なぜ氷は0℃ちょうどで溶け始めるのでしょうか。
なぜ100℃になった途端蒸発し気体になるのか。答えは「温度を上げるほど水分子の運動が激しくなり、0℃(or100℃)になった途端に固体(or液体)の形を保てなくなる」からです。
実は上記の概念をエンタルピーやエントロピーなどといった熱力学視点でまとめたのがギブスの自由エネルギーなんです。
今回は理系ライターのR175とみていこう。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許も持つ。ほぼ全てのジャンルで専門知識がない代わりに初心者に分かりやすい解説を強みとする。

1.自由エネルギーとは

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今回のテーマは「ギブスの自由エネルギー」

自由エネルギーとは、今の状態を維持しようとするエネルギー変化させようとするエネルギーの差のイメージです。自由エネルギーにはギブスの自由エネルギーとヘルムホルツの自由エネルギーがありますが、両者ともほぼ同じ概念と考えましょう。圧力一定として系全体を対象とするのギブスの自由エネルギー、一定空間のみを対象とするのがヘルムホルツの自由エネルギーが適用されます。記事前半では全体に着目する「ギブスの自由エネルギー」を扱い、後半でヘルムホルツ自由エネルギーとの違いをみていきましょう。

変化や反応が起きるかどうかは自由エネルギーの符号(正負)で決まります。状態変化や化学変化が起きてしまう理由は、今の状態を保とうとするエネルギーより変化させようとするエネルギーの方が大きいから。つまり、ギブスの自由エネルギーが負の値だと変化させようとするエネルギーの方が大きいわけですから変化が進みます。逆に正の値だと、維持しようとするエネルギーの方が大きいことになりますから変化は進みません。必ずギブスの自由エネルギーが負の値になる方向に変化が進みます。

氷が0℃以上で水に溶けるのも、固体である氷の形を保とうとするエネルギーよりばらけて液体になろうとするエネルギーの方が大きいためです。

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2.ギブスの自由エネルギーの定義

2.ギブスの自由エネルギーの定義

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ギブスの自由エネルギー変化量の定義式は上の通り。エンタルピーから絶対温度とエントロピー変化の積を引いた値となります。

なぜ、これらの指標で表すのか?各パラメータの意味を確認していきましょう。

3.エンタルピーとは

3.エンタルピーとは

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エンタルピーは熱含量とも呼ばれ、気体が持つ「トータルの熱量というイメージ。内部エネルギーとPV(圧力×体積)の和です。

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単位はJ(ジュール)であり、熱量と同じです。この式は熱力学第一法則によく似ていますね。両辺を(全)微分すれば右辺の第一項はΔUとなり熱力学第一法則に近い形に。仮に圧力一定であれば右辺=内部エネルギー変化+PΔVとなり、これは気体に与えた熱量dQそのもの。定圧変化に限っては熱量と同じ形となります。

 

\次のページで「3-1 内部エネルギーとは」を解説!/

3-1 内部エネルギーとは

内部エネルギーとは、気体分子が持つ力学的エネルギーのこと。具体的には運動エネルギーと位置エネルギーの総和です。

運動エネルギーが大きいほど温度が高いので、内部エネルギーが大きい=温度が高いとイメージしましょう。ちなみに、位置エネルギーは分子間力によるもの。分子間に相互作用があれば位置によっての大きさが異なってくるのです。理想気体では分子間力を無視するため、内部エネルギーがそのまま運動エネルギーとなり、内部エネルギーは温度に比例します。

3-2 PV値(圧力×体積)

3-2 PV値(圧力×体積)

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気体がその場にある限り、ある圧力で周囲に力をかけて押しのけていて、その状態で膨張すれば周囲に仕事を加えたことになります。例えば圧力P、表面積S、体積Vの気体が圧力Pを保ったまま体積がΔVだけ増えて膨張したとしましょう。気体から周囲に働く力はPS気体の形を球形だとすると、Δrだけ押すので仕事はPSΔrここでSΔrはΔVに相当するので、気体が周囲にする仕事はPΔVとなります。仮に、気体が球形ではないとしても、表面積×押した距離は体積変化ΔVを表すので、気体膨張で周囲にする仕事はPΔVです。

4.エントロピー

エントロピーの定義は以下の式となります。

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4-1 なぜQ/Tの形?

与えられた熱量を絶対温度で割ったものがエントロピーです。ということは絶対温度×エントロピーは実は与えられた熱量ということになります。ところで、なぜエントロピーのような形の式が出てきたのでしょうか?

4-2 カルノーサイクルにおける熱効率

4-2 カルノーサイクルにおける熱効率

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カルノーサイクルにおける熱効率化させようとする度合い(不可逆性)の指標にエントロピーのQ/Tの形が出てくるのはカルノーサイクルが関係しています。カルノーサイクルとは断熱変化と等温変化を繰り返すサイクルで、低温側の温度と高温側の温度が一定という条件の場合において最も熱効率が良いサイクルです。この、カルノーサイクルにおける熱効率は、

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実はこの熱効率は絶対温度のみで表すことも出来ます。カルノーサイクルの各プロセスでの関係式からそれを導き出していきましょう。

