板チョコやキャンディを食べた時、誤ってアルミの包紙も噛んでしまった時に歯がしみる現象、実はその原因は電流が流れること。この電流のことをガルバニー電流という。歯科医院の広告などでたまに見かける単語だと思う。

電源に繋いでないのに、なぜそのような電流が発生するのか?「ガルバニー電流」について理系ライターのR175と解説していく。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許も持っている。技術者の経験があり、教科書の内容では終わらず身近な現象と関連付けての説明を心掛ける。

1.本記事の流れ

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今回のテーマ「ガルバニー電流」とは、ざっくり言えば化学電池によって流れる電流のこと。歯で金属を噛んでしまった時、化学電池と同じ事が起こっているのです。したがって、本記事ではまず化学電池やガルバニー電流について解説し、その後金属を噛んだ時にキーンとするメカニズムの説明に移ります

2.化学電池

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電池の役割は電圧を発生させることであり、電圧を発生させるために化学反応が用いられます。そう言う意味で、全ての電池が「化学電池」というわけですね。わざわざ「化学」を付けなくてもいいかもしれません。単に電池と称する場合も化学電池と称する場合も意味は同じです。

電圧(電流)発生の仕組み

電圧(電流)発生の仕組み

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電圧(電流)を発生させるためには、常に電子が移動し続ける状態を作る必要があります。電子を発生移動させるために用いられているのが酸化還元反応。ちなみに電圧電流の違いですが、電流を流すためには電圧(電位差)を立てることが必要です。正の電荷が多い(+気味)のところと負の電荷が多い(-気味)ところがあると、電流が流れようとするもの。電位差とはこの電荷の差のことで、差が大きければ大きいほど電気が流れようとするパワー(電圧)が大きくなります。導電体(電気抵抗が小さい物質)に電圧が立った時に結果として流れるのが「電流」。

金属の酸化・還元

金属の酸化・還元

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酸化、還元反応は電子が増えたり減ったり「移動」する反応。これにより電流を発生させられますね。酸化反応に関して、例えば鉄を水や空気にさらして放置しているとすぐに錆びちゃいます。この錆びるという現象が化学でいう「酸化反応」。金属はその電子配置から、電子をいくつか追い出した方が安定するのです。負の電荷である「電子」を追い出すのでその後金属は陽イオンとなります。基本的に全ての金属が電子を追い出し陽イオンになるものと考えましょう。還元反応は酸化反応の逆で錆びていた金属が電子を奪い返して元に戻る現象です。

\次のページで「イオン化傾向」を解説!/

イオン化傾向

鉄はすぐに錆びるけど、銅は少し錆びにくい。金やプラチナはほとんど錆びない。金属の種類によって、錆びやすさ(酸化しやすいさ、イオンになりやすさの度合い)は異なるもの。電子が追い出されやすい配置の金属とそうでもない金属があるので酸化しやすさの度合いにも違いが出てきます。

電子を出す側と受ける側〜化学電池の仕組み

Galvanic cell-ja.png
Noraneko - from Wikimedia Commons Image:Galvanický článek.svg (public domain) http://commons.wikimedia.org/w/index.php?title=Image:Galvanick%C3%BD_%C4%8Dl%C3%A1nek.svg&oldid=5273157, パブリック・ドメイン, リンクによる

化学電池はイオン化しやすい金属に電子を出してもらいそれをイオン化しにくい金属に受け取ってもらうことで成立。典型的な化学電池である、亜鉛、銅、硫酸溶液からなる電池でその仕組みを見ていきましょう。

亜鉛と銅いずれも硫酸溶液に浸けておくとイオン化し、亜鉛側には硫酸亜鉛、銅側には硫酸銅の溶液が出来ます。ここで亜鉛と銅を電極と呼ぶことにしましょう。亜鉛も銅もイオンになろうとはしますが、亜鉛の方がそのスピードが速い。トータルで見ると亜鉛側で放出された電子が銅側に送られてくる状態になりこれが電流となります。銅側は電子を持て余すので、硫酸銅の銅イオンが還元されて銅Cuに戻り析出。余った硫酸イオンは真ん中の壁を通じて亜鉛側に移動。亜鉛側は亜鉛イオンがどんどん発生するのでそれとくっつく相方(硫酸イオンは)を必要としています。

負の電荷である電子は亜鉛から銅の方に移動するので、電流の方向としては銅から亜鉛の方向に流れていることになりますね。よって正の電極が銅で負の電極が亜鉛。イオン化傾向がい方(錆びにくい方)が正の電極で、イオン化傾向が高い方(錆びやすい)方が負の電極となります。

結局ガルバニー電流とは?

上記のように、異種の金属とイオン伝導が出来る液体を作った時に流れる電流を発見した人の名前からガルバニー電流、また、この仕組みの電池をガルバニック電池orボルタの電池と呼びますガルバニーというあまり馴染みのないネーミングが付いていますが、意味としては単に「化学電池における電流という理解で問題ありません。

3.アルミ箔を噛んだ時の状態

口内の構成要素

は主にカルシウムで構成されています。カルシウムはイオン化傾向が高く先ほどの電池の例で言うと亜鉛側に相当。

唾液が化学電池で言う溶液、先ほどの電池の例で言う硫酸に相当。金属が陽イオンになって溶け出すことが出来ます。唾液は99.5%が水分で残りは有機物、無機物が微量に含まれるもの。無機物の成分はナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、炭酸イオン、無機リン酸、マグネシウムイオン、亜硝酸イオンなど。そして、アルミ箔はカルシウムよりはイオン化傾向が低く、先ほどの電池の例で言うところの銅に相当。

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歯とアルミが接触すると

のカルシウムがカルシウムイオンとなって電子を放出し、アルミ箔が電子を受け取ります。唾液があるので歯の一部がカルシウムイオンとなって溶け出し、余った電子がアルミ箔へ移動。電流が流れるので歯がキーンとしみるのです。

電流が流れるのは一瞬

ところで、アルミ箔を噛んでしまってもしみるのは一瞬ですね。なぜでしょうか?噛むのをやめるからです。噛むのをやめると歯とアルミ箔の接触が弱くなり電流が流れなくなります。よってキーンとしみる現象が治るわけです。

4.ガルバニー電流発生要件を考える

ここでは、色んなケースを想定して解説しし最後にガルバニー電流発生の条件をまとめて行きましょう。

歯を食いしばっても痛くない?

