「氷河期世代」とは、バブル崩壊により企業の採用率が下がり、正社員として就職できない人数が増えた世代のこと。現在も非正規雇用の人が多いため経済格差は深刻です。最近は、政府が能力開発の機会をつくる、中途採用を推進するなどの支援を行っている。

キャリアを積む機会を得られなかった「氷河期世代」の問題を解決しなければ社会的影響も大きい。そこで現代社会に詳しいライターひこすけと一緒に問題の概要を解説していきます。

ライター/ひこすけ

文化系の授業を担当していた元大学教員。大学卒業のあと就活に苦労した「氷河期世代」でもある。ニュースやメディアで取り上げられるたび、「氷河期世代」は不適格なイメージが強くなり、微妙な立場になっていると感じる今日この頃。そのような世代が生まれた背景や関連するできごとをまとめてみた。

不況突入により就職難にみまわれた「氷河期世代」

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1991年ころから目立ち始めた景気が後退。バブル崩壊と言われる不況が到来します。それにより企業の倒産や事業縮小が相次ぎました。その結果、ちょうど大学卒業のタイミングにあった世代は就職難に見舞われます。

バブル崩壊から新卒者の募集が減少

バブル崩壊により、地価の下落、金融機関の破綻、貸し渋りなどが多発。企業はさまざまな領域から撤退をはじめます。その結果、企業は新規雇用を控えるようになり、氷河期世代はそのあおりを受けました。

人材派遣サービス会社の参入により非正規雇用がすすむ

バブル崩壊後、規制緩和により新しく参入してきたのが人材派遣サービス会社。そこで雇用された人が派遣スタッフとして企業などに就業するという、新しい働き方が生まれました。

その結果、一時的に就職率は向上するものの、不安定な非正規雇用を増やすことになりました。派遣スタッフとして20代を過ごした若者は正規雇用にすすむことが困難に。転職を繰り返しながら40代を迎えることになります。

ポストドクターが増加した「氷河期世代」

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就職活動が難航したこともあり、大学を卒業したあとそのまま大学院に進学する氷河期世代が増加。しかし、博士号を取得して大学院を修了したものの就職先が見つからない「ポストドクター問題」が発生します。

就職活動が難航して大学院に進学

大学院に進学したあとの氷河期世代は、文系・理系を問わず、自分の専門分野の研究を深めていきます。修士課程を終えたあと、就職をせずに博士課程に進む人も少なくありませんでした。

少子高齢化により大学入学者の数が減少するなか、それを補うために日本各地では大学院が続々と設立。「院卒」は特別な学歴ではなくなっていきます。そのため大学院を出たから研究者となれる時代ではなくなりました。

博士号取得後に就職難に見まわれる

企業に就職しようと思っても、一部の研究職を除くと博士号取得者は敬遠される傾向が。また、大学の教員のポストはそれほど多くありません。スムーズに就職先が見つかる博士号取得者はほんの一握りでした。

博士号を取得しているにもかかわらず正規雇用が見つからない「ポストドクター問題」が表面化。博士号を持っているにもかかわらず、非常勤教員をする、家庭教師のアルバイトをするポスドクが増えてしまったのです。

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仕事の経験がない「氷河期世代」の若者が出現

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氷河期世代のなかには、就職してもすぐにやめてしまう、就職活動すらしないケースも。そのため、仕事の経験をまったく積まないまま年齢を重ねていく「フリーター」や「ニート」が問題化されるようになりました。

フリーターという言葉が定着

学生のころにアルバイトをする人は多いと思いますが、氷河期世代では卒業後も職を転々とせざるを得ない人が増加。そうした定職につかない若者を指す「フリーター」という言葉が生まれました。

フリーターの語源は「フリーアルバイター」。時間が自由な非正規雇用者という意味です。それを求人情報誌が短縮して「フリーター」と表現。新聞、テレビ、雑誌などでもフリーターという言葉が使われるようになりました。

社会問題となったニート

フリーターとは非正規ながらも仕事をしている人たち。それに加えて、ほとんど教育を受けていない、就労の経験がない、職業訓練にも従事していない「ニート」が増加したのもこの時代です。

ニートの語源は英語でNeet。「Not in Education, Employment or Training」の略です。ニートの生活を支えるのはおもに親。対象となる年齢は、厳密には15歳から34歳までの人に限定されます。

中高年にさしかかる「氷河期世代」

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大学卒業のあと就職に苦労した若者たちは今や中高年。若いときに非正規雇用を転々としていたことから、中高年になっても仕事が不安定な状況にありました。その影響は経済だけではなく社会福祉の問題にも及んでいます。

