最近、軽減税率を含めて新しい消費税の仕組みが導入されたことは記憶に新しい。景気の悪化や税収減による年金や社会保障問題など、税金の負担が大きくなるタイミングはいろいろです。震災復興による財源確保のために税率が上乗せされたケースもある。

新型コロナウイルス対策の影響で医療費がひっ迫するなど、財源確保の方法が注目されている。今後も増税の必要性はあるのか現代社会に詳しいライターひこすけと一緒に注目点を解説していきます。

ライター/ひこすけ

文化系の授業を担当していた元大学教員。専門はアメリカ史・文化史。少子高齢化が進む日本では段階的に増税する必要性があると言われている。オリンピック延期による経済危機も懸念材料。これから増税される可能性はあるのか、関連する情報とともにまとめてみた。

増税の表明は政権を揺るがす

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増税というと消費税10%が記臆に新しいと思います。ただ、これまで日本政府は、何度かに分けて増税を実施。そのたびに国民の反発が強まり、支持率が低下するなど政権が不安定になりました。

消費税の導入決定で国民の支持率は低下

日本ではじめて消費税を導入することが構想されたのが1979年。大平正芳内閣のときでした。消費税が構想された理由が財政再建。財政を立て直すために「一般消費税」を導入することが閣議で決定されます。国民の強い反発に合い選挙中に撤回を表明。しかしながら議席数は大幅に減少しました。

次に増税を構想したのが中曽根内閣。1897年に「売上税」を導入を提案しました。「売上税」についても国民が猛反発。内閣の支持率が急降下、政権が不安定になることが懸念されました。そこで急きょ、この増税案は見送られてお蔵入りになります。

1989年に3%から消費税がスタート

1988年、ついに竹下内閣のもと「消費税法」が国会を通過します。そして翌年の1989年に消費税が導入されました。このときの税率は3%。このとき竹下内閣は増税の趣旨について、高齢化社会に対応すること、そして財政再建をあげました。

竹下内閣は、消費税を取り入れるかわりに所得税、法人税、相続税の3つを減税。それを理由に「増税ではない」と主張しました。それにより国民の反発を回避しようとしましたが、反対するデモがまきおこります。さらにリクルート事件の影響もあり内閣総辞職となりました。

社会福祉の財政確保からさらなる増税を目指す

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政府が増税しようとする理由の大部分は財源の不足。とくに日本は、少子高齢化が進んでいることから、社会福祉関係の財源がひっ迫するようになりました。そこで税金で補おうと考えたのです。

増税の発表と撤回を繰り返す迷走期

消費税は3%からスタートしましたが政府の目標はさらに増税することでした。1994年に細川内閣が税率7%の国民福祉税の導入を提案。しかし、日本新党を中心とする連立内閣だったこともあり意見が対立。発表した翌日に、国民福祉税の構想は撤回されました。

次に増税を目指したのが自社さ連立政権の村山内閣。ここで成立した法案は、消費税率を3%から4%に引き上げる、さらに地方消費税1%を加えるというものでした。村山政権は、連立政権ゆえの不安定さから短命におわり、実施するまでには至りませんでした。

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1997年に消費税率は5%にアップ

消費税率が5%になったのは1997年。橋本内閣のときでした。この内容は村山内閣のときに通過した法案がベースとなっています。このときは、さまざまなフォローをしないまま増税。そのような背景もあり、日本は急激な景気の悪化に見舞われることになります。

1990年代の日本は景気が一気に後退するバブル崩壊の時期。橋本内閣はバブル崩壊によるダメージが深刻化しつつあるときに消費税を5%にあげて増税しました。税収はアップしたものの、もともと後退気味であった日本の経済は腰折れする結果となります。

政府の目標は消費税率10%

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最近、消費税が10%にあがりましたが、実は10%に増税する計画自体は、だいぶ前からありました。政府にとって消費税10%は、長きに渡り実現を目指してきた悲願だったと言えるでしょう。

高齢者や子育て世代など増税の理由が多様化

今もそうですが、日本は少子高齢化が進んでいます。少子高齢化が進むと、年金を受給する、医療保険を利用する高齢者が増加。しかしながら、それらのお金を負担する立場である現役世代の数は少なくなります。そのため1人あたりの納税額を増やす必要性が生じました。

納税者を増やすためには女性の社会進出を促す必要があります。それを実現するためには、子育て世代をサポートするための予算が不可欠。そのための財源も不足する事態に陥りました。このように増税しなければならない理由がどんどん増え、税率10%が本格的に議論され始めます。

