この記事では「硬葉樹林」というキーワードについて勉強していこう。

この言葉の出てくる「バイオーム」の分野は、純粋な知識量の勝負になる。硬葉樹林とはどんなものなのか、どんなところに成立するのか…具体的な地名や植物の名前をしっかり覚えておきたいところです。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

硬葉樹林とは

硬葉樹林(こうようじゅりん)は、硬く小さな葉をもった樹木が主となる樹林です。一年中緑色の葉をつける常緑の広葉樹林(常緑広葉樹林)の一種とも説明されます。

樹木の種類

そうですね。まず、樹木は葉の形によって”広葉樹””針葉樹”に分けられます。広葉樹はいわゆる”葉っぱ”の形、針葉樹は松などにみられる、針のようにとがった形の葉をもつ樹木です。

さらに、樹木が一年中緑色の葉をつけているか、秋にすべての葉を落とす=落葉してしまうかによって、”常緑樹””落葉樹”に分けられます。

もっとも、”常緑樹”といっても一度ついた葉が永遠に維持されているわけではありません。それぞれの葉が異なるタイミングで、新しい葉に置き換わっているだけです。

この「葉の形状」と「葉が一度に落ちるか否か」の2つの特徴を組み合わせると、以下のような言葉になります。

・常緑広葉樹
・常緑針葉樹
・落葉広葉樹
・落葉針葉樹

今回ご紹介する硬葉樹林を構成する樹木は、常緑広葉樹が主となります。一年中、葉をつけている様子をイメージしてくださいね。

バイオームとは

さて、高校生が生物学で「硬葉樹林」という言葉を耳にするのは、バイオームについて学習するときでしょう。

あるエリアにすんでいる「すべての生物」をひっくるめてバイオーム(生物群系)といいます。バイオームは、そのエリアの年間平均気温と年間降水量によって、大きく10のタイプに分けることができるんです。

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image by Study-Z編集部

硬葉樹林は、この10のバイオームのタイプの一つ。世界の中でも、夏に降水が少なく乾燥気味で、冬はそれほど寒くない、という環境で成立します。

上記のバイオームの図をよく見るとわかるのですが、基本的に”樹林”はある程度降水量があるところでしか成立しません。樹木は草本植物よりも多くの水を必要とするため、年間降水量の少ないところでは見ることができないんです。

硬葉樹林の成立する環境の年間降水量は、樹林ができるかできないかのぎりぎりのライン。ここに生息する樹木にとっては「どれだけ水分を逃がさないか」という工夫が必要になります。

硬葉樹林の植物の特徴

硬葉樹林を構成する樹木には、葉が小さく、幹は短く太いものがよくみられます。また、葉が硬く、コルク層のような分厚い樹皮の発達したものも少なくありません。これらの特徴はいずれも、「地面から吸い上げた水をできるだけ保持するため、水分の過剰な蒸散をおさえる」のに役立っているんです。乾燥気味の気候によく適応した樹木だといえるでしょう。

\次のページで「”硬葉樹林”に当てはまる地域・特徴的な生物」を解説!/

”硬葉樹林”に当てはまる地域・特徴的な生物

硬葉樹林に当てはまる地域は下記の通りです。

1.地中海沿岸地域
2.南アフリカ・ケープ地域
3.オーストラリア
4.アメリカ西海岸

それぞれ詳しく見ていきましょう。

1.地中海沿岸地域

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硬葉樹林がみられる代表的な地域が、地中海沿岸地域。地中海性気候とよばれる気候が、硬葉樹林の成立する条件にぴったりなのです。

イタリアのローマやシチリア島、フランスのカンヌ、スペインのバルセロナなど、日本人に人気の観光都市もたくさんある地域ですので、訪れたことがある人もいるかもしれません。地中海を挟んで、欧州の対岸となるアフリカ大陸では、モロッコのカサブランカなどが当てはまります。

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地中海沿岸を代表する植物といえば、オリーブ。オリーブオイルや、サラダに使うオリーブの実を見たことはあっても、オリーブの木はなかなか目にしないかもしれませんね、オリーブの葉は小さめで硬く、まさに硬葉樹林らしい特徴を備えています。

また、ゲッケイジュコルクガシの名も挙げられるとよいでしょう。

ゲッケイジュ(月桂樹)は、料理に使うハーブのローリエ(もしくはローレル)としても知られています。古代ギリシャではこのゲッケイジュの枝を編んで冠とし、優秀な成績を収めた人に贈っていました。

コルクガシはブナ科の高木ですが、その樹皮をはいだものが、コルク栓などに使われるコルクです。

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2.南アフリカ・ケープ地域

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アフリカ大陸の南端に位置する都市・ケープタウンやその周辺地域でも、硬葉樹林がみられます。

ケープのあたりにはヤマモガシ科の植物などが特徴的です。ヤマモガシ科にはマカダミアナッツで知られるマカダミアや、独特の花を咲かせること人気のあるプロテアなどが含まれているんですよ。

3.オーストラリア

オーストラリアには広く硬葉樹林が分布しています。ここで見られる硬葉樹といえば、ユーカリが有名ですね。このユーカリを食べるコアラは、硬葉樹林にみられる動物といえるでしょう。

ユーカリは、夏の乾燥が厳しいオーストラリアの環境によく適応しています。硬葉樹林らしい葉の形はもちろんですが、それに加えて根を地中深くまで伸ばすことで、地下水を得ているんです。

image by iStockphoto

また、ユーカリは樹皮が非常に燃えやすいという面白い特徴もあります。夏のオーストラリアでは山火事が頻発しますが、ユーカリは樹皮が燃えてはがれることで、内側の組織の損傷を最低限に抑え、火事の後もすぐに成長を再開できるのです。他にも、マメ科のアカシア、ヤマモガシ科のバンクシアなどがよくみられます。

4.アメリカ西海岸

カリフォルニア州などを含むアメリカの西海岸も、地中海性の気候に近く、硬葉樹林が発達します。カシの仲間などが中心となってつくる樹林が代表的です。高木の樹林が野火などで破壊されると、そのあとにはチャパラルという、独特の低木林が形成されることが知られています。

日本で硬葉樹林は見られるか?

温帯に位置し降水量の多い日本では、基本的に照葉樹林や夏緑樹林といった森林が多くなります。特に夏が多湿な環境になるのは、皆さんご存じの通り。残念ながら、硬葉樹林のような景観を見られるところはほとんどありません。

しかしながら、日本の南西部に生息するウバメガシというカシの仲間は、葉が小さくて丸い、硬葉樹林に近い特徴をもっています。また、最近では園芸店でもオリーブの苗木が売られていることも増えました。ユーカリなども、ドライフラワーアレンジメントの材料として販売されているのを見かけます。

硬葉樹林の特徴を知ったうえで、ウバメガシやオリーブ、ユーカリなどの葉を観察してみましょう。意識してみると結構面白いものですよ。

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理科生態系生物

簡単でわかりやすい!硬葉樹林はどんなところ?バイオームや特徴的な動植物も現役講師が詳しく解説

この記事では「硬葉樹林」というキーワードについて勉強していこう。

この言葉の出てくる「バイオーム」の分野は、純粋な知識量の勝負になる。硬葉樹林とはどんなものなのか、どんなところに成立するのか…具体的な地名や植物の名前をしっかり覚えておきたいところです。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

硬葉樹林とは

硬葉樹林(こうようじゅりん)は、硬く小さな葉をもった樹木が主となる樹林です。一年中緑色の葉をつける常緑の広葉樹林(常緑広葉樹林)の一種とも説明されます。

樹木の種類

そうですね。まず、樹木は葉の形によって”広葉樹””針葉樹”に分けられます。広葉樹はいわゆる”葉っぱ”の形、針葉樹は松などにみられる、針のようにとがった形の葉をもつ樹木です。

さらに、樹木が一年中緑色の葉をつけているか、秋にすべての葉を落とす=落葉してしまうかによって、”常緑樹””落葉樹”に分けられます。

もっとも、”常緑樹”といっても一度ついた葉が永遠に維持されているわけではありません。それぞれの葉が異なるタイミングで、新しい葉に置き換わっているだけです。

この「葉の形状」と「葉が一度に落ちるか否か」の2つの特徴を組み合わせると、以下のような言葉になります。

・常緑広葉樹
・常緑針葉樹
・落葉広葉樹
・落葉針葉樹

今回ご紹介する硬葉樹林を構成する樹木は、常緑広葉樹が主となります。一年中、葉をつけている様子をイメージしてくださいね。

バイオームとは

さて、高校生が生物学で「硬葉樹林」という言葉を耳にするのは、バイオームについて学習するときでしょう。

あるエリアにすんでいる「すべての生物」をひっくるめてバイオーム(生物群系)といいます。バイオームは、そのエリアの年間平均気温と年間降水量によって、大きく10のタイプに分けることができるんです。

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