今回は「濡れ」について勉強していこう。
濡れとは一見、身近なものであるようで現象としてはとても難しい。傘の水のはじき方や車のフロントガラスの液体の挙動と多種多様です。

今回は濡れの評価手法から、種類、制御方法について、原理から実用例まで理系大学院卒ライターこーじと一緒に解説していきます。

ライター/こーじ

元理系大学院卒。小さい頃から機械いじりが好きで、機械系を仕事にしたいと大学で工学部を専攻した。卒業後はメーカーで研究開発職に従事。
物理が苦手な人に、答案の答えではわからないおもしろさを伝える。

濡れとは

image by iStockphoto

濡れとは、固体表面に液体が広がる現象です。
産業上では、液体の広がりやすさの観点で議論されます。コーティングや接着などの分野でも重要なテーマです。例えば、はんだ接合の分野では電子部品の電極に対するはんだの濡れ性があげられます。溶融した半田は、基材上にまんべんなく固体表面を覆ってほしいからです。
このように、液体とは水に限らず溶融した金属が他の金属表面に濡れ広がる現象も含んでいます。

表面と界面

濡れを議論する際、表面と界面の違いをはっきり区別させる必要があります。
表面とは液体や固体が気体の層と接している面のことです。フライパンの金属面、人間の皮膚があげられます。一方、界面とは液体と固体が接している境界です。例えば、フライパンに引いた油とフライパン金属部分の接している面。保湿クリームと皮膚が接している面です。
この界面と表面の違いをしっかり区別しましょう。そうすれば「濡れ」の議論をますます深めることができます。

表面張力とは

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表面張力は液体にも固体にも存在する縮む力のことです。すべての物質は、一番エネルギーが小さくなる状態になろうとします。
では、エネルギーが小さくなるとはどのようなことでしょうか?液体の場合で考えてみましょう。分子レベルで考えると、分子間では分子間力が働きます。表面の分子は、釣り合いが取れていません。液体分子一個に着目し相互間力のベクトルを合成すると液体内部方向に向かいます。このベクトルの大きさを最小にするための力が表面張力です。一方で液体内部の分子は、互いに隣接している分子間と釣り合っています。そのため、力の釣り合いが取れておりエネルギーが最小です。
この観点で固体の表面も考えてみましょう。液体と同様に固体表面の分子は固体内部に向かうベクトルが働きます。この力が固体の表面張力です。このように表面張力は、固体・液体の表面における分子間力の不釣り合いから発生します。

濡れの評価方法は

濡れは定量的にどのように測定するのでしょうか?代表的な指標に接触角測定があります。この測定でその液体の固体に対する濡れ性を評価可能です。では、接触角について説明していきます。

接触角とは

Contact angle θ.jpg
竹内彩乃 - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

接触角とは、固定表面に液滴を滴下した場合、液体と固体面の接線方向のなす角度(θ)のことです。接触角は、3つの表面張力の釣り合いの式で表されます。その3つは液体の表面張力、固体の表面張力、固体と液体の界面の界面張力です。この式は「Youngの式」といい、3つの張力が接触角の値を決めていることを示しています。

\次のページで「濡れの種類」を解説!/

Young equation.jpg
竹内彩乃 - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

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二つの成分で液体と固体の端点におけるベクトルの釣り合いを考えてみましょう。固体の表面張力のほうが大きい場合は液体が広がる向きに、逆の場合は液体が丸くなります。また、静止状態ではベクトルが釣り合わなけらえばなりません。固体と液体の表面張力の差分が界面張力です。実は、三成分が独立して存在しているようには見えますが、界面張力は固体と液体の表面張力から自動的に決まります

濡れの種類

Types of wetting.jpg
竹内彩乃 - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

濡れは接触角の値で3種類に分類されます。一つ目はθ=0°です。この濡れを拡張濡れといい、液体は固体表面をどこまでも広がっていきます。二つ目は0<θ<90°。浸漬濡れといい、この接触角のどこかで安定になります。3つ目は0<θ<180°です。付着濡れといいで濡れが進行しない状態になります。

親水性と疎水性

産業界においては、接触角の値で濡れを評価可能します。評価の目安は90°よりも大きいか小さいかです。接触角が90°よりも小さい場合を親水性、大きい場合を疎水性または撥水性といいます。その中でも、接触角が極端に小さくほぼ0°になるものは超親水。150°以上となるものは超撥水と呼ばれています。

\次のページで「濡れの制御の方法」を解説!/

濡れの制御の方法

濡れの制御の方法は複数あります。一つは物理的に表面の面積を変える方法、コーティング等により科学的に表面の性情を変化させる方法です。また、電気的に変化を与えることでも濡れを制御する手法もあります。

表面構造による濡れの制御

濡れは固体の表面積でも大きく変化します。表面積というのは、細かな凹凸を含めた粗さパラメータです。鏡面かやすりで粗くした面では、同じ材質でも接触角は大きく異なります。親水性の特性を持つ材料で考えると、粗面のほうが接触角は小さいです。

