この記事では「君子は豹変す」について解説する。

端的に言えば、君子は豹変す、の意味は「徳の高い人は過ちがあれば速やかに正す」です。もともとは良い意味の言葉ですが、現在では悪い意味で使われることが多い。両方の表現を知っておくと、様々なシーンで使いこなせるぞ。

日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。一緒に「君子は豹変す」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。言葉の美しさ、面白さ、奥深さをやさしく解説する。

「君子は豹変す」には良い意味と悪い意味がある!

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「君子は豹変す」という言葉にどんな印象を持っていますか?態度が急に変化してしまったという、あまり良くないイメージを持っている方のほうが多いのではないでしょうか。

もとはポジティブな意味だったのに…

まずは、辞書で意味をチェックしてみましょう。

《「易経」革卦から》君子は過ちを改め、善に移ることが際だってはっきりしている。俗に、態度や考えが急変するたとえにもいう。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「君子は豹変す」

「君子」は人格者、徳の高い人のこと。「徳の高い人は過ちがあればすぐに改め、正しい道に戻る」という意味になります。つまり、間違いに気づいたらすぐに良い方に修正できるという良い意味が本来の解釈なのです。後半に「俗に、態度や考えが急変するたとえにもいう」と記載されていることに注目してください。

現在ではネガティブな意味に!

もう一つ別の辞書も見てみましょう。

(「易経‐革卦」の「君子豹変、小人革面、征凶」による) 君子はあやまちを改めて善に移るのがきわめてはっきりしている。君子はすぐにあやまちを改める。今日では、節操なく変わり身の早いことについてもいう。君子豹変。

出典:精選版 日本国語大辞典「君子は豹変す」

こちらも、はじめに本来の意味が書かれていますが、後半に「今日では、節操なく変わり身の早いことについてもいう。」とありますね。古くから使われている慣用句は、長く使われている間に間違った使い方をする人のほうが多くなり、意味が変わってしまう場合がよくあります。本来、ネガティブな意味は誤用でしたが、現在では辞書にも掲載されており、もう誤用とは言えないですね。

\次のページで「「君子は豹変す」の使い方を例文で見てみよう!」を解説!/

「君子は豹変す」の使い方を例文で見てみよう!

「君子は豹変す」は二つの意味がありますので、それぞれの使い方を例文で見てみましょう。

ポジティブな使い方

まずはポジティブな使い方の例文です。

・「君子は豹変す」と言うが、市長は政策の欠点を認め、すぐに修正案の検討をはかることができる人物だ。
・彼女は子供の発達についての専門家で、関連著書も多数ある。マンガについては否定的な言動をしていたが、海外出張で現地の子どもが日本のマンガを愛読していることを知り、考えを変えた。まさに「君子は豹変す」だ。

過ちを認めてすぐに良い方に向かうという、もともとの意味での使い方です。近年ではネガティブな使い方が主流になっていますが、本来の使い方に違和感があるかどうかは年齢などによって個人差があるかもしれませんね。

ネガティブな使い方

次にネガティブな使い方を見てみましょう。

・教授は専門分野の言語学では権威として知られており、例解国語辞典の監修にも携わっているが、君子は豹変するの言葉通り、方針がコロコロ変わるので学内での評判はよくない。
・彼はテレビ番組で、方言を使ったネタを披露して注目を浴びた。あの評論家は当初好意的だったが、彼が差別的と批判されるようになってから、いきなり意見を変えた。あれでは、君子は豹変すと言われても仕方がない。

一貫性がなく方針や指示が急に変わる、という悪い意味での使い方です。こちらのほうがしっくりくるという人が多いかもしれません。

「君子は豹変す」の語源は故事成語!

次に語源を調べてみましょう。故事成語とは、主に中国の古典に載っているエピソードが由来になっている言葉のこと。日本語には故事成語がたくさんありますね。辞書にも書かれているように「君子は豹変す」の出典は、中国の古い書物『易経』です。原文を見てみましょう。

君子豹變、小人革面
(君子は豹変し、小人は面を革む)

\次のページで「「君子は豹変す」の類義語は?」を解説!/

「くんしはひょうへんし、しょうじんはおもてをあらたむ」と読みます。「君子」は徳の高い人。「豹変」は豹の毛が抜け変わって、鮮やかな模様になることで、転じて根本から変革することを意味します。「小人」は小人物、身分の低い人。「革面」は表面的に改めるという意味。全体では「高貴な人は過ちがあればすぐ改める、小人物は表面的に改めるだけだ」という意味になります。

「君子は豹変す」の類義語は?

