この記事では「白羽の矢が立つ」について解説する。

端的に言えば、「白羽の矢が立つ」は「多くの中から選び出される」という意味です。しかし、元々の意味と現在使われている意味では大きな変化がある。語源から意味の変遷やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。一緒に「白羽の矢が立つ」の意味、語源、使い方などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。言葉の美しさ、面白さ、奥深さをやさしく解説していく。

「白羽の矢が立つ」真逆の2つの意味があるってホント?

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「白羽の矢が立つ」という言葉には、下記のような2つの意味があります。

「白羽の矢が立つ」の2つの意味

(1) 多くのなかから犠牲者として選び出される。

(2) 多くのなかから特に指定して選び出される。また、ねらいをつけられる。

  出典:精選版 日本国語大辞典

「多くの中から選び出される」ことは同じですが、(1)は不運なのに対して(2)は幸運に恵まれており、意味はまったく逆です。

白羽の矢が”立つ””当たる”正しいのはどっち?

ところで、「白羽の矢が立つ」ではなく「白羽の矢が当たる」という言い方を使う人がいるかもしれませんね。正しいのはどちらでしょう。矢は的に当てるものだから「当たる」が正しいと思っていませんか?「白羽の矢が刺さる」はどうでしょうか。

文化庁では平成7年度から「国語に関する世論調査」を実施して、結果を公表しています。毎年、慣用句でどちらの言い方を使うかという設問があるのですが、平成29年度の調査では、「白羽の矢が立つ」に白羽の矢が立ち(選ばれ)ました。結果は下記のとおりです。

「白羽の矢が立つ」のほうを使うと答えた人 75.5%
「白羽の矢が当たる」のほうを使うと答えた人 15.1%

\次のページで「「白羽の矢が立つ」の語源に迫る!」を解説!/

本来の言い方は「白羽の矢が立つ」のほうです。70%以上の人が正しい使い方をしているのですね。

「白羽の矢が立つ」の語源に迫る!

次は、「白羽の矢が立つ」の語源に迫っていきます。

元々はいけにえの目印

昔、自然災害は神の怒りによるものと考えられており、神の怒りを鎮め、村を守るために少女をいけにえとして捧げました。「白羽の矢」は、いけにえの少女がこの家にいることを示すサインだったのです。

そこから「多くのなかから犠牲者として選びだされる」という意味で使われるようになりました。では、意味が変わってきたのはなぜなのでしょうか。

今では「白羽の矢」はラッキーアイテムに!

能楽に『賀茂』という作品があります。

賀茂川で朝晩水を汲んで、神様に捧げていた女性がいました。ある日、白羽の矢が流れてきて、水を汲む桶で止まりました。不思議に思った女性は矢を持ち帰り、家の軒に立てておいたのです。すると、女性は男の子を身ごもりました。

つまり、白羽の矢は神様が姿を変えたもの、そして女性は神の子を授かったのでした。

東京都江東区にある富岡八幡宮は、「永代島に行き、白羽の矢が立っているところに神社を作りなさい」という八幡大菩薩のお神託によって、1627年に創建されました。「白羽の矢」は、富岡八幡宮の創建にちなんだ授与品。「吉事当り矢」とか「凶事祓い矢」とも呼ばれる縁起物、つまりラッキーアイテムなのです。

諸説がありますが、神様から選ばれたということや、白い色が清らかなイメージであること、「白羽の矢」がラッキーアイテムとなっていることなどから、良い意味の捉え方が広まったと考えられています。

「白羽の矢が立つ」の例文をチェックして使い方を学ぼう!

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\次のページで「「白羽の矢が立つ」を使ってみよう!」を解説!/

「白羽の矢が立つ」の使い方について、例文を使って見ていきましょう。

「白羽の矢が立つ」を使ってみよう!

・新しい営業所の責任者には、皆が予想したとおり、営業成績トップのスズキさんに白羽の矢が立てられた。
・急病で降板した女優の代役として、監督は無名の新人に白羽の矢を立てた。
・不祥事の責任を取って退陣した社長の後任に、常務の末席にいた彼に白羽の矢が立った。

例文のように、現在では、大勢の中から抜擢されるという良い意味で使われることが多くなっています。

良い意味か悪い意味かはケースバイケース?

