温かい物と冷たい物をくっつけておくとどちらも同じくらいの温度になるよな。冷たいコーヒーやお茶もずっと握っていると体温と同程度の温度になってしまう。これは温度が高い方から低い方に移動する性質があるためです。

採取的にどちはも同じくらいの温度になり「見かけ上」熱の移動がなくなる状態が熱平衡。そもそもなぜ温かい方から冷たい方に熱が移動しようとするのか?力学的エネルギーに着目しながら理系ライターのR175と解説していく。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許も持っている。技術者の経験があり、教科書の内容では終わらず身近な現象と関連付けての説明を心掛ける。

1.熱の移動と熱平衡

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熱の移動は2物体間の温度差or温度勾配により発生するもの。熱の移動は熱伝導、熱伝達、輻射断熱の3パターンがありますが、ここでは熱伝導を例に熱の移動について触れておきましょう。

熱の移動〜熱伝導〜

熱の移動〜熱伝導〜

image by Study-Z編集部

熱伝導は主に固体で起きる熱の移動。物体は動かず熱だけ移動するのでイメージしやすいかもしれませんね。さて、温度が高い(Th)領域低い(Tl)領域があり、領域間の距離をhとしましょう。熱は温度が高い方から低い方に移動するものであり、面積当たりの熱の通過量は温度勾配に比例します。温度勾配とは温度差を距離で割ったもので、一定距離当たりどれだけ温度が変わるかを示すもの。

熱平衡

熱平衡

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温度が高い方から低い方に熱の移動が続くと、やがて元々低温側だった領域も温度が上がってきますね(Tlが大きくなる)。

一方、元々高温側だった領域は熱を奪われるので温度が下がってきます(Thが小さくなる)。領域の質量をm、比熱をc、温度変化をΔT、熱量変化をΔQとしたらお馴染みの公式通りΔQ=mcΔT、ΔT=ΔQ/mc。低温側は熱をもらうのでΔQが正の値、ΔTも正の値なのでどんどん温度が上がることを意味し、逆に熱を奪われる高温側はΔQが負の値なのでΔTも負の値であり温度は下がっていく。

すると温度差Th-Tlはどんどん小さくなっていき温度勾配も小さくなり、面積当たりの熱の通過量たる「熱流束」も小さくますね。つまり、熱の移動がなくなっていき、最終的にTh=Tl(温度が均一)とみなせるようになれば熱の移動はなくなり、これが熱平衡という状態。

\次のページで「2.運動エネルギーと熱」を解説!/

2.運動エネルギーと熱

「熱」は物質の形持っているのではなく、分子の運動エネルギーという定義です。物質を分子or原子一つ単位の粒子の集まりとしましょう。これらの微小粒子は止まることなく運動し続けているため運動エネルギーを持っています。物体を触って熱いと感じるのもこれら運動している粒子から衝撃を受けるため。衝撃=熱と私たち人間が認識しているもの。

熱は物質のような実態を持つのではなく、物質がどれだけ勢いよく運動しているかの度合いです。

3.運動エネルギーの伝達から熱移動を考える

3.運動エネルギーの伝達から熱移動を考える

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熱が移動する=運動エネルギーが伝わるということ。運動エネルギーはお馴染みの公式1/2・mv^2で、質量mは余程なことがない限り変わりようがないため変化するのは速度粒子が衝突を繰り返すことで速度が変化し結果的に運動エネルギーが伝播するのです。

粒子の衝突前後での速度変化

粒子の衝突前後での速度変化

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質量が等しい物体1と物体2が衝突したとして、物体1の速度はv1→v1'に、物体2の速度はv2→v2'に変化したとしましよう。この衝突での反発係数eは-(v2'-v1')/(v2-v1)という定義です。eの値はどういう衝突をしたかで変わってくるもの。例えばe=0は完全非弾性衝突と呼ばれ、v2'=v1'であり衝突後は二つとも速度が等しい(合体する)状態。

e=1の場合は完全弾性衝突と呼ばれ衝突前後での速度差が同じで、速い遅いが入れ替わる。物体1が速度v1で静止している物体2に完全弾性衝突した場合、今度は逆に物体1が静止状態になり物体2が速度v1となります。衝突後は、物体1と2の速い遅いが入れ替わり物体2の方が速くなる。それで且つ速度差をv1にする必要があります物体2の速度が2v1で、物体1がv1等でも確かに速度差v1は成立しますが、これだと運動量保存則に反する(運動量が増えてしまう)ことに。

運動量とは

運動量とは質量×速度で定義されるパラメータで、単位としては力積と同じく力×時間の次元を持ちます。ある力でこれだけの時間押した場合に相当する運動をしていますよということを示すもの。

