今回は「潜熱」について解説していきます。

潜熱は、物質が状態変化する際に、放出または吸収するエネルギーのことです。そして、この潜熱という概念は、気象学や工学を学ぶ際にも重要になる。今回は、これらの学問の視点からも、潜熱について解説するつもりです。ぜひ、この記事を読んで、潜熱についての理解を深めてくれ。

環境工学、エネルギー工学を専攻している理系学生ライターの通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。環境中における物質の流れや変化について学習する機会があったことから、潜熱についても深く理解している。

潜熱について学ぶ前に

物質の三態

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潜熱について学ぶ前に、物質の三態について復習しましょう。物質の状態は、物質を構成する原子や分子のもつエネルギーや相互間距離の大小により、大きく3つ分けることができます。このような表現であると、もの凄く難しい内容のように思えますが、実は固体液体気体のことをさしていますよ。この3種類の状態を、物質の三態と呼びます

では、固体・液体・気体について、もう少し詳しく学んでみることにしましょう。固体は、物質を構成する原子や分子が密集している状態をさします。このとき、原子や分子はほとんど位置を変えることなく、わずかに振動していますよ。例えば、氷や常温における鉄などは固体です。

液体は、原子や分子が位置を変えることはできるが、それらの相互間距離は小さいという状況をさしていますよ。水道から出てくる水は液体です。続いて、気体について考えます。気体は、原子や分子が広範囲を飛び回っている状態をさしますよ。このとき、原子や分子の間の相互作用は小さくなります。常温における酸素や窒素は、気体ですよね。

物質の状態変化

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次に、物質の状態変化について考えます。状態変化のことを相変化と表現することもありますよ。物質の三態のうち、ある状態から別の状態に移り変わることを状態変化というのです。圧力や温度を変化させることで、状態変化は生じます

まず、氷が融けるといった固体が液体に変化する状況を考えましょう。このような変化を融解といいます。逆に、液体が凍って固体になる変化凝固といいますよ。では、液体が気体に変化する場合はどうでしょうか?水道水を加熱して水蒸気に変化させるといった状況です。このような変化を、蒸発といいますよ。一方、気体が液体に変化すること凝結といいます。

そして、昇華という現象についても解説しますね。昇華は、固体が気体に変化すること気体が固体に変化することの両方を意味します。空気中におかれたドライアイスが目に見えなくなる現象が昇華です。

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潜熱とは?

潜熱とは?

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それでは、いよいよ潜熱について解説していきますね。潜熱とは、物質が状態変化する際に放出または吸収する熱量のことをさしますよ。一般に、物質を構成する原子や分子がもつエネルギーは、固体、液体、気体の順で大きくなります。ですから、固体を液体に変化させるためには、物質にある一定の熱エネルギーを加える必要があるのです。これを融解熱といいます。また、液体を気体にするために必要なエネルギーのことを蒸発熱と表現しますよ。これらはすべて顕熱です。

また、潜熱に似ている顕熱という用語もあります。これは、物質が状態を変えずに温度上昇する際に、吸収される熱量のことをさしますよ。例えば、水を50℃から70℃に変化させるのに必要なエネルギーは顕熱となります。潜熱は状態変化の際に必要なエネルギーで、顕熱は状態変化を伴わない温度上昇の際に必要なエネルギーだということがポイントです。これらの用語は混同してしまうことが多いので、注意しましょう

潜熱に関連する身近な現象や技術

気象現象

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雲の発生降雨降雪気温の変動といった気象現象は、潜熱に深い関わりがあります。まず、雲の発生について考えましょう。雲は小さな水滴や氷から構成されいますよね。空高くで、水蒸気が潜熱に相当するエネルギーを放出したときに、雲は発生するのです。雲に関連して、降雨や降雪も潜熱に深い関わりがあるといえますね。

また、気温の変動が潜熱に関わりをもつこともありますよ。降雨などにより地表面に水が存在するとき、これらの水が潜熱に相当するエネルギーを大気から吸収すると、地表面の温度は下がります打ち水をすると涼しく感じられるのも、まったく同じ理由です

このように、地球上に存在する水は潜熱の放出と吸収を繰り返して、空、陸地、海、河川などの間を循環しています。言い換えれば、水は様々な場所にエネルギーを運ぶという役割を担っているということになりますよね。ですから、人間活動により水の流れを大きく変えてしまうと、従来の水によるエネルギー循環のバランスを崩してしまう可能性があるのです。

水の流れを変えてしまうような人間活動として、ダムの建設、大規模かんがい設備の設置、運河の設置などがありますよ。実際、このような人間の活動によって、これまでになかったような気象が観測されるようになったのではないかという指摘がなされた事例はいくつかあります

