今回のテーマ「走行性」について見ていこう。
普段の生活では全く馴染みのない言葉ですが、どんな意味を持つ用語なのでしょうか。
今回は、高校生物で学ぶ走行性の概念に触れた後、具体的にどのような走行性があるのか、4種類の例を挙げながら、東大生物学科卒で生物に詳しいライターAEON2と一緒に解説していきます。

ライター/AEON2

東京大学理学部生物学科出身で、在学中は塾講師として高校受験生物の指導をすること多数。また高校時代には、国際生物学オリンピックの国内選考で銅メダルを受賞した経験あり。趣味はボディビルディング。

走行性とは?

image by iStockphoto

まず初めに、走行性走性とも言います)とはどのような意味の用語なのかについて解説します。

走行性とはその文字のごとく、ある刺激が与えられた場合に、それに対して走って行く向かって行く)、もしくは離れて行く性質(生物ごとの機構)のことです。後の項目で詳細に解説しますが、蛾やハエは光の刺激に対して走って行く、正の走行性という性質を持ちます。生物は、この走行性を有効活用することで、外敵から生命を守ったり、生殖を有利に進めたりするため、生存戦略において非常に重要な性質であると言えるでしょう。

それでは、続く項目で、どのような走行性があるかについて見ていきましょう。

正の方向性とは?負の方向性とは?

正の方向性とは?負の方向性とは?

image by Study-Z編集部

走行性には、刺激に向かって行くものと離れて行くものがあることは簡単に紹介しました。その中でも、刺激に向かって行くタイプの走行性のことを正の走行性と言い、逆に、刺激から遠ざかる向きへ離れて行くタイプの走行性のことを負の方向性と言います。

様々な生物(動物)は、この走行性を利用することで、身を守ったり生存確率を高めたりしているのです。

走行性の元となる刺激の種類は様々ですが、今回の記事では高校生物でも学習する基本的なものについて、記事の後半で解説していきます。

生物ごとの走行性にはどのような種類がある?

走行性とは何かについて理解したところで、続いては、生物ごとにどのような走行性を持っているかについて見ていきましょう。

水位流走行性、光走行性、化学走行性、重力走行性の4つの走行性について解説します。

水流走行性とは?

image by iStockphoto

最初に紹介するのは水流走行性です。これは、狭い範囲で生息する魚類に主に見られる走行性で、今回はその例としてメダカを紹介します。

メダカを水槽で飼育していると、通常は自由自在に水槽の中を泳ぎ回っているのですが、ここに水の流れを生じさせると、方向転換して水流に逆らって泳ぐようになるのです。これは水流という刺激に対して向かって移動する方向に泳いでいるため、正の走行性であると言えます。

メダカのような狭い範囲で生息する魚類は、強い流れに逆らって泳ぐことで、自分の生息するエリアから大きく流されてしまうことを防いでいるというわけです。

\次のページで「光走行性とは?」を解説!/

水流走行性 → 水流に逆らって泳ぐことで、自分の生息エリアから大きく離れてしまうことを防ぐ。

光走行性とは?

image by iStockphoto

続いて光走行性について解説します。光走行性とは読んで字のごとく、光に対して近づいたり離れたりする性質のことです。

光に向かって行く正の走行性を持つ生物としては、ミドリムシが挙げられます。ミドリムシは自身が生存するためのエネルギーを光合成で作っているため、光に近づくことでその光合成の効率を高めようとする機能を持っているわけです。

反対に、光から離れて行くタイプの負の走行性を持つ生物も存在し、一例としてはミミズカタツムリが挙げられます。ミミズやカタツムリは乾燥に弱い生物なのですが、光の当たらない暗い場所というのは、比較的ジメジメした湿度の高い場所であることが多いため、光を避ける方向へ移動するというわけです。嫌われ者のゴキブリも、この光に対する負の走行性を持っています。

光走行性 → 光に向かって進むことで光合成を効率よくできるようにしたり、反対に光から離れることで自分の好む湿度の高いエリアに移動したりする。

化学走行性とは?

image by iStockphoto

化学物質の刺激を受けて生じる走行性のことを化学走行性走化性)と言います。化学走行性の例としては、生物が発するフェロモン(匂い分子)に対する正の走行性や、白血球が炎症部位に向かって行く正の走行性が挙げられるでしょう。

カイコガの雄は、雌が発する性フェロモンという化学分子に誘引されるという方法で、交尾を行います。これは性フェロモンという化学物質に対する正の走行性です。

別の例としてはアリが分泌する道しるべフェロモンというものもあります。たくさんのアリが行列を作っている光景を子どもの頃に見たことがある人も多いと思いますが、あれは、餌を見つけたアリが、巣まで道しるべフェロモンを分泌しながら帰ってくることで、以降のアリもその情報をもとに同じルートを辿れるようになるというわけです。

その他の例として白血球とリンパ球も紹介します。白血球とリンパ球は生物ではなく細胞の1種ですが、この細胞単体でも走行性を持っており、炎症部位のサイトカインという物質に誘引されることで、炎症部位に辿り着くというわけです。また、白血球やリンパ球は、細菌の侵入も同様な仕組みで感知しています。

化学走行性 → 様々なタイプの化学物質(生物ごとに固有の場合もある)を感知することで、生殖や生存に役立てている。

重力走行性とは?