歯はカルシウムという「金属」で出来ています。歯と歯を接触させれば、アルミにを噛んだ時同様にガルバニー電流が流れても良さそうですがそうはなりません。

同種の金属で電池を作った場合

唾液にカルシウムイオンが溶け出しイオンを追い出そうとしますが、余った電子は行き場がありません。なぜかというと、どちらもイオン化傾向が同じだから。イオンになって余った電子をもう一方の歯に送りつけようとしても、もう片方の歯も同じことをしようとしているわけで拮抗状態に。電子はどちらかに流れるわけではありませんので電流は流れません。したがって歯を接触させ噛みしめても痛くないのです。

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イオン化傾向に差があれば良し?

同種の金属だと、どちらの電極も同程度電子を排出しようとして拮抗し電流が流れない。イオン化傾向に差があった方がいい。ということで片方をすごくイオン化しやすい金属にしてもう片方をすごくイオン化しにくい金属にしてみましょう。しかし、そもそも溶液中でイオン化しない金属を使ってしまうと結局電子の行き場がありません。例えば、硫酸溶液に片方を亜鉛で片方に金の電極をつけましょう。亜鉛はじゃんじゃんイオン化していく一方で金はほとんどイオン化しないので電子は勢いよく金の方に流れていきます。しかし、金に行き着いてからの行き場がありませんね。金の陽イオンがあれば電子と結びつき金に戻るという反応が起きますが、金の側には陽イオンが無いので電子は溜まりっぱなしですぐに電流が流れなくなります。

ガルバニー電流が発生するためにはどちらの電極からも金属イオンが生成されている必要があるのです。

ガルバニー電流が流れる条件

以上をまとめるとガルバニー電流が流れる条件は、異種の金属である(イオン化傾向に差がある)こと、両電極とも金属イオンとして溶け出せること、両電極同士が導通している(両電極間の電気抵抗が小さい)ことです。

歯がしみる理由

アルミ箔など金属を噛みしめた時に歯がしみる原因はガルバニー電流が流れるから。ガルバニー電流は化学電池に応用されている現象。ガルバニー電流の発生条件は、異種の金属(イオン化傾向に差がある)同士で構成されていること、どちらも金属イオンが発生していること、お互いが導通していることです。

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物理理科電磁気学・光学・天文学

3分で簡単「ガルバニー電流」金属を噛んた時に歯がしみるのはなぜ?理系ライターがわかりやすく解説

板チョコやキャンディを食べた時、誤ってアルミの包紙も噛んでしまった時に歯がしみる現象、実はその原因は電流が流れること。この電流のことをガルバニー電流という。歯科医院の広告などでたまに見かける単語だと思う。

電源に繋いでないのに、なぜそのような電流が発生するのか?「ガルバニー電流」について理系ライターのR175と解説していく。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許も持っている。技術者の経験があり、教科書の内容では終わらず身近な現象と関連付けての説明を心掛ける。

1.本記事の流れ

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今回のテーマ「ガルバニー電流」とは、ざっくり言えば化学電池によって流れる電流のこと。歯で金属を噛んでしまった時、化学電池と同じ事が起こっているのです。したがって、本記事ではまず化学電池やガルバニー電流について解説し、その後金属を噛んだ時にキーンとするメカニズムの説明に移ります

2.化学電池

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電池の役割は電圧を発生させることであり、電圧を発生させるために化学反応が用いられます。そう言う意味で、全ての電池が「化学電池」というわけですね。わざわざ「化学」を付けなくてもいいかもしれません。単に電池と称する場合も化学電池と称する場合も意味は同じです。

電圧(電流)発生の仕組み

電圧(電流)発生の仕組み

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電圧(電流)を発生させるためには、常に電子が移動し続ける状態を作る必要があります。電子を発生移動させるために用いられているのが酸化還元反応。ちなみに電圧電流の違いですが、電流を流すためには電圧(電位差)を立てることが必要です。正の電荷が多い(+気味)のところと負の電荷が多い(-気味)ところがあると、電流が流れようとするもの。電位差とはこの電荷の差のことで、差が大きければ大きいほど電気が流れようとするパワー(電圧)が大きくなります。導電体(電気抵抗が小さい物質)に電圧が立った時に結果として流れるのが「電流」。

金属の酸化・還元

金属の酸化・還元

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酸化、還元反応は電子が増えたり減ったり「移動」する反応。これにより電流を発生させられますね。酸化反応に関して、例えば鉄を水や空気にさらして放置しているとすぐに錆びちゃいます。この錆びるという現象が化学でいう「酸化反応」。金属はその電子配置から、電子をいくつか追い出した方が安定するのです。負の電荷である「電子」を追い出すのでその後金属は陽イオンとなります。基本的に全ての金属が電子を追い出し陽イオンになるものと考えましょう。還元反応は酸化反応の逆で錆びていた金属が電子を奪い返して元に戻る現象です。

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