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この構造の一例が蓮の葉です。蓮の葉の表面は極微細な凹凸があり、ロータス効果とも呼ばれています。もともと撥水性であるのに加えて、微細な構造によりより撥水性が増幅されているのです。

化学的構造による濡れの制御

もう一つの濡れの制御方法は、母材表面の化学的性質を変えることです。例えば、スパッタ処理やコーティングといった手法があります。表面の幾何学的形状を変えるだけは、親水性表面を疎水性表面に変えるのは難しいためです。
身近な例では、革靴用の撥水スプレーやフライパンの上のテフロンがあげられます。表面一層の性質だけを別の特性に変えているのです。その結果、水をはじく靴や、焼き付かないフライパンができています。

電気化学の観点による濡れの制御

疎水性の表面の濡れ性を変化させる手法に、エレクトロウェッテイング手法があります。液体が載せられた絶縁体などのの下に形成した電極と水滴の間に電場を与えると時間の経過に従い、接触角が変化する現象です。絶縁体試料の1例では、ポリエチレンやフッ素系樹脂などがあげられます。

\次のページで「濡れを制御すると世界が変わる」を解説!/

濡れを制御すると世界が変わる

今回は、濡れについて解説してきました。原理・原則重視でしたが、実際問題、濡れの制御はとても重要です。1例を上げると、車のフロントガラスの濡れや防犯カメラのレンズの濡れがあります。この製品の機能は見えることです。見えなければ車では事故を起こすかもしれません。防犯カメラは映像を残すことができません。このように身近な機能を担保するのも「濡れ」を理解する重要な意義です。
これからいろいろなことを学ぶあなたも、原理・原則を学ぶことだけにとらわれないでください。どのような形で社会に貢献できるかを考え、勉強に励みましょう。

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化学理科

3分で簡単「濡れる」という現象!制御方法を含めて理系大学院卒ライターがわかりやすく解説

今回は「濡れ」について勉強していこう。
濡れとは一見、身近なものであるようで現象としてはとても難しい。傘の水のはじき方や車のフロントガラスの液体の挙動と多種多様です。

今回は濡れの評価手法から、種類、制御方法について、原理から実用例まで理系大学院卒ライターこーじと一緒に解説していきます。

ライター/こーじ

元理系大学院卒。小さい頃から機械いじりが好きで、機械系を仕事にしたいと大学で工学部を専攻した。卒業後はメーカーで研究開発職に従事。
物理が苦手な人に、答案の答えではわからないおもしろさを伝える。

濡れとは

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濡れとは、固体表面に液体が広がる現象です。
産業上では、液体の広がりやすさの観点で議論されます。コーティングや接着などの分野でも重要なテーマです。例えば、はんだ接合の分野では電子部品の電極に対するはんだの濡れ性があげられます。溶融した半田は、基材上にまんべんなく固体表面を覆ってほしいからです。
このように、液体とは水に限らず溶融した金属が他の金属表面に濡れ広がる現象も含んでいます。

表面と界面

濡れを議論する際、表面と界面の違いをはっきり区別させる必要があります。
表面とは液体や固体が気体の層と接している面のことです。フライパンの金属面、人間の皮膚があげられます。一方、界面とは液体と固体が接している境界です。例えば、フライパンに引いた油とフライパン金属部分の接している面。保湿クリームと皮膚が接している面です。
この界面と表面の違いをしっかり区別しましょう。そうすれば「濡れ」の議論をますます深めることができます。

表面張力とは

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表面張力は液体にも固体にも存在する縮む力のことです。すべての物質は、一番エネルギーが小さくなる状態になろうとします。
では、エネルギーが小さくなるとはどのようなことでしょうか?液体の場合で考えてみましょう。分子レベルで考えると、分子間では分子間力が働きます。表面の分子は、釣り合いが取れていません。液体分子一個に着目し相互間力のベクトルを合成すると液体内部方向に向かいます。このベクトルの大きさを最小にするための力が表面張力です。一方で液体内部の分子は、互いに隣接している分子間と釣り合っています。そのため、力の釣り合いが取れておりエネルギーが最小です。
この観点で固体の表面も考えてみましょう。液体と同様に固体表面の分子は固体内部に向かうベクトルが働きます。この力が固体の表面張力です。このように表面張力は、固体・液体の表面における分子間力の不釣り合いから発生します。

濡れの評価方法は

濡れは定量的にどのように測定するのでしょうか?代表的な指標に接触角測定があります。この測定でその液体の固体に対する濡れ性を評価可能です。では、接触角について説明していきます。

接触角とは

Contact angle θ.jpg
竹内彩乃投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

接触角とは、固定表面に液滴を滴下した場合、液体と固体面の接線方向のなす角度(θ)のことです。接触角は、3つの表面張力の釣り合いの式で表されます。その3つは液体の表面張力、固体の表面張力、固体と液体の界面の界面張力です。この式は「Youngの式」といい、3つの張力が接触角の値を決めていることを示しています。

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