この記事では「恩を売る」について解説する。
端的に言えば恩を売るの意味は「見返りを期待して恩を施すこと」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

語学好きで歴史好き、名古屋出身で5年間のライター経験を持つEastflowerを呼んです。一緒に「恩を売る」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/eastflower

語学好きで英語、中国語が得意な5年目のライター。「恩を売る」は特に時代劇など日本が封建制度をとっていた時代のドラマや映画などによく登場する言葉。「恩を売る」の言葉の起源や意味、どんな場面で使えるのかを見ていく。

「恩を売る」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速、意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「恩を売る」の意味は?

それでは、「恩を売る」(おんをうる)と「恩」(おん)の辞書の意味から見ていきましょう。

【恩を売る】(おんをうる)

1.相手からの感謝や見返りなどを期待して恩を施す。
出典:デジタル大辞泉(小学館)「恩を売る」

2.のちのち自分の立場を有利にしたり利益を得たりする目的で人を助ける
出典:大辞林 第三版(三省堂)「恩を売る」

【恩】(おん)

1.他の人から与えられためぐみ。いつくしみ。 
2.封建時代、家臣の奉公に対して主人が領地などを与えて報いること。 
3.給与。手当。 

出典:大辞林(三省堂)「恩」

辞書によると「恩」(おん)の意味の中には、「家臣の奉公に対して主人が領地を与えること」の意味も記載されています。具体的に言うと鎌倉幕府(かまくらばくふ)を開いた源頼朝(みなもとのよりとも)の時代から始まったのです。

「武家の棟梁」(ぶけのとうりょう)であった源頼朝「御家人」(ごけにん)と呼ばれる家臣たちの役割を明確にした「御恩と奉公」(ごおんとほうこう)の制度が作られたことが始まりでした。「御恩」(ごおん)とは、主人(実力者や上司)である源頼朝が、従者である「御家人」(部下)に当時の役職である「守護職」(しゅごしょく)や「地頭職」(じとうしょく)を与え、御家人たちを赴任させ、私領を承認・保証し、働きによって新たに所領を与えていく制度のことです。一方で御家人は源氏(げんじ)のために命をかけてベストを尽くして戦い忠誠を尽くす義務や仕事を果たすようになりました。

「恩」には、「給与」や「手当」という意味もあり、日本では1923年に「恩給法」(おんきゅうほう)が定められ、公務員や軍人が一定の期間勤務し退職した場合や死亡したときに一時金や年金を支給していた時代があったのです。

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「恩を売る」の語源は?

次に「恩を売る」の語源を確認しておきましょう。

国語辞典に記載されている通り、「恩」(おん)は、もともと「神から与えられる愛」「仏の慈悲」を意味する用語でした。『日本書紀』(にほんしょき)の時代には、「恩」は「めぐみ」「みいつくしみ」と読まれていたのです。「めぐみ」とは「草木が冬の季節を乗り越えて、春の太陽によって芽(め)ぐむ、(芽が出るようになる)」という自然から与えられる「恩」に対しても使われていました。

しかし、時間が経つのにつれて「恩」という言葉は、人間関係の中で多く使われるようになっていったのです。第三者によって施された好意や好ましい結果をもたらした「恩」に対して、「恩を受けた者」が「恩返しする」という物語は日本全国にたくさんあります。

江戸時代には、「恩」を与える第三者とは、主に君主と親であり、君主に対しては、「忠義」(ちゅうぎ)を尽くし、親に対しては「孝行」で報いるべきであるというのが当時の道徳でした。

もっとも「恩を売る」という言葉には、辞書に書かれている通り、「相手からの感謝や見返りなどを期待する感情」が与える側にはあることから、「打算的」、「先行投資的」(せんこうとうしてき)な損得勘定(そんとくかんじょう)のニュアンスを含む言葉でもあります。

「恩を売る」の使い方・例文

それでは、「恩を売る」の使い方を例文を使って見ていきましょう。

1.「あの子が家の車を洗車してくれるなんてどういう風の吹きまわしだろう?」「お正月が近いからお年玉を期待して恩を売る作戦なんじゃないの?」
2.「今回は、ランチ代、私が出すわ。」「いいよ。こんな安いもので恩を売られても割にあわないわ。なにか魂胆があるんじゃない。割り勘で行こうよ。」

相手がしてくれる好意に対しては、素直にありがたく感謝して受け取るのが礼儀なのかもしれませんが、相手が「見返りを求めて好意の押し売り」をしてくるような場合に「恩を売る」の慣用句が使われるのです。

「恩を売る」の類義語は?違いは?

