ほとんどの原子には中性子の数が異なる同位体が存在するって知っているか?

周期表にも記載されている元素の原子量は、安定同位体がどのくらいの比率で存在するかを加味して算出されているんです。

今回は同位体とは何か?から、同位体と原子量の関係について、化学実験を生業にしてきたライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

1.同位体って何だろう

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原子番号が同じでも、原子核に含まれる中性子の数が違う原子の事を同位体といいます。元素の性質を決める陽子と電子の数は同じでも、中性子の数が違うため原子全体の重さも異なるのです。

その同位体には安定なものと不安定なものが存在し、不安定なものは放射線を出しながら壊れて別の元素になります。

まずは原子の構造から、同位体をひも解いていきましょう。

1-1.原子の構造

1-1.原子の構造

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身の回りにある物質のすべてが、そして私たちの身体もさまざまな原子の集合体です。原子は持っている陽子の数の違いから元素記号という名前が付けられ、周期表に性質ごとに分類されています。

原子とはもともと、それ以上分割できない最小のものという意味です。ですがその後の研究により、原子がいくつかの異なる性質を持つものの集合体であるということがわかりました。

原子はプラスの電荷を帯びた原子核マイナスの電荷を帯びた電子からできています。原子核がプラスの電荷を帯びているのは、内部にある陽子がプラスの電荷を帯びているためです。そして、原子核には電荷をもたない中性子も陽子と同じくらいの数含まれています。

1-2.原子番号と同じ数なのは?

元素は原子番号=陽子の数によって、元素記号という固有の名前が付けられています。そして、陽子の数と原子核の周りをまわっている電子の数は等しいです。つまり、原子番号=陽子の数=電子の数ということになりますね。

しかし、もうひとつの原子を構成する要素である中性子は、陽子と同じ数を持つ場合もありますが違う場合もあります。中性子数が違うだけである同位体は、同じ元素からなる原子なので、仮に周期表でどこに配置するかを聞かれた場合は同じ陽子数の元素の中にまとめて入れられるということを覚えておきましょう。

また、しつこいようですが中性子数が違うだけなので、同位体どうしの化学的性質はほとんど変わりがありません

次に、水素原子を例にとり同位体をさらに詳しく見ていきましょう。

1-3.水素原子で解説する同位体

1-3.水素原子で解説する同位体

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原子番号 1 の水素には、中性子数が 0 の 1H と中性子数が 1 の 2H と中性子数が 2 の 3H という 3 つの同位体があります。水素の同位体に限りそれぞれに名前が付けられていて、1H軽水素2H重水素(デューテリウム)3H三重水素(トリチウム)です。

自然界に存在する比率は 1H が 99.9% を占めるので、水素の原子量は 1 となっています。この原子量と同位体の関係については、後で解説しましょう。

このうち 1H2H は安定同位体であり、3H は時間がたつと壊れてしまう放射性同位体です。

\次のページで「2.同位体の書き表し方」を解説!/

2.同位体の書き表し方

次に、同位体をどのように書き表すかについてお話しましょう。同位体は元素記号が同じなので、どのように書き分ければいいのでしょうか。

2-1.同位体を区別して書き表そう

2-1.同位体を区別して書き表そう

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通常元素記号だけで元素を書き表すときは、同位体の区別をしていません。それぞれの元素には一定の割合で同位体が存在することがこれまでの研究でわかっており、同位体が混ざり合った状態のものがその元素だとして扱われているからです。

しかし同位体を特別に書きたい時は、元素記号の左上に陽子の数と中性子の数を足した数値(質量数)を書いて、中性子数が違う事を表しましょう。

3.放射性同位体とは何か?

