今回の記事では「生態ピラミッド」について学んでいこう。

生物基礎の生態学分野では、「植生」や「遷移」、森林や砂漠といった「バイオーム」など、環境と生物のかかわりを学習する。「生態ピラミッド」も生態系を考えるのに重要な概念です。しっかりとその意味を理解しよう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

生態系と生態ピラミッド

今回のテーマである「生態ピラミッド」について知るには、まず「生態系」「生物量」という言葉について理解を深めなくてはいけません。順番にみていきましょう。

生態系とは

私たち人間だけでなく、地球上に存在するあらゆる生物は、生息域の環境や他の生物と何かしらの関係をもっています。

「植物が水や二酸化炭素、光エネルギーを利用して光合成をすること」
「生物が死ぬことでその体が分解されて物質が循環すること」
「他の生物を食ったり、逆に食われたりといった生物間の捕食・被食の関係」…
生き物というのは、それ単独で生きていくことはできません。周辺の環境や他生物に影響を及ぼし、影響を及ぼされながら存在しているのです。

ある地域に生息する生物と、非生物的な環境をひとまとまりとみなしたとき、それをその地域の生態系と呼びます。

ある地域の生態系を詳しく知るためには、そこがどんな環境であるか、何種類の生物がすんでいるか、それぞれの生物種がどれくらい存在しているか、などの情報が必要となります。

これらのうちの「それぞれの生物種がどれくらい存在しているか」という点についてもう少し考えてみましょう。

さまざまな”生物の量”

「それぞれの生物種がどれくらい存在しているか」は、簡単なようで難しい問いかけです。

”どれくらい”という問いに対し、「全部で〇〇匹」という個体数で答える人もいれば、「全部で〇〇kg」という重量で答えることもできます。

また、生物=エネルギーをもつ物質と考え、「全部で〇〇kcal分の生物」とみなしたり、すべての生物を元素レベルまで分解し「全部で炭素原子〇〇個分、酸素原子〇〇個分…」と答えても、生物の量を表すことに間違いはないでしょう。

\次のページで「生態ピラミッドとは」を解説!/

image by Study-Z編集部

一般的に、重量(主に乾重量)やエネルギー量で生物の量を表したものを生物量(バイオマス、または現存量)といいます。

上記のように、この生物量にはさまざまな単位、考え方がある、ということをおさえておいてください。

生態ピラミッドとは

いよいよ本題です。

1927年、イギリスの生態学者チャールズ・サザーラント・エルトン(Charles Sutherland Elton)は自著『動物生態学』のなかで、「ある生態系のなかにみられる生物の個体数は、食物連鎖の段階や、栄養段階の低いものほど大きく、段階が高くなるにつれて小さくなっていくことが多い。栄養段階の順番で積み上げると、まるでピラミッドのような図になる」と指摘しました。

その後、個体数だけでなく、生物量など他の数値に基づいても、ピラミッド型の図がつくられるようになりました。

いつしか、生態系内の生物の量を表す図がピラミッド型になることをまとめて生態ピラミッド(ecological pyramid)と呼ぶようになったのです。生態ピラミッドは、例外もありますが、多くの生態系・生物種に当てはまります。

今では、「それぞれの生物の量を図示したとき、それがピラミッドのようになるという様子」だけでなく、「ピラミッド状に積み上げられたイラストそのもの」を”生態ピラミッド”と呼ぶようになりました。

ただし前述の通り、生物量といってもいろいろな考え方があるので、生態ピラミッドにもいくつかの種類が存在するんです。

個体数ピラミッド

ある地域に生息する生物の個体数に基づいた生態ピラミッドを個体数ピラミッドといいます。エルトンが初めに言及したのがこの個体数ピラミッドだったので、「エルトンのピラミッド」と呼ばれることもありますね。

基本的に、栄養段階の低い生物(=食物連鎖の下位に位置する生物)は、栄養段階の高い生物(=食物連鎖の上位に位置する生物)より個体数が多い傾向にあるため、ピラミッド型がみられやすいです。

image by Study-Z編集部

\次のページで「個体数ピラミッドの例外」を解説!/

個体数ピラミッドの例外

生態系によっては、例外的な個体数ピラミッドがみられることがあります。

例えば、ある桜の木を一つの生態系として考えてみましょう。ある1本の桜の木に、ガの幼虫が何匹かすんでいます。そのガの幼虫に寄生するハチ(寄生バチ)がいるとすると、1匹のガの幼虫に対して複数の寄生バチの卵が存在している可能性があるんです。寄生バチはガの幼虫から栄養を奪って育つので、栄養段階はガの幼虫より上になります。

さらに、その寄生バチに寄生するダニがいた場合。1匹の寄生バチに複数のダニが住み、ハチから栄養を奪って育つ場合は、寄生バチより個体数が多く、栄養段階も上ということになります。すると、こんな生態ピラミッドがかけるんです。

image by Study-Z編集部

まるでひっくり返ったピラミッドですね。こういった例外が存在するということも、しっかり覚えておきましょう。

生物量ピラミッド

重量などの生物量に基づいてつくられる生態ピラミッドを生物量ピラミッドといいます。それぞれの生物の乾重量の総和を使うことが多いようです。

栄養段階上位の生物、個体数ピラミッドでも上位に存在する生物は、そもそも個体数が少ないため重量の合計は小さくなります。また、上位の生物には激しく運動するものも多く、呼吸での有機物の消費が激しくなることも一因となりえるでしょう。