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次は「君子は豹変す」の類義語を見てみましょう。

「大人虎変」「大賢虎変」賢者は変化に対応する

「大人虎変」は「たいじんこへん」と読みます。この言葉も「君子は豹変す」と同じく出典は『易経』です。「大人」は徳がある立派な人、「虎変」は虎の毛が美しく生え変わること。意味は、「賢人は、時代の流れに応じて日々自己改革すること」、また「すぐれた為政者は時代の変化に応じて古い制度を新しい制度に改革すること」です。元来の良いニュアンスの意味に近い言葉ですね。

「大賢虎変」は「たいけんこへん」と読みます。こちらも『易経』が出典で「大人虎変」と同じ意味です。

「朝令暮改」命令がコロコロ変わる

朝に出された命令が、すぐ夕方には改められるという意味。政策や方針が一定せず、命令がすぐに変わってしまう様子を表しています。最近使われている、悪いニュアンスの意味に近い言葉ですね。

「君子は豹変す」の反対語は?

「君子は豹変す」の反対語には、どんな言葉があるでしょうか。

「初志貫徹」最後までやり通す

「初志」は最初に思い立った考え、「貫徹」は貫き通すこと。つまり、最初に思い立ったことを最後までやり通すという意味です。「豹変」を突然変わるという悪い意味にとらえた場合の対義語ですね。

「首尾一貫」筋が通っている

「首尾」ははじめから終わりまで、「一貫」は同じやり方で通すこと。はじめから終わりまで同じやり方で通すという意味になり、態度や方針がぶれず、筋が通っているという良いイメージで使われています。

「君子は豹変す」の英訳は?

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「君子は豹変す」は英語に似たようなことわざがあります。

\次のページで「A wise man changes his mind, a fool never.」を解説!/

A wise man changes his mind, a fool never.

A wise man changes his mind, a fool never.

「a wise man」は賢者、「a fool」は愚かな者なので、訳すと「賢者は考えを変えるが、愚な者は決して変えない」という意味になります。

The wise man adapts himself to any conditions.

The wise man adapts himself to any conditions.

「adapt」は適応させる、「adapt oneself to」で~に順応するという意味。「any」はどんな、「conditions」は状態、状況、事情なので「賢者はいかなる状況にも適応する」という意味になります。

語源と意味を知って「君子は豹変す」を使いこなそう!

この記事では、「君子は豹変す」についての意味、語源、類義語から英訳などを説明しました。

「君子は豹変す」は元々「徳の高い人は過ちがあればすぐに改め、正しい道に戻る」という良い意味の言葉でしたが、誤用であった「節操なく変わり身の早いこと」という悪い意味の解釈が定着し、二通りの意味で使われるようになりました。

長い間に言葉の意味が変わってしまうことはよくあることですが、元々の語源と意味を知ったうえで、使いこなしたいものですね。

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国語言葉の意味

「君子は豹変す」は悪い意味?良い意味?語源、類義語なども日本放送作家協会会員がわかりやすく解説!

この記事では「君子は豹変す」について解説する。

端的に言えば、君子は豹変す、の意味は「徳の高い人は過ちがあれば速やかに正す」です。もともとは良い意味の言葉ですが、現在では悪い意味で使われることが多い。両方の表現を知っておくと、様々なシーンで使いこなせるぞ。

日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。一緒に「君子は豹変す」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。言葉の美しさ、面白さ、奥深さをやさしく解説する。

「君子は豹変す」には良い意味と悪い意味がある!

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「君子は豹変す」という言葉にどんな印象を持っていますか?態度が急に変化してしまったという、あまり良くないイメージを持っている方のほうが多いのではないでしょうか。

もとはポジティブな意味だったのに…

まずは、辞書で意味をチェックしてみましょう。

《「易経」革卦から》君子は過ちを改め、善に移ることが際だってはっきりしている。俗に、態度や考えが急変するたとえにもいう。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「君子は豹変す」

「君子」は人格者、徳の高い人のこと。「徳の高い人は過ちがあればすぐに改め、正しい道に戻る」という意味になります。つまり、間違いに気づいたらすぐに良い方に修正できるという良い意味が本来の解釈なのです。後半に「俗に、態度や考えが急変するたとえにもいう」と記載されていることに注目してください。

現在ではネガティブな意味に!

もう一つ別の辞書も見てみましょう。

(「易経‐革卦」の「君子豹変、小人革面、征凶」による) 君子はあやまちを改めて善に移るのがきわめてはっきりしている。君子はすぐにあやまちを改める。今日では、節操なく変わり身の早いことについてもいう。君子豹変。

出典:精選版 日本国語大辞典「君子は豹変す」

こちらも、はじめに本来の意味が書かれていますが、後半に「今日では、節操なく変わり身の早いことについてもいう。」とありますね。古くから使われている慣用句は、長く使われている間に間違った使い方をする人のほうが多くなり、意味が変わってしまう場合がよくあります。本来、ネガティブな意味は誤用でしたが、現在では辞書にも掲載されており、もう誤用とは言えないですね。

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