「酸化数」って何を数値にしたものか説明できるか?

酸化数の決め方にはルールがあり、反応の前後でその数値が「増えた」か「減った」かで酸化されたか還元されたかがわかるんです。

今回は「酸化」「還元」の定義から「酸化数を求めるルール」について、化学実験を生業にしてきたライターwingと一緒に丁寧に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

1.酸化とは何か?還元とは何か?

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物質が酸素を受け取る、つまり酸素と化合する化学反応のことを酸化と呼び、この物質は酸化されたといいます。一方、物質が酸素を失う化学反応のことを還元と呼び、この物質は還元されたというのです。しかし、酸化還元には酸素の授受がない反応も多くあります。まずは、酸化と還元について詳しく解説していきましょう。

1-1.酸素を受け取る「酸化」と酸素を失う「還元」

先ほど説明したように、一番わかりやすいのが酸素のやり取りによる酸化還元反応です。例えば空気中で金属を加熱した時、金属と酸素が化学反応を起こし酸化物になります。この時金属は、酸素を受け取ったので酸化されたということです。

そして酸化物になっている金属を水素と反応させると、酸化物になる前の金属に戻り、水が発生します。酸化物になっていた金属はこの時、酸素を失ったので還元されたというのです。

1-2.水素を失う「酸化」と水素を受け取る「還元」

次に物質が水素を失う酸化と、水素を受け取る還元を見てみましょう。

2 H2S + O2 → 2 S + 2 H2O

硫化水素( H2S )と酸素( O2 )を反応させると、硫黄( S )と水( H2O )が生成します。この時、硫化水素は酸素分子に水素を取られてしまいました。ということは硫化水素は水素を失ったので酸化されたということになります。一方、酸素分子は水素を受け取ったので還元されたというのです。

1-3.電子を失う「酸化」と電子を受け取る「還元」

最後に電子の受け渡しによる酸化と還元を見ていきましょう。金属の銅( Cu )を酸素( O2 )と反応させると酸化銅( CuO )になります。この反応は 1-1. の金属と酸素を反応させて酸化物を得た反応と同じです。

ではこの反応を電子( e)に注目して見てみましょう。電子の受け渡しが見たいので、電子の動きがわかるように反応式を書いてみます。

2 Cu + O2 → 2 Cu2+ + 4 e + O2 → 2 Cu2+ + 2 O2- → 2 CuO

この時銅原子は電子を放出して酸化され酸素原子は電子を受け取って還元されたといえるのです。酸素や水素が関係しない反応でも、電子の受け渡しですべての酸化還元反応を説明することができます。電子を失う事を酸化される電子を受け取ることを還元されるという事を覚えておきましょう。

2.酸化数の求め方

ある原子が基準の状態から電子をいくつ受け取った、または失った状態かを示した数値酸化数といいます。酸化数はそれぞれの元素の電気陰性度の大きい小さいで決まるのですが、少し難しいのでわからなくても大丈夫です。

さきほど電子を失ったら酸化された、電子を受け取ったら還元されたという事になるとお話しましたね。ということは、この酸化数は原子やイオンがどのくらい酸化されたか?またはどのくらい還元されたかを示す数値として使うことができます。

酸化数は原子やイオン 1 つ 1 つに対して整数で表し、0 でないときは必ず +(プラス)か -(マイナス)を付けることを覚えておきましょう。

2-1.酸化数を求めるルール

酸化数が分からない原子やイオンについて、酸化数を求める時のルールを学んでいきましょう。まず単体か化合物かイオンかから基本ルールの 1 つを選びます。そのあと酸化数が分からない原子以外にサブルールを適用して、酸化数が分からない原子の酸化数を求めていきましょう。

基本ルール 1. 単体中の原子の酸化数は「 0 」とします。

例えば H2(水素分子)中の H(水素原子)の酸化数は「 0 」です。

基本ルール 2. 化合物全体の酸化数は「 0 」とします。

例えば H2O(水)全体の酸化数は「 0 」、H2SO4(硫酸)も「 0 」、CuO (酸化銅)も「 0 」です。

基本ルール 3. 単原子イオンの酸化数はその電荷と同じとし、多原子イオン中の原子の酸化数の総和は、その多原子イオンの電荷と同じとします。

例えば Na+(ナトリウムイオン)は「 + 1 」、Cl(塩化物イオン)は「 - 1 」、OH(水酸化物イオン)は「 - 1 」、SO42- (硫酸イオン)は「 - 2 」です。

サブルール 1. 化合物中の水素原子( H )の酸化数は「 + 1 」、酸素原子( O )の酸化数は「 - 2 」とします。

例えば H2O(水分子)中の H(水素原子)の酸化数は「 + 1 」、O(酸素原子)の酸化数は「 - 2 」です。

サブルール 2. 化合物中のアルカリ金属の酸化数は「 + 1 」、アルカリ土類金属の酸化数は「 + 2 」、ハロゲンの酸化数は「 - 1 」とします。 

例えば KCl(塩化カリウム)中の K(カリウム:アルカリ金属)の酸化数は「 + 1 」、Cl(塩素:ハロゲン)の酸化数は「 - 1 」、CaCl2(塩化カルシウム)中の Ca(カルシウム:アルカリ土類金属)の酸化数は「 + 2 」です。

