この記事では「多勢に無勢」について解説する。

端的に言えば「多勢に無勢」の意味は「多くの敵には少人数では勝てない」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

語学好きで歴史好き、名古屋出身で5年間のライター経験を持つEastflowerを呼んです。一緒に「多勢に無勢」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/eastflower

語学好きで英語、中国語が得意な5年目のライター。今回の「多勢に無勢」は人間の世界に限らず動物の世界では当然な事象。今回はこの言葉の起源を含めて、どんな場面で使われてきたのかあるいは使えるのかを解説していく。

「多勢に無勢」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは、早速、国語辞典の意味から見ていきましょう。

「多勢に無勢」の意味は?

「多勢に無勢」には、次のような意味があります。

相手が多人数なのに対して少人数なので、勝ち目がないこと。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「多勢に無勢」

(古くは「たせいにぶせい」) 多人数に対して、少人数で向かったのではとても敵対しがたいこと。少数の力では、おおぜいの力にはどうしてもかなわないこと。

出典: 日本国語大辞典(精選版) 「多勢に無勢」

「多勢に無勢」は「たぜいにぶぜい」と読みます。
この言葉は、戦国ドラマなどを見ているとひんぱんに使われる言葉ですね。「多勢」(たぜい)とは、「人がたくさんいること」で、日常的に使われる「大勢」(おおぜい)と同じ意味です。「多勢」の反対語は「少勢」になるかと思いきや「無勢」(ぶぜい)になります。辞書で説明されている通り、「多勢に無勢」で、敵方の数の方が味方勢よりも多く勝ち目が少ない場合に使われるのです。

ドラマなどで学生の喧嘩(けんか)のシーンもしばしばでてきますが、相手が10人で味方が2人だと基本的には数の多い方が勝つのが自然なことですよね。

「多勢に無勢」の語源は?

次に「多勢に無勢」の語源を確認しておきましょう。

武家が本格的な勢力を持ち始めたのは1100年代の平清盛(たいらのきよもり)のころからであると言われていますが、源平(げんぺい)の戦いを描いた『平家物語』や、鎌倉幕府の北条家に対して後鳥羽上皇(ごとばじょうこう)が討伐を計画した1200年代の「承久の乱」(じょうきゅうのらん)が記された『承久記』(じょうきゅうき)、1300年代の南北朝時代の足利尊氏(あしかがたかうじ)と後醍醐天皇(ごだいごてんのう)の争いを描いた『太平記』(たいへいき)の中にも「多勢に無勢」のことばが使われています。「多勢に無勢」は武家が登場したころには、既に使用されていた慣用句であり、戦う相手の勢力の兵の数は武士にとって最大の関心事だったのです。

\次のページで「「多勢に無勢」の使い方・例文」を解説!/

「多勢に無勢」の使い方・例文

多勢に無勢」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.殿(との)、お気持ちはわかりますが、「多勢に無勢」、いったんは後退しましょう。
2.「多勢に無勢」正攻法では勝てません。この谷で奇襲(きしゅう)をかけましょう。
3.「多勢に無勢」この兵の差では戦っても無駄なこと。籠城(ろうじょう)して冬になるまで持久戦でいきましょう。

ドラマなどを見ると戦国時代には、家老や重臣がトップに戦うことを再検討するようにアドバイスする場合に「多勢に無勢」がよく使われていたようですね。

「多勢に無勢」の類義語は?違いは?

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それでは、「多勢に無勢」の類義語を見ていきましょう。

「衆寡敵せず」

「衆寡敵せず」(しゅうかてきせず)の「衆」(しゅう)は、人数や勢力が多いこと、「寡」(か)は少ないことを意味します。全体では、「多数と少数では勝負の相手にならない」「少数ではかなわない」という意味です。

この「衆寡敵せず」は中国から伝わった言葉で、古くは『史記』(しき)の中でもでてくる言葉きます。ときは「三国志」の時代。人々は「董卓」(とうたく)の暴政、悪政に苦しんでいました。「張承」(ちょうしょう)も他の人々と同様に董卓の討伐を検討していたのです。しかし、弟の「張昭」(ちょうしょう)は兄をいましめます。「衆寡敵せず。董卓軍は多数で少数では太刀打ちできない。農民を徴兵したとしても訓練してもいないのに勝つのは難しい」と。 気持ちや意志の強さだけでは敵には勝てないと助言しました。敵の数を把握することは、国や時代に関わらずとても重要なことなのです。

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「数の論理」

「数の論理」(かずのろんり)は政治の世界でよく語られるようになった言葉です。1970年代に日本の総理大臣になった田中角栄(たなかかくえい)が考え出した政治戦略だと言われています。角栄さんは人をひきつける魅力を持っていたことも事実ですが、選挙戦も上手で、お金を集める能力にも長けていました。「数の論理」は、支持者を多く集めることで少数派との議論に多くの時間をかけることなく多数決で自身の方針を推し進めることを可能にしたのです。「政治は数であり、数は力であり、力を作るのは金である」という姿勢が民主主義において正しいか否かは別として、現代においても「多勢に無勢」が有効であることを証明した時代でした。

「多勢に無勢」の対義語は?

