この記事では「雨緑樹林」をテーマにみていきたい。

高校の生物の授業でバイオームを勉強すると、たくさんの動植物や地名がでてくるよな。先生からたくさんの情報を一度に聞くとなかなか覚えられないが、一つ一つ丁寧にみていけば記憶にも定着しやすくなる。今回は雨緑樹林をマスターしよう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

雨緑樹林とは

雨緑樹林(うりょくじゅりん)とは、乾季と雨季がはっきり分かれている地域に成立するタイプの樹林のことをいいます。雨緑樹林を構成する樹木の多くは、乾季には葉を落とし、雨季になると葉をつけるため、このような名前で呼ばれるんです。

ちなみ、英語で雨緑樹林は”rain‐green forest”。まさに「そのまんま」の名前ですね。

後ほど詳しくご紹介しますが、雨緑樹林が成立するのは赤道直下の国というよりも、赤道よりもやや南北に離れた地域が多いです。

赤道直下(=緯度0度)は季節の変化がほとんどありません。一年中気温が高く、また降水量も多いため、通年で成長し続ける巨木が生育するような森林になります。このような地域で成立するのが熱帯多雨林亜熱帯多雨林です。

image by iStockphoto

しかし、赤道からやや北、もしくは南に離れた地域になると季節風(モンスーン)の影響が生じ、乾季や雨季という季節の変化があらわれます。

樹木の生長のためには、水が必要不可欠。そのため、乾燥にも耐えられる植物や、厳しい乾季に落葉することで水分を保持する植物が、この地域で生き残ることになったのです。雨緑樹林には、そのような特徴をもつ植物がみられます。

基本的には熱帯や亜熱帯ですので、赤道直下とそれほど年平均気温は違いませんが、乾季があることで降水量がやや少ない…これが熱帯多雨林と雨緑樹林を分ける要因となる、ということを覚えておきましょう。

このように、年間の気温や降水量は、その地域の植生を左右する重要なファクターです。さらに、「どんな植物が生えているか」という条件は、「どんな動物がそこで暮らしていけるか」にも影響します。言ってしまえば、気温と降水量はその地域に住む生物すべてを左右しかねないのです。

バイオームとは

「その地域に住むすべての生物」をまとめてバイオーム(生物群系)といいます。こちらの図をご覧ください。

\次のページで「”雨緑樹林”に当てはまる地域・特徴的な生物」を解説!/

image by Study-Z編集部

前述の通り、バイオームはその土地の気温や降水量に影響されます。地球上の地域は、年間平均気温と年間平均降水量によって、大きく10のタイプのバイオームに分けることができるんです。

ある程度の降水量がある地域では、熱帯多雨林や照葉樹林、針葉樹林のような”森林”タイプのバイオームが成立します。

森林が成立するには降水量が足りないような場所にみられるのは、サバンナやステップのような”草原”タイプのバイオームです。

そして、草原ができる条件よりも雨が少ない地域、気温の低すぎる地域には砂漠、もしくはツンドラのような”荒原”タイプのバイオームができます。

雨緑樹林はこの10タイプのバイオームの一つ。雨緑樹林の成立するところには、ある程度類似した植生や動物がみられます。

”雨緑樹林”に当てはまる地域・特徴的な生物

続いては、雨緑樹林がよく見られる地域と地域ごとの特徴的な生物をみていきましょう。

\次のページで「1.タイ」を解説!/

1.タイ

発達した雨緑樹林がよく見られるのは、東南アジアの各地。とくにタイの森林の写真が教科書などにもよく取り上げられています。

とくにタイ北部からミャンマーにかけては広大な雨緑樹林が広がっていました。しかしながら近年は開発が進み、その面積はかなり減ってしまっています。ちなみに、タイの雨季は6月から10月ごろ。11月から2月ごろは乾季です。

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代表的な樹木として、チークを覚えておきましょう。チークはシソ科の落葉広葉樹で、雨季の始まりとともに葉を広げ、乾季に入り始める10月ごろには落葉がはじまります。このチークはとても強靭な高級木材として知られ、家具のほか、建築や船舶の建材などにも利用されるんです。

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タイの雨緑樹林に住む動物としてイメージしやすいのはアジアゾウでしょう。象というとサバンナにいるアフリカゾウを思い浮かべる人が多いのですが、東南アジアのアジアゾウは森林を好んで生息するんです。

実は、雨緑樹林の林床ではイネ科などの草本植物がよく育ちます。多くの樹木が乾季に葉を落とすため、林床に光が届きやすいんですね。アジアゾウはそういった植物を食べて暮らしています。

2.インド

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インドも雨緑樹林が発達しやすい気候の国です。雨季や乾季のシーズンはタイと同じくらいで、雨季が6月から10月、乾季が11月から3月ごろとなります。

みなさんは、サラソウジュ(沙羅双樹)という木の名前を聞いたことはありませんか?『平家物語』の一節で「沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表す」という部分がありますよね。サラソウジュはもともとインドなどの雨緑樹林でよくみられる樹木。お釈迦様がこの樹の下で亡くなった(入滅した)といわれているため、仏教ではとても大事にされているんです。

\次のページで「3.アフリカ大陸各地」を解説!/

加えて、ラワンという木も覚えておきましょう。フタバガキ科の樹木であり、先ほどのサラソウジュもラワンに近い仲間です。木材としてよく利用されています。

3.アフリカ大陸各地

ちょっと意外なのですが、アフリカ大陸の各地にも雨緑樹林が発達する条件が整っています。”バイオーム”の分野では、サバンナや砂漠の代表的なエリアとして紹介されることが多いのですが、赤道近くには熱帯多雨林や雨緑樹林ができるんです。決して”雨緑樹林はアジアにしかない”とは覚えないでくださいね。

乾季と雨季の二面性

雨緑樹林は、乾季と雨季で全く違った姿を見せます。雨季には緑生い茂る森も、数か月後には枯れ木ばかりのような様子になってしまうのです。もちろん、雨季になればまた葉がつくのですが…熱帯多雨林・亜熱帯多雨林の発達する場所と同じくらいの気温の土地にありながら、これほどまでに違いが出るのかとびっくりさせられます。雨緑樹林の成立する地域へ旅行に行く際は、ぜひ森の様子を観察してみてくださいね。

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理科生態系生物

雨緑樹林はどんなところ?どんな動物がいる?国ごとの特徴的な生物も現役講師がバイオームをわかりやすく解説

この記事では「雨緑樹林」をテーマにみていきたい。

高校の生物の授業でバイオームを勉強すると、たくさんの動植物や地名がでてくるよな。先生からたくさんの情報を一度に聞くとなかなか覚えられないが、一つ一つ丁寧にみていけば記憶にも定着しやすくなる。今回は雨緑樹林をマスターしよう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

雨緑樹林とは

雨緑樹林(うりょくじゅりん)とは、乾季と雨季がはっきり分かれている地域に成立するタイプの樹林のことをいいます。雨緑樹林を構成する樹木の多くは、乾季には葉を落とし、雨季になると葉をつけるため、このような名前で呼ばれるんです。

ちなみ、英語で雨緑樹林は”rain‐green forest”。まさに「そのまんま」の名前ですね。

後ほど詳しくご紹介しますが、雨緑樹林が成立するのは赤道直下の国というよりも、赤道よりもやや南北に離れた地域が多いです。

赤道直下(=緯度0度)は季節の変化がほとんどありません。一年中気温が高く、また降水量も多いため、通年で成長し続ける巨木が生育するような森林になります。このような地域で成立するのが熱帯多雨林亜熱帯多雨林です。

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しかし、赤道からやや北、もしくは南に離れた地域になると季節風(モンスーン)の影響が生じ、乾季や雨季という季節の変化があらわれます。

樹木の生長のためには、水が必要不可欠。そのため、乾燥にも耐えられる植物や、厳しい乾季に落葉することで水分を保持する植物が、この地域で生き残ることになったのです。雨緑樹林には、そのような特徴をもつ植物がみられます。

基本的には熱帯や亜熱帯ですので、赤道直下とそれほど年平均気温は違いませんが、乾季があることで降水量がやや少ない…これが熱帯多雨林と雨緑樹林を分ける要因となる、ということを覚えておきましょう。

このように、年間の気温や降水量は、その地域の植生を左右する重要なファクターです。さらに、「どんな植物が生えているか」という条件は、「どんな動物がそこで暮らしていけるか」にも影響します。言ってしまえば、気温と降水量はその地域に住む生物すべてを左右しかねないのです。

バイオームとは

「その地域に住むすべての生物」をまとめてバイオーム(生物群系)といいます。こちらの図をご覧ください。

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