冷暖房

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最後に、冷暖房の仕組みを説明します。今や、身近な存在となった冷暖房ですが、実は潜熱の放出や吸収を活かした技術なのです。冷暖房は、室内の熱を外気に運び出したり、室外の熱エネルギーを屋内に運び込むことで、室内を快適な温度に保ちます。このとき、熱エネルギーを運ぶ役割を果たすのが冷媒です。この冷媒には、かつてフロンガスが使用されていました。ですが、フロンガスはオゾン層破壊などの環境破壊を引き起こすことから、現在は代替フロンを使用しています。

では、冷媒はどのようにして熱エネルギーを室内と室外の間で輸送するのでしょうか?まずは、冷房の場合を考えてみましょう。冷房の場合、まず液体の冷媒を気化させて、室内から気化熱に相当する熱エネルギーを奪います。その後、室外において、気体となった冷媒を凝結させて熱エネルギーを外気に捨てるのです。そして、液体となった冷媒を再び室内に送り込みます。これを繰り返すと、室内を冷却することができますよね。

次に、暖房の場合を考えましょう。暖房の場合、まず室外にて液体の冷媒を気化させて、外気のもつ熱エネルギーを冷媒に取り込みます。そして、室内において、気体となった冷媒を液体に変化させるのです。このとき、冷媒から熱エネルギーが放出されるので、これを温風として室内に供給しますよ。室内で液体となった冷媒は、再び屋外に運び出されます。以上が冷暖房の仕組みです。

ただし、ここで示したような状態変化をスムーズに行うためには、冷媒の圧力などをコントロールする必要があります。冷媒の圧力の制御は、ピストンや膨張弁などを使用して行いますよ。このとき、電気エネルギーが必要になるのです。

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物質はエネルギーを運ぶ?

この記事では、潜熱について解説しましたね。潜熱は、物質が状態変化する際に放出または吸収するエネルギーのことを指します。化学の教科書や参考書も、このような解説がなされているはずです。しかしながら、これでけでは潜熱について完全に理解できたとは言えません。

工学や気象学では、物質が状態変化を繰り返すことで、潜熱として熱エネルギーの輸送が行われるということが重要になってきます。ぜひ、この機会に、潜熱について、一歩踏み込んで理解しててみてください。

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化学物質の状態・構成・変化

3分で簡単潜熱!身近な現象や技術は?理系学生ライターがわかりやすく解説

今回は「潜熱」について解説していきます。

潜熱は、物質が状態変化する際に、放出または吸収するエネルギーのことです。そして、この潜熱という概念は、気象学や工学を学ぶ際にも重要になる。今回は、これらの学問の視点からも、潜熱について解説するつもりです。ぜひ、この記事を読んで、潜熱についての理解を深めてくれ。

環境工学、エネルギー工学を専攻している理系学生ライターの通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。環境中における物質の流れや変化について学習する機会があったことから、潜熱についても深く理解している。

潜熱について学ぶ前に

物質の三態

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潜熱について学ぶ前に、物質の三態について復習しましょう。物質の状態は、物質を構成する原子や分子のもつエネルギーや相互間距離の大小により、大きく3つ分けることができます。このような表現であると、もの凄く難しい内容のように思えますが、実は固体液体気体のことをさしていますよ。この3種類の状態を、物質の三態と呼びます

では、固体・液体・気体について、もう少し詳しく学んでみることにしましょう。固体は、物質を構成する原子や分子が密集している状態をさします。このとき、原子や分子はほとんど位置を変えることなく、わずかに振動していますよ。例えば、氷や常温における鉄などは固体です。

液体は、原子や分子が位置を変えることはできるが、それらの相互間距離は小さいという状況をさしていますよ。水道から出てくる水は液体です。続いて、気体について考えます。気体は、原子や分子が広範囲を飛び回っている状態をさしますよ。このとき、原子や分子の間の相互作用は小さくなります。常温における酸素や窒素は、気体ですよね。

物質の状態変化

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次に、物質の状態変化について考えます。状態変化のことを相変化と表現することもありますよ。物質の三態のうち、ある状態から別の状態に移り変わることを状態変化というのです。圧力や温度を変化させることで、状態変化は生じます

まず、氷が融けるといった固体が液体に変化する状況を考えましょう。このような変化を融解といいます。逆に、液体が凍って固体になる変化凝固といいますよ。では、液体が気体に変化する場合はどうでしょうか?水道水を加熱して水蒸気に変化させるといった状況です。このような変化を、蒸発といいますよ。一方、気体が液体に変化すること凝結といいます。

そして、昇華という現象についても解説しますね。昇華は、固体が気体に変化すること気体が固体に変化することの両方を意味します。空気中におかれたドライアイスが目に見えなくなる現象が昇華です。

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