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それでは、「恩を売る」の類義語を見ていきましょう。

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「貸しを作る」

「恩を売る」の類義語のひとつに「貸しを作る」(かしをつくる)という言葉があります。

「貸しを作る」は「相手にお金を貸したり相手が必要な行為をして後々、対価や見返りを期待する」ことです。現代における商談では、価格や納期、支払い時期などの条件に合意した上で契約し、両者がお互いに契約内容を履行するとその契約は完了し、貸し借りのない同等な立場で次の商談を開始します。

しかしながら、「恩を売る」や「貸しを作る」においては、貸した側は「提供する恩」に対して、明確な価格や返済時期などを定めず、契約書を交わすこともなく、相手が必要とするものを提供することなのです。当然、お互いの心の中では、「貸しがある」「借りた」という感覚があり、借りた側は返す義務や理由があることを意識し、いつかは返さなければならないと感じるようになります。

「手を差し伸べる」

「恩を売る側」の心の中には将来的に相手に見返りを期待する気持ちはあるものの実際に相手に何かしらの力を貸すことでもあります。「手を差し伸べる」(てをさしのべる)も同様に「相手を助ける」という意味で「恩を売る」と同じ意味です。

しかし、「恩を売る」には見返りを求めて相手を助けるのだという心理的な目的があるのに対して、「手を差し伸べる」は、必ずしも目的が見返りを求めることではなく、「自分でできることだから」や「相手が困っているから」など、助ける側の動機や理屈はさまざまになります。

「恩を売る」の対義語は?

次に「恩を売る」の対義語や関連語を見ていきましょう。

「恩を仇で返す」

「恩を売る」側は、見返りを期待して助けているのに、「恩を受けた側」が「感謝するどころか相手にとって害になるようなこと、不利益になるようなことをする」ことを「恩を仇で返す」(おんをあだでかえす)と言います。「仇」(あだ)とは、もともとは「敵」や「かたき」「恨み」のことであり、恩を売った側にとっては、「見返りを得られるどころか逆に害や恨みを買ってしまう結果になる。」ことなのです。

「不義理をする」

「恩を売る」側が施(ほどこ)した「助け」や「貸し」に対して、「助けられっぱなし」「借りっぱなし」の状態にしておく「借り手側の態度」のことを「不義理をする」(ふぎりをする)と言います。「義理」とは、「人間関係において守るべき道理」のことです。例えば、お金を借りたような場合に返さないままにしておくような場合に「不義理をする」という表現が使われるのですね。

「恩を売る」の英訳は?

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「恩を売る」を辞書で調べて見ると「to try to gain one's gratitude」という表現がよく出てくると思います。「gain(ゲイン)」(géin)は、「(努力して)得る,手に入れる。」という意味で、「gratitude(グラティチュード)」(grˈæṭət(j)ùːd)は、「感謝、謝意」のことで

「誰かの感謝を得られるようにする。」という意味になります。それでは「恩」は他にどのような表現方法があるのかを見ていきましょう。

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「Obligation」

「恩」には、「返済すべき恩」、言い換えると「有償の恩」と「人に与える自発的な恩」、言い換えると「無償の恩」や「好意」の二種類があります。

先ず、「返済すべき恩」は、英語でピッタリのことばのひとつが、「Obligation(オブリゲーション)」(ὰbləgéɪʃən)です。「Obligation」には、「恩」という意味のほかに「義務」、「義理」、「債務」という意味もあります。

それでは、例文を見ていきましょう。

He is certainly a step brother of me, but I do not have the obligation to help him legally.
(彼は確かに私の義理の兄ではあるが、法的には、彼を助けるべき恩はない)

