この記事では「水温躍層」について解説する。

端的に言えば水温躍層の意味は「海水などの水温が水深に対して大きく変化する層」のことですが、詳しく知っておくことで、使いこなせるシーンが増えるぞ。

元塾講師で、解説のわかりやすさに定評のあるgekcoを呼んです。一緒に「水温躍層」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/gekco

本業では出版物の校正も手がけ、一般教養に強い。豊富な知識と分かりやすい解説で好評を博している。

「水温躍層」の意味や語源・使い方まとめ

image by PIXTA / 43438334

水温躍層は「すいおんやくそう」と読みます。それでは、さっそく「水温躍層」について詳しくみていきましょう。

「水温躍層」の意味は?

「水温躍層」には、次のような意味があります。

海洋や湖において、ある深度を境に水温が急激に変化する層。温度躍層。変水層。サーモクライン。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「水温躍層」

水温躍層とは、海洋や湖沼で、深さに対して温度が急激に変化する層のことをいいます。お風呂や温水プールでも同様の現象がみられますが、厳密には自然界の現象のことを指すため、あまり生活の場面で使用する言葉ではありません。主に生態学や生物学などの科学分野で使用される専門用語です。熱帯地方などの温暖な気候の場所や夏場など暖候期に特に形成されやすくなります。同じ場所であっても、夏季と冬季など季節によって水温躍層が消滅したり、水温躍層のある深度が変わるようです。国際的にみられる現象で、日本近海でも観測されています。

「水温躍層」の由来は?

使われている漢字から、水温が変化する層を指す言葉だということは見当がつきますが、なぜ「」という文字を使って「躍層」と呼ぶのか、不思議ですね。

「躍」という文字には「躍る(おどる)」という意味もありますが、「跳躍」という熟語もあるように「とびはねる」という意味もあるのです。水温躍層は、高い温度から低い温度へ徐々に移り変わっていくのではなく、高温の層と低温の層にはっきり分かれる層のことをいいます。段階的な変化を飛び越えて不連続な層になっているので、躍層というのです。なお、水温変化の躍層なので水温躍層といいますが、海洋では塩分濃度の躍層が存在します。この躍層が塩分躍層です。また、空気では躍層が形成されにくいため、一般的に温度躍層といった場合も水温の躍層を指します。

\次のページで「「水温躍層」の使い方・例文」を解説!/

「水温躍層」の使い方・例文

image by PIXTA / 61748791

水温躍層は水温変化の層を指す専門用語で、比喩表現を含めて専門用語以外での用例のない言葉です。専門用語であることを踏まえて、例文をみていきましょう。

・その海域では水温躍層により、生物の移動が妨げられている。

・小規模な池では水深が浅いため、水温躍層が形成されない。

・水温の鉛直分布をグラフにすることで、水温躍層の視覚化を試みた。

いずれも専門用語としての用例なので、まったく知識のない方にはわかりにくい例文かもしれません。

1つ目の例文では、水温躍層があることで生き物が移動できなくなっていることを示しています。魚類やプランクトンなどの変温動物は、急激に水温が変わると命に危険が及ぶため、水温躍層によって移動ができなくなってしまうことがあるのです。

2つ目の例文では、ある程度の深さがないと水温躍層ができないことを示しています。水温によって2層に分かれるためにはある程度の深さが必要なので、水深1メートル程度の池などでは水温躍層がない場合があるのです。

3つ目の例文では、水深に対する水温の変化をグラフに表すことで、水温躍層を目で見えるようにしようとしていることを示しています。水温躍層という名前はつけられているものの、実際の層が目で見えるわけではありません。そのため、湖沼や海洋に行って視覚的に水温躍層を見ることはできないのです。水温躍層の存在を確かめるためには、この例文のように水深ごとの水温を調べてグラフにする必要があります。

なお、水温躍層を専門用語以外の用法で用いるのは間違いなので、注意しましょう。

・店長と店員たちの間には、まるで水温躍層のような壁が立ちはだかっていた。

・運転初心者にとって、高速道路の合流は水温躍層のようで、入り込むことが難しい。

これらの例文では、人間関係や道路状況を水温躍層にたとえて表現しています。このような使い方は原則として間違いなので、違う表現を使うようにしましょう。

\次のページで「「水温躍層」を詳しく知ろう!」を解説!/

「水温躍層」を詳しく知ろう!

image by PIXTA / 47759677

水温躍層は、海洋や湖沼において水深に対して水温が変わる層のことで、自然現象のひとつです。専門用語ということもあり、あまり一般的な言葉ではありませんが、私たちの生活とも関わりのある現象という面があります。水温躍層とはどのような現象なのか、さらに詳しくみていきましょう。

「水温躍層」はなぜできる?

