに対し、英語を見ると全く別の単語を使用しているように見えます。両方の用語に共通している「」という文字はどのような意味でしょうか。

「押す」と「推す」の違いは、「押す」は「物を押す」のように何かに力を加えるの意味ですが、「推す」は、例えば「推測」がおしはかって考えることの意味になりますが、何かを推し出すの意味で使われるようです。物理での推力は、物をの推す力と考えるとよいでしょう。一方推進力は、英語でのpropulsionがproは前にという意味であり、pulsion は突進の意味なので、物が前に進む力突進力と言葉の意味からは考えられます。

飛行機の例

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推力と推進力の違いをイメージしやすい例として、飛行機を上げます。大空を飛ぶ飛行機。その機体の構造は主に、胴体、翼、エンジン、コックピット、降着装置です。その中で推進装置となる部品エンジンになります。エンジンが推進装置という理由は、エンジンは空気を吸込み圧縮燃焼し、勢いよく噴射し、その反作用力により飛行機を推進させているからです。

またこの時の反作用力は飛行機を推す力となるため推力となります。初心者向けに説明している本などは推力でなく、推進力と書かれているものもあるのです。しかしエンジンの専門書では、推力とされます。なぜ推進力と言わないのでしょうか。ここでの推力は、エンジンが機体をおす力であり、飛行機が前に進む力は推力だけではないからです。以下でもう少し詳しく説明しましょう。

推進効率について

推進効率について

image by Study-Z編集部

飛行機では推進効率という、エンジンの出力がどのくらい推進に役立つかを表す性能値があります。計算の仕方は、飛行機の速度の2倍飛行機の速度と噴射速度で除した値推進効率です。例えば、飛行機速度が噴射速度と同じ時は、分子は噴射速度の2倍になり、分母も同様となるので、効率100%になります。ただし機体が飛ぶと空気の抵抗力が働くため、ジェット速度よりも飛行速度のほうが遅くなるため、通常では100%はあり得ません。つまり推進力は推力の他に抵抗力などの影響を含めて考えられます。またプロペラなどをエンジンの前に設置した場合は、推進効率の計算ではエンジンの推力に加えプロペラの推力も考えるのです。

まとめると推力はエンジンやファンなどの部品による機体を前に進ませる力を言い、推進力は推力や機械の形状による抵抗力なども含め総合して前に進む力と考えます。計算式から簡単に考えると、推進力は航空機の速度に依存し、推力はエンジンの噴射速度に依存するため、航空機の速度の増加と言えば推進力のことを考え、噴射速度の増加と言えば推力のことを考えると分かりやすいです。

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ロケットの例

Liquid fuel rocket ja.png
Tokino - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

ロケットの推進原理は、飛行機の推進原理同様であり、機体が噴射するガスの反作用力推力になります。またロケットの場合、離陸時は地球のため空気がありますが、大気圏を抜けた宇宙空間では空気がないため、燃料を燃やす酸化剤が必要です。燃料と酸化剤推進剤と言います。おそらく燃料と酸化剤はロケットが進むための必要な混合薬(エネルギー源)の意味で名付けられたのでしょう。この推進剤によって推力の大小が決まり、推力推進剤の消費量で割った値比推力という)で評価します。比推力が大きいほど、分母の推進剤の消費量は小さくなる(または比推力が小さいと消費量が大きくなる)と評価できるので燃費を表す指標としても使われるのです。

推進力の向上について

Nozzle de Laval diagram.svg
ЮК - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, リンクによる

推進力を向上させる、言い換えるとロケットの速度を速くするにはどのようにすればよいでしょうか。1つは推力を上げる、言い換えると噴射速度を上げることが考えられます。例えば比推力の大きい推力剤を使用することや、上図のようなラバール・ノズルを使用することが考えられるのです。ラバールノズルは、燃焼などによって圧力が高まり、音速以下のガスを断面を縮小することにより加速し、断面積が一番小さいところで音速(M=1)になり、断面を拡大することによりガスが膨張し、超音速以上まで加速するノズルになります。主に音速以下のガス速度を超音速以上にしたい時に使われるのです。これを燃焼室の出口に設置することにより噴射速度を上げられます

2つ目は軽量化です。機体の重量を軽くする材料を使用することや、推進剤を使いきった後は質量が軽くなるため、ロケットの中で推進剤が占める割合を増やすことが考えられます。上記2つの工夫については、ツィオルコフスキ―の公式で説明がつくのです。ツィオルコフスキ―の公式では、最終速度は噴射速度に質量比(始めと推進剤が使いきった後の質量の比)の自然対数を掛けた値と等しくなるという式になります。ロケット方程式とも言われるのですが、現在のロケット設計の現場でも使われているようです。