2019年に消費税率が10%と最大化

消費税率が10%になったのは2019年。5%から10%になるまでのあいだ、増税の是非をめぐって政権が何度も交代しました。鳩山内閣は、4年のあいだ消費税をあげないことを公約に、自民党から社民党に政権交代を実現。次の菅内閣は10%を打ち出し、選挙で大敗します。

政権は自民党に移り、野田内閣で段階的に10%に引き上げる法案が可決。次の安倍内閣は、2014年に消費税を8%にアップ、2015年に10%に引き上げようとするものの見送られます。そのごは延期を繰り返しながら2019年に税率が10%に引き上げられました。

酒類は増税の歴史とともにある

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増税というと消費税のイメージが強いと思いますが、食品の一部に限って増税されるケースも少なくありません。増税対象の代表格がビールをはじめとする酒類です。とくにビールは日ごろから飲む人が多いこともあり国民の関心を集めました。

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お酒の販売は酒税との戦い

一般の食品は、国民が支払う税金は消費税のみ。それに対してお酒の場合、消費税にくわえて酒税も支払っています。アルコール度数が高い、指定の原料が多いほど税率がアップ。酒税はすでに価格に含まれているため、いくら払っているのか意識している人は少ないでしょう。

今では当たり前のように飲まれているのが発泡酒。副材料を多用することでビールと区別、税率をさげて低価格を実現するために開発されました。発泡酒そして新ジャンルは、区分としてはリキュールになりますが、ビールよりも安いこともあり人気に火が付きます。

2018年から酒税は緩和されるように

酒税は重要な財源のひとつではありましたが、消費者が買い控えをするようになります。それにより税収が減少する結果に。そこで、酒類の購入を促すために酒税の仕組みが緩和されることが決定。段階的にお酒の定義や税率を見直していき、税制を改定することになりました。

とくに大きな変化となるのが発泡酒。これまでは麦芽の比率が約67%に満たない場合は発泡酒に区分され、税率がさがりました。それが見直され、麦芽比率が50%を超えるものはすべてビールとされることに。すべて同じ税率が適用されることになりました。

東日本大震災後にも増税されている

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東日本大震災の復興支援では多額の予算が組まれていますが、その大部分は税金。通常よりも多くの予算が必要となる事態から所得税と住民税が増税されました。増税期間は長期に渡りますが、あまり意識されていないでしょう。

増税の対象は所得税と住民税

復興支援のための増税は「復興特別税」と呼ばれています。復興特別税は、消費税ではなく、所得税、住民税、そして法人税に上乗せするかたちで納税。所得税は2013年から25年間、税額に2.1%を上乗せされるようになりました。

住民税は2014年度から10年間、通常の納税額に1000円上乗せすることで納税。法人税は会社が支払うものですが、2年の減税期間を経たうえで、10年のあいだ10%を追加徴収されることになりました。つまり復興のために長期に渡って増税されているのです。

震災復興の増税期間が25年というのは妥当?

現在、多くの被災地は復興され、生活はいつも通りになりつつあります。復興特別税は、防潮堤や住宅などをつくるために利用されており、一定の成果はありました。しかしながら、25年と長きに渡って増税されることについて批判的な意見があることも事実です。

約10兆円もの復興特別税が、被災地の復興とはまったく異なることに使われていることが発覚するという事態も。不正に利用された税金は国庫に返納されました。ただ、不要な公共事業が多いという声も少なくなく、納税者である国民は関心を持ち続けることが大切になります。

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新型コロナウイルス対策の増税を税府は検討?

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世界で感染拡大する新型コロナウィルスに関連する対策としてさまざまなな給付金、助成金、キャンペーンなど実施されました。これらのお金は緊急に支給されたものに過ぎません。つまり今後、コロナ税のような特別税が課される可能性が十分にあるのです。

給付金やキャンペーン予算をまかなう必要性

新型コロナウィルス対策として、国民ひとりあたり10万円が給付されたことは記憶に新しいでしょう。休業を余儀なくされているお店、リモートワークに対応する会社、売り上げが大きく落ち込んだ事業者に対する経済支援も実施されています。

さらに「Go To キャンペーン」も開始され、その第一弾として旅行する人に対する大幅なディスカウントも行われました。それ以外もアベノマスクの製造・発送のための予算も確保。これらをすべて合わせると相当な額のお金が動きましたが、今後それらを税金で賄わなければなりません。