エアコンのコマーシャルなどで、「温かい空気は部屋の上に、冷たい空気は下に来る」といわれていますよね?同じことが水でも起こるのです。これには「密度」が関係していて、空気も水も温度が高いほど密度が低く、温度が低いほど密度が高くなります。密度が高ければ高いほど重くなるため、冷たいものは下の方に、温かいものは上の方に分かれていくのです。

特に寒い場所では、水面付近の水は冷却されて温度が低下し、重くなるため下層へ沈み、表層と下層の水が混ざるため、あまり大きな温度変化はありません。しかし、気温が高いと表層の水が冷やされず下層へ沈まないため、表層の水と下層の水が混ざらなくなるのです。その結果、表層の水はずっと温度が高いまま、下層の水はずっと温度が低いままになるため、表層と下層の境界に大きな温度変化が起こります。これが、水温躍層です。

ちなみに、密度などの変化によって表層の水と下層の水が混ざることを、対流といいます。水温躍層が形成されたとき、表層の水は表層の中だけで対流が起こって水が混合されるので、海面や湖面などの水面から水温躍層まではほとんど同じ水温です。この表層のことを、表層混交層といいます。

水温躍層の影響

image by PIXTA / 53990421

それでは、水温躍層があるとどのような影響があるでしょうか。

海洋でも湖沼でも、水中には様々な生き物が生活しています。中でも重要なのは「プランクトン」という小さな生き物です。

植物プランクトンは水中の栄養分を吸収して数を増やしていきます。その植物プランクトンは、ミジンコなどの動物プランクトンに食べられ、動物プランクトンがその数を増やすのです。動物プランクトンは小さな魚などの餌となり、動物プランクトンを食べた魚などの生き物はより大きな生き物の餌となります。それらの生き物のフンや死骸が栄養となり、植物プランクトンに吸収されるのです。つまり、植物プランクトンがいないと他の生き物は生きていけず、植物プランクトンは水中の栄養分がないと生きることができません。

生き物のフンや死骸は下層へと沈みますが、栄養分は対流によって水と一緒に表層へと運ばれます。このとき、水温躍層があると表層まで栄養分が運ばれず、表層の植物プランクトンがいなくなるのです。もちろん他の生き物も、水温躍層がある場所の表層では生活できなくなります。一般的に冬や北国のほうが海産物が豊富なのは、水温躍層が影響しているのです。一方、植物プランクトンがいないほうが水は透明なので、冬の海や南の海は水がきれいに見えます。

さらに、水温躍層は水中での音の伝わり方にも影響しているのです。水温躍層を境に、水中の音が垂直方向に対して届かなくなってしまいます。このため、水温躍層を挟んだ位置関係では、音波で魚群や潜水艦を探知するソナーが機能しなくなることがあるのです。一方、水温が均一な水中では音がより遠くまで届く性質があり、クジラのエコーロケーションはこの性質を利用していると考えられています。

「水温躍層」を使いこなそう

この記事では、水温躍層について、意味や内容を詳しく紹介しました。水温躍層という言葉自体は専門用語で、日常生活で使う場面はほとんどありません。逆に、比喩的な表現でも使うことはないので、使うべきでない場面で誤って使わないよう、注意が必要です。

熟語として深める要素はあまりないのですが、水温躍層そのものについては、環境や水産、科学技術など多くの分野に関わりのある重要な項目だといえます。この記事の後半で解説した内容もその一部なので、ぜひ覚えておいてくださいね。

" /> 【四字熟語】「水温躍層」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説! – Study-Z
国語言葉の意味

【四字熟語】「水温躍層」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

この記事では「水温躍層」について解説する。

端的に言えば水温躍層の意味は「海水などの水温が水深に対して大きく変化する層」のことですが、詳しく知っておくことで、使いこなせるシーンが増えるぞ。

元塾講師で、解説のわかりやすさに定評のあるgekcoを呼んです。一緒に「水温躍層」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/gekco

本業では出版物の校正も手がけ、一般教養に強い。豊富な知識と分かりやすい解説で好評を博している。

「水温躍層」の意味や語源・使い方まとめ

image by PIXTA / 43438334

水温躍層は「すいおんやくそう」と読みます。それでは、さっそく「水温躍層」について詳しくみていきましょう。

「水温躍層」の意味は?

「水温躍層」には、次のような意味があります。

海洋や湖において、ある深度を境に水温が急激に変化する層。温度躍層。変水層。サーモクライン。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「水温躍層」

水温躍層とは、海洋や湖沼で、深さに対して温度が急激に変化する層のことをいいます。お風呂や温水プールでも同様の現象がみられますが、厳密には自然界の現象のことを指すため、あまり生活の場面で使用する言葉ではありません。主に生態学や生物学などの科学分野で使用される専門用語です。熱帯地方などの温暖な気候の場所や夏場など暖候期に特に形成されやすくなります。同じ場所であっても、夏季と冬季など季節によって水温躍層が消滅したり、水温躍層のある深度が変わるようです。国際的にみられる現象で、日本近海でも観測されています。

「水温躍層」の由来は?

使われている漢字から、水温が変化する層を指す言葉だということは見当がつきますが、なぜ「」という文字を使って「躍層」と呼ぶのか、不思議ですね。

「躍」という文字には「躍る(おどる)」という意味もありますが、「跳躍」という熟語もあるように「とびはねる」という意味もあるのです。水温躍層は、高い温度から低い温度へ徐々に移り変わっていくのではなく、高温の層と低温の層にはっきり分かれる層のことをいいます。段階的な変化を飛び越えて不連続な層になっているので、躍層というのです。なお、水温変化の躍層なので水温躍層といいますが、海洋では塩分濃度の躍層が存在します。この躍層が塩分躍層です。また、空気では躍層が形成されにくいため、一般的に温度躍層といった場合も水温の躍層を指します。

\次のページで「「水温躍層」の使い方・例文」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: