ガウタマ・シッダールダの出家
シャーキヤ国の王子として期待を一心に背負い、すばらしい教育を受けて育ったガウタマ・シッダールダ。十代の後半には母方のいとこ・ヤショーダラーと結婚して息子・ラーフラが生まれました。
絵にかいたような幸せですね。しかし、成長するにつれ、聡明なガウタマ・シッダールダはこの世は多くの苦しみに満ちていることを知ります。すべての人間は老いに苦しみ、病に苦しみ、そして最後に死ぬ苦しみを味わうことになると知ったガウタマ・シッダールダは、出家者の清らかな姿を見て自分の進むべき道を決めたのです。そうして、父王や妻が引き留めようとするのを振り切って出家しました。これがガウタマ・シッダールダ29歳のときのことです。
ブッダガヤの菩提樹で悟りを開く
出家して彼は最初、高名な師のもとで瞑想や苦行に励みますが、そこでは納得のいく答えが見つかりませんでした。それどころか、直射日光を浴び続ける修行や断食など苦行によって心身が衰えるばかり。
そして、とうとうガウタマ・シッダールダは衰弱しきって、今にも死んでしまいそうになったときのこと。そばを通りかかったスジャータという娘に乳粥をもらい、なんとか命を繋いだのです。
その後、ガウタマ・シッダールダはブッダガヤの菩提樹のもとで瞑想をはじめ、どんな誘惑に負けることなく悟りの境地に至ります。出家して六年目、35歳のときでした。
こうして悟りを開いたガウタマ・シッダールダは自ら法(ダルマ)を説き、仏教を広めていったのでした。
仏教の世界観と目的
仏教の世界の大きな枠に「輪廻」というシステムがありました。「輪廻」はこの世に生きるすべてのいのちが何度も転生を繰り返すことです。そして、その転生の先は「六道」という六つの世界に分かれていました。
・天人の住む「天道」
・人間の「人間道」
・阿修羅たちが住み、争いの絶えない「修羅道」
・動物の「畜生道」
・常に空腹に苛まれ苦しむ「餓鬼道」
・罪を償わせるための地下の世界「地獄道」
下にいくにつれてどんどん世界の苦しみのレベルが上がっていく仕組みになっています。
すべての生き物は無限にある前世と今世で背負った業によって、この六つの世界から次の転生先を決められました。平たく言うと、悪い事や不道徳なことをすると、次は下の世界に生まれ変わるということですね。
一番上で苦しみのないとされる「天道」ですが、そこの住人の天人でもやはり長い寿命の果てには死んでしまうので、まったく苦しみがないわけではありません。それに、悟りを開いたガウタマ・シッダールダ(以下、お釈迦様)には遠く及ばないのです。
「輪廻」がある限り、いのちは転生し続け、何度も苦しみを味わい続けます。しかし、実は、この「輪廻」から抜け出す唯一の方法がありました。それは「悟り」を開くことです。「悟り」を開き、心の迷いが解けて世界の真理を会得することで「解脱」する、つまり「輪廻」からいのちが解放されるのでした。
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人間の抱える苦しみと煩悩
お釈迦様が悟りに至る道筋を説明するために最初に説いたとされる四つの真理を「四諦」といいます。「四諦」の内容は「苦諦」「集諦」「滅諦」「道諦」という四つの真理です。
最初の「苦諦」は、人間が自分でさえも思い通りにならない「四苦(出生、老い、病気、死)」に、日常的に経験する四つの苦しみ(愛する対象と別れる苦しみ「愛別離苦」、憎む対象に出会う苦しみ「怨憎会苦」、求めても得られない苦しみ「求不得苦」、肉体と精神が思うようにならない苦しみ「五蘊盛苦」)を加えた「四苦八苦」と細かく分類されています。お釈迦様はこの「四苦八苦」こそが人間が抱えている「煩悩」の原因だと考えました。
この煩悩の結果として苦しみが生まれているという真実が「集諦」です。そして、苦しみの因果から離れ、悟りにいたることを「滅諦」。「滅諦」を実現するための実践が「道諦」です。「道諦」には八つの正しい道(八正道)があります。
八正道を実践し、輪廻から解脱することが、お釈迦様の教えの根本なのです。
インドから日本へ
インドの北部から始まった仏教はやがてシルクロードを伝って中国にもたらされました。そこからさらに朝鮮半島にあった「百済」に伝わり、飛鳥時代になって百済の聖王から日本の欽明天皇に公伝されたことで伝わります。
「公伝」というのは、簡単に言うと「王様から王様へ伝えること」。いわゆる「公的なこと」という意味ですね。公的ではない個人レベルではすでに仏教は渡来人たちによって日本に伝来していました。
公伝された仏教、どうする?
百済の聖王によって公式に伝えられた仏教でしたが、日本にはすでに日本神話の神々を信仰する神道がありました。そもそも天皇家は日本神話の神・イザナミノミコトの子孫とされていましたし、天皇家以外の氏族もそれぞれの祖先から祀ってきた神様がいます。その神様たちと一緒に今から新しく入ってきた仏教も信仰してください、と言われてもそうはいきませんよね。有力者の物部尾輿(もののべのおこし)は仏教に猛反対しました。
しかし、同盟国の百済からおくられたものを捨ててしまうわけにはいきません。聖王の手紙には「インドからこちらの朝鮮半島に至るまで、どの国も仏教を信仰していますよ」とも書かれています。仏教は先進文化の証でもあったのです。
そこで欽明天皇は仏教に賛成した有力者・蘇我稲目(そがのいなめ)に渡して様子をみることにしたのでした。
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