これまでも何度か出てきましたが、同位体の中には変化しない安定同位体と、時間が経つと壊れてしまう同位体があります。

3-1.同位体は二種類に分けられる

同じ元素からなる原子でも中性子の数が違うことにより、質量数(重さ)が違うものを同位体と言いました。その同位体の中には、自分の形を保っていられず放射線を出して他の元素になってしまう同位体もいます。

その放射線を出して他の元素になってしまう同位体のことを放射性同位体というのです。

次に、炭素原子を例にとり放射性同位体を詳しく見てみましょう。

3-2.炭素原子と放射性同位体

炭素の原子番号は 6 であり、陽子と電子の数はそれぞれ 6 個です。中性子の数は 6 個の 12Cが地球上で 98.9 % を占めています。

この 12C には中性子数が 7 の 13C中性子数が 8 の 14C という同位体が存在していて、このうち 12C 13C は安定同位体であり、14C は長い時間がたつと壊れてしまう放射性同位体です

14C は放射性同位体の中で一番と言っていいほど有名なので覚えておきましょう。なぜなら、ずっと昔に生きていた動物や植物が発掘された時に、その中に含まれる14Cの量を測定することで、その動物や植物がいつの時代に生きていたものなのか調べることができるからです。この方法を14C年代測定法といいます。

3-3.放射性同位体しか存在しない元素

現在確認されている100種類以上ある元素のうち、安定同位体の存在が確認されていない元素もあるのです。放射性同位体しか確認されていないそれらの元素は、放射性元素とも呼びます。放射性元素は放射線を出して壊変(壊れて他の元素に変化)してしまうため、現代の科学力を駆使しても詳しく性質を調べることが難しいのです。

放射性元素には、原子番号 86 の Rn(ラドン)や原子番号 94 の Pu(プルトニウム)など意外と多くの元素があります。

放射性元素の原子量は空欄の場合もありますが、一番長い半減期(量が半分になる期間)を持つ放射性同位体の質量数が仮として与えられているのです。

\次のページで「4.同位体と原子量の関係」を解説!/

4.同位体と原子量の関係

最後に同位体と原子量の関係について解説しましょう。

ひとつの元素に中性子数が異なる同位体がいくつか存在するなら、同じ元素からなる原子でも質量数が異なる原子が存在してしまうという事になりますね。

その元素の原子量を決める時、同位体の存在比というものを考える必要があります。

4-1.質量数とは

まず、質量数はその元素の原子 1 個の重さです。そして、原子の重さは(陽子の数 + 中性子の数)で表します。

なぜ電子の数を無視してしまっているかというと、電子は陽子や中性子と比べるととても小さく 1 / 1840 しか質量がありません。それほどまでに軽い電子の数は含めず、質量数は陽子と中性子の数により決定されるのです。

4-2.同位体と存在比と原子量

地球上に存在する多くの元素には、質量数が異なる同位体が存在します。その同位体がどのような割合で存在するかを調べて数値化したものが存在比です。

例としてこれまでにお話してきた、水素と炭素の同位体の存在比は以下のようになります。

水素 1H  99.9% 

    2H   0.01%

    3H  ごく微量

炭素  12C  98.93%

     13C  1.07%

              14C  ごく微量

このような各元素の同位体の存在比から計算で算出したものが、皆さんが知っていて周期表にも記載されている元素の原子量なのです。

\次のページで「4-3.存在比から原子量を計算してみる」を解説!/

4-3.存在比から原子量を計算してみる

では、実際に存在比から原子量を計算してみましょう。

問題 原子番号17の塩素について、同位体の存在比は中性子数18の35Clが75.7%、中性子数20の37Cl が24.3%です。このことから塩素の原子量を求めましょう。

塩素の原子番号は 17 であり陽子の数は 17 個なので、中性子数 18 の塩素原子の質量数は 17 + 18 = 35

そして、中性子数 20 の塩素原子の質量数は 17 + 20 = 37

質量数 35 の原子が 75.7 %、質量数 37 の原子が 24.3% 存在する事より

( 35 × 75.7 + 37 × 24.3 ) ÷ 100 = 35.486

よって塩素の原子量は 35.486 となります。

安定同位体とは放射性同位体と違って壊れてしまわない同位体のこと

同位体とは原子番号が同じで、陽子の数が同じでも中性子の数が違う原子の事です。同位体どうしは性質を決める陽子や電子の数が同じなので、化学的性質はほとんど変わりません