2-2.理解を深める練習問題

酸化数の求め方のルールを覚えるために、練習問題をやってみましょう。

\次のページで「3.酸化された物質と還元された物質を見極めよう」を解説!/

問題 次の単体、化合物、イオンについて、カッコ内の原子の酸化数を求めましょう。

( 1 )  Zn  ( Zn )
( 2 )  NH3 ( N )
( 3 )  SO42- ( S )

( 1 )単体なので基本ルール 1. 単体中の原子の酸化数は「 0 」を適用し、Zn(亜鉛原子)の酸化数は「 0 」です。

( 2 )化合物なので基本ルール 2. 化合物全体の酸化数は「 0 」を適用し、さらにサブルール 1. 化合物中の水素原子( H )の酸化数は「 + 1 」から NH3 中の N(窒素原子)の酸化数を求めましょう。

求めたい窒素原子の酸化数を X と置き、X + ( + 1 ) × 3 = 0 から X = - 3  NH3  中の N(窒素原子)の酸化数は「 - 3 」となります。

( 3 )イオンなので基本ルール 3. 多原子イオン中の原子の酸化数の総和はその多原子イオンの電荷と同じを適用し、さらにサブルール 1. 化合物中の酸素原子( O )の酸化数は「 - 2 」を適用しましょう。

SO42- 中の S (硫黄原子)の酸化数を X と置き、X + ( - 2 ) × 4 = - 2 から X = + 6  SO42- 中の S(硫黄原子)の酸化数は「 + 6 」となります。酸化数が「 0 」でない場合には、必ずプラスかマイナスを付けるということに注意しましょう。

3.酸化された物質と還元された物質を見極めよう

ここまで酸化数について学んできましたが、酸化数の変化に注目して化学反応式を見てみるとその原子を含む物質が酸化されたのか還元されたのかがわかります。ある原子の酸化数が反応の前と後で増えた場合にその物質は酸化されたという事になり、減った場合にその物質は還元されたという事になるのです。

3-1.酸化された物質と還元された物質を化学反応式で見てみよう

3-1.酸化された物質と還元された物質を化学反応式で見てみよう

image by Study-Z編集部

では次の化学反応式について、酸化されたのは何か還元されたのは何かを見ていきましょう。

2 H2S(硫化水素) + SO2 (二酸化硫黄)→ 3 S (硫黄)+ 2 H2O(水)

まず、基本ルール1.から単体の酸化数は 0 なので、右辺の 3 S 中の S (硫黄原子)の酸化数は「 0 」です。

次に反応前の化合物中の原子の酸化数を求めます。左辺の H2S 中の S (硫黄原子)の酸化数は基本ルール 2.とサブルール 1.より「 - 2 」SO2 中の S の酸化数は基本ルール 2.とサブルール 1.より「 + 4 」です。

最後に酸化数が増えているか減っているかを調べます。左辺の H2S 中の S の酸化数は「 - 2 」右辺の S の酸化数は「 0 」より H2S 中のS の酸化数は増えているので H2S は酸化されたとわかりますね。

つぎに SO2 について見ていきます。左辺の SO2 中の S の酸化数は「 + 4 」右辺の S の酸化数は「 0 」より SO2 中の S の酸化数は減っているので SO2 は還元されたとわかるのです。

3-2.酸化剤と還元剤

酸化還元反応において相手を酸化する物質を酸化剤相手を還元する物質を還元剤といいます。

酸化剤自身は相手を酸化する時に電子を受け取って還元され、還元剤自身は相手を還元する時に電子を失い酸化されるのです。

3-1. の化学反応式で、酸化されたのは H2S で還元されたのは SO2 でしたね。ということは 3-1. の反応式では酸化剤は SO2 で還元剤は H2S ということになります。

還元された物質を酸化剤酸化された物質を還元剤と呼ぶことを覚えておきましょう。

酸化数とはある原子が基準状態からいくつ電子を受け取った又は失った状態かを数値で示したもの

酸化とは「酸素を受け取る・水素を失う・電子を失う」反応のことで、還元とは「酸素を失う・水素を受け取る・電子を受け取る」反応の事です。

基準状態から電子をいくつ受け取った又は失った状態かを数値で示す「酸化数」を反応の前後で比べることで、その原子を含む物質が酸化されたのか還元されたのかが分かります。

酸化数が分からない原子について酸化数を求める時は、まず基本ルールを適用してから、サブルールも使って求めましょう。

基本ルールは、単体中の原子の酸化数は「 0 」化合物全体の酸化数は「 0 」イオンの酸化数はその電荷と同じの 3 つです。

そしてサブルールは、化合物中の水素原子( H )の酸化数は「 + 1 」酸素原子( O )の酸化数は「 – 2 」アルカリ金属の酸化数は「 + 1 」アルカリ土類金属の酸化数は「 + 2 」ハロゲンの酸化数は「 – 1 」になります。

化学反応式の中の原子の酸化数を求めて、反応の前後で酸化数が増えていれば、その原子を含む物質は反応によって酸化されたといえ、酸化数が減っていれば反応によって還元されたといえるのです。

相手を酸化する物質つまり還元された物質を酸化剤相手を還元する物質つまり酸化された物質を還元剤ということを覚えておきましょう。

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化学物質の状態・構成・変化理科

簡単でわかりやすい!「酸化数」は何を数値にしたもの?求め方や酸化・還元も元研究員が詳しく解説

「酸化数」って何を数値にしたものか説明できるか?

酸化数の決め方にはルールがあり、反応の前後でその数値が「増えた」か「減った」かで酸化されたか還元されたかがわかるんです。

今回は「酸化」「還元」の定義から「酸化数を求めるルール」について、化学実験を生業にしてきたライターwingと一緒に丁寧に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

1.酸化とは何か?還元とは何か?

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物質が酸素を受け取る、つまり酸素と化合する化学反応のことを酸化と呼び、この物質は酸化されたといいます。一方、物質が酸素を失う化学反応のことを還元と呼び、この物質は還元されたというのです。しかし、酸化還元には酸素の授受がない反応も多くあります。まずは、酸化と還元について詳しく解説していきましょう。

1-1.酸素を受け取る「酸化」と酸素を失う「還元」

先ほど説明したように、一番わかりやすいのが酸素のやり取りによる酸化還元反応です。例えば空気中で金属を加熱した時、金属と酸素が化学反応を起こし酸化物になります。この時金属は、酸素を受け取ったので酸化されたということです。

そして酸化物になっている金属を水素と反応させると、酸化物になる前の金属に戻り、水が発生します。酸化物になっていた金属はこの時、酸素を失ったので還元されたというのです。

1-2.水素を失う「酸化」と水素を受け取る「還元」

次に物質が水素を失う酸化と、水素を受け取る還元を見てみましょう。

2 H2S + O2 → 2 S + 2 H2O

硫化水素( H2S )と酸素( O2 )を反応させると、硫黄( S )と水( H2O )が生成します。この時、硫化水素は酸素分子に水素を取られてしまいました。ということは硫化水素は水素を失ったので酸化されたということになります。一方、酸素分子は水素を受け取ったので還元されたというのです。

1-3.電子を失う「酸化」と電子を受け取る「還元」

最後に電子の受け渡しによる酸化と還元を見ていきましょう。金属の銅( Cu )を酸素( O2 )と反応させると酸化銅( CuO )になります。この反応は 1-1. の金属と酸素を反応させて酸化物を得た反応と同じです。

ではこの反応を電子( e)に注目して見てみましょう。電子の受け渡しが見たいので、電子の動きがわかるように反応式を書いてみます。

2 Cu + O2 → 2 Cu2+ + 4 e + O2 → 2 Cu2+ + 2 O2- → 2 CuO

この時銅原子は電子を放出して酸化され酸素原子は電子を受け取って還元されたといえるのです。酸素や水素が関係しない反応でも、電子の受け渡しですべての酸化還元反応を説明することができます。電子を失う事を酸化される電子を受け取ることを還元されるという事を覚えておきましょう。

2.酸化数の求め方

ある原子が基準の状態から電子をいくつ受け取った、または失った状態かを示した数値酸化数といいます。酸化数はそれぞれの元素の電気陰性度の大きい小さいで決まるのですが、少し難しいのでわからなくても大丈夫です。

さきほど電子を失ったら酸化された、電子を受け取ったら還元されたという事になるとお話しましたね。ということは、この酸化数は原子やイオンがどのくらい酸化されたか?またはどのくらい還元されたかを示す数値として使うことができます。

酸化数は原子やイオン 1 つ 1 つに対して整数で表し、0 でないときは必ず +(プラス)か -(マイナス)を付けることを覚えておきましょう。

2-1.酸化数を求めるルール

酸化数が分からない原子やイオンについて、酸化数を求める時のルールを学んでいきましょう。まず単体か化合物かイオンかから基本ルールの 1 つを選びます。そのあと酸化数が分からない原子以外にサブルールを適用して、酸化数が分からない原子の酸化数を求めていきましょう。

基本ルール 1. 単体中の原子の酸化数は「 0 」とします。

例えば H2(水素分子)中の H(水素原子)の酸化数は「 0 」です。

基本ルール 2. 化合物全体の酸化数は「 0 」とします。

例えば H2O(水)全体の酸化数は「 0 」、H2SO4(硫酸)も「 0 」、CuO (酸化銅)も「 0 」です。

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