今回はローレンツ変換について解説していきます。

特殊相対性理論とはガリレオ変換が間違っていて、正しくはローレンツ変換であるという理論のことです。ローレンツ変換とはどのようなものであるか学んでみよう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

ガリレオ変換

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特殊相対性理論によってローレンツ変換が正しいとされるまでは、ガリレオ変換が正しいと考えられていました。ニュートン力学はガリレイ変換が正しいとしていますし、実際、日常生活においてはガリレイ変換が正しいように見えます。まずはローレンツ変換を学ぶ前にガリレオ変換について復習しましょう。

ガリレオ変換.その1

ガリレオ変換.その1

image by Study-Z編集部

ニュートン力学においては上記の慣性の法則とよばれる法則存在しいます。しかし、静止とか等速運動という言葉は「何に対して」静止しているのか、あるいは等速運動をしているのかを言わなければ意味不明です。つまり、物体の位置を示す座標としてどのような座標系をとるのか示さないと成立しません

日常の運動を記述する場合は、大抵地面に固定した座標系を採用しています。そしてこの座標系で、近似的ではありますが慣性の法則がなりたっているのです。

ガリレオ変換.その2

しかし地球は自転し、かつ太陽の周りを公転しており、その効果により厳密には慣性の法則は成り立っていません。さらに太陽系も銀河系のなかで回転運動をしており、その銀河系自体も運動しています。いったいどの座標系を採用すれば厳密に慣性の法則が成立しているのでしょうか。

しかし、宇宙の中で私たちがどうような運動をしているかが完全にわからないと、慣性の法則が成立している座標系がわからないというのでは何もわかりませんそこでニュートン力学では、慣性の法則が成立している座標系を慣性系と定義しています

ガリレオ変換.その3

ある座標系で等速運動している物体は、その座標系に対して等速運動している座標系でもやはり等速運動しています。したがって、慣性系に対して等速運動している座標系でも慣性の法則が成立しているはずです。つまり、慣性系に対して等速運動している座標系はすべて慣性系であり無限に存在していることになります。

そして無限に存在している慣性系は平等同格であり、特別な座標系というのはまったくありません。

ガリレオ変換.その4

ガリレオ変換.その4

image by Study-Z編集部

上記がニュートンの第二法則であり、それを式で表したのが1式です。ここでmは質点の質量、xは質点の座標、tは時間でfは質点に働く力になります。この座標系をx系と呼びましょう。この式は別の慣性系座標x'で表現しても同じ2式になるはずです。ここでは簡単のため図のようにx'系はx系に対して速度vでx軸方向に運動している座標系としましょう。

するとその座標変換は3式となるはずです。この二つの慣性系の間を結ぶ座標変換をガリレイ変換と呼びます。この3式を1式に代入すると2式がでてくるのがわかるでしょう。このように物理法則がどの座標系でも同じ形になることを相対性原理と呼びます。

\次のページで「ローレンツ変換」を解説!/

ローレンツ変換

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ガリレオ以来、ずっと人類はガリレオ変換が正しいと考えていたわけですが、1887年にマイケルソンとモーリーが行った実験により、すべての慣性系において光速度は不変であるということを示唆する実験結果がでてしまいます。これは簡単に言えばガリレオ変換が間違っているということです。そこで有名なアルバート・アインシュタインがローレンツ変換が正しいとする特殊相対性理論を生み出しました。

ローレンツ変換.その1

ローレンツ変換.その1

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アインシュタインは上記の三つの条件を指導原理としてガリレオ変換を拡張して、正しい座標変換を求めました。まず一番目の条件により座標変換は上記の1式のような形でなければなりません。なぜならtやxの二次の項がでてくるなら、等速運動が加速運動になってしまうからです。1式は行列で表現してあります。

x'系での時間t'とx系での時間tは異なるとしていることに注目しましょう。アインシュタインはそれまで常識とされていた、座標系に無関係に時間は流れるという絶対時間の概念を放棄したのです。絶対時間の概念を放棄しない限り正しい変換は導けないと見抜いたのでした。ちなみに、cとは光速のことです。

ローレンツ変換.その2

ローレンツ変換.その2

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簡単のため、ガリレオ変換の時と同じようにx'系がx系に対してx軸方向に速度vで運動しているとしましょう。同様にt=t'=0で両座標系は完全に時間を含め完全に重なっているとします。この条件により多くの項が0になるため、1式は2式のようになるはずです。x系の原点Oはx'系上では、x'軸の負の方向に速度vで移動するのでそのx'系での座標は3式になります。

これは2式にx=0を代入して求められる原点Oの運動の式である4式と一致しなければなりません。よって5式の関係が導けます。

ローレンツ変換.その3

ローレンツ変換.その3

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同様にx'系の原点O'は、x系ではx軸上を正の方向に速度vで運動しているのですから6式となります。これは2式にx'=0を代入して求められた運動7式と一致していなけらばなりません。つまり8式の関係がでてきます。よって、a00=a11でなければならないはずです。ここで便宜上a00とa11をɤとします。

