原子がイオンになる時に、どのような変化が起こっているか知っているか?

原子1個から電子1個を取り去ると1価の陽イオンになるんですが、その電子1個を取り去るのにはエネルギーが必要で、それをイオン化エネルギーと呼ぶんです。

今回は「イオン化エネルギー」と、セットで覚えておきたい「電子親和力」について、化学実験を生業にしてきたライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

1.電子の受け渡しでイオンになる

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ある原子がイオンになる時、どのような変化が起きていると思いますか?

そのことを知るために、まず、原子はなぜイオンになるのか?から説明していきましょう。

1-1.イオンと電子配置

18族(希ガス)の原子の電子配置は、とても安定しています。この安定した電子配置を、その他ほとんどの原子はうらやましくてたまりません。

希ガスと同じ電子配置になるには、周期表で左の方の原子は電子を放出することで、周期表で右の方( 17 族まで)は電子を受け取ることで可能になります。

それなので、原子はエネルギーを加えられることで電子を放出する、もしくはエネルギーを放出することで電子をもらうのです。

1-2.イオンと電荷

希ガスと同じ電子配置になりたくて、持っている電子を放出もしくは外から電子をもらった原子ですが、電子はマイナスの電荷を帯びています。

原子はプラスの電荷を帯びた陽子と、マイナスの電荷を帯びた電子の数が同じことで、電気的に中性だったはずです。電子を放出する、または電子をもらってしまったら、電気的にプラスもしくはマイナスになりますよね。

電子を放出した原子は、電気的に中性なところからマイナスをひとつ取ってしまうので陽イオン(プラスの電荷を帯びたイオン)に、電子を受け取った原子はマイナスをひとつ加えるので陰イオン(マイナスの電荷を帯びたイオン)になります。

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2.イオン化エネルギー

電子の受け渡しでイオンになる原子ですが、電子の受け渡しにはエネルギーが不可欠です。電子を放出するためにはエネルギーを加えられる必要があり、電子を得るためにはエネルギーを出さなければなりません。

エネルギーが加わると電子を放出できる、エネルギーを出すと電子を受け取れるという、電子とエネルギーは交換する関係にあるという事を覚えておきましょう。

では次に、陽イオンになるために必要なエネルギーである、イオン化エネルギーについてもう少し詳しくお話します。

2-1.イオン化エネルギーとは何か

気体状態の原子 1 個から最外殻( 1 番外側の)電子 1 個を取り去り、1 価の陽イオンにするために必要なエネルギーを第一イオン化エネルギーといいます。

このイオン化エネルギーは、元素によって固有の数値があり、大きいものも小さいものもまったく同じ数値の元素は存在しません

では、なぜイオン化エネルギーが元素によって異なるのでしょうか?

2-2.同族のイオン化エネルギーを比べてみる

First ionization energies.png
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周期表は、最外殻の電子の数が同じものが縦に(同族)並んでいますよね。例えば 1 族の元素たちは最外殻に入っている電子が 1 個だから、電子 1 個を取り去る時に必要なエネルギーは同じではないか?と思われるかもしれません。

しかし、ここで関係してくるのが原子の大きさです。同じ族でも下の方にいくと原子番号が大きくなります。原子番号が大きくなると、電子の数が増え最外殻がより外側になり、原子の半径が大きくなることは想像できますよね。

マイナスの電荷を帯びた最外殻の電子と、プラスの電荷を帯びた真ん中に位置する陽子の距離が遠くなるので、電子を引き付ける力が弱くなり電子を放出しやすくなります。

電子を放出しやすくなるということは、電子を取り去るのに必要なエネルギー(イオン化エネルギー)が小さくなるという事で、陽イオンになりやすいといえますね。

同族では、原子番号が大きくなるほど(周期表で下側にいくほど)イオン化エネルギーが小さくなる陽イオンになりやすいということを、覚えておきましょう。

2-3.同周期のイオン化エネルギーを比べてみる

では原子の大きさが大体同じくらいの、周期表で横に並んでいる同じ周期の元素ではどうなるでしょうか?

プラスの電荷を帯びた陽子と、外側を回っているマイナスの電荷を帯びた電子は互いに引き合っています。そして陽子の数が多くなるつまり、原子番号が大きくなるほど、原子核が自分の電子を引っぱる力が大きくなるのです。

電子を引っぱる力が強くなるという事は、電子を放出するのにたくさんのエネルギーが必要=イオン化エネルギーが大きくなるといえますね。

同周期では、原子番号が大きくなるほど(周期表で右側にいくほど)イオン化エネルギーが大きくなる=陽イオンになりにくいということを覚えておきましょう。

イオン化エネルギーが大きいという事は、陽イオンに「なりやすい」のか「なりにくい」のかが分からなくなってしまい、苦手意識をもってしまう事があります。「イオン化エネルギーが大きい=陽イオンになりにくい」このイメージをしっかりと覚えておきましょう。

2-4.イオン化エネルギーと周期表

2-4.イオン化エネルギーと周期表

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では周期表を使って、ここまで学んだことをまとめましょう。

まず同族では、原子番号が大きくなるほどイオン化エネルギーが小さくなる=電子を放出する時に必要なエネルギーが少ない=陽イオンになりやすいということです。つまり下に行くほどイオン化エネルギーは小さくなります。

