今回のテーマは熱力学第三法則でありますがこれを解説するにあたり、熱力学第二法則、そしてエントロピーの解説も必須です。この記事ではそれらの解説もした後で第三法則を解説し、熱力学の基礎をおさらいすることを目的とする。特にエントロピーの概念への理解を深めることで熱力学のモヤモヤを取り除こう。理系ライターのR175と解説していきます。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許持ち。ほぼ全てのジャンルで専門知識がない代わりに初心者に分かりやすい解説を強みとする。

1.熱力学の法則

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熱量学は熱力学第一法則、第二法則、第三法則まであり、この記事のテーマは第三法則

内容は、絶対零度の時のエントロピーを0にするというもの。絶対零度はさておき、エントロピーとは一体何か?というところが引っかかりますね。そして何故このような基準が必要なのでしょうか。この記事ではまず、熱力学第三法則に関係の深い熱力学第二法則およびエントロピーについてそれぞれおさらいしていきましょう。

2.エントロピー

熱力学第三法則とエントロピーは切っても切り離せません。そんなエントロピーについて定めた熱力学第二法則の「エントロピー増大の法則」について見ておきましょう。

エントロピー増大の法則

エントロピーとは系の乱雑さのことで、何か変化が起きる時、この乱雑さが増大する方向にしか変化しないというものです。では、そもそもエントロピーという用語は何を意味するのでしょうか?

エントロピーの定義

エントロピーの定義

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エントロピーの定義式は上の通りになります。

(同じ系内の)周囲から入ってくるもしくは出て行く熱量を絶対温度で割ったもの。温度が高い割に熱の出入りが少なければエントロピーが低い、温度が低い割に熱の出入りが多いとエントロピーは高いということです。物質が何かしらの変化しようとする動きの度合いだとイメージしましょう。

\次のページで「絶対零度の時のエントロピー」を解説!/

絶対零度の時のエントロピー

いきなり本題ですが、このQ/Tの式にてT=0ならどうなるのか?という疑問が湧いてきますね。そこで絶対零度(T=0)の時のエントロピーをどう考えるのかという基準が必要で、これを0としたわけです。式だけ見ると、Q=0なら絶対零度でなくてもエントロピーは0になるのではないか?となりますが、そうはなりません。絶対零度でない=気体が分子運動しているわけで、周囲とは必ず衝突、つまり熱のやり取りが発生するためQ=0はあり得ません。

絶対零度の時は分子運動が一切止まっているため周囲に熱を伝達することはありません。よって変化しようとする動きは見られず、考え得る限り最もエントロピーが低い状態です。さて、このQ/Tという式はどこから出てきたのでしょうか。

断熱変化ならQ=0では?

絶対零度ではない場合はQ=0はあり得ない。けれど断熱変化ならQ=0があり得てしまうではないか?そんな疑問がわいてくるところです。ではこれについてはどう考えたら良いのでしょうか?

断熱変化でQ=0となるのは、他の系との熱のやり取りであって、同じ系内に居る分子同士での熱のやり取りは発生します。どことどこを断熱しているかの問題ですね。実際にはあり得ませんが仮に分子1粒1粒間全て断熱されていれば確かにQ=0が成立し、エントロピーは0。これは絶対零度と同じ状態と言えるでしょう。

なぜQ/Tを指標に?

エントロピーと言えばこの式ですね。ではなぜこの形になったのでしょうか?その背景の一つがカルノーサイクルの熱効率。熱効率を絶対温度Tや熱量Qで表しているとQ/Tという表示が便利のいい指標になることが分かりますよ。ちなみに以下の説明は、気体(ガス)を対象に行います。

3.カルノーサイクル

3.カルノーサイクル

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カルノーサイクルは等温変化と断熱変化を繰り返し、外からもらった熱量Q1を等温膨張、断熱膨張により仕事に変えた後、等温圧縮、断熱圧縮で元に戻るというサイクル。効率が良いと言われているポイントは「上手いこと元に戻せている」点。確かに外に仕事をするプロセスは膨張の部分ですが、永遠に膨張し続けるわけにはいかず一旦圧縮する必要があります。

圧縮のプロセスでは熱を捨てることになるため、熱効率を上げるためには上手に圧縮する必要があるのです。膨張プロセスではプロセス1と2を体積V1からV2までの積分した分だけ仕事をし、圧縮プロセスではプロセス3と4にて体積V3からV2までの積分した分だけ熱を捨て、その差である緑色斜線部分がサイクル1周当たりに外に与える熱量。カルノーサイクルではこれらの事情を踏まえられています。

この時熱効率は

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と表されますね。実はこの式はT1、T2のみを使って

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と表すこともできます。これは以下のようにカルノーサイクルの各プロセスでの関係式から導かれるものです。

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プロセス1:等温膨張での関係式

プロセス1:等温膨張での関係式

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プロセス2:断熱膨張での関係式

プロセス2:断熱膨張での関係式

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プロセス3:等温圧縮での関係式

プロセス3:等温圧縮での関係式

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プロセス4:断熱圧縮での関係式

プロセス4:断熱圧縮での関係式

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カルノーサイクルの熱効率

カルノーサイクルの熱効率

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から、カルノーサイクルでは低温側、高音側ともに熱量と温度の比率Q/Tが同じであることが分かりますね。カルノーサイクルは理想的な状態であり、実際は捨てる熱量Q2がもう少し大きくなるため、エントロピーは増大します。

