「理想気体」って言葉を聞いたことがあるか?

化学では気体について計算で導く問題も出てくるんですが、それは「理想気体」としてであって「実在気体」ではなのです。

今回は理想気体の状態方程式や、理想気体と実在気体の違いについて、化学実験を生業にしてきたライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

1.ボイル・シャルルの法則と気体の状態方程式

image by iStockphoto

理想気体とは分子自身の大きさ(体積)と分子間力をゼロとした、実在しない理論上の気体の事です。

なぜ自身の大きさと分子間力を無視したいかというと、すべての温度・圧力という条件下でボイル・シャルルの法則を成り立たせたいからといえます。

まず、ボイル・シャルルの法則についておさらいしていきましょう。

1-1.ボイルの法則

ボイル・シャルルの法則は、ボイルの法則とシャルルの法則を合体して作った法則です。ではボイルの法則とはどのような内容だったでしょうか?

ボイルの法則とは温度が一定の時に、圧力と気体の体積は反比例するという法則になります。例えば圧力が 2 倍になったら気体の体積は 1 / 2 になり、圧力が 3 倍になったら気体の体積は 1 / 3 になることは想像できますね。

このことを式で表すと、P(圧力)× V(体積)= K(一定)です。

1-2.シャルルの法則と絶対温度

次にシャルルの法則とは、圧力が一定の時に、絶対温度と気体の体積は比例するという性質を示した法則です。ではここで、絶対温度という用語について解説しましょう。

絶対温度とは原子や分子の熱運動がなくなる温度(理論上一番低い)温度を 0 とした温度のことで単位は K(ケルビン)で表します。通常私たちが使っている摂氏温度というのは、水が氷になる温度を 0 とした温度で単位は ℃(度)ですね。

原子や分子の熱運動がなくなる理論上一番低い温度は絶対零度と言われ - 273℃ とされています。ということは、0 ℃ = 273 K です。それなので、℃ を Kに変換したい時は t(℃)+ 273 = T(K)で求めましょう。例えば 20 ℃ であれば 20(℃)+ 273 = 293(K)ということになります。

絶対温度についてわかったところで、シャルルの法則に戻りましょう。

圧力が一定の時に温度を上げていくと気体の体積は膨張します。シャルルの法則は、気体の体積絶対温度(K)に比例するということを示していましたね。

例えば絶対温度が 2 倍になったら気体の体積も 2 倍になり、絶対温度が 3 倍になったら気体の体積も 3 倍になるということです。

このことを式で表すと、V(体積)÷ T(絶対温度)= K(一定)になります。

1-3.ボイル・シャルルの法則

以上のボイルの法則とシャルルの法則を合わせたものが、ボイル・シャルルの法則と呼ばれ、次のような式で表されます。

P(圧力)× V(体積)/  T(絶対温度)= K(一定)

一定量の気体の体積と圧力の積絶対温度に比例するという関係を示している公式です。

ここまでわかったところで、気体の状態方程式に移りましょう。気体の状態方程式と省略されて呼ばれることが多いですが、実は理想気体の状態方程式というのが正しい表現になります。ピーブイイコールエヌアールティーという言葉を聞いたことありませんか?

ボイル・シャルルの法則を発展させたものが、理想気体の状態方程式と呼ばれる公式なのです。

\次のページで「1-4.気体定数と理想気体の状態方程式」を解説!/

1-4.気体定数と理想気体の状態方程式

ボイル・シャルルの法則の K(一定)の部分を特定したいので、1 mol の理想気体は 0 ℃、 1 atm のとき 22.4 L という決まっている値を代入しましょう。

P(圧力・atm)× V(体積・L)/ T(絶対温度・K)= K(一定)

P は 1 atm、V は 22.4 L、T は 0 ℃= 273 K なので

K = 1 × 22.4 / 273 = 0.082051

これは 1 mol の時の K であり、この定数は n(mol)× R(気体定数 = 約 0.082)と言い換えることができます。つまり、

P(圧力・atm)× V(体積・L)= n(mol)× R(気体定数=約 0.082)× T(絶対温度・K)

圧力、体積、モル、温度のうちの 3 つの要素が決まれば、残りの 1 つがわかるというとても便利な公式です。

2.理想気体と実在気体

ここまでおさらいしてきた、ボイル・シャルルの法則と気体の状態方程式は理想気体で成り立つ方程式です。逆に言ってしまえば、実在気体(現実にある気体)ではこの方程式は成り立たないということになります。

しかし理想気体の状態方程式はとても便利で、できるだけ使いたいのです。実在する気体は、なぜ理想気体と同じ値をとらないのでしょうか?

