今回はエルニーニョ現象について解説していきます。

エルニーニョ現象は最近では常識的な用語なってきたようで、天気予報などでも触れられることが多い。エルニーニョ現象について学んでみよう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していくぞ

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

エルニーニョ現象

image by iStockphoto

現在では異常気象の代名詞のようになっているエルニーニョ現象ですが、意外と詳しいことは知らない人も多いようです。そもそもエルニーニョ現象自体も、まだ研究中の現象で完全に解明されているわけではないので仕方のないことかもしれません。それでもエルニーニョ現象が発見されてから半世紀は立ちますので、いくつかことは分かっています。今回はエルニーニョ現象について学んでみましょう。

エルニーニョ現象:その1

20世紀初頭に、インドモンスーンの研究を行っていたウォーカーは南太平洋に浮かぶ島嶼(とうしょ)における限られた気象データから、タヒチ島とオーストラリア北部のダーウィンの海面気圧差に数年周期の変動がることを見つけ、南方振動を名付けました。そして、1960年代にビャークネスは大気海洋相互作用によるフィードバックの考えをもとに、対流圏の南方振動と海洋のエルニーニョは大気海洋結合変動系のそれぞれ大気側と海洋側の側面であると指摘したのです。これ以降、熱帯太平洋全体の空間スケールを持つ大気と海洋とが一体となった年々変動をエルニーニョ/南方振動、またはそのアルファベット表記の頭文字を取りENSOと呼びようになりました。

エルニーニョ現象:その2

El-nino.png
NOAA. - National Centers for Environmental Prediction, US., パブリック・ドメイン, リンクによる

エルニーニョ現象とは、熱帯太平洋東部の赤道冷水舌付近における海面温度が異常に高い状態をさします1997~1998年は20世紀で最大規模のエルニーニョ現象が起きた年であり、この時の海面水温は赤道付近全体で28℃を超え、東西コントラストほ非常に弱かったのです。エルニーニョとはもともとスペイン語で「あの男の子」すなわち「神の子」の意味を持ち、季節的な水温上昇に対してペルーやエクアドルの漁業者の間委で使われていました。上記の画像は、1997年12月の海面温度です。

エルニーニョ現象:その3

熱帯太平洋東部では、毎年12月頃、貿易風が弱くなり、下からの冷水の湧昇が抑えられるため、海面水温は高くなりますリンや窒素といった生物に必須の栄養塩は海洋深層で豊富なため、湧昇が抑えられると栄養塩の供給は減少するのです。同時に、植物プランクトンの成長や動物プランクトン発生も減少することから食物連鎖の結果として魚類も減少し、休漁となります。時期的に「神の子」がくれた休暇となるわけで、エルニーニョという言葉が水温上昇と結びついていた、とも言われているようです。

エルニーニョ現象:その4

Enso jma.png
Japan Meteorological Agency - http://en.wikipedia.org/wiki/Image:Enso_jma.png, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

このように、もともとは季節変化の一部としての赤道太平洋東岸域の水温上昇をさしていたエルニーニョですが、その後、年々変動における赤道太平洋東部での異常に高い水温について持ちいられるようになりました。一方、年々変動における異常な低水温をスペイン語で「あの男の子」の反対語である「あの女の子」にあたるラニーニャと呼びます。上記の画像は気象庁の観測と推測による、1868年以降の当該地域での海水温の変化の画像です。赤がエルニーニョで青がラニーニャになります。

\次のページで「エルニーニョの機構」を解説!/

エルニーニョの機構

エルニーニョ現象自体の機構についてはかなりわかってきていますが、その原因についてはまだ研究中です。エルニーニョの機構と原因についてのいくつかの仮説について紹介しましょう。

エルニーニョの機構:その1

Thermocline.png
パブリック・ドメイン, リンク

エルニーニョは熱帯太平洋の貿易風が弱くなったときに、それまで太平洋西岸に蓄積されていた暖水が貿易風による支えを失い、東方へ広がることによって生じます。このため、通常年では東ほど浅かった水温躍層深度の東西コントラストはエルニーニョ時には小さくなるのです。熱帯太平洋の東半分は、水温躍層の深まりと貿易風の弱化の双方が効いて、通常みられる赤道上での水温極小域が消滅し、熱帯太平洋全体にわたって海面水温は赤道で極大となります。ちなみに、水温躍層とは海洋や湖沼の内部で、深さに対して水温が急激に変化する水面近くの層の事です。上記の画像は、太平洋日本東方での水温躍層の様子になります。夏が赤線、冬が青線です。

エルニーニョの機構:その2

エルニーニョ時においては、熱帯太平洋でのほぼ一様な水温分布に対応して、降水帯はより東へ広がっています。同時に、通常時には西岸にある低圧帯も日付変更線より東に移動するため、海面気圧の東西コントラストも小さくなるのです。結果として、赤道付近の貿易風は全体として弱まります。これらのエルニーニョ時における対流圏の変化は、熱帯太平洋上のウォーカー循環が弱まっていることを示しているのです。

エルニーニョの機構:その3

エルニーニョとラニーニャはおよそ3~7年程度の周期で変動していることがわかっています。しかし、その周期性をもたらす機構についてはいくつかの有力な仮説があるものの、まだ完全に明らかにされていませんある仮説は、海洋内部の波動に着目しています。その仮説では、エルニーニョによる通常よりも弱い東風が東太平洋の赤道から数度離れた緯度に、海洋中を西に進む波を励起すると考えるようです。この波が太平洋の西岸に到着すると、そこで反射して赤道を東に進む波となり、その波が東太平洋に到着すると、エルニーニョを終息させラニーニャを引き起こすとします。

