今回は細胞の死「アポトーシス」について勉強していこう。

ヒトの身体は無数の細胞からできている。これは毎日生まれ変わると同時に死んでいくものもあるんです。

体内に組み込まれた細胞死のプログラムについて化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.体内で起こる細胞の死

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ヒトの体はとても数えることのできないほどたくさんの細胞からできていますよね。その数は37兆個とも60兆個ともいわれていますが、これらの細胞は常に生まれ、死んでいきます。ヒトのような多細胞生物の場合、命ある限り身体を構成する細胞は常に新しい細胞であり続けようとするでしょう。つまり、各組織を良い状態で保たせるためには古い細胞や異常な細胞を取り除き、成長に合わせた変化をしていく必要があるのです。新しい細胞が生まれ、新しい組織がつくられていくのと同時に、死んでいく組織があるでしょう。細胞の死にはあらかじめプログラムされた死というものがあります。それが「アポトーシス」であり、細胞の自殺ともよばれるこのプログラムは私たちが胎児であったころから機能しているのです。

2.生体への作用

細胞が死ぬとき、それは主に2つの要因が考えられます。1つ目は何らかの物質によって意図せず死んでしまったとき(例えば放射線による細胞の損傷など)、2つ目は今回のテーマであるあらかじめプログラムされた細胞の死(アポトーシス)です。実際私たち多細胞の動物にどのように作用しているのか、見ていきましょう。

2-1.生体維持への役割

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多細胞生物である動植物には数多くのプログラムされた死があります。より良い状態へのメンテナンスとしての役割を持つアポトーシスは、次のような例で理解するといいでしょう。

1つ目はオタマジャクシです。オタマジャクシがカエルになるとき、尾はどこに消えてしまうのでしょうか。オタマジャクシのときは水中での生活になるため、尾が役立ってくれそうですね。しかしカエルになって陸上での生活が始まるとジャンプをするときに尾は邪魔になってしまうでしょう。そうならないように、オタマジャクシからカエルになる過程で尾の細胞が消えるようプログラムされているのです。

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もう1つはヒトの胎児について見ていきましょう。ヒトがヒトになるまでの進化の痕跡が見える例としても挙げられるのが水かきの存在です。パーの手をしたとき、指と指の間に少しですが水かきのような部分がありますよね。実はこの部分、胎児の頃には指先までつながった完全なる水かきだったのです。しかしこの部分も成長の過程で細胞が死んでいき、今のような形になりました。

\次のページで「2-2.アポトーシス制御異常による弊害」を解説!/

2-2.アポトーシス制御異常による弊害

正常な細胞は組織の状態に応じて増えたり減ったりして数を調整しています。何らかの損傷を受けた異常な細胞は、本来であれば増殖をやめ、アポトーシスによって消えていくでしょう。しかし体の命令を無視して細胞増殖を続けたり、アポトーシスを誘導するがん抑制遺伝子が機能しない場合には細胞のがん化につながるのです。

免疫機能においてはアレルギー等諸症状の原因となる抗原に対し、抗体とよばれるタンパク質をつくり出すことで異物(抗原)の排除のためにはたらきます。アポトーシスがうまく機能しない場合、本来であればアレルギーを引き起こさない自らの細胞や組織に対して自らの抗体が攻撃するようになってしまうのです。これにより、自らの細胞や組織によって免疫疾患が起こるという症例が報告されています。

3.アポトーシスの流れ

細胞でアポトーシスはどのように進むのか見ていきましょう。

1.細胞膜の構造変化:細胞1つ1つが収縮し、隣接している細胞から離れる

2.核濃縮:核が凝縮する

3.DNAの断片化:DNAが断片化して分解される

4.アポトーシス小胞の形成:断片化した核が細胞膜に包まれた凝集体であるアポトーシス小胞を形成する

5.除去:マクロファージがアポトーシス小体を認識し、飲み込んで消化する

image by Study-Z編集部

それではこう言い換えてみましょう。

細胞は1つ1つがくっついて存在していますよね。アポトーシスによって消える細胞は、細胞同士の結びつきから離れます。続いての変化は核で起こりますよ。細胞にとって必要不可欠なDNAをもつ核が壊れていきます。これによって細胞分裂によって新たな細胞をつくり出すことができなくなり、その細胞が実質的な死を迎えることになるのです。こうして壊れた細胞はアポトーシス小胞という固まりをつくり、これが死んだ細胞などのお掃除係であるマクロファージに食べられることで細胞は消えていきます。

重要なのは、この過程があらかじめプログラムされているということです。オタマジャクシのときには必要な尾もカエルになれば不要になる。だから自ら尾を消そうとするのです。ただし、何度も繰り返しますが、このタイミングはあらかじめプログラムされています。そのため、オタマジャクシのときに尾を傷つけた場合は自然治癒力によって傷は癒え、消えてなくなることはありません。不思議だと思いませんか?

