今回は時々ニュースにもなる「薬害」について勉強していこう。

薬害は医薬品やその他の製品による被害が社会現象になったものなんです。他人事ではないぞ。

今回は薬害の実態について化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.誰もが被害者になりうる薬害

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まずは薬害(やくがい)について知ることから始めましょう。医薬品は非常に身近な存在であり、困ったときに頼りになるものでもあります。そんなもののせいで逆に健康を害してしまう場合があるのです。もちろん薬害を怖がりすぎてはいけません。正しい知識を身につけることが大切ですよ。

1-1.薬について

「薬」は病気を治したり症状を軽くしたりするために使用するものですよね。しかし、どんなものでも過剰な摂取や用法を守らない使用においては害になる場合があります。毒性のある医薬品は毒薬や劇薬と呼ばれるものもあるでしょう。また、研究が進んでいくうえで副作用の危険性が明らかになるものがあります。このように、身体の直接取り込んで作用する薬というものは、慎重に選ぶ必要があるでしょう。

1-2.薬害について

1-2.薬害について

image by Study-Z編集部

さて、今回のテーマである「薬害」ですが実は明確な定義が決まっていません。そこで、このように解釈してみましょう。

(1)        明らかな投薬ミスや医療ミスを除き、医薬品の使用による有害事象であること。

(2)        問題が社会現象規模まで拡大したもの。

(3)        医療行政の対応の遅れにより拡大した事象であること。

もう少しわかりやすく言い換えてみると、「医薬品による副作用の危険性が予見できなかったり過小評価されていたことで危険性が見過ごされていたことにより、多くの人に被害が出てしまった事件」のことです。「医療行政が事前の検査をもっとやっていれば、被害者が出た段階で過失を認めて対応をとっていれば被害がこれほどまで広がらなかったのに。」という事例に使われることが多くあります。では具体的な事例を見ていきましょう。

2.日本における薬害事件

テレビのニュースや弁護士事務所のCMで薬害について耳にしたことのある人もいるでしょう。日本で作られたり販売されている医薬品なら全てが安心だというわけではありません。また、医学は進歩しているから100%大丈夫とは言えないのが現状です。では、実際に日本における薬害の事例について見ていきましょう。

2-1.サリドマイド

image by iStockphoto

世界的に有名なのがサリドマイド薬害事件です。睡眠薬や神経性胃炎、妊娠中の女性のつわりの治療薬としても用いられました。現在販売されている薬には「妊婦や授乳中の女性は服用禁止」という記載があるものが多く見られますよね。しかし当時この薬にはその注意喚起がありませんでした。そのために妊婦が服用し、胎児に奇形などの先天異常が見られたり、胎児が死亡してしまったりするケースが相次いで報告されたのです。当時出回っていた薬はすべて回収されることで事態は収束しました。しかしサリドマイドは様々な疾患への効果が期待されている薬品です。そのため現在では条件付きでサリドマイドの製造販売が再承認されています。サリドマイドに限らず、妊娠中の女性や妊娠の可能性がある女性は、どんな薬でも服用する前に服用可能かどうかを調べることが大切ですね。

2-2.薬害エイズ事件

これも有名な事件なので聞いたことがある人もいるでしょう。これは血友病という血液の凝固異常を起こす病気の治療に用いられる製剤による被害です。これがHIVウイルスで汚染されているという指摘があったにもかかわらず使用が続けられ、結果的に日本の血友病患者の約4割、1800人にものぼるエイズ患者を生むことになってしまいました。さらにエイズが発症するまでには潜伏期間があることから、報告が遅れてしまったという見方もできるでしょう。エイズ発症によって多数の死者も出ています。

\次のページで「2-3.薬害肝炎」を解説!/

2-3.薬害肝炎

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これもニュースなどで耳にすることの多い薬害でしょう。止血を目的とした血液製剤からC型肝炎ウイルスに感染することで発症するウイルス性肝炎の1つです。タトゥーや覚せい剤用の注射のうち回しなども原因とされていますが、製剤の使用による患者は推定1万人以上といわれています。会社と国を相手取った裁判が各地で開かれました。判決では国と製薬会社の責任が一部認められましたが、今も被害に苦しむ患者が存在しています。

3.医薬品以外による薬害

「薬」害とはなっていますが、医薬品以外でも同様の事件・社会問題は起こっています。それについても見ていきましょう。

3-1.薬害ヤコブ病事件

病原体に汚染された医療器具によって起こった薬害です。死者の脳から硬膜と呼ばれる膜を摘出し、製品化したものによってこの薬害は起こりました。脳組織がスポンジ状になってしまうクロイツフェルト・ヤコブ病に感染しているドナーの硬膜を移植することで患者にも感染。適切な殺菌処理が行われていないことも原因になりました。この病気については、以前石田衣良さんの小説が原作の美丘というドラマでも扱われていました。このドラマ中では原因不明として描かれていましたが、健康を取り戻すために受けたはずの手術が原因でもっと恐ろしい病気になってしまうなんて信じられませんよね。日本でもこういった薬害の被害に遭い、今も戦っている人がいるのです。