そして同周期では、原子番号が大きくなるほどイオン化エネルギーが大きくなる=電子を放出するのに必要なエネルギーが多い=陽イオンになりにくいということですね。つまり右に行くほどイオン化エネルギーは大きくなります。

\次のページで「3.電子親和力」を解説!/

3.電子親和力

次に、イオン化エネルギーとセットで覚えておきたい、電子親和力について解説しましょう。

イオン化エネルギーが陽イオンになる時に必要なエネルギーだという事に対して、電子親和力は陰イオンになる時に放出されるエネルギーの事です。

では、電子親和力について詳しくお話していきましょう。

3-1.電子親和力とは何か

原子 1 個が 1 価の陰イオンになる時、つまり電子を自分以外から持ってきてくっつけるとき、エネルギーが放出されます。電気的に中性な原子 1 個が電子 1 個をもらい、1 価の陰イオンになる時に放出するエネルギーを「電子親和力」というのです。

電子親和力が大きい原子は 1 価の陰イオンになりやすいといえます。大きいほうがなりやすいという所が、イオン化エネルギーと逆なので注意が必要です。電子親和力は、電子との仲の良さだと考えてみましょう。電子と仲が良いほど電子親和力が大きい=外から電子を奪ってくっつけて陰イオンになりやすいと考えると、大きいほうが陰イオンになりやすい事と結びつけやすいと思います。

周期表でいうと、同族では下に行くほど(原子番号が大きくなるほど)電子親和力は小さくなるのです。(ただし例外あり。)

そして同周期では、18 族を除き右に行くほど(原子番号が大きくなるほど)電子親和力が大きくなります。

3-2.電子親和力と周期表

3-2.電子親和力と周期表

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では周期表を使って、ここまで学んだ電子親和力の大小をまとめましょう。

周期表で「希ガスを除いて」右にいけばいくほど、つまり同周期で原子番号が大きくなるほど、電子親和力は大きくなります。

希ガスは最初にも触れましたが、非常に安定な電子配置のため、これ以上余計な電子を入れたくありません。それなので、希ガスの電子親和力は非常に小さい値になります。

希ガスを除くと、周期表の一番右にあるのは 17 族のハロゲンです。電子親和力は左下から右上に向かって大きくなりハロゲンが一番電子親和力が大きい、つまり 1 価の陰イオンになりやすいといえます。

イオン化エネルギーが小さい=電子を放出しやすい=1価の陽イオンになりやすい

原子 1 個が電子 1 個を放出して、陽イオンになる時に必要なエネルギーの事を第一イオン化エネルギーといいます。

このイオン化エネルギーは小さいほうが陽イオンになりやすく、大きいほうが陽イオンになりにくいです。電子1個を引き離すために必要なエネルギーがイオン化エネルギーだと覚えておきましょう。

周期表では右上に行くほどイオン化エネルギーが大きくなります。

対して、原子 1 個が電子を 1 個受け取って陰イオンになるときに、放出されるエネルギーが電子親和力です。

電子親和力は大きいほうが陰イオンになりやすいので、電子親和力が大きいほうが電子と仲がいい=陰イオンになりやすいとイメージしましょう。

電子親和力は、周期表で同一周期では希ガスを除いて右にある元素ほど大きいです。ハロゲンが一番電子親和力が大きく陰イオンになりやすいといえるでしょう。同族では例外はありますが下に行くほど電子親和力は小さくなります。

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化学物質の状態・構成・変化理科

3分で簡単「イオン化エネルギー」1価の陽イオンになる時に必要なエネルギーを元研究員がわかりやすく解説

原子がイオンになる時に、どのような変化が起こっているか知っているか?

原子1個から電子1個を取り去ると1価の陽イオンになるんですが、その電子1個を取り去るのにはエネルギーが必要で、それをイオン化エネルギーと呼ぶんです。

今回は「イオン化エネルギー」と、セットで覚えておきたい「電子親和力」について、化学実験を生業にしてきたライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

1.電子の受け渡しでイオンになる

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ある原子がイオンになる時、どのような変化が起きていると思いますか?

そのことを知るために、まず、原子はなぜイオンになるのか?から説明していきましょう。

1-1.イオンと電子配置

18族(希ガス)の原子の電子配置は、とても安定しています。この安定した電子配置を、その他ほとんどの原子はうらやましくてたまりません。

希ガスと同じ電子配置になるには、周期表で左の方の原子は電子を放出することで、周期表で右の方( 17 族まで)は電子を受け取ることで可能になります。

それなので、原子はエネルギーを加えられることで電子を放出する、もしくはエネルギーを放出することで電子をもらうのです。

1-2.イオンと電荷

希ガスと同じ電子配置になりたくて、持っている電子を放出もしくは外から電子をもらった原子ですが、電子はマイナスの電荷を帯びています。

原子はプラスの電荷を帯びた陽子と、マイナスの電荷を帯びた電子の数が同じことで、電気的に中性だったはずです。電子を放出する、または電子をもらってしまったら、電気的にプラスもしくはマイナスになりますよね。

電子を放出した原子は、電気的に中性なところからマイナスをひとつ取ってしまうので陽イオン(プラスの電荷を帯びたイオン)に、電子を受け取った原子はマイナスをひとつ加えるので陰イオン(マイナスの電荷を帯びたイオン)になります。

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