2-1.理想気体と実在気体の違いとは

理想気体の状態方程式に従う理想気体というのは低温や高圧でも液体になったり固体になったりしません。実在する気体は、温度下がったら液体になったり固体になったりしますよね。

しかしボイル・シャルルの法則と理想気体の状態方程式は、気体の時に限り使える公式なので状態変化はしないと考えなければ使えなくなってしまいます。

ここで、理想気体と実在気体の違いについてまとめておきましょう。

理想気体は気体の状態方程式に厳密に従い分子自身の体積はゼロ分子間力もゼロ、温度や圧力がどのような値でも気体の状態を保ちます

対して実在気体は気体の状態方程式に厳密には従わず分子自身の体積を持っており分子間力もあり、温度や圧力によって液体になったり固体になったり状態が変化するのです。

2-2.理想気体と実在気体をグラフで比べる

2-2.理想気体と実在気体をグラフで比べる

image by Study-Z編集部

上のグラフは、理想気体と実在気体の P(圧力)による PV / RT を表したものです。理想気体の PV / RT は一定値をとるので、圧力が高くなっても同じ値を示しています。

しかし、青色で示した分子間力が小さい気体(例えば水素分子、窒素分子、メタンなど)は圧力が増加するほど PV / RT の値は大きくなっていき、理想気体から離れていくのです。

そして、紺色で示した分子間力が大きい気体(例えばアンモニア、二酸化炭素など)は一度 PV / RT の値が小さくなり底まで落ちた後は、こちらもどんどん大きくなっていって理想気体から離れていってしまいます。

なぜこのような挙動になってしまうかというと、温度が低い場合熱による動き回り(熱運動)が小さくなりますね。このため、分子間に働く引き付け合う力(分子間力)による相互作用の影響が大きく出て理想気体から離れてしまうのです。

そして、圧力が高くなると気体の体積は小さくなり、分子同士の距離が近くなる分子間力による影響が大きく出て理想気体から離れていきます。また、圧力が高くなると気体の体積が小さくなることで、分子自身の体積による影響が大きくなりさらに理想気体から離れる結果になるのです。

2-3.理想気体に近づけるにはどうしたらよいか

理想気体と実在気体を比べることで、実在気体を理想気体に近づけるには、温度を高くして圧力を低くすることが必要という事が分かりました。

温度を高くすれば、気体分子の熱運動が大きくなることで分子間力が無視できるようになります。

そして圧力を低くすれば、気体の体積が大きくなることで気体分子自身の体積による影響が無視できるようになり、さらに気体分子同士の距離が離れることにより分子間力も無視できるようになるということですね。

\次のページで「理想気体とはボイル・シャルルの法則と気体の状態方程式を厳密に成り立たせる気体のこと」を解説!/

理想気体とはボイル・シャルルの法則と気体の状態方程式を厳密に成り立たせる気体のこと

理想気体とはボイル・シャルルの法則気体の状態方程式厳密に成り立たせる気体です。

ボイル・シャルルの法則とは一定量の気体について、圧力と体積の積絶対温度に比例するという事を示していて、P(圧力)× V(体積)/  T(絶対温度)= K(一定)という式で表します。

ボイル・シャルルの法則を発展させた理想気体の状態方程式は、P(圧力・atm)× V(体積・L)= n(mol)× R(気体定数=約 0.082)× T(絶対温度・K)という式です。これは圧力、体積、モル、温度のうちの 3 つの要素が決まれば、残りの 1 つがわかるというとても便利な公式になります。