生物量ピラミッドの例外

生物量ピラミッドでも、ピラミッドの形が逆転してしまうような事象がみられます。

よく紹介されるのが、植物プランクトンと動物プランクトンの例です。

植物プランクトンを食べる動物プランクトンは、栄養段階では上位に位置しますが、動物プランクトンの生物量が植物プランクトンの生物量を上回ることがあります。たとえば、一斉に動物プランクトンが発生し、その場の植物プランクトンをどんどん捕食してしまったときなどです。

\次のページで「生産速度ピラミッド」を解説!/

image by Study-Z編集部

一般的に、植物プランクトンは個体数を増やす速度が速いため、しばらくすればその数が回復し、普通のピラミッド型に戻る可能性が十分にあります。しかしながら、一時的とはいえピラミッド型が逆転してしまうこともある、ということを知っておきましょう。

生産速度ピラミッド

生産速度という値に基づいてつくられる生態ピラミッドを生産速度ピラミッド、もしくは生産力ピラミッド、生産量ピラミッドといいます。これは、その生態系にいる各栄養段階の生物が、一定時間内に得るエネルギー量や有機物量を用いるものです。

一次生産者(主に植物)の場合、”一定時間内に得るエネルギー量”は有機物の純生産量(=総生産量ー呼吸量)ということになります。また、消費者の場合は、一定時間内に摂食した有機物の熱量(カロリー)が、得られたエネルギー量を反映することになりますね。

image by Study-Z編集部

この生産速度ピラミッドは、個体数ピラミッドや生物量ピラミッドのように逆転することがありません。なぜならば、一定時間内にその場所にあるエネルギー量以上のエネルギーを循環させることはできないからです。

例えば、ある生態系において、栄養段階の最下層に位置する生産者(植物)が100のエネルギーを作るとしましょう。生産者を食べる一次消費者は、それを食べつくしても100以上のエネルギーを得ることはできません。むしろ、エネルギーをロスなく利用することは不可能なので、100未満のエネルギーしか得ることができないんです。

その後の、二次消費者、三次消費者においても、摂食した生物のエネルギーを100%利用することはできません。そのため、生産速度ピラミッドは逆転することがない、ということになります。

簡単そうで奥が深い”生態ピラミッド”

生態ピラミッド、とくに個体数ピラミッドは考え方がわかりやすく、理解もそれほど難しくありません。ですが、生物量ピラミッドや生産速度ピラミッド、それぞれの生態ピラミッドの”例外”なども知ると意外と奥が深く、面白い内容です。

さまざまな生態系について考えるとき、生態ピラミッドがどうなるか、というのもイメージしてみると、より理解が深まるでしょう。

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理科生態系生物

「生態ピラミッド」とは?3種類の生態ピラミッドを現役講師がわかりやすく解説

今回の記事では「生態ピラミッド」について学んでいこう。

生物基礎の生態学分野では、「植生」や「遷移」、森林や砂漠といった「バイオーム」など、環境と生物のかかわりを学習する。「生態ピラミッド」も生態系を考えるのに重要な概念です。しっかりとその意味を理解しよう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

生態系と生態ピラミッド

今回のテーマである「生態ピラミッド」について知るには、まず「生態系」「生物量」という言葉について理解を深めなくてはいけません。順番にみていきましょう。

生態系とは

私たち人間だけでなく、地球上に存在するあらゆる生物は、生息域の環境や他の生物と何かしらの関係をもっています。

「植物が水や二酸化炭素、光エネルギーを利用して光合成をすること」
「生物が死ぬことでその体が分解されて物質が循環すること」
「他の生物を食ったり、逆に食われたりといった生物間の捕食・被食の関係」…
生き物というのは、それ単独で生きていくことはできません。周辺の環境や他生物に影響を及ぼし、影響を及ぼされながら存在しているのです。

ある地域に生息する生物と、非生物的な環境をひとまとまりとみなしたとき、それをその地域の生態系と呼びます。

ある地域の生態系を詳しく知るためには、そこがどんな環境であるか、何種類の生物がすんでいるか、それぞれの生物種がどれくらい存在しているか、などの情報が必要となります。

これらのうちの「それぞれの生物種がどれくらい存在しているか」という点についてもう少し考えてみましょう。

さまざまな”生物の量”

「それぞれの生物種がどれくらい存在しているか」は、簡単なようで難しい問いかけです。

”どれくらい”という問いに対し、「全部で〇〇匹」という個体数で答える人もいれば、「全部で〇〇kg」という重量で答えることもできます。

また、生物=エネルギーをもつ物質と考え、「全部で〇〇kcal分の生物」とみなしたり、すべての生物を元素レベルまで分解し「全部で炭素原子〇〇個分、酸素原子〇〇個分…」と答えても、生物の量を表すことに間違いはないでしょう。

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