この記事では「生知安行」について解説する。
端的に言えば生知安行の意味は「生まれながらにして人倫の道を知り、考えることなく実行できること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
10数年間、中高生に学習指導をしているライターヤマトススムを呼んです。一緒に「生知安行」の意味や例文、類語などを見ていきます。
ライター/ヤマトススム
10数年の学習指導の経験があり、とくに英語と国語を得意とする。これまで生徒たちを難関高校や難関大学に導いてきた。
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それでは早速「生知安行」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。読み方は「せいちあんこう」です。基本的な意味を確認したあとに、語源、そして詳しい使い方までチェックしていきますよ。
「生知安行」には、次のような意味があります。まずは辞典に掲載されている意味から確認し、漢字ごとの意味も確認していきましょう。
1.生まれながらに物事の道理に通じ、安じてこれを実行すること。
出典:デジタル大辞泉(小学館)「生知安行」
「生知」は学ばなくても生まれながらにして人の道を知っていること、「安行」のほうは心のままに行うことやくもなく道を行くことを表しています。
生まれながらに仁の道を知っており苦もなく道を行くことが聖人の理想の境地であり、人倫の道を行く一つの段階として「生知安行」と表現していますよ。
次に「生知安行」の語源を確認しておきましょう。
「生知安行」の由来は、儒教における四書の一つである『中庸(ちゅうよう)』です。四書は、ほかに『論語(ろんご)』『大学(だいがく)』『孟子(もうし)』がありますよ。
そこでは、道と徳について、生まれながらに弁(わきま)えていることを「生知」、学習してわきまえることを「學知」、苦しんでわきまえることを「困知」と表しています。また、実践に関しての三つは、自然に行えることを「安行」、意識して行えることは「利行」、努力を重ねて行うことが「勉行」です。
これらを組み合わせて、「生知安行」となります。
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「生知安行」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。文法的な面からもチェックしていきますよ。
1.特別な教育を受けずとも、生知安行のごとく徳がありみんなに認められている人もいる。
2.彼の振る舞いは生知安行を思わせるが、管理されたのではなく家庭にそういう文化があったからだろう。
例文1.は、特別に徳についての教育を受けていない人でも、もともともって生まれたものがある人もいるということです。例文の2.では、自然な徳を感じさせる振る舞いには、管理されて身についたものではなく各家庭の文化によって自然に身につくこともあるということを表していますよ。
文法的に見ていくと、例文1.は「生知安行の…」、例文2.のほうは「生知安行を…」ということで、いずれも四字熟語を名詞のカタマリとして使っています。こういった使い方が基本です。
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ここからは、類義語から対義語、英訳というメニューで見ていきます。まずは、「生知安行」の類義語についての説明です。非常に近い意味の四字熟語や関連する四字熟語もあるので、正確な意味をチェックしながら見ていきましょう。
「生知安行」の類義語には、「良知良能(りょうちりょうのう)」があります。意味は、生まれたときにから身についている知恵や能力のことです。「良知」は生まれながらの心のはたらきのこと、「良能」は生まれながらにしてもっている才能のことを表しています。才能の内容は限定的なものではないので、幅広く使うことができる表現です。
とくに、経験や教育で学んだものではない力についてのことであり、孟子の人は本来は善良であるという性善説に基づいた考え方となっていますよ。
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もう一つの類義語には、「天資英明(てんしえいめい)」があります。生まれつきすぐれていて賢明な資質を備えていることやその人のことという意味です。「天資」は生まれながらにして天から与えられた資質のこと、「英明」はすぐれていて賢いことやそのようすのことを表しています。
「英明」の部分には、才知がすぐれているだけでなく、別途物事の道理にもすぐれているという意味合いもあるので、「生知安行」とは意味が近いと言えますね。
次に、「生知安行」の対義語についての説明です。正反対の意味の対義語やキーワードのとらえ方によっては対義語となる表現について二つ用意したので、一緒に見ていきましょう。
「生知安行」の対義語には、「人之性悪(じんしせいあく)」があります。意味は、人間の本来の性質は悪であるということです。
これは『荀子(じゅんし)』の冒頭の四字であり、人は生まれながらにして、利益を好んだり、妬み憎んだり、美声美色を好んだりすることから、悪の性質を持つものだとしています。それでも、努力などによって善へなることができるので、学ぶことが大切だとして『荀子』の第一篇は「勧学」となっていますよ。
もう一つの対義語には、「同声異俗(どうせいいぞく)」があります。生まれながらの性質は同じであり、環境や教育によって人物に差が出るという意味です。生まれたばかりの赤ちゃんの泣き声は誰も同じであるが、成長していくと風俗や週間を異にするということがもとになっています。
生まれながらに人道を身につけている「生知安行」に対し、「同声異俗」では生まれたときは同じだということなので、対義語として紹介をしました。
「生知安行」の英訳には、「natural moral sense」があります。直訳すると「生まれながらの道徳心」です。「natural」は自然という意味から「生まれ持った」という意味もあります。
ほかには、「moral sense」の代わりに「conscience(良心、道義心)」を使っても、ほぼ同じような意味を表すことができますよ。
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今回の記事では「生知安行」の意味・使い方・類語などを説明しました。
「生知安行」の基本的な意味は、生まれながらに物事の道理に通じ実行することです。実際のところ、生まれながらにどうであったかは、数値を測るわけでもなく、検定に合格するわけでもなく、資格を取得するわけでもないのでわかりません。しかし、そう思わせるものがあるということは間違いのないところですね。