今回のテーマはルイス数。力学と言えば物質そのものの移動(濃度変化)を扱いする、熱力学と言えば熱移動(温度変化)を扱うもの。しかし時には物質の移動と熱の移動を同時に扱いたい場合もある。

そんな時に役立つ指標がルイス数。(物質と熱、どちらが早く拡散するかの指標)。理系ライターのR175と解説していく。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許も持っている。技術者の経験があり、教科書の内容では終わらず身近な現象と関連付けての説明を心掛ける。

1.物質移動と熱移動

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通常は物質の移動と熱の移動は別々に考えるもの。理科の教科書ではもちろん、流体解析などのシミュレーションにおいても別々に考えるのが主流。なぜなら、なるべく単純化したいから。熱と物質の移動を同時に考慮すると複雑になるため仮定が多くなります。仮定は飽くまで仮定であり現実とは違う場合も多々あり、仮定が多いということは現実から離れたシミュレーションをしてしまう恐れが出てくるもの。よってなるべく単純化してシミュレーションを行うのが得策と言えます。とは言え、時には物質と熱の移動を同時に扱いたい場面もあり、そんな時に役立つ指標の一つがルイス数です。

均一濃度、均一温度を目指すには

熱と物質の移動を同時に扱う問題の例として、温めながら2つの流体を混ぜ、なるべく早く濃度も温度も均一にしたい場合を考えましょう。物質そのものの拡散のしやすさは温度にも依存するため、厳密に解析するなら流体そのものの拡散と熱の拡散を同時に考える必要があります。

物質移動と熱移動を同時に加味

通常、シミュレーションでは極短い時間(ステップという)に区切って、その時間内での物質の拡散を計算し、次のステップでは前回のステップの最終段階を初期状態としてそこからの拡散を考えるというようなプロセスを繰り返します。

熱の影響も考えるのであれば、1つ前のステップで「熱もこれくらい拡散するから次のステップの初期状態はこうだ」という風に、それぞれのステップにて逐一熱の影響をも加味する必要が出て来るのです。そんな時に、物質と熱どちらがどれくらい速く拡散するのか、その比率を把握する必要が出てきます。そこで役立つのがルイス数という無次元(単位を持たない)指標です。ルイス数は温度拡散率÷拡散係数で表され、意味としては熱の拡散が物質の拡散の何倍速いかというもの。

2.物質の拡散

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まずはルイス数の式の分母に来ている拡散係数について。拡散とは広がっていくこと。物質が広がっていくとはどんな状態なのか?身近な例を見ていきます。絵の具の付いた筆を水に付けて洗うと、最初は透明だった水に絵の具が広がっていき、水が濁ってきますね。何が起きているかというと絵具という「物質」が移動しているわけで、これがまさに拡散という現象です。

\次のページで「濃度との関係」を解説!/

濃度との関係

濃度との関係

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ところで筆を洗う時、濁っていない「さらの水」に付けた場合とすでに何回か筆を洗って「濁った水」に付けた場合とで絵の具の広がり方が違いますね。さらの水に付けた方が素早く広がっていくことでしょう。このように、物質の広がり方(拡散)には濃度勾配が影響しています。同じ大きさの容器で筆を洗っている場合は濃度勾配=濃度差と考えてOKです。筆についている絵の具は濃度が高く、洗い水の方は濃度が低い。水がさらの状態だと絵の具の濃度が0なので筆との濃度差(濃度勾配)は大きく、濁っている水は絵の具の濃度が高いので筆との濃度差(濃度勾配)が小さくなり、さらの水に漬けた方が絵の具の広がりが速いわけです。

ちなみに、濃度勾配という概念ですが、これは一定距離あたりの濃度差を示したもの。なぜ一定距離あたりに換算する必要があるのか?例えば、大きな容器に水を入れて筆を漬けるより小さな容器に漬けた方が広がるのが速いですね。容器に入っている水の絵の具濃度は0で、筆の絵の具濃度は容器の大小にかかわらず同じ。違うのは容器の大きさであり、容器の端と筆を漬けた地点の距離。濃度差は同じですが、距離当たりの濃度変化(濃度勾配)は容器が小さい方が大きくなりますね。容器が小さい方が拡散が速いのはこのためです。

拡散を表す式

物質が拡散するときの流束(単位面積当たりの通過量)は濃度勾配(一定距離当たりの濃度変化)に比例することから以下のように表すことが出来ます。

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この式での比例定数は拡散係数と呼ばれルイス数の式の分母に来る方のパラメータであり、ズバリ拡散のしやすさを表すもの。拡散時の流束は濃度勾配にも比例しますが、この拡散係数が大きければより濃度勾配が大きくなるに従ってより拡散しやすいということを意味します。

3.温度拡散率(熱拡散率)

次にルイス数分子に来ている温度拡散率について。温度拡散率の定義は以下の通り。熱伝導はズバリ熱の伝わりやすさであり定義はイラストの通り。

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一定面積当たりの熱の通過量(流束)は温度勾配に比例し、その比例定数が熱伝導率です。温度勾配が大きければ大きいほど熱流束が大きくなりますが、熱伝導伝導率が大きいほど温度勾配の上昇にしたがってより熱流束が大きくなることを意味します。

