今回は「ダイオキシン」について勉強します。
ダイオキシンと言えばごみを燃やしたら発生する、有害物質というイメージがあるな。しかし、そもそもダイオキシンがどういうものか知っているか?実はダイオキシンという物質があるわけではない。これはある構造をした化学物質の総称なんです。ダイオキシンに関する事故や事件は日本以外でも起きている。
名前は知っているけどどんなものかわからないダイオキシンについて、科学館職員のたかはしふみかが解説します。
ライター/たかはし ふみか
不思議な現象を解明する理科が好きで理系に進んだリケジョ。科学についてまだまだ勉強中の科学館職員。
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ニュースなどで名前を聞く機会はありますが、そもそもダイオキシンとはどんなものでしょうか?
ダイオキシンとはポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、ダイオキシン様ポリ塩化ビフェニル(DL-PCB)の総称です。これらの物質も塩素の入った場所でさらに化学式と名前が異なります。PCDDには70種類以上、PCDEにはなんと135種類以上もの種類があるのです。ダイオキシン、という名前の物質があるわけではないのですね。ダイオキシンには419種類ほどあり、明らかな毒性があるのは31種類あります。この中で最も毒性が強いとされているのが上に構造式で示した2,3,7,8-TCDD(2,3,7,8-テトラクロロジベンゾパラダイオキシン)です。この毒性を1として他のダイオキシンの毒性を評価し、この毒性を表す単位をTEQといいます。
ダイオキシン類の共通点は塩素を持ったふたつのベンゼン環で構成されていることです。塩素を含む物質が燃えきれず不完全燃焼となった時や薬品類の合成の際に意図しない複合生物として発生します。
そもそもベンゼン環が分からない、という人のために補足です。
亀の甲ともいわれているベンゼン環。化学式で表すとC6H6となる、6個の炭素からできた正六角形の化合物です。ひとつの炭素に着目すると、炭素同士の二重結合と単結合、さらに水素とも結合しています。ベンゼンについてもっと理解を深めたい方にはこちらの記事がおすすめです。
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ダイオキシン類は基本的に常温で無色の固体です。水に溶けにくい一方で油脂類には溶解しやすいという性質を持っています。ダイオキシンは反応性に乏しく分解しづらいという安定した物質です。そのため、毒性をそのままに水や土壌の中にたまってしまいます。毒性を持ったものがそのまま環境中にあるのは危険な状態ですね。そのためダイオキシンには環境省によって環境基準が定められています。環境基準とは人の健康の保護、生活環境の保全のうえで維持されることが望ましいとされている基準のことです。大気、水質、水底の底質、土壌中のダイオキシン濃度が環境基準として定められています。
ダイオキシンといえばごみの焼却をした際に発生するイメージがありますね。実際にダイオキシンの一番の発生原因はごみの焼却です。しかし、他にも排ガスやたばこ、さらに山火事などでもダイオキシンは発生すると言われています。
先程も解説したようにダイオキシンは構造によってその毒性は異なり、最も毒性が強いのは2,3,7,8-TCDDです。人に対する発がん性があると言われています。
ベトナム戦争の時に散布された枯葉剤にもこの2,3,7,8-TCDDが含まれていました。そして確証はないものの奇形出産や発育移譲などの影響があったのではと言う説もあるのです。
ダイオキシンの毒性として次のようなものがあげられます。
一般毒性
致死毒性について人にどの適度影響があるかはっきりとはわかっていません。動物実験をしても、その生物の種類によって大きく異なっているからです。しかし、過去の事例から体重減少、肝臓代謝障害、心筋障害など様々な影響が現れることが明らかになっています。
生殖毒性
生殖毒性とは男性、女性が持つ生殖機能や胎児に対して有害な影響をおよぼす毒性のことです。例えば生殖毒性を持つものを摂取することで妊娠しづらくなったり、妊娠していた子に何らかの障害が現れる危険性があります。 マウスでの実験でダイオキシンに生殖毒性があると確認されているものの、人への影響については確実ではありません。
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人はどのような経路でダイオキシンを摂取しているのでしょうか?その経路は大きく二つに分けられます。一つは呼吸から、もう一つは食事からです。ダイオキシンが含まれた空気を吸うと当然体内にダイオキシンが入ってきます。では食事からの摂取はどのように起きるのでしょうか。
先ほど説明したようにダイオキシンは水に溶けづらく油には溶けやすい性質をしています。そのためダイオキシンは体内の脂肪にたまってしまうのです。そのためダイオキシンのいる環境で育った虫や草を通して魚や家畜がダイオキシンがを摂取し、それを人間が食べるという食物連鎖が起きてしまいます。このようにダイオキシンに汚染された食品が口から入ることを経口摂取といい、消化器官から体内にダイオキシンが吸収されているのです。
食物連鎖についてはこちらの記事をどうぞ。
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日本でダイオキシンが大きな問題となったのは1997年、大阪府で高濃度のダイオキシンが検出されたことです。ある地域のゴミ処理施設周辺で高濃度のダイオキシンが検出されました。その後焼却炉は運転停止となり、すぐに解体されています。
しかし、日本はもちろん海外でもダイオキシンに関する社会問題は昔から起きていたのです。ダイオキシンに関わる日本と海外で起きた大きな事件をご紹介します。
ダイオキシンが大きく問題となった大阪府の事件よりも30年も前の1968年、カネミ倉庫という会社で製造する油にダイオキシン類が混入するという事件が起きています。製造過程で脱臭のために使われていたPCB(ポリ塩化ビフェニル)が油に混入し、過熱されてダイオキシンとなってしまったのです。この油を摂取した人、さらにそのお腹にいた胎児に障害が発生しました。日本全国で1万人以上の人が被害を訴えたそうです。
セベソ事故とは1976年にイタリアで起きた農薬工場の爆発事故です。この事故によって近隣地域にダイオキシンが飛散してしまいました。そしてその後、この周辺地域で家畜の大量死や奇形出生率が高ま多と宝庫越されています。
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ダイオキシンとは物質名ではなく、ある共通した構造を持つ物質の総称です。ダイオキシン類は2つのベンゼン環と塩素を持っています。ダイオキシンの人体への害は健康や生殖にダメージを与えると考えられるものの、正確なことはまだわかっていません。
ダイオキシンに関する事件や事故は日本以外でも過去に起きています。ダイオキシン以外にも覚えておきたい環境問題があるので、原因物質とどんな症状が出たかを確認し、覚えておいてくださいね。