最後に重力走行性について解説します。重力走行性も、その名称通り、重力を感知して垂直方向で上下に動くタイプの走行性です。

正の重力走行性を持つ生物としてはミミズが挙げられます。地表にいるままだとミミズは乾燥して死んでしまうため、重力を感知することで、重力の方向すなわち鉛直下向きに進もうとするわけです。このようなミミズの動きは正の重力走行性と言えるでしょう。

負の重力走行性を持つ生物には、濁った水中で生息するプランクトンが挙げられ、ミミズとは逆に、鉛直上向き、すなわち重力と反対の方向に動こうとします。プランクトンのような簡単な構造の生物でも正しく重力を感知できることは、体内に重力を感知する器官を持っていることの証明になりますね。

\次のページで「生物は走行性を活用している」を解説!/

重力走行性 → 重力を感知することで、地中深くに潜ったり、水面へ浮上したりする。

生物は走行性を活用している

今回は走行性について解説しました。

生物は様々な環境の変化を察知することで、自分の生存や生殖が有利になるように活動しているというわけです。

暗いところを怖がる我々ヒトも、光に対する正の走行性を持っていると言えるかもしれませんね。

イラスト使用元:いらすとや

" /> 5分で分かる「走行性」光走行性とは?化学走行性とは?東大生物学科卒が分かりやすくわかりやすく解説 – Study-Z
理科生物生物の分類・進化

5分で分かる「走行性」光走行性とは?化学走行性とは?東大生物学科卒が分かりやすくわかりやすく解説

今回のテーマ「走行性」について見ていこう。
普段の生活では全く馴染みのない言葉ですが、どんな意味を持つ用語なのでしょうか。
今回は、高校生物で学ぶ走行性の概念に触れた後、具体的にどのような走行性があるのか、4種類の例を挙げながら、東大生物学科卒で生物に詳しいライターAEON2と一緒に解説していきます。

ライター/AEON2

東京大学理学部生物学科出身で、在学中は塾講師として高校受験生物の指導をすること多数。また高校時代には、国際生物学オリンピックの国内選考で銅メダルを受賞した経験あり。趣味はボディビルディング。

走行性とは?

image by iStockphoto

まず初めに、走行性走性とも言います)とはどのような意味の用語なのかについて解説します。

走行性とはその文字のごとく、ある刺激が与えられた場合に、それに対して走って行く向かって行く)、もしくは離れて行く性質(生物ごとの機構)のことです。後の項目で詳細に解説しますが、蛾やハエは光の刺激に対して走って行く、正の走行性という性質を持ちます。生物は、この走行性を有効活用することで、外敵から生命を守ったり、生殖を有利に進めたりするため、生存戦略において非常に重要な性質であると言えるでしょう。

それでは、続く項目で、どのような走行性があるかについて見ていきましょう。

正の方向性とは?負の方向性とは?

正の方向性とは?負の方向性とは?

image by Study-Z編集部

走行性には、刺激に向かって行くものと離れて行くものがあることは簡単に紹介しました。その中でも、刺激に向かって行くタイプの走行性のことを正の走行性と言い、逆に、刺激から遠ざかる向きへ離れて行くタイプの走行性のことを負の方向性と言います。

様々な生物(動物)は、この走行性を利用することで、身を守ったり生存確率を高めたりしているのです。

走行性の元となる刺激の種類は様々ですが、今回の記事では高校生物でも学習する基本的なものについて、記事の後半で解説していきます。

生物ごとの走行性にはどのような種類がある?

走行性とは何かについて理解したところで、続いては、生物ごとにどのような走行性を持っているかについて見ていきましょう。

水位流走行性、光走行性、化学走行性、重力走行性の4つの走行性について解説します。

水流走行性とは?

image by iStockphoto

最初に紹介するのは水流走行性です。これは、狭い範囲で生息する魚類に主に見られる走行性で、今回はその例としてメダカを紹介します。

メダカを水槽で飼育していると、通常は自由自在に水槽の中を泳ぎ回っているのですが、ここに水の流れを生じさせると、方向転換して水流に逆らって泳ぐようになるのです。これは水流という刺激に対して向かって移動する方向に泳いでいるため、正の走行性であると言えます。

メダカのような狭い範囲で生息する魚類は、強い流れに逆らって泳ぐことで、自分の生息するエリアから大きく流されてしまうことを防いでいるというわけです。

\次のページで「光走行性とは?」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: