今回は大陸移動説について解説していきます。

科学の世界では一度間違いだとして忘れられていた理論が、新発見によって復活するということはよくあることです。大陸移動説はそのようなケースで最も有名なものでしょう。経緯も含めて学んでみよう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していくぞ

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

大陸移動説の誕生と終焉

image by iStockphoto

大陸移動説が常識となった現在では、大陸移動説を疑うほうがおかしいと思われますが、大陸が動くということは冷静に考えれば奇妙なことです。大陸が動くなどという説が最初は受け入れられなくても、それは仕方のないことのようにも感じます。では、大陸移動説の発見と否定について見ていきましょう。

大陸移動説の誕生と終焉:その1

Alfred Wegener ca.1924-30.jpg
Template:E.Kuhlbrodt - Bildarchiv Foto Marburg Aufnahme-Nr. 426.294, パブリック・ドメイン, リンクによる

ドイツのベルリン生まれのアルフレート・ウェゲナーは気象学者でしたが、生涯を通じて四度グリーンランドの探検に赴きました。1910年、彼は世界地図を見て、大西洋によって隔てられている南米東海岸とアフリカ西海岸の海岸線が見事に一致することから、これらの大陸はもともとも合体していたと推測したのです。上記の画像は、ウェゲナーの写真になります。

大陸移動説の誕生と終焉:その2

Alfred Wegener Die Entstehung der Kontinente und Ozeane 1929.jpg
Inductiveload - http://caliban.mpiz-koeln.mpg.de/~stueber/wegener/ (This was pubslished in Germany. German copyright law says that works enter the public domain 50 years after the death of the author, and Wegener died in 1930.), パブリック・ドメイン, リンクによる

さらに彼は、北米・ユーラシア・南極・インド・オーストリアも含めて、すべての大陸はかつて一つの超大陸パンゲアを構成していたが、その後、分裂・移動したと主張して大陸移動説を提唱しましたパンゲアのうち、北半球および南半球に広がっていた大陸は、それぞれローラシア大陸およびゴンドワナ大陸と呼ばれています。上記の画像は、ウェゲナーの主著「大陸と海洋の起源」に記載されている図です。

大陸移動説の誕生と終焉:その3

Glossopteris sp., seed ferns, Permian - Triassic - Houston Museum of Natural Science - DSC01765.JPG
Daderot - 投稿者自身による作品, CC0, リンクによる

大陸移動説を主張する際、ウェゲナーは海岸線の一致のほかに複数の証拠を挙げています。一つは、現在分裂しているゴンドワナ大陸に共通に認められる古生代ペルム紀の陸生動植物化石で、特に裸子植物とシダ植物の中間型と考えられているグロッソプテリスは有名です。また、彼は、後に約20億年前と年代測定された西アフリカの楯状地がブラジルの楯状地に酷似していると述べています。上記の画像はグロッソプテリスの化石画像です。

大陸移動説の誕生と終焉:その4

Pangaea continents ja.svg
en:User:Kieff - File:Pangaea continents.png, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

他に、現在、北大西洋を挟んで北米アパラチア山脈・西アフリカ西岸・ニューファンドランド・イギリス・グリーンランド・スカンジナビア西岸に分布している古生代造山帯は、パンゲア分裂以前には一つの連続した造山帯であったと主張しました。さらに、ウェゲナーは、現在は分裂しているゴンドワナ大陸の各地に分布している古生代後半の氷河堆積物が、大陸移動の重要な証拠であると考えたのです。上記の画像は、パンゲア大陸の模式図になります。

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大陸移動説の誕生と終焉:その5

なぜなら、これらの石炭紀の氷礫岩は、現在は赤道付近の熱帯地域であるインドやアフリカ南部にも分布していますが、かつて南極地域で形成されたものが現在の位置に移動したと解釈すると、一つの巨大な氷床として復元されるからです。さらに、現在北半球の高緯度地域にある北米東部・ヨーロッパおよびシベリアは、石炭紀には赤道付近に位置しており、熱帯気候下で石炭のもとになって大型植物が大規模な沼地に繁茂するような場であったと考えられていることも挙げました。

大陸移動説の誕生と終焉:その6

ウェゲナーの大陸移動説は今日でも大変魅力的であり説得性があるように思えますが、当時この説は一部の地質学者から支持されたものの、一部の地球物理学者にまったく受け入れられず、猛反発を受けることになりました最大の理由は、大陸が海洋底の上を滑って移動することは、力学的に不可能と考えられたためです。この理由により、大陸移動説はウェゲナーの没後約25年間まったく顧みられませんでしたが、次節でのべるようにまったく異なる学問分野からの支持を受けて復活することになります。

大陸移動説の復活

image by iStockphoto

すっかり忘れられていた大陸移動説ですが、別に大陸移動説の証拠を探してるわけではない研究から、大陸移動の証拠と考えられるものが発見されていきます。それは、海の底深くにあったのです。

大陸移動説の復活:その1

Atlantic Central Ridge.JPG
GFDL, リンク

第二次世界大戦後のアメリカでは、海軍の助力を得て、最新のサイドスキャンソナーおよび音響測深機を用い、海底地形および推進の大規模な調査が開始されました。その結果、広大な海底の底は、主として推進4~6kmの大洋底と呼ばれる平坦面から構成されていますが、大洋底から比高2~3kmの高さのそびえ立つ、長大な中央海嶺が地球を取り巻いていることが明らかになったのです。上記の画像は、大西洋中央海嶺の模式図になります。

大陸移動説の復活:その2

同時に、1950年代にアメリカでは磁力計を装備した船を用い、海洋底の地磁気の観測が開始されました。その結果判明した興味深い事実は、海洋底の岩石には現在の磁場と同じ向きに磁化した部分と逆向きに磁化した部分が交互に分布する縞状磁気異常が認められたことです。1963年ケンブリッジ大学のバイソンとマシューズは、ヘスの海洋底拡大説と、当時明らかになりつつあった地磁気逆転の時間間隔を組み合わせると、この縞状磁気異常の成因が見事に説明できることを示しました

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大陸移動説の復活:その3

Geomagnetic polarity late Cenozoic.svg
United States Geological Survey, hand-traced to vector by me (User:Intgr) - U.S. Geological Survey Open-File Report 03-187, パブリック・ドメイン, リンクによる

すなわち、縞状磁気異常は、中央海嶺で玄武岩マグマがたえず上昇して海底に噴出し、これが固化して次々と両側に移動して海洋底の岩石が形成されるとき、玄武岩が冷却の過程でその当時の地球磁場を獲得することにより形成されるのです。玄武岩が一度磁気を獲得すると、再び加熱されない限りほとんど磁気は失わないので、その当時の地球磁場が残留磁気として玄武岩中に保存されることになります。上記の画像は、新生代後期以降の地磁気極性を示した図です。黒が現在と同じ、白が現在と逆の極性になります。

大陸移動説の復活:その4

さらに当時、放射年代を利用して現在から350万年前までの地磁気極性年代尺度が推定されました中央海嶺からの距離をそこの海洋底の年代でわることにより、アイスランド南方の大西洋中央海嶺における海洋底プレートの移動速度は1wp_/年、したがって拡大速度が2wp_/年であることが推定されたのです。このようにして、海洋学から明らかになった海洋底の地形と古地磁気学から明らかになった縞状磁気異常は、ともに海洋底拡大説を強く支持する結果となりました。海洋底拡大説が証明されたことにより、ウェゲナーの大陸移動説は蘇りました

プレートテクトニクスへ

プレートテクトニクスへ

image by Study-Z編集部

現在では、大陸移動の原因はプレートテクトニクスで説明されています。プレートテクトニクスとは、地球表面が何枚かの厚さ数十kmの固い岩盤(プレート)で覆われていて、それがその下にあるマントルの対流によって移動することにより、大陸移動およびそれに付随する様々な現象が引き起こされるという理論です。ただしプレートテクトニクスもまだ完成された理論ではなく、わかっていないこともたくさんあります。

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地学地球理科

3分で簡単「大陸移動説」一度は忘れられた理論を理系ライターがわかりやすく解説

今回は大陸移動説について解説していきます。

科学の世界では一度間違いだとして忘れられていた理論が、新発見によって復活するということはよくあることです。大陸移動説はそのようなケースで最も有名なものでしょう。経緯も含めて学んでみよう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していくぞ

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

大陸移動説の誕生と終焉

image by iStockphoto

大陸移動説が常識となった現在では、大陸移動説を疑うほうがおかしいと思われますが、大陸が動くということは冷静に考えれば奇妙なことです。大陸が動くなどという説が最初は受け入れられなくても、それは仕方のないことのようにも感じます。では、大陸移動説の発見と否定について見ていきましょう。

大陸移動説の誕生と終焉:その1

Alfred Wegener ca.1924-30.jpg
Template:E.Kuhlbrodt – Bildarchiv Foto Marburg Aufnahme-Nr. 426.294, パブリック・ドメイン, リンクによる

ドイツのベルリン生まれのアルフレート・ウェゲナーは気象学者でしたが、生涯を通じて四度グリーンランドの探検に赴きました。1910年、彼は世界地図を見て、大西洋によって隔てられている南米東海岸とアフリカ西海岸の海岸線が見事に一致することから、これらの大陸はもともとも合体していたと推測したのです。上記の画像は、ウェゲナーの写真になります。

大陸移動説の誕生と終焉:その2

Alfred Wegener Die Entstehung der Kontinente und Ozeane 1929.jpg
Inductiveloadhttp://caliban.mpiz-koeln.mpg.de/~stueber/wegener/ (This was pubslished in Germany. German copyright law says that works enter the public domain 50 years after the death of the author, and Wegener died in 1930.), パブリック・ドメイン, リンクによる

さらに彼は、北米・ユーラシア・南極・インド・オーストリアも含めて、すべての大陸はかつて一つの超大陸パンゲアを構成していたが、その後、分裂・移動したと主張して大陸移動説を提唱しましたパンゲアのうち、北半球および南半球に広がっていた大陸は、それぞれローラシア大陸およびゴンドワナ大陸と呼ばれています。上記の画像は、ウェゲナーの主著「大陸と海洋の起源」に記載されている図です。

大陸移動説の誕生と終焉:その3

Glossopteris sp., seed ferns, Permian - Triassic - Houston Museum of Natural Science - DSC01765.JPG
Daderot投稿者自身による作品, CC0, リンクによる

大陸移動説を主張する際、ウェゲナーは海岸線の一致のほかに複数の証拠を挙げています。一つは、現在分裂しているゴンドワナ大陸に共通に認められる古生代ペルム紀の陸生動植物化石で、特に裸子植物とシダ植物の中間型と考えられているグロッソプテリスは有名です。また、彼は、後に約20億年前と年代測定された西アフリカの楯状地がブラジルの楯状地に酷似していると述べています。上記の画像はグロッソプテリスの化石画像です。

大陸移動説の誕生と終焉:その4

他に、現在、北大西洋を挟んで北米アパラチア山脈・西アフリカ西岸・ニューファンドランド・イギリス・グリーンランド・スカンジナビア西岸に分布している古生代造山帯は、パンゲア分裂以前には一つの連続した造山帯であったと主張しました。さらに、ウェゲナーは、現在は分裂しているゴンドワナ大陸の各地に分布している古生代後半の氷河堆積物が、大陸移動の重要な証拠であると考えたのです。上記の画像は、パンゲア大陸の模式図になります。

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