「数が多ければ相手に勝てるのか?」というとそうでもありません。史実でも「数が少なくても勝利を手にした」戦いは日本はもとより外国でも多数あります。それでは、「多勢に無勢」の反対語を見ていきましょう。

「少数精鋭」

「少数精鋭」(しょうすうせいえい)の少数「しょうすう」とは、文字通り数が少ないことで、「精鋭」(せいえい)とは「強くて勢いがあり、選りすぐりの優れた兵士や人」のことです。「少数精鋭」とは「数は少ないものの選りすぐりの優れた兵士のこと」で、寄せ集められただけの大群よりも手ごわくて人数以上の働きを果たすこともあります。

今でも語り継がれる1560年の「桶狭間の戦い」(おけはざまのたたかい)では、駿河から今川義元(いまがわよしもと)が出兵した際の軍勢は2万5千人。対する織田信長(おだのぶなが)軍の兵力は、2~3千人だったと言われていますが、「少数精鋭」の信長軍は、桶狭間で今川軍に奇襲をかけ勝利したのです。

「多勢に無勢」の英訳は?

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「多勢に無勢」を英語で表現するとどんな言葉が適切なのでしょう?

「Overwhelm」

「多勢に無勢」に近い表現のひとつに「Overwhelm」(òʊvɚ(h)wélm) という単語があります。

「Overwhelm」は、「すぐれた力やはるかに勝る勢力で相手を押さえつけること」を意味になるのです。「Whelm」(wélm)だけで、「人を圧倒する、参らせる、閉口させる」という意味になるのですが、「Over+動詞」で、程度がはなはだしく過度な状態である「~しすぎる」という意味になるのですね。
「Overwhelm」以外にも「Oversleep=寝すぎる」や「Overeat=食べ過ぎる」など「Over」は程度が過ぎている場合に使える便利な接頭語なのです。それでは例文を見ていきましょう。

1. The numerous enemy overwhelmed us in that battle.
(数の多い敵はあの戦いで我々を圧倒しました。)

2. My teacher's pressure was so overwhelmed that I could not say even a word.
(先生の圧力に圧倒されてしまって、私はひとこともしゃべれなかった。)

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「多勢に無勢」を使いこなそう

この記事では「多勢に無勢」の意味・使い方・類語などを説明しました。「多勢に無勢」は「敵の数の方が味方より多い場合は勝ち目がない」ということでしたよね。確かに日常生活においても、味方が少ないと生きづらさを感じることも多いですよね。学校のいじめ問題の話を聞くとひとりがクラス中でいじめられたり、いじめを止めようとすると逆に自分がいじめの対象になったりもするそうですね。実際に大人の社会でもいじめもあるし、ブラック企業も少なくありません。ピンチだと感じたら「多勢に無勢」の原理を思い起こして、とりあえずは争いを避けて、場合によっては逃げたり、関わらないようにすることも必要な時代なのかもしれませんね。

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国語言葉の意味

【慣用句】「多勢に無勢」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

この記事では「多勢に無勢」について解説する。

端的に言えば「多勢に無勢」の意味は「多くの敵には少人数では勝てない」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

語学好きで歴史好き、名古屋出身で5年間のライター経験を持つEastflowerを呼んです。一緒に「多勢に無勢」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/eastflower

語学好きで英語、中国語が得意な5年目のライター。今回の「多勢に無勢」は人間の世界に限らず動物の世界では当然な事象。今回はこの言葉の起源を含めて、どんな場面で使われてきたのかあるいは使えるのかを解説していく。

「多勢に無勢」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは、早速、国語辞典の意味から見ていきましょう。

「多勢に無勢」の意味は?

「多勢に無勢」には、次のような意味があります。

相手が多人数なのに対して少人数なので、勝ち目がないこと。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「多勢に無勢」

(古くは「たせいにぶせい」) 多人数に対して、少人数で向かったのではとても敵対しがたいこと。少数の力では、おおぜいの力にはどうしてもかなわないこと。

出典: 日本国語大辞典(精選版) 「多勢に無勢」

「多勢に無勢」は「たぜいにぶぜい」と読みます。
この言葉は、戦国ドラマなどを見ているとひんぱんに使われる言葉ですね。「多勢」(たぜい)とは、「人がたくさんいること」で、日常的に使われる「大勢」(おおぜい)と同じ意味です。「多勢」の反対語は「少勢」になるかと思いきや「無勢」(ぶぜい)になります。辞書で説明されている通り、「多勢に無勢」で、敵方の数の方が味方勢よりも多く勝ち目が少ない場合に使われるのです。

ドラマなどで学生の喧嘩(けんか)のシーンもしばしばでてきますが、相手が10人で味方が2人だと基本的には数の多い方が勝つのが自然なことですよね。

「多勢に無勢」の語源は?

次に「多勢に無勢」の語源を確認しておきましょう。

武家が本格的な勢力を持ち始めたのは1100年代の平清盛(たいらのきよもり)のころからであると言われていますが、源平(げんぺい)の戦いを描いた『平家物語』や、鎌倉幕府の北条家に対して後鳥羽上皇(ごとばじょうこう)が討伐を計画した1200年代の「承久の乱」(じょうきゅうのらん)が記された『承久記』(じょうきゅうき)、1300年代の南北朝時代の足利尊氏(あしかがたかうじ)と後醍醐天皇(ごだいごてんのう)の争いを描いた『太平記』(たいへいき)の中にも「多勢に無勢」のことばが使われています。「多勢に無勢」は武家が登場したころには、既に使用されていた慣用句であり、戦う相手の勢力の兵の数は武士にとって最大の関心事だったのです。

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