水素の同位体は、同じ元素からなる原子でも重さが 2 倍 3 倍となるため、特別に名前が付けられています。1H が軽水素2H が重水素(デューテリウム)3H が三重水素(トリチウム)と呼ばれ、このうち 1H と 2H が安定同位体で、3H が放射線を出して壊れてしまう同位体です。

同位体は元素記号の左上質量数(陽子数+中性子数)を書くことで、中性子数が違う事を表します。

同位体には、それ以上変化しない安定同位体と、放射線を出して別の元素になってしまう放射性同位体の 2 種類があるので覚えておきましょう。 12C の放射性同位体である 14C は、発掘された古代の生物がいつの時代に生きていたかを調べる年代測定法に使われる、有名な放射性同位体です。

元素の質量として知られている原子量は、安定同位体が地球上にどのくらいの割合で存在するかを数値化した存在比によって算出されています。

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化学

3分で簡単「安定同位体」中性子数が異なる同位体って?元研究員がわかりやすく解説

ほとんどの原子には中性子の数が異なる同位体が存在するって知っているか?

周期表にも記載されている元素の原子量は、安定同位体がどのくらいの比率で存在するかを加味して算出されているんです。

今回は同位体とは何か?から、同位体と原子量の関係について、化学実験を生業にしてきたライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

1.同位体って何だろう

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原子番号が同じでも、原子核に含まれる中性子の数が違う原子の事を同位体といいます。元素の性質を決める陽子と電子の数は同じでも、中性子の数が違うため原子全体の重さも異なるのです。

その同位体には安定なものと不安定なものが存在し、不安定なものは放射線を出しながら壊れて別の元素になります。

まずは原子の構造から、同位体をひも解いていきましょう。

1-1.原子の構造

1-1.原子の構造

image by Study-Z編集部

身の回りにある物質のすべてが、そして私たちの身体もさまざまな原子の集合体です。原子は持っている陽子の数の違いから元素記号という名前が付けられ、周期表に性質ごとに分類されています。

原子とはもともと、それ以上分割できない最小のものという意味です。ですがその後の研究により、原子がいくつかの異なる性質を持つものの集合体であるということがわかりました。

原子はプラスの電荷を帯びた原子核マイナスの電荷を帯びた電子からできています。原子核がプラスの電荷を帯びているのは、内部にある陽子がプラスの電荷を帯びているためです。そして、原子核には電荷をもたない中性子も陽子と同じくらいの数含まれています。

1-2.原子番号と同じ数なのは?

元素は原子番号=陽子の数によって、元素記号という固有の名前が付けられています。そして、陽子の数と原子核の周りをまわっている電子の数は等しいです。つまり、原子番号=陽子の数=電子の数ということになりますね。

しかし、もうひとつの原子を構成する要素である中性子は、陽子と同じ数を持つ場合もありますが違う場合もあります。中性子数が違うだけである同位体は、同じ元素からなる原子なので、仮に周期表でどこに配置するかを聞かれた場合は同じ陽子数の元素の中にまとめて入れられるということを覚えておきましょう。

また、しつこいようですが中性子数が違うだけなので、同位体どうしの化学的性質はほとんど変わりがありません

次に、水素原子を例にとり同位体をさらに詳しく見ていきましょう。

1-3.水素原子で解説する同位体

1-3.水素原子で解説する同位体

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原子番号 1 の水素には、中性子数が 0 の 1H と中性子数が 1 の 2H と中性子数が 2 の 3H という 3 つの同位体があります。水素の同位体に限りそれぞれに名前が付けられていて、1H軽水素2H重水素(デューテリウム)3H三重水素(トリチウム)です。

自然界に存在する比率は 1H が 99.9% を占めるので、水素の原子量は 1 となっています。この原子量と同位体の関係については、後で解説しましょう。

このうち 1H2H は安定同位体であり、3H は時間がたつと壊れてしまう放射性同位体です。

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