今回のテーマは「表面張力」。窓ガラスや鏡、傘などに付着した水滴が残るのはこの「表面張力」が影響している。窓ガラスや鏡に水滴が残ってしまうと見えづらくなってしまい問題となる。また、傘に水滴が残ると乾燥させるのにひと手間かかる。この記事では、表面張力をコントロールすることで水滴が残らないようにする方法について解説する。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許も持っている。技術者の経験があり、教科書の内容では終わらず身近な現象と関連付けての説明を心掛ける。

1.表面に付着する水滴

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雨に濡れた窓ガラス。窓ガラスに撥水処理などをしていなければ窓に当たった雨粒はガラス状に薄く広がるでもなく、真ん丸な水滴になるでもなく「べちゃっと」ガラスに付着していますね。

物体上での液滴の広がり

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固体物体の上に少量の水を滴下した時、物体の種類によって広がり方に差が出てきますね。滑らかな金属の上に滴下すると少し広がり、テフロンコーティングしたフライパンの上ではあまり広がらない。また、液体の種類によっても変わります。例えばサラダ油だとテフロンコーティングしたフライパンの上を水よりも広がっていきますね。

物体上での液滴の広がり方は固体、液体に働く表面張力が関係しています。固体上に液体を滴下したとき、液体自身には縮まろうとする力が働き、固体には液体を広げようとする力が働くのです(詳細は後述)。

2.液滴が残った時の問題点

液体の広がり方によっては付着した液滴がそのまま残ってしまいまい悪影響を及ぼす場合があります。

フロントガラスから雨粒が離れない

自動車に乗っていると、雨の日はかなり視界が悪くなると感じることでしょう。その原因の1つはフロントガラスに雨粒が付着し視界を遮ること。これにいは、フロントガラスが雨粒を広げようとするが広げきれない、雨粒自身は縮まろうとするけれどフロントガラス上を「コロコロ」転がれるほどの形状までは縮まり切れない。その結果、「中途半端な」形状の水滴となりガラス上に留まってしまうのです。

仮に雨粒がガラス上にきれいに広がってくれたらまだマシ。この場合はガラス上に水膜が出来ることになりますが、水滴がたくさん残っているよりは視界がいいはず。また、雨粒がカラス上に広がらず球状になっていたら、勝手に転がっていくのでフロントガラスに雨粒は残りません。

\次のページで「傘が乾かない」を解説!/

傘が乾かない

雨の日傘をたたんだ後水滴を掃いますね。傘に水滴が付着しやすいと強く振り払ってもなかなか水滴が取れない。仕方がないからある程度水滴が取れたらそのまま室内に持ち込む。しばらく濡れたままで放置することとなりカビたような臭いになる。これも傘に働く表面張力と、雨粒に働く表面張力のバランスが影響しています。傘は雨粒を広げようとするけれど広げきれず、雨粒は縮まろうとするけれど転がれる形状までは縮まり切れない。その結果、傘に付着したままとなるのです。

3.表面張力と接触角

3.表面張力と接触角

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表面張力に関して、一旦整理しましょう。ある固体の上にある時、液滴と固体のなす角度Θが接触角(イラスト参照)。水平方向の力の釣り合いはγs+γsL=γLなる式で表され、これはヤングの式と呼ばれます。γsLは液体と固体の間に働く界面張力であり、液体分子および固体分子の分子間力により発生するもの。

接触角が小さい状態、よく広がっている状態を「濡れ性が高い」といい、逆に接触角が大きく液体があまり広がっていない状態を「濡れ性が低い」といます。

とにかく面積を小さく~表面張力・界面張力の性質~

液体、固体に表面張力が、液体と固体の間には界面張力が働きますがこれらの力には共通点があります。「表面積を狭めようとすること」です。液体に働く表面著力は液体の表面積をなるべく狭くしようとするためだんだん「球状」に近づき、固体も表面積を狭めるため液体を広げようとします。また、界面張力は液体と固体の界面をなるべく狭めようとする方向に働くもの。

なぜ表面積を狭める性質があるのか

なぜ表面積を狭める性質があるのか

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物質を構成する分子は「分子間力」という引力を受けています。ある分子は周りのあらゆる方向の分子から引っ張られていると考えましょう。こう考えた時、表面の分子は気体と接する方向からは引っ張られないことになりますね。すると力のつり合いから、なるべく表面積が狭くなるような方向に合力が働くことが分かりますね。

