機械製品の主な故障の原因は知っているか。機械の故障や寿命の原因の多くは、摺動の摩擦や摩耗なんです。

なぜなら、一番稼働する場所だからだ!車の車軸で考えると1分間で何千回も回転しているだろ。それだけ、摩擦や摩耗をしているということです。

つまり、摩擦や摩耗が制御できれば機械の寿命を大幅に伸ばすことも可能になる。そこで今回は摩耗の形態の一つであるアブレシブ摩耗をトライボロジーの観点を踏まえながら、理系大学院卒ライターこーじと一緒に解説していきます。

ライター/こーじ

元理系大学院卒。小さい頃から機械いじりが好きで、機械系を仕事にしたいと大学で工学部を専攻した。卒業後はメーカーで研究開発職に従事。物理が苦手な人に、答案の答えではわからないおもしろさを伝える。

トライボロジーとは?3つの要素とは?

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トライボロジーとは、潤滑、摩擦、摩耗、焼付き、軸受設計といった「相対運動しながら互いに影響を及ぼしあう二つの表面の間におこるすべての現象を対象とする科学と技術」になります。

この言葉は、1965年にイギリスのピータージョストにより報告された『ジョスト報告書』で初めて使われた造語です。また、トライボロジーの技術者・研究者をトライボロジストといいます。彼らは、摩擦・摩耗・潤滑のスペシャリストです。

トライボロジーの適用範囲は多岐にわたります。工業的な例を挙げると、自転車のチェーンに油をさすこと、タイヤのスタッドレス、車のフロントガラスの撥水加工です。身近なものでは、しゃもじの凹凸や、私たちの指紋があげられます。

トライボロジーの基礎となる三つの要素は、摩擦・摩耗・潤滑です。では次に、これらについて解説していきます。

摩擦

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摩擦とは、互いに接触する2固体の表面が相互運動を行う時の抵抗です。その時に生じる抵抗力を「摩擦力」と呼びます。摩擦力は、動かそうとした方向と逆向きです。

摩擦力は、物体の垂直抗力(荷重)に摩擦係数を乗じた値になります。止まっている物体が動き始める際の摩擦係数は静止摩擦係数、動きているときに生じる摩擦係数は動摩擦係数です。
一般的に静止摩擦係数>動摩擦係数の関係になります。

摩擦力の強さ一般式は、アモントン=クーロンの法則で表す。また、滑り速度にも依存しません。摩擦力は、荷重の影響しか受けないことを表しています。

image by Study-Z編集部

潤滑

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潤滑は大きく分けて固体潤滑と、流体潤滑の2種類あります。

固体潤滑の1例は、グリスや材料表面へのコーティングです。例えば、ミニ四駆の軸にグリスを塗ったりダイヤモンドライクカーボン(DLC)などの硬質薄膜があげられます。
流体潤滑の1例は、潤滑油や空気です。例えば、しゃもじにつける水、エアホッケーでディスクを浮かばせている空気があげられます。これら潤滑の役目は摺動面の摩擦係数を下げることです。これにより金属やセラミックス材料の表面が傷つくことを防いだり、自転車のチェーンのように油膜を形成させ滑りやすくしています。

摩耗

Kædetandhjul.jpg
Arc1977 - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

摩耗とは、摩擦によって摺動面が削れることです。一般的に、材質が固いものと柔らかいものを摩擦させた場合、柔らかいもののほうがよく摩耗します。このことを利用し、新幹線はメンテナンス性を考え車輪のほうが柔らかくレールのほうが固い材質です。

また、消しゴムを使い削れることや靴の底がすり減ることも摩耗になります。このように実は摩耗も身近な現象なのです。

\次のページで「摩耗のメカニズム」を解説!/

摩耗のメカニズム

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摩耗と一言で言ってもその摩耗形態は様々です。
ここでは、代表的な摩耗形態である凝着摩耗とアブレシブ摩耗を説明します。
凝着摩耗は、摩擦により摺動面で凝着した金属などが破断分離すること生じる摩耗形態です。特に、真空中では凝着摩耗が生じやすい傾向があります。そのため、宇宙機器では摺動面の摩擦管理は必須事項です。
アブレシブ摩耗は、摺動面に硬い粒子が存在する場合や硬い面の突起で固体面を削る場合の摩耗をいいます。その他の摩耗形態は、車の走行によりアスファルトにひびが入る疲労摩耗や化学的腐食も伴いながら摩耗する腐食摩耗です。
実際の環境では、これら複数の摩耗形態が複雑に重畳しながら摩耗が発生しています。

アブレシブ摩耗の種類

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アブレシブ摩耗は、二種類あります。一つ目は、摩擦面の一方が、もう一方の面を削る2元アブレシブ摩耗。二つ目は、摩擦面の間に固い粒子が存在することで起こる3元アブレシブ摩耗です。

では、この二種類のアブレシブ摩耗について解説していきます。

2元アブレシブ摩耗

2元アブレシブ摩耗

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2元アブレシブ摩耗は、図に示すように摩擦対の固い材料がもう一方の柔らかい材料に食い込み、削る摩耗形態です。固い材料の表面粗さが粗く固い突起があるほど、柔らかい面が大きく削られます。例えば、小学生のころの図工の時間でやすりで削ったことはありませんか。やすりは、表面についてる細かい突起で相手材を削ります。

その他にも旋盤やフライス盤での加工などの切削加工は、2元アブレシブ摩耗です。旋盤やフライス盤は、バイトにハイス鋼や超固合金などとても固い金属を使用し、相手材を切削しています。このように2元アブレシブ摩耗とは固い材料で柔らかい材料を削る摩耗形態です。

