
「埒が明かない」は「物事の進展がない」様子を表した慣用句です。何気なく使っている人も多い言葉ですが、「埒」(らち)とは一体何を意味するのか、知っているでしょうか。
元塾講師で普段から気になった言葉を調べているというカワナミを呼んです。気になる「埒」については、特に意味や語源の項目に注目です。一緒に見ていこう。
ライター/カワナミ
国語を愛する元塾講師。趣味で小説も書いており、普段から言葉の意味について調べるのがクセになっている。モットーは丁寧にわかりやすく伝えること。
物事が解決しないこと、決着がつかないこと、話にならないこと。
出典:実用日本語表現辞典「埒が明かない」
「埒が明かない」は「物事が進展しない」という意味の慣用句です。解決すべき事柄があるにも関わらず、事態が停滞して決着のつかない状態に対して使います。本来は「埒が明く」、つまり「物事が解決する・うまく進む」という意味で使われました。今では否定形の「埒が明かない」の方が主流となっていますが、どちらも正しい使い方です。
そしてタイトルにもあった「埒」ですが、囲いや仕切りなど、いわゆる柵を指します。障害物となっていた柵を取り払うことで別のことが出来るようになることから、ひいては物事の区切りや限度を意味するようにもなりました。語源については下で更に詳しく説明しています。ぜひそちらもご覧ください。
「明かない」と「開かない」どちらが正しい?
正しくは「明かない」です。2つの漢字の違いについて見てみましょう。「開く」は戸を開けるなどの開閉について、「明く」は物事の期間や事柄の区切りがつくことを意味します。喪が明ける、年季が明けるなどと同じ使われ方です。「埒」が柵を指すことから、「開かない」を使いたくなりますよね。しかし、「埒が明かない」に使われている「明く」は「片がつく・区切りがつく」というニュアンスです。そのため「明かない」が正しい、となります。
「埒が明かない」の語源は2説あり
「埒が明かない」は元々「埒が明く」と使われていたことはすでに説明しましたね。その「埒が明く」には、語源が2説あります。どちらも「埒」=柵に関わりのあるエピソードです。「埒」が物事の区切りや限度を指すようになった理由もここにあります。
1加茂の競べ馬の後に、柵が片付くことで次の葵祭の準備を進められるようになることから。
2春日大社の祭礼で長い祝詞が読まれ、その後柵が取り払われてようやく一般客が中に入れることから。
1の加茂の競べ馬(かものくらべうま)も葵祭(あおいまつり)もどちらも古くから続く重要な神事です。現在も京都で行われています。競べ馬が終わり馬の走るコースを囲った柵が片付くと、今度は同じ場所で葵祭の準備が始まりました。
2の春日大社の祭礼は、正式には春日若宮おん祭りという名称です。こちらも奈良の春日大社で現在も行われています。非常に長い祝詞(のりと)が読まれ、その最中は柵が設けられて一般人が中に入ることは出来ません。柵が片づけられることは、祝詞が無事に終了し、一般人が祭りに参加できるようになることを意味します。
1、2ともに、柵が片付くこと=「埒が明く」=物事がうまく進むという意味に繋がりますね。
・この問題はひとりで悩んでいても埒が明かないから、早く先生に質問した方がいいよ。
・愚痴ばかりこぼしていても埒が明かないから、彼と直接話し合うことにした。
・新しい冷蔵庫を買いに来たが、予定よりも大きいサイズばかり勧められ埒が明かない。
どれも早くはっきりさせたい問題があるにも関わらず、物事がそれ以上進展しない様子を「埒が明かない」と表しています。例文からもわかる通り、ポジティブな状況に使われることはほぼありません。そのため「君と話していても埒が明かない」など、当事者のいる場面で「埒が明かない」ことを伝えるのは失礼な表現となります。注意して使用してください。
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