\次のページで「4.アポトーシスとネクローシス」を解説!/

4.アポトーシスとネクローシス

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アポトーシスと合わせて覚えたいのがネクローシスです。日常的で目に見える細胞の死であるネクローシスについても解説していきます。

例えば薬品に触れてしまうことで火傷を負ったり、ただれてしまうことがありますね。傷口からばい菌が入って膿んでしまうこともあるでしょう。患部が圧迫されるなどして皮膚に障害がでることもあります。これは計画された細胞の自殺とは異なり、アクシデントによる「制御されない細胞の死」です。ネクローシスまたは壊死(えし)ともよばれています。

細胞は軽度の損傷を受けた程度であれば回復可能です。しかし細胞の膨張や回復を繰り返すうちに細胞膜が破れて内容物が流出することで不可逆的な損傷、つまり細胞死に至ります。アポトーシスの場合はアポトーシス小胞のよって内容物が包まれたまま取り込まれる一方、ネクローシスは細胞内の成分を周囲にまき散らすようにして消えていくため、炎症が起こることがあるのです。

損傷の原因は外傷、薬物、栄養不足や環境などが考えられますが、いずれも事故的であることを覚えておきましょう。

アポトーシスは細胞の定期メンテナンス

アポトーシスは細胞の自殺であり、あらかじめ死ぬことがプログラムされているものです。このはたらきによって計画的に細胞が死に、また新たな細胞が生まれていきます。一方でネクローシスは事故的な細胞の死であり、より身近な細胞の死であるといえるでしょう。多細胞生物は常に新しい細胞、より良い状態でい続けるために生まれては死んでを繰り返します。このサイクルの中でアポトーシスもネクローシスも重要な機能です。細胞死の計画性とそのプロセスについて整理して覚えられるといいですね。

 

画像引用:いらすとや

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理科生物細胞・生殖・遺伝

3分で簡単「アポトーシス」細胞の死はなぜ起こる?元塾講師がわかりやすく解説

今回は細胞の死「アポトーシス」について勉強していこう。

ヒトの身体は無数の細胞からできている。これは毎日生まれ変わると同時に死んでいくものもあるんです。

体内に組み込まれた細胞死のプログラムについて化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.体内で起こる細胞の死

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ヒトの体はとても数えることのできないほどたくさんの細胞からできていますよね。その数は37兆個とも60兆個ともいわれていますが、これらの細胞は常に生まれ、死んでいきます。ヒトのような多細胞生物の場合、命ある限り身体を構成する細胞は常に新しい細胞であり続けようとするでしょう。つまり、各組織を良い状態で保たせるためには古い細胞や異常な細胞を取り除き、成長に合わせた変化をしていく必要があるのです。新しい細胞が生まれ、新しい組織がつくられていくのと同時に、死んでいく組織があるでしょう。細胞の死にはあらかじめプログラムされた死というものがあります。それが「アポトーシス」であり、細胞の自殺ともよばれるこのプログラムは私たちが胎児であったころから機能しているのです。

2.生体への作用

細胞が死ぬとき、それは主に2つの要因が考えられます。1つ目は何らかの物質によって意図せず死んでしまったとき(例えば放射線による細胞の損傷など)、2つ目は今回のテーマであるあらかじめプログラムされた細胞の死(アポトーシス)です。実際私たち多細胞の動物にどのように作用しているのか、見ていきましょう。

2-1.生体維持への役割

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多細胞生物である動植物には数多くのプログラムされた死があります。より良い状態へのメンテナンスとしての役割を持つアポトーシスは、次のような例で理解するといいでしょう。

1つ目はオタマジャクシです。オタマジャクシがカエルになるとき、尾はどこに消えてしまうのでしょうか。オタマジャクシのときは水中での生活になるため、尾が役立ってくれそうですね。しかしカエルになって陸上での生活が始まるとジャンプをするときに尾は邪魔になってしまうでしょう。そうならないように、オタマジャクシからカエルになる過程で尾の細胞が消えるようプログラムされているのです。

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もう1つはヒトの胎児について見ていきましょう。ヒトがヒトになるまでの進化の痕跡が見える例としても挙げられるのが水かきの存在です。パーの手をしたとき、指と指の間に少しですが水かきのような部分がありますよね。実はこの部分、胎児の頃には指先までつながった完全なる水かきだったのです。しかしこの部分も成長の過程で細胞が死んでいき、今のような形になりました。

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