トムソンの法則orケルビンの法則

上記のように、カルノーサイクルの熱効率から導き出せる法則があるので触れておきましょう。熱力学第二法則の1つ「トムソンの法則(またはケルビンの法則)です。外部からの熱を100%仕事に変換することは不可能であることを述べたもの。

これは上述のカルノーサイクルの熱効率の式から導き出せますね。「外部の仕事を100%仕事に変換する」ということは熱効率が100%ということです。しかしこれを成立させるためには低温側は絶対零度でなければいけません。しかし絶対零度は現代の最新技術を以っても実現できないため、熱効率100%は不可能と言えるでしょう。

絶対零度への挑戦

そもそも、物体を冷却するためにはそれよりも温度が低い物体が必要になります。絶対零度まで冷却しようとしても、それより温度が低い物体が存在し得ない以上、冷媒を使って何かを絶対零度まで冷やすのは不可能です。

しかし、地球上では1/10億Kという限りなく絶対零度に近い温度が実現されています。宇宙で最も冷たい場所が-270±1℃程度、絶対零度より2~4℃ほど高い温度なので、上記の地球で作りだされる低温の記録はまさかの「宇宙記録」でもあるわけです。

では一体どのような技術でそこまでの低温にまで冷却するのか?使われているのは「レーザー」の技術。原理は簡単で、冷やしたい物質の原子にレーザー(光線)をぶつけて、原子の速度を落とさせて運動エネルギーを奪う手法。原子の動きを妨害し止めているだけです。温度は原子の運動エネルギーで定義されますから、レーザーを当ててどんどん運動エネルギーを奪っていけば結果的に冷却されるわけです。しかし、原子の運動を完全に止めるには至っていないため絶対零度には到達していません。

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4.熱力学第三法則~エントロピーと結晶構造

熱力学第三法則は絶対零度の時のエントロピーを0とするというもの。上述のエントロピーの基準について定めた法則です。第3項までは熱力学の視点でエントロピーを見ていましたが、ここでは結晶構造に視点を向けます。絶対零度の時にエントロピー0とする考え方について、結晶構造の面から見ていきましょう。

エントロピーと結晶構造パターン

エントロピーの捉え方として、結晶構造の並び方パターン数というものもあります。原子の配置はある程度は決まっていますが、その範囲内で微妙に揺れ動いているもの。例えば、原子Aが存在し得る座標が10個あり、原子Bも10個あるなら、分子ABの構造パターンは100通りあることになります。結晶構造のパターンが多ければ多いほどそれだけエントロピーが高いとする考え。エントロピーはボルツマンの式で表されます。

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この考え方に従うと、結晶構造の取り方が1通りとなればエントロピーが0。絶対零度の時、原子の動きは一切ないため、結晶構造のパターンは1通りとなり、エントロピーが0というわけです。

熱力学第三法則とエントロピーの解釈

エントロピーは「変化のしやすさ」の指標。原子の配置のパターン数が多いほど、エントロピーが高い状態。の時絶対零度は原子の配置が1パターンしかなく、エントロピー0と定義されています。これが熱力学第三法則です。

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熱力学物理理科

5分で分かる「熱力学第三法則」エントロピーやカルノーサイクルを用いて理系ライターがわかりやすく解説!

今回のテーマは熱力学第三法則でありますがこれを解説するにあたり、熱力学第二法則、そしてエントロピーの解説も必須です。この記事ではそれらの解説もした後で第三法則を解説し、熱力学の基礎をおさらいすることを目的とする。特にエントロピーの概念への理解を深めることで熱力学のモヤモヤを取り除こう。理系ライターのR175と解説していきます。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許持ち。ほぼ全てのジャンルで専門知識がない代わりに初心者に分かりやすい解説を強みとする。

1.熱力学の法則

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熱量学は熱力学第一法則、第二法則、第三法則まであり、この記事のテーマは第三法則

内容は、絶対零度の時のエントロピーを0にするというもの。絶対零度はさておき、エントロピーとは一体何か?というところが引っかかりますね。そして何故このような基準が必要なのでしょうか。この記事ではまず、熱力学第三法則に関係の深い熱力学第二法則およびエントロピーについてそれぞれおさらいしていきましょう。

2.エントロピー

熱力学第三法則とエントロピーは切っても切り離せません。そんなエントロピーについて定めた熱力学第二法則の「エントロピー増大の法則」について見ておきましょう。

エントロピー増大の法則

エントロピーとは系の乱雑さのことで、何か変化が起きる時、この乱雑さが増大する方向にしか変化しないというものです。では、そもそもエントロピーという用語は何を意味するのでしょうか?

エントロピーの定義

エントロピーの定義

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エントロピーの定義式は上の通りになります。

(同じ系内の)周囲から入ってくるもしくは出て行く熱量を絶対温度で割ったもの。温度が高い割に熱の出入りが少なければエントロピーが低い、温度が低い割に熱の出入りが多いとエントロピーは高いということです。物質が何かしらの変化しようとする動きの度合いだとイメージしましょう。

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