液体の場合は自身が縮まることで表面積を狭め、固体の場合は他の分子を表面に集めてくることで表面積を狭め安定しようとするもの。液体と固体の界面でも液体自身が表面積を縮めようとする力が働きこれが「界面張力」。現象としては液体の表面張力と同じですが、発生している箇所が違います。液体の表面張力は液体と気体の接する部分で、界面張力は液体と固体が接する部分で発生するもの。

表面張力のバランスと液体の付着

液体の広がり方は、表面張力のバランスによるもの。液体、固体の物質の組み合わせ次第では液体は固体上をほとんど広がらない接触角が大きい状態に出来ます。こうなれば液滴は固体上を転がっていきやすく付着しにくいです。

\次のページで「4.水滴が残らないようにするためには」を解説!/

4.水滴が残らないようにするためには

ガラスや傘に水滴が残りにくくするにはどうしたらよいか?「水滴が広がりにくくすればよい」です。そうすれば、ガラスや傘についた水滴は簡単に転がっていき除去することが可能。それを実現するためには、水滴が広がりにくくなるようにガラスや傘の表面にコーティングをします(撥水加工)。

撥水加工

撥水加工

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撥水性を上げる方法の1つが「テフロンコーティング」です。テフロンはPTFEと呼ばれるフッ素樹脂であり、炭素とフッ素のみからなる高分子。フッ素は原子構造上、周りの原子を強く引っ張る性質があり、結合している炭素との結合距離が近い状態で、非常に安定しています。よって分子間力が小さいので、表面に何かを引っ張て来て安定させるという必要性が薄い。つまり固体側の表面張力が小さい、接触角Θの値が大きくなり濡れ性が低い状態に。

テフロンの上に水を滴下してもテフロンが水を広げようとする力は小さい。一方で水は自身で縮まろうとする結果水滴は球状形状に近くなるもの。こうなれば水滴は簡単に転がっていく状態なので除去しやすいですね。

表面張力と撥水加工

ガラスに水滴が残る原因は、ガラスと水滴に働く表面張力のバランスの影響。ガラスは表面に水を広げてガラス表面積を狭めようとし、水滴は自身が縮まることで表面積を狭めようとするもの。

ガラスに撥水加工をすれば、水を広げようとする力が弱くなるため水滴は球状に近く転がりやすい状態になり、簡単に除去することが出来ます。

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化学

3分で簡単「表面張力」どうして水が広がらないの?水滴が残らないようにするには?理系ライターがわかりやすく解説

今回のテーマは「表面張力」。窓ガラスや鏡、傘などに付着した水滴が残るのはこの「表面張力」が影響している。窓ガラスや鏡に水滴が残ってしまうと見えづらくなってしまい問題となる。また、傘に水滴が残ると乾燥させるのにひと手間かかる。この記事では、表面張力をコントロールすることで水滴が残らないようにする方法について解説する。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許も持っている。技術者の経験があり、教科書の内容では終わらず身近な現象と関連付けての説明を心掛ける。

1.表面に付着する水滴

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雨に濡れた窓ガラス。窓ガラスに撥水処理などをしていなければ窓に当たった雨粒はガラス状に薄く広がるでもなく、真ん丸な水滴になるでもなく「べちゃっと」ガラスに付着していますね。

物体上での液滴の広がり

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固体物体の上に少量の水を滴下した時、物体の種類によって広がり方に差が出てきますね。滑らかな金属の上に滴下すると少し広がり、テフロンコーティングしたフライパンの上ではあまり広がらない。また、液体の種類によっても変わります。例えばサラダ油だとテフロンコーティングしたフライパンの上を水よりも広がっていきますね。

物体上での液滴の広がり方は固体、液体に働く表面張力が関係しています。固体上に液体を滴下したとき、液体自身には縮まろうとする力が働き、固体には液体を広げようとする力が働くのです(詳細は後述)。

2.液滴が残った時の問題点

液体の広がり方によっては付着した液滴がそのまま残ってしまいまい悪影響を及ぼす場合があります。

フロントガラスから雨粒が離れない

自動車に乗っていると、雨の日はかなり視界が悪くなると感じることでしょう。その原因の1つはフロントガラスに雨粒が付着し視界を遮ること。これにいは、フロントガラスが雨粒を広げようとするが広げきれない、雨粒自身は縮まろうとするけれどフロントガラス上を「コロコロ」転がれるほどの形状までは縮まり切れない。その結果、「中途半端な」形状の水滴となりガラス上に留まってしまうのです。

仮に雨粒がガラス上にきれいに広がってくれたらまだマシ。この場合はガラス上に水膜が出来ることになりますが、水滴がたくさん残っているよりは視界がいいはず。また、雨粒がカラス上に広がらず球状になっていたら、勝手に転がっていくのでフロントガラスに雨粒は残りません。

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