「昔、昔、ウラシマは 助けた亀に連れられて 竜宮城へ♪」。今回は昔話でお馴染みの「ウラシマ太郎」が由来となった「ウラシマ効果」という物理現象について紹介する。

浦島太郎は竜宮城に行って、あまり長居したつもりはないのに元の世界に帰ってくると実は「長い時間」が経っていた。物理現象でいうところの「時間遅れ」。ある条件を満たせば外界よりもゆっくり時間が進むという現象「時間遅れ」についてピックアップし理系ライターR175とみていこう。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許も持ち。ほぼ全てのジャンルで専門知識がない代わりに初心者に分かりやすい解説を強みとする。

1.ウラシマ太郎の伝説

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日本昔話に出てくるウラシマ太郎。物語のいくつかパターンはいくつかあるようですが、大筋は以下のようなもの。 
・ウラシマ太郎が亀を助ける。

・亀がお礼として、竜宮城という世界に連れて行ってくれる。

・そこで姫と出会いお土産として玉手箱をもらい帰る。玉手箱は開けないと約束する。

・ウラシマ太郎が元の世界に帰ると「長年月」が経過していた。

・悲しくなったウラシマ太郎は玉手箱を開けてしまった。すると一気に年老いてしまった。

ウラシマ太郎は竜宮城で「ほんの少しの時間(仮に1ヶ月とする)を過ごしたつもりが現実世界では「長い年月(仮に30年とする)」が経過していた。竜宮城では時間がゆっくり流れているものと解釈されます。つまり現実では30年経っていてもその間竜宮城で過ごしたウラシマ太郎は1ヶ月分しか歳を取らない。しかし、玉手箱を開けると、竜宮城で過ごしたという事実がなかったことになったのでしょう。つまりウラシマ太郎は現実世界で30年過ごしたことになり年老いたというわけです。

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ウラシマ効果

本来長い年月が経っているのに、ある世界では少ししか時間が経っていない。時間がゆっくり流れてしまう現象をこのウラシマ太郎の伝説に因んで「ウラシマ効果」と呼ばれます。本来は長い年月が経っていても、ある世界では時間がゆっくり進む。どういう場合に存在し得るのか。

\次のページで「2.なぜ速度を持った系では時間が遅れるのか?」を解説!/

2.なぜ速度を持った系では時間が遅れるのか?

静止した系から観測する1秒も移動する系から観測すると1秒より短くなります。本来は1秒経っているのに、動いてる系では1秒経っていない=時間が遅れるのです。なぜでしょうか?順を追って見ていきましょう。

系とは?

系とは?

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今回の記事でよく登場する「という言葉について簡単に触れておきましょう。系とは「観測する基準」のこと。例えば、踏切で待ってAさんから見た場合を系A、電車に乗っているBさんから見た場合を系Bとしましょう。時速10kmで電車と同じ方向に進む自転車は系Aから見ると右向きに時速10km、系Bから見ると左向きに時速50km。距離や時間、速度を議論する時はどこ基準で見るかを決める必要があり、その基準のことを系と呼びます。系は静止状態とか電車の中とか自転車だとイメージしてください。ウラシマ太郎が過ごした「竜宮城」も系の1つと捉えましょう。

3.相対性理論

アインシュタインによって発表された相対性理論。簡単に言うと、速度を持った系では静止した系より時間が短く観測されるという話

光速度不変の原理原理

どんな系でも共通なのは光速度のみで、時間は系によって辻褄を合わせるかのように変化してしまいます。なぜ辻褄を合わせる必要が出てくるのでしょうか?

4.時間遅れを語る上での大前提

速度を持つ系では時間が遅れますが、その解説に入る前に予備知識を整理しておきましょう。

\次のページで「4-1.距離、速さ、時間の関係」を解説!/

4-1.距離、速さ、時間の関係

算数で出てくる公式である「距離=速さ×時間」。これはどんな場合も例外なしです。速さが一定で距離が長くなれば時間もは長くなります。ちなみに光速度(30万km/秒、1秒間で地球7周半進む速さ)はcで表されることが多いです。この光速度は宇宙で最も速い速度であり、これ以上速いモノはないとされています。

4-2.相対速度

4-2.相対速度

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同じ動きを観測していても、観測する基準によって速度や移動距離が変わってきます。例えば、Aさんが時速21kmで壁と平行に走りながら時速72kmで壁に向かってボールを投げたとしましょう。Aさんからみるとボールの速度は?時速72kmですね。では止まっている人から見たボールの速度は?そもそも止まっている人から見たらボールは壁に真っ直ぐ向かっておらずAさんと共に横方向にも時速21kmで動いていますね。イラストに示す斜め方向に向かっておりその速度は三平方の定理から時速75kmとなります。このように、同じ動きを捉えていても系(観測する基準)によって速度は異なるもの。

4-3.異なる系から見た移動距離

4-3.異なる系から見た移動距離

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前項で壁までの距離が24mだったとしましょう。ボールが壁にぶつかるまでの移動距離は何mでしょうか?まずAさんから見るとボールは真っ直ぐ壁に向かって行ったように観測されるためボールの移動距離は24m一方静止状態から観測するとボールは斜めに投げられたのだから作図より移動距離は25mと求まります。横方向に動いているAさんからしたら、横方向の動きは無視出来るため速度も移動距離も壁なら垂直な向きのみとなりますが、静止している人から見ると横方向の動きも考慮する必要があり速度も移動距離も長く観測されるのです。

5.時間の収縮

5.時間の収縮

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なぜ速度を持っていると時間の進み方がゆっくりになるか?

イラストのように、速度vで進む系の垂直方向に光を発射します。Lだけ離れた鏡に到達するまでの時間を考えましょう。速度がゼロの静止系から見た人ははt=L/cだと言っており、静止系の人はそれより長いと言っております。速度vの系から見た方が光の移動距離は短いですが、速度はどちらも変わらずc。速度同じで距離が短い移動系では辻褄を合わせるがごとく経過時間も短くなるのです。

あれれ?さっきのボール壁当ての例では時間は同じでボールの速さを変えていたのに今回はなぜ時間が違っているの?それは今回移動しているのは光だから。光の速さcはどんな系から見ても変わりません。ボールのように静止系と運動系で速度が変わることはあり得ません。その代わり移動時間の方が変わる必要があるのです。

\次のページで「6.竜宮城は光速速移動中?」を解説!/

6.竜宮城は光速速移動中?

竜宮城のような時間の進み方を実現するためにはほぼ光速度で移動中であることを意味します。さて、新幹線、飛行機および竜宮城(仮)の速度および時間遅れを見てみましょう。ただし竜宮城は静止系の365倍ゆっくり時間が流れるものと仮定(現実の30年が竜宮城では1か月と仮定)。光速度をちょうど秒速30万キロ、地球を静止系としているため数字は目安であり正確ではありません。

現実世界でお馴染みの新幹線や飛行機での時間遅れは微々たるもので、新幹線は79万3千年、飛行機は10万5千年ほど乗車していると静止系より時計が1秒遅れる計算。

一方、静止系の365倍という超ゆっくり時間が流れる竜宮城(仮)は速度が尋常ではない。光速度の99.999625%で移動している計算。つまり、ウラシマ太郎で描かれているような時間遅れを発生させるためにはほぼ光速度で移動する必要があるのです。実際に計算してみると衝撃の結果ですね。竜宮城(仮)の速度はロケットや人工衛星をはるかに上回る速度で、地上でそのような速度を出すと重力を振り切って地球外に出ていき二度と帰ってくることは出来ません。遠心力が強すぎるため地球外に投げ飛ばされてしまうためです。そんな強い遠心力を持っていても投げ飛ばされない天体・惑星は引力が超強力なブラックホールのみでしょう。

竜宮城は超過酷な環境

外界に比べて時間がゆっくりと進む世界。それを実現するためには、ほぼ光速度に近い速度を持つ必要があります。仮に本当にそんな速度を持っていたら遠心力が強すぎるため地球に留まることは出来ません。

時間がゆったりと流れる「ゆるい」イメージを持ちがちな「竜宮城」、高速移動をする超過酷な環境を作らないと実現しません。

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物理理科統計力学・相対性理論

5分で分かる「ウラシマ効果」浦島太郎はなぜおじいちゃんに?この物理現象を理系ライターがわかりやすく解説

「昔、昔、ウラシマは 助けた亀に連れられて 竜宮城へ♪」。今回は昔話でお馴染みの「ウラシマ太郎」が由来となった「ウラシマ効果」という物理現象について紹介する。

浦島太郎は竜宮城に行って、あまり長居したつもりはないのに元の世界に帰ってくると実は「長い時間」が経っていた。物理現象でいうところの「時間遅れ」。ある条件を満たせば外界よりもゆっくり時間が進むという現象「時間遅れ」についてピックアップし理系ライターR175とみていこう。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許も持ち。ほぼ全てのジャンルで専門知識がない代わりに初心者に分かりやすい解説を強みとする。

1.ウラシマ太郎の伝説

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日本昔話に出てくるウラシマ太郎。物語のいくつかパターンはいくつかあるようですが、大筋は以下のようなもの。 
・ウラシマ太郎が亀を助ける。

・亀がお礼として、竜宮城という世界に連れて行ってくれる。

・そこで姫と出会いお土産として玉手箱をもらい帰る。玉手箱は開けないと約束する。

・ウラシマ太郎が元の世界に帰ると「長年月」が経過していた。

・悲しくなったウラシマ太郎は玉手箱を開けてしまった。すると一気に年老いてしまった。

ウラシマ太郎は竜宮城で「ほんの少しの時間(仮に1ヶ月とする)を過ごしたつもりが現実世界では「長い年月(仮に30年とする)」が経過していた。竜宮城では時間がゆっくり流れているものと解釈されます。つまり現実では30年経っていてもその間竜宮城で過ごしたウラシマ太郎は1ヶ月分しか歳を取らない。しかし、玉手箱を開けると、竜宮城で過ごしたという事実がなかったことになったのでしょう。つまりウラシマ太郎は現実世界で30年過ごしたことになり年老いたというわけです。

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ウラシマ効果

本来長い年月が経っているのに、ある世界では少ししか時間が経っていない。時間がゆっくり流れてしまう現象をこのウラシマ太郎の伝説に因んで「ウラシマ効果」と呼ばれます。本来は長い年月が経っていても、ある世界では時間がゆっくり進む。どういう場合に存在し得るのか。

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