コロナ増税の可能性はなきにしもあらず

そこで懸念されているのが「復興特別税」に加えて「コロナ税」のようなものが追加される可能性。今は給付金などをもらう、キャンペーンの恩恵をうけるだけですが、それを国民自身が増税というかたちで支払わなければならなくなると言われています。

とはいえ、現在は通常の納税すら困難になっている状況。そのため、コロナ流行が落ち着いて日本の経済が軌道に乗ったタイミングで増税されるかもしれません。いろいろな給付やキャンペーンが実行されていますが、それが本当に適切なものなのかしっかり見ていくことも大切でしょう。

税金の使い道を意識して増税を議論しよう

戦後から現在に至るまで日本では段階的に増税されてきました。おそらく今後もなんらかの理由で増税されることになるでしょう。ヨーロッパ諸国を中心に、日本よりもはるかに税の負担が大きい国も存在。ただ、それらの国の多くは社会保障が充実しており、国民に還元されています。そのため、さらなる増税が構想されるようになったら、それらの趣旨や用途など国民一人一人が関心を持つことが大切になりそうですね。

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平成現代社会

3分で分かる「増税」そのタイミングや問題点を元大学教員がわかりやすく解説

最近、軽減税率を含めて新しい消費税の仕組みが導入されたことは記憶に新しい。景気の悪化や税収減による年金や社会保障問題など、税金の負担が大きくなるタイミングはいろいろです。震災復興による財源確保のために税率が上乗せされたケースもある。

新型コロナウイルス対策の影響で医療費がひっ迫するなど、財源確保の方法が注目されている。今後も増税の必要性はあるのか現代社会に詳しいライターひこすけと一緒に注目点を解説していきます。

ライター/ひこすけ

文化系の授業を担当していた元大学教員。専門はアメリカ史・文化史。少子高齢化が進む日本では段階的に増税する必要性があると言われている。オリンピック延期による経済危機も懸念材料。これから増税される可能性はあるのか、関連する情報とともにまとめてみた。

増税の表明は政権を揺るがす

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増税というと消費税10%が記臆に新しいと思います。ただ、これまで日本政府は、何度かに分けて増税を実施。そのたびに国民の反発が強まり、支持率が低下するなど政権が不安定になりました。

消費税の導入決定で国民の支持率は低下

日本ではじめて消費税を導入することが構想されたのが1979年。大平正芳内閣のときでした。消費税が構想された理由が財政再建。財政を立て直すために「一般消費税」を導入することが閣議で決定されます。国民の強い反発に合い選挙中に撤回を表明。しかしながら議席数は大幅に減少しました。

次に増税を構想したのが中曽根内閣。1897年に「売上税」を導入を提案しました。「売上税」についても国民が猛反発。内閣の支持率が急降下、政権が不安定になることが懸念されました。そこで急きょ、この増税案は見送られてお蔵入りになります。

1989年に3%から消費税がスタート

1988年、ついに竹下内閣のもと「消費税法」が国会を通過します。そして翌年の1989年に消費税が導入されました。このときの税率は3%。このとき竹下内閣は増税の趣旨について、高齢化社会に対応すること、そして財政再建をあげました。

竹下内閣は、消費税を取り入れるかわりに所得税、法人税、相続税の3つを減税。それを理由に「増税ではない」と主張しました。それにより国民の反発を回避しようとしましたが、反対するデモがまきおこります。さらにリクルート事件の影響もあり内閣総辞職となりました。

社会福祉の財政確保からさらなる増税を目指す

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政府が増税しようとする理由の大部分は財源の不足。とくに日本は、少子高齢化が進んでいることから、社会福祉関係の財源がひっ迫するようになりました。そこで税金で補おうと考えたのです。

増税の発表と撤回を繰り返す迷走期

消費税は3%からスタートしましたが政府の目標はさらに増税することでした。1994年に細川内閣が税率7%の国民福祉税の導入を提案。しかし、日本新党を中心とする連立内閣だったこともあり意見が対立。発表した翌日に、国民福祉税の構想は撤回されました。

次に増税を目指したのが自社さ連立政権の村山内閣。ここで成立した法案は、消費税率を3%から4%に引き上げる、さらに地方消費税1%を加えるというものでした。村山政権は、連立政権ゆえの不安定さから短命におわり、実施するまでには至りませんでした。

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