「推力と推進力の違い」について理解を深めよう

この記事では、推力と推進力について言葉上の意味の違い、飛行機とロケットの例について説明しました。推力は機械を推し出す力、推進力は推力と他の作用力を含めた力によって機械が進む力と説明しました。またロケットでは、推進力の向上させるためには、推力の向上や軽量化について述べました。今回は飛行機とロケットでの説明でしたが、潜水艦、船、車なども飛行機やロケットと類似的に推力と推進力を考えられるのではないかと思います。このような輸送機に関する専門書では、「推力」、「推進力」の用語が登場しますので、分からない時は今回の記事を思い出して頂ければ幸いです。

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物理物理学・力学理科

5分で分かる推力と推進力の違い!飛行機とロケットでの意味は?機械系のエンジニアが分かりやすくわかりやすく解説!

今回は「推力と推進力の違い」について解説していきます。
「推力と推進力は何が違うのでしょうか」と考えたことはあるでしょうか。考えたことがある人は、エンジンや航空機、ロケットなどの勉強をしていた時だと思う。この記事では、推力と推進力を言葉の意味での違い、飛行機とロケットの例を使って説明した。理解が深まると思うので、是非読んでみてほしい。大学では機械工学を専攻とし、現在ではプラント関係の設計を行っているアヤコと一緒に解説していきます。

ライター/アヤコ

現役のプラントエンジニア。大学では熱流体分野の研究を行い、就職後もプラントエンジニアとして流体に関係する仕事を行っている。流体力学は多くの人が難しいと思い毛嫌いする分野の半面、身の回りの現象は多い。楽しく理解できるよう解説していく。

「推力」と「推進力」言葉の意味での違い

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推力(thrust)推進力(propulsion)は日本語では「進」が入るだけの違いに対し、英語を見ると全く別の単語を使用しているように見えます。両方の用語に共通している「」という文字はどのような意味でしょうか。

「押す」と「推す」の違いは、「押す」は「物を押す」のように何かに力を加えるの意味ですが、「推す」は、例えば「推測」がおしはかって考えることの意味になりますが、何かを推し出すの意味で使われるようです。物理での推力は、物をの推す力と考えるとよいでしょう。一方推進力は、英語でのpropulsionがproは前にという意味であり、pulsion は突進の意味なので、物が前に進む力突進力と言葉の意味からは考えられます。

飛行機の例

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推力と推進力の違いをイメージしやすい例として、飛行機を上げます。大空を飛ぶ飛行機。その機体の構造は主に、胴体、翼、エンジン、コックピット、降着装置です。その中で推進装置となる部品エンジンになります。エンジンが推進装置という理由は、エンジンは空気を吸込み圧縮燃焼し、勢いよく噴射し、その反作用力により飛行機を推進させているからです。

またこの時の反作用力は飛行機を推す力となるため推力となります。初心者向けに説明している本などは推力でなく、推進力と書かれているものもあるのです。しかしエンジンの専門書では、推力とされます。なぜ推進力と言わないのでしょうか。ここでの推力は、エンジンが機体をおす力であり、飛行機が前に進む力は推力だけではないからです。以下でもう少し詳しく説明しましょう。

推進効率について

推進効率について

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飛行機では推進効率という、エンジンの出力がどのくらい推進に役立つかを表す性能値があります。計算の仕方は、飛行機の速度の2倍飛行機の速度と噴射速度で除した値推進効率です。例えば、飛行機速度が噴射速度と同じ時は、分子は噴射速度の2倍になり、分母も同様となるので、効率100%になります。ただし機体が飛ぶと空気の抵抗力が働くため、ジェット速度よりも飛行速度のほうが遅くなるため、通常では100%はあり得ません。つまり推進力は推力の他に抵抗力などの影響を含めて考えられます。またプロペラなどをエンジンの前に設置した場合は、推進効率の計算ではエンジンの推力に加えプロペラの推力も考えるのです。

まとめると推力はエンジンやファンなどの部品による機体を前に進ませる力を言い、推進力は推力や機械の形状による抵抗力なども含め総合して前に進む力と考えます。計算式から簡単に考えると、推進力は航空機の速度に依存し、推力はエンジンの噴射速度に依存するため、航空機の速度の増加と言えば推進力のことを考え、噴射速度の増加と言えば推力のことを考えると分かりやすいです。

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