しかし、ある条件下ではこれらの便利な公式で導いた値実際に測定した値大きくずれることがあるのです。

温度が低い場合、熱運動が小さくなるため分子同士がお互いを引き付け合う力による影響が大きく出て理想気体から離れてしまいます。

そして圧力が高い場合、気体の体積は小さくなり、分子同士の距離が近くなる分子間力による影響が大きく出てしまうのです。さらに気体の体積が小さいという事から分子自身の体積による影響も大きくなり理想気体から離れる結果になります。

つまり実在気体は、温度を高くし圧力を低くすることで理想気体に近づくということを覚えておきましょう。

" /> 3分で簡単「理想気体」実在気体との違いは?元研究員がわかりやすく解説 – Study-Z
化学

3分で簡単「理想気体」実在気体との違いは?元研究員がわかりやすく解説

「理想気体」って言葉を聞いたことがあるか?

化学では気体について計算で導く問題も出てくるんですが、それは「理想気体」としてであって「実在気体」ではなのです。

今回は理想気体の状態方程式や、理想気体と実在気体の違いについて、化学実験を生業にしてきたライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

1.ボイル・シャルルの法則と気体の状態方程式

image by iStockphoto

理想気体とは分子自身の大きさ(体積)と分子間力をゼロとした、実在しない理論上の気体の事です。

なぜ自身の大きさと分子間力を無視したいかというと、すべての温度・圧力という条件下でボイル・シャルルの法則を成り立たせたいからといえます。

まず、ボイル・シャルルの法則についておさらいしていきましょう。

1-1.ボイルの法則

ボイル・シャルルの法則は、ボイルの法則とシャルルの法則を合体して作った法則です。ではボイルの法則とはどのような内容だったでしょうか?

ボイルの法則とは温度が一定の時に、圧力と気体の体積は反比例するという法則になります。例えば圧力が 2 倍になったら気体の体積は 1 / 2 になり、圧力が 3 倍になったら気体の体積は 1 / 3 になることは想像できますね。

このことを式で表すと、P(圧力)× V(体積)= K(一定)です。

1-2.シャルルの法則と絶対温度

次にシャルルの法則とは、圧力が一定の時に、絶対温度と気体の体積は比例するという性質を示した法則です。ではここで、絶対温度という用語について解説しましょう。

絶対温度とは原子や分子の熱運動がなくなる温度(理論上一番低い)温度を 0 とした温度のことで単位は K(ケルビン)で表します。通常私たちが使っている摂氏温度というのは、水が氷になる温度を 0 とした温度で単位は ℃(度)ですね。

原子や分子の熱運動がなくなる理論上一番低い温度は絶対零度と言われ – 273℃ とされています。ということは、0 ℃ = 273 K です。それなので、℃ を Kに変換したい時は t(℃)+ 273 = T(K)で求めましょう。例えば 20 ℃ であれば 20(℃)+ 273 = 293(K)ということになります。

絶対温度についてわかったところで、シャルルの法則に戻りましょう。

圧力が一定の時に温度を上げていくと気体の体積は膨張します。シャルルの法則は、気体の体積絶対温度(K)に比例するということを示していましたね。

例えば絶対温度が 2 倍になったら気体の体積も 2 倍になり、絶対温度が 3 倍になったら気体の体積も 3 倍になるということです。

このことを式で表すと、V(体積)÷ T(絶対温度)= K(一定)になります。

1-3.ボイル・シャルルの法則

以上のボイルの法則とシャルルの法則を合わせたものが、ボイル・シャルルの法則と呼ばれ、次のような式で表されます。

P(圧力)× V(体積)/  T(絶対温度)= K(一定)

一定量の気体の体積と圧力の積絶対温度に比例するという関係を示している公式です。

ここまでわかったところで、気体の状態方程式に移りましょう。気体の状態方程式と省略されて呼ばれることが多いですが、実は理想気体の状態方程式というのが正しい表現になります。ピーブイイコールエヌアールティーという言葉を聞いたことありませんか?

ボイル・シャルルの法則を発展させたものが、理想気体の状態方程式と呼ばれる公式なのです。

\次のページで「1-4.気体定数と理想気体の状態方程式」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: