今回は「推力」について解説していきます。

突然ですが、ロボットアニメで「最大推力で進行」と飛空艇の船長が言うと、その後にエンジンの火力が強まり、飛空艇が加速していく描写を見たことはないか。皆の推力のイメージは輸送機が進行することと思うが、それだけではないぞ。この記事では推力を理解する上での2つのポイントを解説した。推力について学び始める人にとっては興味深い内容になっている。是非この機に学んでみてくれ。

大学では機械工学を専攻とし、現在ではプラント関係の設計を行っているアヤコと一緒に解説していきます。

ライター/アヤコ

現役のプラントエンジニア。大学では熱流体分野の研究を行い、就職後もプラントエンジニアとして流体に関係する仕事を行っている。大学では機械工学のエンジン設計などを通し、推力について学んだ。楽しく理解できるよう解説していく。

推力とは

image by iStockphoto

庭でよく見られるスプリンクラー。スプリンクラーは水を噴射することにより反作用を受けて回転し、水を撒きます。これはニュートンの第三法則である「物体に力が作用している時、反対方向に同じ大きさの反作用が生じる」ことを応用した技術です。そして推力もまた同じ原理であり、輸送機を推進、加速させるための反作用のことを言います。それでは推力がどのように働くか、理解する上でのポイントを説明していきましょう。

推力のポイント1 反作用による力 (ジェットエンジンの例)

ジェット・エンジンの動作原理(詳細図).PNG
Jeff Dahl, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

ジェットエンジンは航空機のエンジンに使用されており、主にコンプレッサー燃焼室タービンから構成されています。エンジン内では、吸気した空気をコンプレッサーで圧縮し、圧力を高め、燃焼室にて燃料を噴射することで燃焼し空気を膨張させるのです。膨張した空気によりタービンが駆動し、排気口にかけて断面が縮小することにより加速し勢いよく噴射される仕組みになります。 
簡単にまとめるとジェットエンジンは空気を加速させ、高速で噴出することにより推力を得る原理です。推力の値はエンジンが吸い込む空気の量排気速度の積であるので、排気速度が高くなるほど推力は大きくなります。因みに、多くのジェットエンジンの推力は約1ton以上です。巨大ジェットエンジンでは最大離陸推力600tonもあります。

推力のポイント2 軸方向に作用する力

image by iStockphoto

推力は輸送機を推し進める力だけではありません。よく考えると推し進められる物は輸送機の他に、輸送機のもそうです。ただし軸が推力により輸送機の中で移動してしまっては機械が壊れてしまいます。そのため軸を支えるために、軸受け(ベアリング)が必要です。軸受けの種類はたくさんあるのですが、ここでは主に2つの軸受の技術を紹介しましょう。

ベアリングに作用する力(荷重という)として、軸方向の荷重をアキシャル荷重(アキシャル(axial)は英語で軸の意味)と言います。また半径方向の荷重をラジアル荷重(ラジアル(radial)が英語で半径方向という意味)です。

円筒ころ軸受け

Cylindrical-roller-bearing din5412-t1 type-n ex.png
Silberwolf - created by Silberwolf, CC 表示 2.5, リンクによる

多くの輸送機や流体機器などの軸受は、1分間に1000以上回転する軸を支えるため、摩擦が大きいと、軸または軸受けが擦り減ってしまい損傷してしまいます。そのため、低摩擦にすることが望まれるのです。低摩擦で稼働するため、エジプトのピラミッドの巨大な石を運ぶ時に使われていた技術が使われました。多くのころを石の下に置き石を滑らすことにより移動させる方法です。この方法が軸受けの起源になります。
円筒ころ軸受の特徴としては、スラスト荷重にはその構造上から弱い(荷重はころがすべりにくい方向に作用してしまうため)のですが、ラジアル荷重は転がる方向になるため許容量は大きいです。主に圧延機械のロールなどに適用されます。

玉軸受(ボールベアリングとも呼ぶ)

玉軸受(ボールベアリングとも呼ぶ)

image by Study-Z編集部

15世紀にレオナルド・ダ・ヴィンチは円筒ころ軸受けよりもさらに低摩擦の軸受けを考えました。それが玉軸受です。円筒ころ軸受は、ころが円筒のため軸ところが線で接触します。しかし、ころをボールに変えてみましょう。軸と玉はで接触することになり、ころよりも低摩擦になります。
玉軸受の一つであるアンギュラ玉軸受軸の一方向と半径方向の両方向に稼働でき、アキシャル荷重およびラジアル荷重に対応できる軸受です。上記に説明図を記載します。力がボールに作用した時にボールが移動しないように保持する保持器(レース)でボールを保持し、ボールの回転により力を受け流す仕組みです。内、ボール、外輪が一直線で接触していますが、接触する直線と半径方向とのなす角を接触角と呼び、アキシャル荷重が作用する方向に接触する線が傾く方向を合わせます。荷重のかかり方によって、2個並べるなど複数組み合わせて使用することが一般的です。

ジェットエンジンにおける軸受の適用例

ジェットエンジンにおける軸受の適用例

image by Study-Z編集部

ジェットエンジンの軸受は、重さ数百トンの機体、温度約-50度から200度以上であり、回転数はコンプレッサーが1分間に10,000回を超える環境下で推力を支えます。軸受の中でも最も過酷な環境下で使われる例がジェットエンジンといってもよいでしょう。高温度、高速回転に対応するため、円筒ころ軸受および玉軸受が使われているのです。

上記の図では、まずコンプレッサ中にある軸の一旦には玉軸受を設置する。玉軸受はラジアル荷重の他にアキシャル荷重にも強いことを説明した。ジェットエンジンに使用される玉軸受は三点接触玉軸受という、内輪部で2点接触にすることでアキシャル荷重の作用方向および反作用方向の両方向に耐えられる軸受を使用します。またタービン内で軸の最終端には円筒ころ使用されるのです。燃焼室により軸にも熱が加わりますが、その後排気部では温度が下がるため、軸が熱膨張により伸びます。そのため円筒ころは内輪が滑る方向に力が加わるのですが、ジェットエンジンに使われる円筒ころの側面は直線でなく楕円形でつくられ滑りを抑制する工夫がされているのです。

「推力」について学ぼう!

推力について2つのポイントを挙げました。多くの方はポイント1の噴射などの反作用力によって推力を得ることは知っていたかと思います。しかしポイント2で記載したように、機械の軸を支える軸受を見落としてはいけません。軸受の使用条件の厳しさからジェットエンジンを例として挙げましたが、ポンプなどの回転機器にも推力は発生します。今回は説明しなかったのですが、プラントでも推力が検討されるのです。推力が大きく、作用の仕方によっては振動が発生します。エンジニアにとって推力の検討は意識すべき事柄です。この記事を読み、推力について興味が湧いた方は是非その理論も学んでみてください。

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物理物理学・力学理科

5分で分かる「推力」どういう力のこと?ジェットエンジンを例にプラントエンジニアが分かりやすくわかりやすく解説

今回は「推力」について解説していきます。

突然ですが、ロボットアニメで「最大推力で進行」と飛空艇の船長が言うと、その後にエンジンの火力が強まり、飛空艇が加速していく描写を見たことはないか。皆の推力のイメージは輸送機が進行することと思うが、それだけではないぞ。この記事では推力を理解する上での2つのポイントを解説した。推力について学び始める人にとっては興味深い内容になっている。是非この機に学んでみてくれ。

大学では機械工学を専攻とし、現在ではプラント関係の設計を行っているアヤコと一緒に解説していきます。

ライター/アヤコ

現役のプラントエンジニア。大学では熱流体分野の研究を行い、就職後もプラントエンジニアとして流体に関係する仕事を行っている。大学では機械工学のエンジン設計などを通し、推力について学んだ。楽しく理解できるよう解説していく。

推力とは

image by iStockphoto

庭でよく見られるスプリンクラー。スプリンクラーは水を噴射することにより反作用を受けて回転し、水を撒きます。これはニュートンの第三法則である「物体に力が作用している時、反対方向に同じ大きさの反作用が生じる」ことを応用した技術です。そして推力もまた同じ原理であり、輸送機を推進、加速させるための反作用のことを言います。それでは推力がどのように働くか、理解する上でのポイントを説明していきましょう。

推力のポイント1 反作用による力 (ジェットエンジンの例)

ジェットエンジンは航空機のエンジンに使用されており、主にコンプレッサー燃焼室タービンから構成されています。エンジン内では、吸気した空気をコンプレッサーで圧縮し、圧力を高め、燃焼室にて燃料を噴射することで燃焼し空気を膨張させるのです。膨張した空気によりタービンが駆動し、排気口にかけて断面が縮小することにより加速し勢いよく噴射される仕組みになります。 
簡単にまとめるとジェットエンジンは空気を加速させ、高速で噴出することにより推力を得る原理です。推力の値はエンジンが吸い込む空気の量排気速度の積であるので、排気速度が高くなるほど推力は大きくなります。因みに、多くのジェットエンジンの推力は約1ton以上です。巨大ジェットエンジンでは最大離陸推力600tonもあります。

推力のポイント2 軸方向に作用する力

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推力は輸送機を推し進める力だけではありません。よく考えると推し進められる物は輸送機の他に、輸送機のもそうです。ただし軸が推力により輸送機の中で移動してしまっては機械が壊れてしまいます。そのため軸を支えるために、軸受け(ベアリング)が必要です。軸受けの種類はたくさんあるのですが、ここでは主に2つの軸受の技術を紹介しましょう。

ベアリングに作用する力(荷重という)として、軸方向の荷重をアキシャル荷重(アキシャル(axial)は英語で軸の意味)と言います。また半径方向の荷重をラジアル荷重(ラジアル(radial)が英語で半径方向という意味)です。

円筒ころ軸受け

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Silberwolf – created by Silberwolf, CC 表示 2.5, リンクによる

多くの輸送機や流体機器などの軸受は、1分間に1000以上回転する軸を支えるため、摩擦が大きいと、軸または軸受けが擦り減ってしまい損傷してしまいます。そのため、低摩擦にすることが望まれるのです。低摩擦で稼働するため、エジプトのピラミッドの巨大な石を運ぶ時に使われていた技術が使われました。多くのころを石の下に置き石を滑らすことにより移動させる方法です。この方法が軸受けの起源になります。
円筒ころ軸受の特徴としては、スラスト荷重にはその構造上から弱い(荷重はころがすべりにくい方向に作用してしまうため)のですが、ラジアル荷重は転がる方向になるため許容量は大きいです。主に圧延機械のロールなどに適用されます。

玉軸受(ボールベアリングとも呼ぶ)

玉軸受(ボールベアリングとも呼ぶ)

image by Study-Z編集部

15世紀にレオナルド・ダ・ヴィンチは円筒ころ軸受けよりもさらに低摩擦の軸受けを考えました。それが玉軸受です。円筒ころ軸受は、ころが円筒のため軸ところが線で接触します。しかし、ころをボールに変えてみましょう。軸と玉はで接触することになり、ころよりも低摩擦になります。
玉軸受の一つであるアンギュラ玉軸受軸の一方向と半径方向の両方向に稼働でき、アキシャル荷重およびラジアル荷重に対応できる軸受です。上記に説明図を記載します。力がボールに作用した時にボールが移動しないように保持する保持器(レース)でボールを保持し、ボールの回転により力を受け流す仕組みです。内、ボール、外輪が一直線で接触していますが、接触する直線と半径方向とのなす角を接触角と呼び、アキシャル荷重が作用する方向に接触する線が傾く方向を合わせます。荷重のかかり方によって、2個並べるなど複数組み合わせて使用することが一般的です。

ジェットエンジンにおける軸受の適用例

ジェットエンジンにおける軸受の適用例

image by Study-Z編集部

ジェットエンジンの軸受は、重さ数百トンの機体、温度約-50度から200度以上であり、回転数はコンプレッサーが1分間に10,000回を超える環境下で推力を支えます。軸受の中でも最も過酷な環境下で使われる例がジェットエンジンといってもよいでしょう。高温度、高速回転に対応するため、円筒ころ軸受および玉軸受が使われているのです。

上記の図では、まずコンプレッサ中にある軸の一旦には玉軸受を設置する。玉軸受はラジアル荷重の他にアキシャル荷重にも強いことを説明した。ジェットエンジンに使用される玉軸受は三点接触玉軸受という、内輪部で2点接触にすることでアキシャル荷重の作用方向および反作用方向の両方向に耐えられる軸受を使用します。またタービン内で軸の最終端には円筒ころ使用されるのです。燃焼室により軸にも熱が加わりますが、その後排気部では温度が下がるため、軸が熱膨張により伸びます。そのため円筒ころは内輪が滑る方向に力が加わるのですが、ジェットエンジンに使われる円筒ころの側面は直線でなく楕円形でつくられ滑りを抑制する工夫がされているのです。

「推力」について学ぼう!

推力について2つのポイントを挙げました。多くの方はポイント1の噴射などの反作用力によって推力を得ることは知っていたかと思います。しかしポイント2で記載したように、機械の軸を支える軸受を見落としてはいけません。軸受の使用条件の厳しさからジェットエンジンを例として挙げましたが、ポンプなどの回転機器にも推力は発生します。今回は説明しなかったのですが、プラントでも推力が検討されるのです。推力が大きく、作用の仕方によっては振動が発生します。エンジニアにとって推力の検討は意識すべき事柄です。この記事を読み、推力について興味が湧いた方は是非その理論も学んでみてください。

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