3-2.化粧品による白斑発症

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比較的最近の薬害としてはカネボウ化粧品の化粧水による被害が問題になりました。美白効果をうたった化粧水を使った人に、肌の一部がまだらに白くなってしまう白斑の症状が見られたのです。メーカーによって商品は回収されたものの、集団訴訟にまで発展する事件となりました。このように化粧品による薬害の被害は薬以上に身近なものかもしれません。

\次のページで「自衛のための知識をつけよう」を解説!/

自衛のための知識をつけよう

インフルエンザの薬であるタミフル服用者の異常行動子宮頸がんワクチンの接種による副作用は一時期大きな話題になりました。これらは薬害を疑われている最近の事例です。このように、医薬品類の摂取によって重篤な症状につながる危険性が社会問題にまで発展したケースはこれまでに何度も起こっています。近年ではより高度な医療が可能になり、リスクは減ってきているのも事実です。しかし長期間の使用による副作用等、すぐに症状に出ないからこそ重篤化してしまう可能性もあるでしょう。

自分が被害者にならないようにするためには、まずは薬に頼ることのない健康な体づくりが1番です。また、複数の医療機関での診断をあおぐセカンドオピニオンも大切ですね。さらに、他の誰かがもらった薬を分けてもらったり、処方後に残った薬を自己判断で服用することも止めましょう。様々な研究や治験を通して製品化されたものですから、必要以上に薬害に敏感になる必要はありません。自衛のための知識をつけることで、正しく怖がることが大切ですよ。

 

画像引用:いらすとや

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化学

3分で簡単「薬害」どんな問題がある?社会問題の1つを元塾講師がわかりやすく解説

今回は時々ニュースにもなる「薬害」について勉強していこう。

薬害は医薬品やその他の製品による被害が社会現象になったものなんです。他人事ではないぞ。

今回は薬害の実態について化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.誰もが被害者になりうる薬害

image by iStockphoto

まずは薬害(やくがい)について知ることから始めましょう。医薬品は非常に身近な存在であり、困ったときに頼りになるものでもあります。そんなもののせいで逆に健康を害してしまう場合があるのです。もちろん薬害を怖がりすぎてはいけません。正しい知識を身につけることが大切ですよ。

1-1.薬について

「薬」は病気を治したり症状を軽くしたりするために使用するものですよね。しかし、どんなものでも過剰な摂取や用法を守らない使用においては害になる場合があります。毒性のある医薬品は毒薬や劇薬と呼ばれるものもあるでしょう。また、研究が進んでいくうえで副作用の危険性が明らかになるものがあります。このように、身体の直接取り込んで作用する薬というものは、慎重に選ぶ必要があるでしょう。

1-2.薬害について

1-2.薬害について

image by Study-Z編集部

さて、今回のテーマである「薬害」ですが実は明確な定義が決まっていません。そこで、このように解釈してみましょう。

(1)        明らかな投薬ミスや医療ミスを除き、医薬品の使用による有害事象であること。

(2)        問題が社会現象規模まで拡大したもの。

(3)        医療行政の対応の遅れにより拡大した事象であること。

もう少しわかりやすく言い換えてみると、「医薬品による副作用の危険性が予見できなかったり過小評価されていたことで危険性が見過ごされていたことにより、多くの人に被害が出てしまった事件」のことです。「医療行政が事前の検査をもっとやっていれば、被害者が出た段階で過失を認めて対応をとっていれば被害がこれほどまで広がらなかったのに。」という事例に使われることが多くあります。では具体的な事例を見ていきましょう。

2.日本における薬害事件

テレビのニュースや弁護士事務所のCMで薬害について耳にしたことのある人もいるでしょう。日本で作られたり販売されている医薬品なら全てが安心だというわけではありません。また、医学は進歩しているから100%大丈夫とは言えないのが現状です。では、実際に日本における薬害の事例について見ていきましょう。

2-1.サリドマイド

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世界的に有名なのがサリドマイド薬害事件です。睡眠薬や神経性胃炎、妊娠中の女性のつわりの治療薬としても用いられました。現在販売されている薬には「妊婦や授乳中の女性は服用禁止」という記載があるものが多く見られますよね。しかし当時この薬にはその注意喚起がありませんでした。そのために妊婦が服用し、胎児に奇形などの先天異常が見られたり、胎児が死亡してしまったりするケースが相次いで報告されたのです。当時出回っていた薬はすべて回収されることで事態は収束しました。しかしサリドマイドは様々な疾患への効果が期待されている薬品です。そのため現在では条件付きでサリドマイドの製造販売が再承認されています。サリドマイドに限らず、妊娠中の女性や妊娠の可能性がある女性は、どんな薬でも服用する前に服用可能かどうかを調べることが大切ですね。

2-2.薬害エイズ事件

これも有名な事件なので聞いたことがある人もいるでしょう。これは血友病という血液の凝固異常を起こす病気の治療に用いられる製剤による被害です。これがHIVウイルスで汚染されているという指摘があったにもかかわらず使用が続けられ、結果的に日本の血友病患者の約4割、1800人にものぼるエイズ患者を生むことになってしまいました。さらにエイズが発症するまでには潜伏期間があることから、報告が遅れてしまったという見方もできるでしょう。エイズ発症によって多数の死者も出ています。

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