「Favor」

「Obligation」が返済の義務のある「恩」である一方、「Favor」は「無償の恩」や「好意」を表すことばです。「お願い」ということばで置き換えることもできます。

例えば、お金などは自分と相手が平等な関係にあれば、世界標準としては返すのが当たり前であり、友人にお金を借りたいのであれば、「borrow」(bάroʊ)「借りる」という動詞が使われるのです。「Can I borrow some money from you?」(お金を貸してもらえますか?)と尋ねることになります。

では、相手に無償でお願いする場合の「Favor」を使った例文を見てみましょう。

1.Could you do me a favor?
(お願いがあるのだけれど?)

「恩を売る」を使いこなそう

ここまで「恩を売る」の意味や使い方を見てきました。「恩を売る」とは「見返りを期待して人を助けること」でしたが、英語にも「Give and Take」という言葉があり、「ギブ アンド テーク」は、日本でも広く使われている言葉です。

「Give and Take」は「お互いに与え合おうよ」という意味で「譲り合うこと」「持ちつ持たれつな関係で行こうよ」という公平で平等の精神から来ている無償の恩を表すことばなんですね。有償で人を助けるべきか無償で助けるべきかについては、ケースによって判断は分かれるところであり、一概にどちらがよいとは言い切れません。しかし、「Give and Take」で示されるように、最初が「Give」でその後が「Take」です。「Take and Give」ではありません。先ずは、あなたから「与える」という姿勢で生活していけば素晴らしい人生になると思いますよ。

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【慣用句】「恩を売る」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

この記事では「恩を売る」について解説する。
端的に言えば恩を売るの意味は「見返りを期待して恩を施すこと」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

語学好きで歴史好き、名古屋出身で5年間のライター経験を持つEastflowerを呼んです。一緒に「恩を売る」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/eastflower

語学好きで英語、中国語が得意な5年目のライター。「恩を売る」は特に時代劇など日本が封建制度をとっていた時代のドラマや映画などによく登場する言葉。「恩を売る」の言葉の起源や意味、どんな場面で使えるのかを見ていく。

「恩を売る」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速、意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「恩を売る」の意味は?

それでは、「恩を売る」(おんをうる)と「恩」(おん)の辞書の意味から見ていきましょう。

【恩を売る】(おんをうる)

1.相手からの感謝や見返りなどを期待して恩を施す。
出典:デジタル大辞泉(小学館)「恩を売る」

2.のちのち自分の立場を有利にしたり利益を得たりする目的で人を助ける
出典:大辞林 第三版(三省堂)「恩を売る」

【恩】(おん)

1.他の人から与えられためぐみ。いつくしみ。 
2.封建時代、家臣の奉公に対して主人が領地などを与えて報いること。 
3.給与。手当。 

出典:大辞林(三省堂)「恩」

辞書によると「恩」(おん)の意味の中には、「家臣の奉公に対して主人が領地を与えること」の意味も記載されています。具体的に言うと鎌倉幕府(かまくらばくふ)を開いた源頼朝(みなもとのよりとも)の時代から始まったのです。

「武家の棟梁」(ぶけのとうりょう)であった源頼朝「御家人」(ごけにん)と呼ばれる家臣たちの役割を明確にした「御恩と奉公」(ごおんとほうこう)の制度が作られたことが始まりでした。「御恩」(ごおん)とは、主人(実力者や上司)である源頼朝が、従者である「御家人」(部下)に当時の役職である「守護職」(しゅごしょく)や「地頭職」(じとうしょく)を与え、御家人たちを赴任させ、私領を承認・保証し、働きによって新たに所領を与えていく制度のことです。一方で御家人は源氏(げんじ)のために命をかけてベストを尽くして戦い忠誠を尽くす義務や仕事を果たすようになりました。

「恩」には、「給与」や「手当」という意味もあり、日本では1923年に「恩給法」(おんきゅうほう)が定められ、公務員や軍人が一定の期間勤務し退職した場合や死亡したときに一時金や年金を支給していた時代があったのです。

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