3分で簡単マラリア対策用農薬「DDT」使用が禁止されたのはなぜ?元塾講師がわかりやすく解説
かつて殺虫剤として使われていた農薬ですが、今はその危険性のために使用されることはなくなったんです。
なぜ使用が禁止されたのか、現在はどう扱われているのか、化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。
ライター/Ayumi
理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。
1.DDTとは
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「DDT(ディーディーティー)」という名前を初めて聞く人も多いでしょう。これは昭和の時代に使われていた殺虫剤として使われていた農薬の1つです。dichlorodiphenyltrichloroethane(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)という名称の頭文字をとってDDTとよばれています。化学物質の名称は物質の基本構造、含まれる元素やその配置によって定められるものです。(ただし、このDDTというのは正式なものではなく、正式化学名は2,2-bis (p-chlorophenyl)-1,1,1-trichloroethaneとされています。)なぜこういった化学名になるかの説明は省きますが、今後も耳にする機会があるかもしれません。こういった化学名に注目してみるとその規則性がわかるかもしれませんね。
1-1.殺虫剤としてのDDT
DDTは日本でいう明治時代、ある科学者によって発見された物質です。その後数十年が経って殺虫効果が発見され、アメリカによって第二次世界大戦中に殺虫剤として実用化に至りました。DDTは大量生産がしやすく安価なうえに効果がいいとして広く用いられるようになったのです。さらに人体や家畜への被害がないとされたことから普及率は上がる一方だったといいます。ところで、戦争と殺虫剤に何の関係が?と思うでしょう。農作物に被害を与える虫への対策というよりは、戦争によって出た多くの死体や衛生環境の良くない場所にわくハエを退治するために用いられたのです。(実際のところ、死体や排せつ物が多すぎて期待するほどの効果は得られなかったというエピソードもあります。)
日本でも戦争後は衛生環境が悪くシラミが蔓延した時代、アメリカ軍によって持ち込まれたDDTが用いられるようになりました。市街地では軍機を用いた空中散布もされたようです。その後は次第に衛生状況が改善され、農業用の殺虫剤として使われるようになりました。
2.危険性が明らかに
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安価で製造できるうえに少量で効果があり、さらに人や家畜への影響がないとされたDDTでしたが、次第に実態が明らかになってきたのです。日本での例にもあるように、DDTは空中散布することによって広い範囲で使われるようになりました。それにより、広い範囲で動物への影響が懸念されるようになったのです。
その例として環境ホルモン作用が挙げられます。これは化学物質が生物のホルモン合成を阻害したり、逆に異常合成させたりする作用です。また、発がん性物質であるとする研究結果も報告されています。さらに問題なのは、DDTが分解される過程で生じるDDE、DDAという物質は化学的に非常に安定しているということです。つまり、分解されにくく、自然界に長く残ってしまう(残留農薬)ということを意味します。それによって環境に影響を与える可能性が指摘されるだけでなく、植物から家畜へ、家畜から人へと生物の体内に化学物質が濃縮されてしまう(生物濃縮)ことがわかったのです。
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