混合気体の「分圧」って言葉を聞いたことがあるか?

2種類以上の気体の混合物の場合、同一の体積でそれぞれ単独に存在する状態に分けたときの圧力が分圧になるんですが、混ざっている気体を分けるってよくわからないよな。

今回は気体とはどういうものなのかから混合気体の全圧と分圧について、化学実験を生業にしてきたライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

1.気体の体積と圧力

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気体はほとんどの場合目に見えません。固体や液体と違って、ここにこれだけの量あるという事が認識しにくいですよね。それなのでまず、気体を頭の中でイメージできるようになるためのお話をしたいと思います。

少し遠回りだと思われるかもしれませんが、今回のテーマである「分圧」を理解する上で重要なのでお付き合いください。

ではまず、気体とはどういうものかについて解説していきましょう。

1-1.気体は熱運動をしている

わたしたちは少し離れた場所からでも匂いを感じて、今日の晩御飯を予測する事ができます。それは気体となった物質が空気中に混ざり広がり届くからです。

このように気体の分子は空間をたえず動いています。

この分子の不規則な運動を熱運動といい、熱運動によって分子が空間に広がることを拡散というので用語を覚えておきましょう。

1-2.気体が混ざるとはどういうことか

1-2.気体が混ざるとはどういうことか

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ここに気体 A が入った容器 UA と気体 B が入った容器 UB があるとします。気体 A が入った容器 UA と気体 B が入った容器 UB をくっつけて間の壁を取り払ったとき、それぞれの気体はどうなるでしょう?

気体Aはそれまでは容器 UA の中で熱運動により均一に拡散していました。しかし、容器 UA と容器 UB がくっつけられたことで動ける範囲が広くなり、壁を取り払った瞬間から徐々に容器 UB の中へも熱運動により拡散していき、ある程度の時間が経つと容器 UA + UB 内(今はくっついて大きな容器となっている)に均一に拡散します。

他の気体の分子があっても化学反応しない気体同士であれば、互いに独立し互いの存在は無視して空間内を動き回るのです。

気体 B も同様に壁を取り払った瞬間から徐々に容器 UA の中へも拡散していき、容器 UA + UB 内に均一に拡散します。

そして容器 UA + UB 内には気体 A と気体 B がそれぞれ互いに干渉せず均一に拡散して熱運動している状態になり、気体 A と気体 B は混ざり合った混合気体となったのです。

1-3.混ざっている気体のそれぞれの体積と圧力

1-3.混ざっている気体のそれぞれの体積と圧力

image by Study-Z編集部

では次に気体の体積と圧力についてお話していきましょう。

1-2.で登場した気体 A が入っている容器 UA について考えていきます。気体の体積というのは、その気体が動き回ることができる空間を指すのです。という事は気体 A の体積は容器 UA の容積ということになります。

そして気体 A の圧力とは、気体 A の粒子が容器 UA にぶつかって押す力のことです。気体 A は容器 UA に圧力 PA をかけていると仮定しましょう。

ここで、先ほどと同じように気体 A の入った容器 UA と気体 B の入った容器 UB をくっつけて間の壁を取り払ってみます。ある程度の時間が経って、容器 UA + UB 内に気体 A と気体 B が拡散した時、気体 A の体積はどうなったでしょうか。

気体の体積はその気体が動き回ることができる空間なので、気体 A の体積容器 UA + UB の容積になります。気体 B の体積も同様に、容器をくっつける前は容器 UB の中に入っていたので、もとの体積は容器 UB の容積でした。容器 UA と容器 UB をくっつけた後は、気体 B の体積は容器 UA + UB の容積になります。

では圧力はどうなるでしょうか?気体 A の圧力は気体の粒子が容器を押す力なので、動き回ることのできる範囲が広くなっても同じ力で容器を押すので、容器 UA + UB に対して圧力 PA をかけるのです。同様に気体 B の圧力についても、容器をくっつける前は容器 UB に圧力PB をかけていましたが、容器をくっつけた後は容器 UA + UB に対して圧力 PB をかけます。

\次のページで「2.全圧と分圧」を解説!/

2.全圧と分圧

気体の考え方がわかったところで、今回のテーマである分圧について解説していきましょう。

2 種類以上の気体が混ざり合ったものを混合気体といい、混合気体全体で示す圧力のことを全圧といいます。そして混合気体を構成する成分を、同じ体積でそれぞれの気体しかない状態に分けたときの圧力分圧というのです。

2-1.全圧とは?分圧とは?

分圧について先ほどの気体 A と気体 B を例にとって解説しましょう。

容器をくっつけた後の状態の気体 A と気体 B は混合気体となって容器 UA + UB の中をそれぞれ動き回っています。この容器 UA + UB の体積を 1 L としましょう。そしてこの混合気体は 1 L で 1 atm(アトム)という圧力を示すとします。

この時 1 atm が気体 A と気体 B が混ざり合った気体の全圧です。そしてこの混合気体から気体 A だけを 1 L の容器に移した時に 0.8 atm という圧力を示したとします。この 0.8 atm が気体 A の分圧です。

そして同じように気体 B だけを 1 L の容器に移した時に 0.2 atm という圧力を示したとします。この 0.2 atm が気体 B の分圧です。

そして混合気体のすべての成分の分圧の和は全圧に等しくなります。理想気体において分圧の和は全圧に等しくなるという法則ドルトンの分圧の法則というのです。

2-2.分圧とモル比の関係を理解する

混合気体において分圧比とモル比は等しくなります。混合気体中の 1 成分のモル数を混合気体全体のモル数で割った値をモル分率というので覚えておきましょう。

ではここで理想気体の状態方程式 P V = n R T( P : 圧力 V : 体積 n : 物質量=モル R : 気体定数 T : 温度 )を思い出しましょう。

体積(V)と温度(T)が同じであり、気体定数(R)は常に一定のため圧力(P)とモル(n)は比例関係にあることがわかります。

つまり温度と体積が変わらない条件で、例えば気体 A と気体 B のモル比が 4 : 1 で混ざっているとき、気体の分圧も 4 : 1 になるということです。その逆で気体の分圧が PA : PB = 4 : 1 だとわかっているときには、気体 A の物質量(モル):気体 B の物質量(モル)= 4 : 1 だとわかります。

2-3.分圧と全圧の関係と分圧とモル分率の関係を状態方程式から導く

2-3.分圧と全圧の関係と分圧とモル分率の関係を状態方程式から導く

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まず混合気体の分圧の和は全圧に等しいという事を、理想気体の状態方程式から導いてみましょう。混合気体が気体 A と気体 B の 2 種類からなるとします。

混合気体が入っている容器の体積は V 、温度は T のとき気体 A の分圧は PA × V = nA × R × T PA = nA × R × T ÷ V( 式 1 )となりますね。

同じように気体 B の分圧は PB × V = nB × R × T PB = nB × R × T ÷ V( 式  2 ) となり

混合気体の全圧は P  = ( nA + nB ) × R × T ÷ V( 式 3 )となります。

分圧の和を導きたいので、気体 A の分圧( 式 1 )と気体 B の分圧( 式 2 )を足しましょう。

PA + PB =( nA × R × T ÷ V )+( nB × R × T ÷ V)= ( nA + nB ) × R × T ÷ V  混合気体の全圧と等しくなりました。

次に分圧とモル分率の関係を導いてみましょう。

( 式 1 )÷ ( 式 3 ) より

PA ÷ P = nA × R × T ÷ V  (÷  ( nA + nB ) × R × T ÷ V )

PA = P × ( nA ÷ ( nA + nB ) )

気体 A の分圧混合気体の全圧に自身のモル分率をかけたものと等しくなるという事が導かれました。

分圧とは全圧にモル分率を掛けたもので、分圧の和は全圧に等しくなる

気体分子は空間を絶えず動いていて、その不規則な運動を熱運動といい、熱運動によって分子が空間に広がることを拡散といいます。

気体 A が入った容器と気体 B が入った容器をくっつけたとき、化学反応しない気体同士であれば、互いに干渉せず均一に拡散して熱運動している状態になり、混ざり合った混合気体となるのです。

気体の体積というのは、その気体が動き回ることができる空間を指します。そして気体の圧力とは、気体の粒子が容器にぶつかって押す力のことです。

混合気体全体で示す圧力のことを全圧といいます。そして、混ざり合っている気体を同じ体積でそれぞれの気体しかない状態に分けたときの圧力分圧というのです。

混合気体のすべての成分の分圧の和は全圧に等しくなります。理想気体において分圧の和は全圧に等しくなるという法則ドルトンの分圧の法則というのです。

そして混合気体において分圧比とモル比は等しくなります。

気体の分圧混合気体の全圧に自身のモル分率をかけたものと等しくなることを覚えておきましょう。

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化学物質の状態・構成・変化理科

3分で簡単「分圧」全圧との違いは?混ざっているのに圧力は分けられる?元研究員がわかりやすく解説

混合気体の「分圧」って言葉を聞いたことがあるか?