非正規雇用により結婚が難しくなる

氷河期世代は正規雇用の機会を失ったため収入が不安定。結婚のチャンスがなくなり、40代まで独身という人も少なくありません。また、結婚していても、経済的な事情から子供を作らなかった人も多いのです。

前向きな理由から結婚しない、子供を作らない場合もありますが、経済的な事情により断念するケースも多数。そのため氷河期世代は老後が不安定で、社会の支援が必要になる人が増えると言われています。

老親が子どもを支える「7040問題」

氷河期世代の年齢が40代になったとき親の年齢は70代。氷河期世代のなかには、引きこもりになる人も目立ち、70代の親が子供の生活を見ているケースが多いと言われています。

このまま氷河期世代が50代になると親は80代。介護が必要な年齢になります。しかしながら氷河期世代の収入は不安定。親をサポートできる環境がない場合、親子が共倒れする可能性が心配されています。

日本政府による就職氷河期世代支援プログラム

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2019年、これらの問題を解決するために内閣府が発表したのが就職氷河期世代支援プログラム。仕事が不安定な人やひきこもりにより社会に出ていない人を積極的に活用するために、政府がさまざまに支援するというものです。

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30万人の正規雇用を目指す

非正規雇用の氷河期世代は推定50万人と言われています。さらにひこもりとなると100万人という数字も。このなかから約30万人を安定した仕事に就けようというのが、就職氷河期世代支援プログラムの目的です。

ここで想定されているのが「なり手がいない仕事」。介護、農業、漁業など、肉体労働が中心である、労働環境に問題がある分野が多いとされています。穴埋めとして氷河期世代を投入するだけという批判も少なくありません。

氷河期世代に限定した求人の登場

このような批判に対応するため国は氷河期世代に限定して雇用を推進。地方自治体を中心に、氷河期世代を対象とするポストの求人が出されるようになりました。

民間への就業支援のため、採用選考を兼ねたインターンシップが実施されることも。ただ、農業や漁業など業種が限定される傾向があります。そのため幅広いニーズに合わせた支援が展開されているとは言えません。

「ひきこもり」の氷河期世代を支援する取り組み

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氷河期世代のなかには社会とのつながりを断って「ひきこもり」になる人も。ひきこもりが長期化すると社会復帰が困難になるため、具体的な支援が行われ始めています。

社会から孤立するひきこもり

氷河期世代のひきこもりは100万人を超えるという見方も。もともと正規雇用または非正規雇用だった人が、職場で不当な扱いを受けてひきこもりになったケースも少なくありません。

就職氷河期世代支援プログラムは非正規雇用者を支援することが本来の目的。そこにひきこもり支援が加わるかたちになりました。地域にひきこもり支援のプラットホームを作り、社会との接点を作り出そうというものです。

専門チームをつくってひきこもりの自立を支援

ひきこもりになる経緯は、性格的なものもあれば、不安定な生活、貧困、劣悪な職場環境など、氷河期世代がさらされた経済状況に原因があることも。支援策はさまざまなケースを想定する必要があります。

そこで、ひきこもりを支援するために地方自治体は専門家チームを作ることを推奨。それぞれの事情に合わせて支援をすることで社会との接点を取り戻し、仕事に復帰できるようにサポートすることを目指します。

IT企業の創設者が多い「氷河期世代」

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ここまでの話では、氷河期世代はみんなが不遇の状態にあると思われがち。しかし実は、現在のベンチャーブームの火付け役となった人の多くは氷河期世代でした。大企業に頼ることなく自分で会社を立ち上げる人も多かったのです。

インターネットが劇的に発展した2000年

今では当たりまえのように使われているインターネットですが、それが劇的に発展したのが2000年。ちょうど、氷河期世代の就職活動の時期と重なっています。

インターネットバンクやネット通販のほか、新聞に代わるものとしてウェブコンテンツのユーザーが増加。それに関連づけて起業する氷河期世代が増えたのです。

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就職難が起業を加速させる

氷河期世代は社会的な状況から就職が難しいことを理解していました。そこで、就職活動に飛び込むのではなく最初から起業を目指す人も。とくにIT関係で頭角をあらわす若手起業家が目立ち始めます。

実は、このように起業で成功した人々を中心に、氷河期世代が不遇になったのは自己責任という意見も。これまでの企業の伝統に頼らず、新しい動向にいち早く目をつけて社会的に成功することも可能ではありました。

新型コロナウィルスにより「氷河期世代」が再来?

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就職氷河期世代支援プログラムにより、氷河期世代に特化した支援が始まりましたが、新型コロナウィルスの影響により、現在の学生も氷河期世代になるのではないかと懸念されています。

自粛により業績が悪化する会社が続出

新型コロナウィルスの感染拡大を抑えるため、さまざまな業種で営業自粛が行われました。さらに外出自粛が長引いたことで売り上げが下落する企業が増加。業績が悪化するケースが増えてきました。

当初は宿泊業、飲食業、エンターテイメント業界の影響が目立ってしました。しかし徐々に、海外工場による生産をメインとしている製造業やアパレル業の経営不振も顕著に。事業縮小や撤退が相次ぎます。

採用数が大幅に減るという予測も

そのため入社が取りやめになる学生が増加。内定を出している場合、それを安易に取り消すことはできません。そのため今後、業績悪化を理由に雇用を取りやめる企業が増える可能性があります。

さらに求人そのものが大幅に減るのではないかという懸念も。新型コロナウィルスの問題が完全に解決しなければ、次の氷河期世代が到来してさらなる支援が必要になってきます。

「氷河期世代」の問題は解決の途中

氷河期世代に対する支援はまだ途中という段階。はっきりした成果はまだあらわれていません。氷河期世代の一部はすでに50代になっているため、支援を打ち出すのが遅すぎたという見方もあります。非正規雇用者は、経済状況が悪くなると、まっさきに影響を受ける立場。新型コロナウィルスの影響により、さらに状況が悪くなる可能性もあり、今後も動向をしっかり見ていく必要がありそうです。

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平成現代社会

3分で簡単「氷河期世代」特徴・背景・影響は?元大学教員がわかりやすく解説

「氷河期世代」とは、バブル崩壊により企業の採用率が下がり、正社員として就職できない人数が増えた世代のこと。現在も非正規雇用の人が多いため経済格差は深刻です。最近は、政府が能力開発の機会をつくる、中途採用を推進するなどの支援を行っている。

キャリアを積む機会を得られなかった「氷河期世代」の問題を解決しなければ社会的影響も大きい。そこで現代社会に詳しいライターひこすけと一緒に問題の概要を解説していきます。

ライター/ひこすけ

文化系の授業を担当していた元大学教員。大学卒業のあと就活に苦労した「氷河期世代」でもある。ニュースやメディアで取り上げられるたび、「氷河期世代」は不適格なイメージが強くなり、微妙な立場になっていると感じる今日この頃。そのような世代が生まれた背景や関連するできごとをまとめてみた。

不況突入により就職難にみまわれた「氷河期世代」

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1991年ころから目立ち始めた景気が後退。バブル崩壊と言われる不況が到来します。それにより企業の倒産や事業縮小が相次ぎました。その結果、ちょうど大学卒業のタイミングにあった世代は就職難に見舞われます。

バブル崩壊から新卒者の募集が減少

バブル崩壊により、地価の下落、金融機関の破綻、貸し渋りなどが多発。企業はさまざまな領域から撤退をはじめます。その結果、企業は新規雇用を控えるようになり、氷河期世代はそのあおりを受けました。

人材派遣サービス会社の参入により非正規雇用がすすむ

バブル崩壊後、規制緩和により新しく参入してきたのが人材派遣サービス会社。そこで雇用された人が派遣スタッフとして企業などに就業するという、新しい働き方が生まれました。

その結果、一時的に就職率は向上するものの、不安定な非正規雇用を増やすことになりました。派遣スタッフとして20代を過ごした若者は正規雇用にすすむことが困難に。転職を繰り返しながら40代を迎えることになります。

ポストドクターが増加した「氷河期世代」

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就職活動が難航したこともあり、大学を卒業したあとそのまま大学院に進学する氷河期世代が増加。しかし、博士号を取得して大学院を修了したものの就職先が見つからない「ポストドクター問題」が発生します。

就職活動が難航して大学院に進学

大学院に進学したあとの氷河期世代は、文系・理系を問わず、自分の専門分野の研究を深めていきます。修士課程を終えたあと、就職をせずに博士課程に進む人も少なくありませんでした。

少子高齢化により大学入学者の数が減少するなか、それを補うために日本各地では大学院が続々と設立。「院卒」は特別な学歴ではなくなっていきます。そのため大学院を出たから研究者となれる時代ではなくなりました。

博士号取得後に就職難に見まわれる

企業に就職しようと思っても、一部の研究職を除くと博士号取得者は敬遠される傾向が。また、大学の教員のポストはそれほど多くありません。スムーズに就職先が見つかる博士号取得者はほんの一握りでした。

博士号を取得しているにもかかわらず正規雇用が見つからない「ポストドクター問題」が表面化。博士号を持っているにもかかわらず、非常勤教員をする、家庭教師のアルバイトをするポスドクが増えてしまったのです。

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