運動量保存則

運動量保存則

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衝突前後で2物体が持つ運動量の合計は変わりません。例えば質量m、速度v1の物体が質量m速度v2の物体に衝突して物体1と2の間に力fがΔt秒間働き、速度がそれぞれv1'とv2'になったとしましょう。物体1はmv1という運動量から左向きの力fがΔt秒間作用した結果、運動量はmv1'に変わりました。一方物体2は元々mv2だった運動量が、右向きの力fがΔt秒間作用したことでmv2'に変わりました。2つの式からfΔtを消去するとmv1+mv2=mv1'+mv2'。これは衝突前後で物体1と物体2の運動量合計が等しいことを意味します。これが運動量保存の法則です。衝突というプロセスを経て何が起きたか?物体1には力fがΔt秒間作用し、物体2にはその反作用の力fが同じ時間Δtだけ作用。物体1の運動量の一部が物体2に移っただけであり合計は変わりません。

さて、反発係数e=1での衝突の話に戻りましょう。衝突前の運動量合計はmv1なので衝突後もmv1にする必要がありますね。それで且つ2物体の速度差をv1とするためには物体1が速度ゼロで物体2が速度v1になります。完全弾性衝突では速度がそっくり入れ替わるのです。

eが0~1での衝突を繰り返すと

通常、反発係数は0と1の間を取るもの。e=0だと速度は全く同じになり(速度差はゼロ)、e=1だと速度差はそのまま。反発係数がその間ということは速度が全く同じまでにはならないけど、衝突前より衝突後の方が速度差が小さくなると言えますね。無限回衝突すれば速度差は限りなくゼロに近づいていくわけで、粒子の運動エネルギーも同程度になるもの。前述の通り、粒子が持つ熱の定義は運動エネルギーのことなので、運動エネルギーが同程度になる=熱が同程度になることを意味します。

\次のページで「熱が平衡になっていく理由」を解説!/

熱が平衡になっていく理由

熱とは物質を構成する微粒子の運動エネルギーのこと。熱を持っている物質=運動エネルギーが大きい=速度が速い状態で周囲にある速度が遅い物質に衝突します。衝突時の反発係数に着目すると、衝突の前後で速度差が徐々に小さくなっていくため、運動エネルギーの差つまり熱量の差も小さくなっていくのです。これが熱平衡が起きる理由。

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物理物理学・力学理科

5分で分かる「熱平衡」どうして平衡状態になるの?力学的エネルギーに着目して理系ライターがわかりやすく解説

温かい物と冷たい物をくっつけておくとどちらも同じくらいの温度になるよな。冷たいコーヒーやお茶もずっと握っていると体温と同程度の温度になってしまう。これは温度が高い方から低い方に移動する性質があるためです。

採取的にどちはも同じくらいの温度になり「見かけ上」熱の移動がなくなる状態が熱平衡。そもそもなぜ温かい方から冷たい方に熱が移動しようとするのか?力学的エネルギーに着目しながら理系ライターのR175と解説していく。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許も持っている。技術者の経験があり、教科書の内容では終わらず身近な現象と関連付けての説明を心掛ける。

1.熱の移動と熱平衡

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熱の移動は2物体間の温度差or温度勾配により発生するもの。熱の移動は熱伝導、熱伝達、輻射断熱の3パターンがありますが、ここでは熱伝導を例に熱の移動について触れておきましょう。

熱の移動〜熱伝導〜

熱の移動〜熱伝導〜

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熱伝導は主に固体で起きる熱の移動。物体は動かず熱だけ移動するのでイメージしやすいかもしれませんね。さて、温度が高い(Th)領域低い(Tl)領域があり、領域間の距離をhとしましょう。熱は温度が高い方から低い方に移動するものであり、面積当たりの熱の通過量は温度勾配に比例します。温度勾配とは温度差を距離で割ったもので、一定距離当たりどれだけ温度が変わるかを示すもの。

熱平衡

熱平衡

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温度が高い方から低い方に熱の移動が続くと、やがて元々低温側だった領域も温度が上がってきますね(Tlが大きくなる)。

一方、元々高温側だった領域は熱を奪われるので温度が下がってきます(Thが小さくなる)。領域の質量をm、比熱をc、温度変化をΔT、熱量変化をΔQとしたらお馴染みの公式通りΔQ=mcΔT、ΔT=ΔQ/mc。低温側は熱をもらうのでΔQが正の値、ΔTも正の値なのでどんどん温度が上がることを意味し、逆に熱を奪われる高温側はΔQが負の値なのでΔTも負の値であり温度は下がっていく。

すると温度差Th-Tlはどんどん小さくなっていき温度勾配も小さくなり、面積当たりの熱の通過量たる「熱流束」も小さくますね。つまり、熱の移動がなくなっていき、最終的にTh=Tl(温度が均一)とみなせるようになれば熱の移動はなくなり、これが熱平衡という状態。

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