3元アブレシブ摩耗

3元アブレシブ摩耗は、図に示すように摩擦対の柔らかい材料に硬質粒子が食い込みもう一方の固い面を削る摩耗形態です。2元アブレシブ摩耗と異なるのは、固い材料が削れるという点になります。一般的に、柔らかい材料が削れるはずなのに固い材料に傷がついている場合は、3元アブレシブ摩耗であることが多いです。

硬質粒子は、意図せず混入される場合と意図して混入すること場合があります。前者は、削りカスや、車のエンジンピストン内に発生するスス等です。機械加工時には、潤滑剤を流し続け摺動面を洗浄しています。これにより、削りカスによるひっかき傷を最低限にできるからです。後者は、研削材として液体に混ぜたダイヤモンドペーストなどがあげられます。

工業での例は、研磨粒子を使用するラップ加工やバフ加工です。レンズの研磨もこれに当たります。身近な例では、クレンザーです。クレンザーは、研磨剤がありスポンジに砥粒が食い込んでいます。その砥粒でゴシゴシ洗うことで汚れを削り落としているのです。だから、クレンザーは傷ついてもいいものにしか使えません。

このように3元アブレシブ摩耗とは硬質粒子が軟質材料に食い込むことで固い材料を削る摩耗形態です。

\次のページで「摩耗とは、身近起きている現象である」を解説!/

摩耗とは、身近起きている現象である

今回は、トライボロジーの基礎を踏まえながらアブレシブ摩耗の説明をいたしました。摩耗形態やその因果関係は、一つではありません。
理論的にわかる場合もあれば、観察しなければわからない場合もあります。今回、得られた知識を基に自らに知識としてアウトプットしていってくださいね。

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物理物理学・力学理科

3分で簡単「アブレシブ摩耗」!トライボロジーの基礎から理系大学院卒ライターがわかりやすく解説

機械製品の主な故障の原因は知っているか。機械の故障や寿命の原因の多くは、摺動の摩擦や摩耗なんです。

なぜなら、一番稼働する場所だからだ!車の車軸で考えると1分間で何千回も回転しているだろ。それだけ、摩擦や摩耗をしているということです。

つまり、摩擦や摩耗が制御できれば機械の寿命を大幅に伸ばすことも可能になる。そこで今回は摩耗の形態の一つであるアブレシブ摩耗をトライボロジーの観点を踏まえながら、理系大学院卒ライターこーじと一緒に解説していきます。

ライター/こーじ

元理系大学院卒。小さい頃から機械いじりが好きで、機械系を仕事にしたいと大学で工学部を専攻した。卒業後はメーカーで研究開発職に従事。物理が苦手な人に、答案の答えではわからないおもしろさを伝える。

トライボロジーとは?3つの要素とは?

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トライボロジーとは、潤滑、摩擦、摩耗、焼付き、軸受設計といった「相対運動しながら互いに影響を及ぼしあう二つの表面の間におこるすべての現象を対象とする科学と技術」になります。

この言葉は、1965年にイギリスのピータージョストにより報告された『ジョスト報告書』で初めて使われた造語です。また、トライボロジーの技術者・研究者をトライボロジストといいます。彼らは、摩擦・摩耗・潤滑のスペシャリストです。

トライボロジーの適用範囲は多岐にわたります。工業的な例を挙げると、自転車のチェーンに油をさすこと、タイヤのスタッドレス、車のフロントガラスの撥水加工です。身近なものでは、しゃもじの凹凸や、私たちの指紋があげられます。

トライボロジーの基礎となる三つの要素は、摩擦・摩耗・潤滑です。では次に、これらについて解説していきます。

摩擦

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摩擦とは、互いに接触する2固体の表面が相互運動を行う時の抵抗です。その時に生じる抵抗力を「摩擦力」と呼びます。摩擦力は、動かそうとした方向と逆向きです。

摩擦力は、物体の垂直抗力(荷重)に摩擦係数を乗じた値になります。止まっている物体が動き始める際の摩擦係数は静止摩擦係数、動きているときに生じる摩擦係数は動摩擦係数です。
一般的に静止摩擦係数>動摩擦係数の関係になります。

摩擦力の強さ一般式は、アモントン=クーロンの法則で表す。また、滑り速度にも依存しません。摩擦力は、荷重の影響しか受けないことを表しています。

image by Study-Z編集部

潤滑

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潤滑は大きく分けて固体潤滑と、流体潤滑の2種類あります。

固体潤滑の1例は、グリスや材料表面へのコーティングです。例えば、ミニ四駆の軸にグリスを塗ったりダイヤモンドライクカーボン(DLC)などの硬質薄膜があげられます。
流体潤滑の1例は、潤滑油や空気です。例えば、しゃもじにつける水、エアホッケーでディスクを浮かばせている空気があげられます。これら潤滑の役目は摺動面の摩擦係数を下げることです。これにより金属やセラミックス材料の表面が傷つくことを防いだり、自転車のチェーンのように油膜を形成させ滑りやすくしています。

摩耗

Kædetandhjul.jpg
Arc1977投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

摩耗とは、摩擦によって摺動面が削れることです。一般的に、材質が固いものと柔らかいものを摩擦させた場合、柔らかいもののほうがよく摩耗します。このことを利用し、新幹線はメンテナンス性を考え車輪のほうが柔らかくレールのほうが固い材質です。

また、消しゴムを使い削れることや靴の底がすり減ることも摩耗になります。このように実は摩耗も身近な現象なのです。

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