次に、時刻t=t'=0に原点からx軸方向に光を放出したとしましょう。放出された光はx系においてはx=ctと運動していきます。これを2式を用いてx'系の座標に変換するとでてくるのが9式です。一方、光速度不変の原理から、x'系において放出された光も同様にx'=ctと運動するでしょう。よってctとxの変換式は10式になるはずです。

ローレンツ変換.その4

ローレンツ変換.その4

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10式の座標の逆変換は11式になります。この逆変換は、x'系からそれに対してx'方向に速度-vで運動しているx系への座標変換に対応するはずです。したがって、2式の変換式において、座標値に「'」がついているもといないものとを入れ替え、速度vを-vに置き換えたものと同じものになるでしょう。これは12式となり、この式は11式と一致しなればならないのです。

よってɤは13式になります。したがって、2式は上記の14式となりこれがローレンツ変換とよばれる変換式です。

\次のページで「ローレンツ変換.その5」を解説!/

ローレンツ変換.その5

ローレンツ変換.その5

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上記のローレンツ変換は速度vが光速cに比べて十分に小さい極限を考えるとガリレオ変化に帰着します。ローレンツ変換は最初にローレンツによって、マクスウェル方程式が座標変換に対して不変である条件から求められました。しかし、ローレンツはこれが時空の基本的性質であるということには気づかなかったのです。

このローレンツ変換は二つの座標系がx方向に相対速度をもつ特別な場合のローレンツ変換になります。しかし、相対速度がどんな方向であっても相対速度の方向をx座標にとるようにすれば、いつでもこの式を用いて変換することが可能です。

相対性理論の奥深い世界

この記事で紹介したように、光速度がどの慣性系でも同じ速度であるという原理を認めれば、ローレンツ変換は比較的簡単な考察で出てきますし、ローレンツ変換自体もそれほど複雑ではありません。しかし、その結果は絶大です。慣性系によって時間の速さが変わったり、物体の長さが縮むなどの不思議な現象がローレンツ変換を少し調べれば存在することがわかります。

どれも常識に反することばかりで、はじめは随分戸惑うでしょう。アインシュタインの偉大さは、自分の直観にしたがって常識の方が間違っていると喝破したことでした。機会があれば、是非不可思議な相対性理論の世界を味わってみてください。

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物理理科統計力学・相対性理論

3分で簡単「ローレンツ変換」特殊相対性理論の要を理系ライターがわかりやすく解説

今回はローレンツ変換について解説していきます。

特殊相対性理論とはガリレオ変換が間違っていて、正しくはローレンツ変換であるという理論のことです。ローレンツ変換とはどのようなものであるか学んでみよう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

ガリレオ変換

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特殊相対性理論によってローレンツ変換が正しいとされるまでは、ガリレオ変換が正しいと考えられていました。ニュートン力学はガリレイ変換が正しいとしていますし、実際、日常生活においてはガリレイ変換が正しいように見えます。まずはローレンツ変換を学ぶ前にガリレオ変換について復習しましょう。

ガリレオ変換.その1

ガリレオ変換.その1

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ニュートン力学においては上記の慣性の法則とよばれる法則存在しいます。しかし、静止とか等速運動という言葉は「何に対して」静止しているのか、あるいは等速運動をしているのかを言わなければ意味不明です。つまり、物体の位置を示す座標としてどのような座標系をとるのか示さないと成立しません

日常の運動を記述する場合は、大抵地面に固定した座標系を採用しています。そしてこの座標系で、近似的ではありますが慣性の法則がなりたっているのです。

ガリレオ変換.その2

しかし地球は自転し、かつ太陽の周りを公転しており、その効果により厳密には慣性の法則は成り立っていません。さらに太陽系も銀河系のなかで回転運動をしており、その銀河系自体も運動しています。いったいどの座標系を採用すれば厳密に慣性の法則が成立しているのでしょうか。

しかし、宇宙の中で私たちがどうような運動をしているかが完全にわからないと、慣性の法則が成立している座標系がわからないというのでは何もわかりませんそこでニュートン力学では、慣性の法則が成立している座標系を慣性系と定義しています

ガリレオ変換.その3

ある座標系で等速運動している物体は、その座標系に対して等速運動している座標系でもやはり等速運動しています。したがって、慣性系に対して等速運動している座標系でも慣性の法則が成立しているはずです。つまり、慣性系に対して等速運動している座標系はすべて慣性系であり無限に存在していることになります。

そして無限に存在している慣性系は平等同格であり、特別な座標系というのはまったくありません。

ガリレオ変換.その4

ガリレオ変換.その4

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上記がニュートンの第二法則であり、それを式で表したのが1式です。ここでmは質点の質量、xは質点の座標、tは時間でfは質点に働く力になります。この座標系をx系と呼びましょう。この式は別の慣性系座標x’で表現しても同じ2式になるはずです。ここでは簡単のため図のようにx’系はx系に対して速度vでx軸方向に運動している座標系としましょう。

するとその座標変換は3式となるはずです。この二つの慣性系の間を結ぶ座標変換をガリレイ変換と呼びます。この3式を1式に代入すると2式がでてくるのがわかるでしょう。このように物理法則がどの座標系でも同じ形になることを相対性原理と呼びます。

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