次に分母の(比熱×密度)について。比熱は単位質量(例えば1g)を単位温度(例えば1℃)上げるのに必要な熱流。これに密度がかかっている分母が意味するのは単位体積の物質を単位温度だけ上げるのに必要な熱流を意味します。なぜこのような割り算が必要なのか?それは熱伝導そのものは拡散以外の因子も含まれているから。熱伝導が高い=熱が拡散しやすいとは限りません。

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熱伝導はある領域が十分温められてから隣に熱が伝わるというイメージ。1つ1つの領域を温めるのに多くの熱量を要すれば、いくら熱伝導率が高くても熱が拡散しやすいとは言えません。逆に熱伝導率こそ低くてても1つ1つの領域が温まりやすければ熱は拡散しやすいかもしれません。このように温度拡散率は熱伝導率に加えて物質の温めやすさも考慮した定義となっています。

\次のページで「4.ルイス数」を解説!/

4.ルイス数

ルイス数は温度拡散率÷拡散係数。この値が大きければ物質の拡散より温度の拡散の方が速いことを意味し、小さければその逆となります。

ルイス数≒0の場合

温度の異なる2つの流体を混ぜて、均一な濃度、均一な温度を目指すとしましょう。仮に熱の拡散が物質の拡散に比べ遥かに遅い(ルイス数≒0)なら、熱が拡散する頃には既に物質は拡散し切っていると考え、濃度が均一な状態での熱伝導を考えればよいでしょう。

ルイス数=∞の場合

物質の拡散より温度の拡散が遥かに速い状態で、温度の異なる2つの流体を混ぜて均一な濃度、均一な温度を目指すとしましょう。

物質が拡散し始める頃には既に熱は拡散し切っているとみなせるため温度均一で物質の拡散を考えればよいでしょう。

ルイス数≒1の場合

物質の拡散と熱の拡散がほぼ同じ状態。この場合は物質の移動と熱の移動どちらも考慮して計算するいわゆる「連成解析」が必要になるかもしれません。

物質の熱どちらが早く伝わるのかの指標

ルイス数とは温度拡散率と拡散係数の比率値が大きければ物質そのものの拡散より熱の拡散が速いことを意味します。

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5分で分かる「ルイス数」温度と濃度どちらも変化する時に便利?この指標を理系ライターがわかりやすく解説

今回のテーマはルイス数。力学と言えば物質そのものの移動(濃度変化)を扱いする、熱力学と言えば熱移動(温度変化)を扱うもの。しかし時には物質の移動と熱の移動を同時に扱いたい場合もある。

そんな時に役立つ指標がルイス数。(物質と熱、どちらが早く拡散するかの指標)。理系ライターのR175と解説していく。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許も持っている。技術者の経験があり、教科書の内容では終わらず身近な現象と関連付けての説明を心掛ける。

1.物質移動と熱移動

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通常は物質の移動と熱の移動は別々に考えるもの。理科の教科書ではもちろん、流体解析などのシミュレーションにおいても別々に考えるのが主流。なぜなら、なるべく単純化したいから。熱と物質の移動を同時に考慮すると複雑になるため仮定が多くなります。仮定は飽くまで仮定であり現実とは違う場合も多々あり、仮定が多いということは現実から離れたシミュレーションをしてしまう恐れが出てくるもの。よってなるべく単純化してシミュレーションを行うのが得策と言えます。とは言え、時には物質と熱の移動を同時に扱いたい場面もあり、そんな時に役立つ指標の一つがルイス数です。

均一濃度、均一温度を目指すには

熱と物質の移動を同時に扱う問題の例として、温めながら2つの流体を混ぜ、なるべく早く濃度も温度も均一にしたい場合を考えましょう。物質そのものの拡散のしやすさは温度にも依存するため、厳密に解析するなら流体そのものの拡散と熱の拡散を同時に考える必要があります。

物質移動と熱移動を同時に加味

通常、シミュレーションでは極短い時間(ステップという)に区切って、その時間内での物質の拡散を計算し、次のステップでは前回のステップの最終段階を初期状態としてそこからの拡散を考えるというようなプロセスを繰り返します。

熱の影響も考えるのであれば、1つ前のステップで「熱もこれくらい拡散するから次のステップの初期状態はこうだ」という風に、それぞれのステップにて逐一熱の影響をも加味する必要が出て来るのです。そんな時に、物質と熱どちらがどれくらい速く拡散するのか、その比率を把握する必要が出てきます。そこで役立つのがルイス数という無次元(単位を持たない)指標です。ルイス数は温度拡散率÷拡散係数で表され、意味としては熱の拡散が物質の拡散の何倍速いかというもの。

2.物質の拡散

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まずはルイス数の式の分母に来ている拡散係数について。拡散とは広がっていくこと。物質が広がっていくとはどんな状態なのか?身近な例を見ていきます。絵の具の付いた筆を水に付けて洗うと、最初は透明だった水に絵の具が広がっていき、水が濁ってきますね。何が起きているかというと絵具という「物質」が移動しているわけで、これがまさに拡散という現象です。

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