2種類以上の気体の混合物の場合、同一の体積でそれぞれ単独に存在する状態に分けたときの圧力が分圧になるんですが、混ざっている気体を分けるってよくわからないよな。

今回は気体とはどういうものなのかから混合気体の全圧と分圧について、化学実験を生業にしてきたライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

1.気体の体積と圧力

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気体はほとんどの場合目に見えません。固体や液体と違って、ここにこれだけの量あるという事が認識しにくいですよね。それなのでまず、気体を頭の中でイメージできるようになるためのお話をしたいと思います。

少し遠回りだと思われるかもしれませんが、今回のテーマである「分圧」を理解する上で重要なのでお付き合いください。

ではまず、気体とはどういうものかについて解説していきましょう。

1-1.気体は熱運動をしている

わたしたちは少し離れた場所からでも匂いを感じて、今日の晩御飯を予測する事ができます。それは気体となった物質が空気中に混ざり広がり届くからです。

このように気体の分子は空間をたえず動いています。

この分子の不規則な運動を熱運動といい、熱運動によって分子が空間に広がることを拡散というので用語を覚えておきましょう。

1-2.気体が混ざるとはどういうことか

1-2.気体が混ざるとはどういうことか

image by Study-Z編集部

ここに気体 A が入った容器 UA と気体 B が入った容器 UB があるとします。気体 A が入った容器 UA と気体 B が入った容器 UB をくっつけて間の壁を取り払ったとき、それぞれの気体はどうなるでしょう?

気体Aはそれまでは容器 UA の中で熱運動により均一に拡散していました。しかし、容器 UA と容器 UB がくっつけられたことで動ける範囲が広くなり、壁を取り払った瞬間から徐々に容器 UB の中へも熱運動により拡散していき、ある程度の時間が経つと容器 UA + UB 内(今はくっついて大きな容器となっている)に均一に拡散します。

他の気体の分子があっても化学反応しない気体同士であれば、互いに独立し互いの存在は無視して空間内を動き回るのです。

気体 B も同様に壁を取り払った瞬間から徐々に容器 UA の中へも拡散していき、容器 UA + UB 内に均一に拡散します。

そして容器 UA + UB 内には気体 A と気体 B がそれぞれ互いに干渉せず均一に拡散して熱運動している状態になり、気体 A と気体 B は混ざり合った混合気体となったのです。

1-3.混ざっている気体のそれぞれの体積と圧力

1-3.混ざっている気体のそれぞれの体積と圧力

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では次に気体の体積と圧力についてお話していきましょう。

1-2.で登場した気体 A が入っている容器 UA について考えていきます。気体の体積というのは、その気体が動き回ることができる空間を指すのです。という事は気体 A の体積は容器 UA の容積ということになります。

そして気体 A の圧力とは、気体 A の粒子が容器 UA にぶつかって押す力のことです。気体 A は容器 UA に圧力 PA をかけていると仮定しましょう。

ここで、先ほどと同じように気体 A の入った容器 UA と気体 B の入った容器 UB をくっつけて間の壁を取り払ってみます。ある程度の時間が経って、容器 UA + UB 内に気体 A と気体 B が拡散した時、気体 A の体積はどうなったでしょうか。

気体の体積はその気体が動き回ることができる空間なので、気体 A の体積容器 UA + UB の容積になります。気体 B の体積も同様に、容器をくっつける前は容器 UB の中に入っていたので、もとの体積は容器 UB の容積でした。容器 UA と容器 UB をくっつけた後は、気体 B の体積は容器 UA + UB の容積になります。

では圧力はどうなるでしょうか?気体 A の圧力は気体の粒子が容器を押す力なので、動き回ることのできる範囲が広くなっても同じ力で容器を押すので、容器 UA + UB に対して圧力 PA をかけるのです。同様に気体 B の圧力についても、容器をくっつける前は容器 UB に圧力PB をかけていましたが、容器をくっつけた後は容器 UA + UB に対して圧力 PB をかけます。

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