3番目の例文で、社長に選ばれることは良いことかもしれませんが、経営が破綻しかけていて誰もやりたがらず、無理やり社長を押し付けられたとしたら、犠牲者として選ばれてしまったというネガティブな意味に近いのかもしれません。それでも、ピンチはチャンスと前向きに考えられるかどうかは、その人次第ですね。

白羽の矢が立つ」の類義語

良い意味と悪い意味、両方の類義語を見ていきましょう。

良い意味の類義語:「抜擢」「選抜」

「抜擢」は「ばってき」と読みます。大勢の中から選び出して、ある役目につけるという意味で、「主役に抜擢する」というふうに使われていますね。

「選抜」は「せんばつ」と読みましょう。多くの中から、基準や目的に合っているものを選び抜くという意味合いになります。

悪い意味の類義語:「貧乏くじを引く」「お鉢が回る」

「貧乏くじを引く」は「びんぼうくじをひく」と読みます。不利益を被るはめに陥る、損な役割をさせられる、という意味ですね。

「お鉢が回る」はそのまま「おはちがまわる」と読みましょう。元は、大勢の人がいる食事の席で、ご飯が入った御櫃が自分のところに回ってきたということから「順番が来た」という意味ですが、「厄介な役が回ってきた」というニュアンスで使われています。

\次のページで「「白羽の矢が立つ」の英訳は?」を解説!/

「白羽の矢が立つ」の英訳は?

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「白羽の矢が立つ」は、英語ではどのように表現するのでしょうか。

The choice falls on

「choice」は「選択」、「 falls on」は「降りかかる」なので、直訳すると「選択が降りかかる」となり、選抜される、つまり「白羽の矢が立つ」ということですね。

The choice falls on Tom.
トムに白羽の矢が立つ。

be singled out

「singled out」は、「より抜く」「すぐり抜く」という意味です。

She was singled out for the prize.
彼女が受賞者に選ばれた。

「白羽の矢が立つ」を自在に使いこなそう!

この記事では、「白羽の矢が立つ」について意味・語源から使い方・類義語・英訳まで説明しました。

「白羽の矢」は当たるものでも、刺さるものでもありません。「立つ」が正しい使い方。間違えないようにしっかり覚えておきましょう。


「白羽の矢が立つ」の意味は「多くの中から選び出される」ことでした。昔は「多くの中から犠牲者として選び出される」という不運なニュアンスで使われていましたが、最近は「多くの中から特に選抜される」という幸運なニュアンスで使われています。

「抜擢」や「選抜」といった類義語を知っていれば、言い換えもできますね。悪い意味でも使われていたということを理解して、適切に使えるようになりましょう。

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国語言葉の意味

「白羽の矢が立つ」は良い意味?悪い意味?語源や使い方・類義語などを日本放送作家協会会員がわかりやすく解説!

この記事では「白羽の矢が立つ」について解説する。

端的に言えば、「白羽の矢が立つ」は「多くの中から選び出される」という意味です。しかし、元々の意味と現在使われている意味では大きな変化がある。語源から意味の変遷やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。一緒に「白羽の矢が立つ」の意味、語源、使い方などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。言葉の美しさ、面白さ、奥深さをやさしく解説していく。

「白羽の矢が立つ」真逆の2つの意味があるってホント?

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「白羽の矢が立つ」という言葉には、下記のような2つの意味があります。

(1) 多くのなかから犠牲者として選び出される。

(2) 多くのなかから特に指定して選び出される。また、ねらいをつけられる。

  出典:精選版 日本国語大辞典

「多くの中から選び出される」ことは同じですが、(1)は不運なのに対して(2)は幸運に恵まれており、意味はまったく逆です。

白羽の矢が”立つ””当たる”正しいのはどっち?

ところで、「白羽の矢が立つ」ではなく「白羽の矢が当たる」という言い方を使う人がいるかもしれませんね。正しいのはどちらでしょう。矢は的に当てるものだから「当たる」が正しいと思っていませんか?「白羽の矢が刺さる」はどうでしょうか。

文化庁では平成7年度から「国語に関する世論調査」を実施して、結果を公表しています。毎年、慣用句でどちらの言い方を使うかという設問があるのですが、平成29年度の調査では、「白羽の矢が立つ」に白羽の矢が立ち(選ばれ)ました。結果は下記のとおりです。

「白羽の矢が立つ」のほうを使うと答えた人 75.5%
「白羽の矢が当たる」のほうを使うと答えた人 15.1%

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