エルニーニョの機構:その4

別の仮説では、赤道と赤道から少し離れた緯度の海域との間で水塊が移動し、水温躍層よりも上にある暖水が緯度方向に移動することに着目しています。エルニーニョでは赤道太平洋東部の水温躍層が通常よりも深くなり、それにともなって東風が弱まるのです。するとスヴェルドラップ輸送によって赤道から暖水がゆっくりと極方向に移動します。この暖水移動がやがて赤道全体の、そして赤道太平洋東部の水温躍層を浅くし、そこの海面を低下させることでエルニーニョからラニーニャに移行させるとするのです。これらの仮説でも、またほかの仮説でも、赤道太平洋における水温躍層を効果的に変動させる力学過程が重要であることは共通しています

\次のページで「エルニーニョの機構:その5」を解説!/

エルニーニョの機構:その5

Weather Buoy MDS.jpg
MDS - www.marinedataservice.com, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

エルニーニョとラニーニャの変動機構に水温躍層の変動が重要であるということは、その監視と予測に、海洋の中を観測することが不可欠であることを意味しています。1980年以降、熱帯太平洋の海上気象と海洋表層を監視するTAO/TRITONアレイと呼ばれる海上ブイネットワークが整備されており、現在では、インターネット上から大気・海洋の実況をほぼリアルタイムで監視できるようになっているそうです。このネットワークでは、東部から中央部を米国のTAOブイが、西部を日本のTORITONブイがカバーしています。上記の画像は、ある海洋気象ブイの画像です。

地球のダイナミクス

地球のダイナミクス

image by Study-Z編集部

熱帯太平洋東部での海水温の上昇がそれほど重要な理由は、この変化のせいで地球の多くの地域で異常気象が発生するからです。地球の気象システムが複雑に絡み合っていることを痛感させてくれる現象といえるでしょう。エルニーニョによって日本にももちろん影響がおよびますが、エルニーニョとはいえ日本の気象に影響を与える一要素にすぎないので、具体的に日本への影響を予測することは非常に難しいことなのです。

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地学大気・海洋理科

3分で簡単「エルニーニョ現象」南米ペルー沖での現象を理系ライターがわかりやすく解説

今回はエルニーニョ現象について解説していきます。

エルニーニョ現象は最近では常識的な用語なってきたようで、天気予報などでも触れられることが多い。エルニーニョ現象について学んでみよう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していくぞ

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

エルニーニョ現象

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現在では異常気象の代名詞のようになっているエルニーニョ現象ですが、意外と詳しいことは知らない人も多いようです。そもそもエルニーニョ現象自体も、まだ研究中の現象で完全に解明されているわけではないので仕方のないことかもしれません。それでもエルニーニョ現象が発見されてから半世紀は立ちますので、いくつかことは分かっています。今回はエルニーニョ現象について学んでみましょう。

エルニーニョ現象:その1

20世紀初頭に、インドモンスーンの研究を行っていたウォーカーは南太平洋に浮かぶ島嶼(とうしょ)における限られた気象データから、タヒチ島とオーストラリア北部のダーウィンの海面気圧差に数年周期の変動がることを見つけ、南方振動を名付けました。そして、1960年代にビャークネスは大気海洋相互作用によるフィードバックの考えをもとに、対流圏の南方振動と海洋のエルニーニョは大気海洋結合変動系のそれぞれ大気側と海洋側の側面であると指摘したのです。これ以降、熱帯太平洋全体の空間スケールを持つ大気と海洋とが一体となった年々変動をエルニーニョ/南方振動、またはそのアルファベット表記の頭文字を取りENSOと呼びようになりました。

エルニーニョ現象:その2

El-nino.png
NOAA. – National Centers for Environmental Prediction, US., パブリック・ドメイン, リンクによる

エルニーニョ現象とは、熱帯太平洋東部の赤道冷水舌付近における海面温度が異常に高い状態をさします1997~1998年は20世紀で最大規模のエルニーニョ現象が起きた年であり、この時の海面水温は赤道付近全体で28℃を超え、東西コントラストほ非常に弱かったのです。エルニーニョとはもともとスペイン語で「あの男の子」すなわち「神の子」の意味を持ち、季節的な水温上昇に対してペルーやエクアドルの漁業者の間委で使われていました。上記の画像は、1997年12月の海面温度です。

エルニーニョ現象:その3

熱帯太平洋東部では、毎年12月頃、貿易風が弱くなり、下からの冷水の湧昇が抑えられるため、海面水温は高くなりますリンや窒素といった生物に必須の栄養塩は海洋深層で豊富なため、湧昇が抑えられると栄養塩の供給は減少するのです。同時に、植物プランクトンの成長や動物プランクトン発生も減少することから食物連鎖の結果として魚類も減少し、休漁となります。時期的に「神の子」がくれた休暇となるわけで、エルニーニョという言葉が水温上昇と結びついていた、とも言われているようです。

エルニーニョ現象:その4

このように、もともとは季節変化の一部としての赤道太平洋東岸域の水温上昇をさしていたエルニーニョですが、その後、年々変動における赤道太平洋東部での異常に高い水温について持ちいられるようになりました。一方、年々変動における異常な低水温をスペイン語で「あの男の子」の反対語である「あの女の子」にあたるラニーニャと呼びます。上記の画像は気象庁の観測と推測による、1868年以降の当該地域での海水温の変化の画像です。赤がエルニーニョで青がラニーニャになります。

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