5.カルノーサイクルの各プロセス

プロセス1:等温膨張

この過程では外界から熱量Q1をもらい膨張。熱量Q1は

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と表されます。

プロセス2:断熱変化

断熱変化では絶対温度と体積の関係が以下のようになることが知られています。ここから体積V2、V3に関して以下のような表し方が出来ますね。

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プロセス3:等温変化

この過程では熱量Q2を放出して圧縮。熱量Q2は

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と表されます。

プロセス4:断熱変化

断熱変化では絶対温度と体積の関係が以下のようになることが知られています。ここから体積V4、V1に関して以下のような表し方が出来ますね。

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熱効率が絶対温度のみで表せる

以上の関係式からを熱量Q1、Q2を使って表した熱効率の式に代入すると、

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となり、絶対温度T1、T2のみで表せることが分かりますね。

カルノーサイクルにおいてはQ1,Q2,T1,T2がどんな値を取ろうともその比率は同じであることが分かります。カルノーサイクルは理想的な状態ですが、実際は与えた熱量に対して仕事量はカルノーサイクルで想定している仕事量Q1-Q2よりも小さくなるもの。低熱源に捨てる熱量がQ2より大きいQ2'となり、熱量と絶対温度の比率はQ1/T1からQ2'/T2に大きくなります。

仕事量がカルノーサイクルで想定しているQ1-Q2よりも大きくなる、つまり捨てる熱量がQ2より小さくなることはないため、Q/Tが変化前よりも小さくなることはありません。

このように、熱量Qと絶対温度Tの比率はQ/Tはその変化が起きるかどうかの指標になり、これをエントロピーとしたわけです。

6.自由エネルギーが示すところは?

以上より、ギブスの自由エネルギーは持っているエネルギーと与えられたエネルギーの差ということが確認できました。

前者は変化しないでおこうとするエネルギーと捉えることでき、後者は変化させようとするエネルギーだと解釈できます。

ヘルムホルツの自由エネルギー

ヘルムホルツの自由エネルギー

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ところで、自由エネルギーと言えばヘルムホルツの自由エネルギーもありますね。こちらは一定空間に注目したもの、つまり体積一定として考えます。

自由エネルギーの正体

自由エネルギーは一言で言うと、変化を促進するエネルギーと阻止しようとするエネルギーの差。系全体に着目したのがギブスの自由エネルギー、一定空間に注目したのがヘルムホルツの自由エネルギーです。

氷点下の時、氷が溶けないのは水分子が液体状態になろうとするエネルギーよりも固体の状態を保とうとするエネルギーが大きいため。0℃以上になると、溶けてしまおうとするエネルギーが形を保とうとするエネルギーより大きくなるため溶けてしまうのです。

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熱力学物理理科

3分で簡単!ギブスの自由エネルギーとは?定義式・エンタルピー・カルノーサイクルも理系ライターがわかりやすく解説

なぜ氷は0℃ちょうどで溶け始めるのでしょうか。
なぜ100℃になった途端蒸発し気体になるのか。答えは「温度を上げるほど水分子の運動が激しくなり、0℃(or100℃)になった途端に固体(or液体)の形を保てなくなる」からです。
実は上記の概念をエンタルピーやエントロピーなどといった熱力学視点でまとめたのがギブスの自由エネルギーなんです。
今回は理系ライターのR175とみていこう。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許も持つ。ほぼ全てのジャンルで専門知識がない代わりに初心者に分かりやすい解説を強みとする。

1.自由エネルギーとは

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今回のテーマは「ギブスの自由エネルギー」

自由エネルギーとは、今の状態を維持しようとするエネルギー変化させようとするエネルギーの差のイメージです。自由エネルギーにはギブスの自由エネルギーとヘルムホルツの自由エネルギーがありますが、両者ともほぼ同じ概念と考えましょう。圧力一定として系全体を対象とするのギブスの自由エネルギー、一定空間のみを対象とするのがヘルムホルツの自由エネルギーが適用されます。記事前半では全体に着目する「ギブスの自由エネルギー」を扱い、後半でヘルムホルツ自由エネルギーとの違いをみていきましょう。

変化や反応が起きるかどうかは自由エネルギーの符号(正負)で決まります。状態変化や化学変化が起きてしまう理由は、今の状態を保とうとするエネルギーより変化させようとするエネルギーの方が大きいから。つまり、ギブスの自由エネルギーが負の値だと変化させようとするエネルギーの方が大きいわけですから変化が進みます。逆に正の値だと、維持しようとするエネルギーの方が大きいことになりますから変化は進みません。必ずギブスの自由エネルギーが負の値になる方向に変化が進みます。

氷が0℃以上で水に溶けるのも、固体である氷の形を保とうとするエネルギーよりばらけて液体になろうとするエネルギーの方が大きいためです。

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2.ギブスの自由エネルギーの定義

2.ギブスの自由エネルギーの定義

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ギブスの自由エネルギー変化量の定義式は上の通り。エンタルピーから絶対温度とエントロピー変化の積を引いた値となります。

なぜ、これらの指標で表すのか?各パラメータの意味を確認していきましょう。

3.エンタルピーとは

3.エンタルピーとは

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エンタルピーは熱含量とも呼ばれ、気体が持つ「トータルの熱量というイメージ。内部エネルギーとPV(圧力×体積)の和です。

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単位はJ(ジュール)であり、熱量と同じです。この式は熱力学第一法則によく似ていますね。両辺を(全)微分すれば右辺の第一項はΔUとなり熱力学第一法則に近い形に。仮に圧力一定であれば右辺=内部エネルギー変化+PΔVとなり、これは気体に与えた熱量dQそのもの。定圧変化に限っては熱量と同じ形となります。

 

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