「さとり世代」とは将来に期待せず無駄な努力を好まない若者を指す言葉です。彼らは、物欲がなく、恋愛に興味がなく、旅行に行かないことが特徴とされた。消費により物欲を満たすよりも、心理的な満足感を重視する世代とも言われている。

「さとり世代」の働き方や生活にはどのような特徴があるのでしょうか。関連する物事や背景と絡めながら、現代社会に詳しいライターひこすけと一緒に解説していきます。

ライター/ひこすけ

文化系の授業を担当していた元大学教員。ときおり「さとり世代」という言葉を耳にすることがあるだろう。バブル崩壊後の不況しか知らないため、お金を使わない控えめな消費行動が特徴だ。ただ「さとり世代」のイメージには現実のギャップがあるとも言われている。そこで定義の問題も含めてまとめてみた。

明確に定義されていない「さとり世代」

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さとり世代とは、ものに対する興味が希薄な若者のこと。世の中を冷めたまなざしで見ている若者を指します。しかし、その定義はいろいろ。はっきりと説明することは難しいという特徴があります。

広義にはバブル崩壊以降の若者を指す「さとり世代」

さとり世代は、広くとらえると、バブル崩壊のあとの若者世代のことを指します。バブル崩壊により日本の景気は悪くなって雇用も停滞。それにより若者は何かに「期待する」ことがなくなりました。

その結果、バブル崩壊後の若者は景気がいい状態を知らずに育ちます。それにより、大きな野心を抱く、夢を持つことが少なくなり、手堅く生きるほうを選ぶように。それが悟りきったように見え、さとり世代とされました。

狭義には「ゆとり世代」の次の若者のこと

さとり世代をもっと狭く定義すると「ゆとり世代」のあとの若者を指しています。「ゆとり教育」を受けているのが1987年から2004年に生まれた若者。脱・ゆとりの流れのなかにあった若者がさとり世代です。

さとり世代は、ゆとり世代の勉強量の少なさなどが批判されるのを見ている世代。社会問題と自分たちの問題がつながっていることを身近に感じてきました。そこから悟りきったような心理が生まれたとされています。

「さとり世代」という言葉が定着するまで

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ゆとり世代はマスコミによって作られた言葉ですが、さとり世代はインターネットのなかで生まれ、浸透した言葉だと言われています。生まれた経緯は諸説あり、はっきりしません。

2ちゃんねるのスレッドで使われ始めた?

さとり世代が生まれた経緯のひとつが、インターネットの掲示板である2ちゃんねるのスレッド。そのなかで、物心ついたときから不景気、物を欲しがらない、お金がないなどの感想からさとり世代というスレッドが登場しました。

2ちゃんねるのスレッドというだけあり、さとり世代の定義はやや自虐的。また、氷河期世代、ゆとり世代と比較するような書き込みも増えます。それにより漠然と世代間の意味が定義されていきました。

2ちゃんねるとは1999年にネットユーザーの個人サイトとして開設されたのが始まりです。当初はひっそりと使われていましたが、2000年に起こった西鉄バスジャック事件の犯人が2ちゃんねるの利用者だったことから知名度が一気にアップ。利用者が一気に増えるものの、殺害予告や有名人の誹謗中傷の場になることもあり、どのように取り締まるのかが課題となりました。運営者を変えながら現在は5ちゃんねるとして継続されています。

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新語・流行語大賞にノミネートされた「さとり世代」

生まれた経緯は不明点が多いのですが、それが広く知られるようになったのが新語・流行語大賞。2ちゃんねるでひっそりと共有されていた「さとり世代」が、2013年にノミネートされました。

ノミネートのきっかけを作ったのが、角川書店から出版された、若者の新しい傾向を分析した本。これにより「さとり世代」という言葉が認知され、メディアで取り上げられるようになりました。

あらゆる欲求が希薄とされる「さとり世代」

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さとり世代の特徴のひとつが「物欲」がないこと。ものを欲しがらない若者と言われました。そのような消費行動が、将来的に日本の経済に悪い影響を与えるとも考えられています。

物欲がなくモノを買わない

さとり世代は、バブル崩壊後に育っているため、景気がよい時代を知りません。そのため、お金持ちになりたい、それによっていろいろなものを買いたいという発想にはなりにくい特徴があります。

ただ、ものを欲しがらないのではなく、ものを買うお金がないだけというさとり世代の声もあるようです。同時に、ものにとらわれない新しい価値観として「ミニマリスト」を受け入れるさとり世代も増えました。

ミニマリストとは、モノをできるだけ持たずに暮らす人のこと。無駄なものを買わず、生活に必要なものだけに厳選することで、豊かに暮らせるという考え方によるものです。ミニマリストは自宅を保有することもありますが、それを持たずに日本各地を転々としたり海外をめぐったりしながら仕事をする人も。インターネットの発達により、会社に行かないでもできる仕事が増えたことで、ミニマリスト的な生活が可能となりました。さとり世代のなかには、大学を卒業したあと海外に居住、フリーランスとして仕事をする人も少なくありません。

コストパフォーマンスを重視する傾向

さとり世代は、時代は不景気であることを強く認識して育っています。そのためお金の使い方も堅実になる傾向がありました。自分の欲望のままに購入するのではなく、コストパフォーマンスを重視するようになります。

ものを購入するとき、自分にとって本当に必要なものか吟味。ほかの商品と比較検討する若者も増えました。また、小さいころから貯金する若者も。車を所有しない若者が増えたのもこのころからと言われています。

精神的な満足感を重視する「さとり世代」

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さとり世代は、お金では買えないもの、社会に役立つこと、個人の心が満たされることを重視。お金やモノに執着しないぶん、精神的な満足感を大切にすると言われています。

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キャリアの上昇志向がなく安定を求める

かつては仕事をするとき、大企業に勤める、出世する、高給取りになることが、キャリアアップのモチベーションでした。それがゆとり世代になると変化。出世できなくてもいいので、安定性を求めるようになります。

そのため、なりたい職業の上位に来るのが「公務員」。安定性を望むゆとり世代ならではの選択ですね。そのほか、ネット環境に囲まれて育っていることからシステムエンジニアやプログラマーも不動の人気を誇っています。

ボランティアに対する意識が高い

安定した手堅い職業を目指す一方、お金に換えられない活動に興味を持つこともゆとり世代の特徴です。ボランティア活動や、社会貢献にかかわる仕事に対する意識を高める若者も増えました。

さとり世代は、人や社会の役にたつ、他人に感謝されることで、自分の存在意義を認識する傾向が。そのため、自分の貢献が認められていると感じられないと働くことが苦痛になることも、ゆとり世代の特徴です。

恋愛を面倒だと思う「さとり世代」

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恋愛にあまり積極的ではないのもさとり世代の特徴。「草食系」と呼ばれる若者が増えたのもこのころです。デートにお金をかけるより自分の趣味に使いたいと考える人も増えました。

交際にかける費用が少なくなる

さとり世代の若者にアンケートを行ったところ、恋愛が面倒だと回答する人の比率が増加。交際費の総額も減少しました。さらに合コンの参加率も低く、恋愛に積極的ではない若者が多いことが分かりました。

ゆとり世代は競争を好みません。そのため恋愛でライバルと競争する、異性と駆け引きすることに、労力を使うことが苦手なのです。それにより「草食系」と呼ばれる男性が増えました。

草食系とは、人間の性格をあらわす言葉です。草食動物を思わせる性格や行動をする人に対して使用。恋愛に興味があるもののそれほど積極的ではない男性を「草食系男子」と表現したことがはじまりです。草食系の反対は異性に対してがつがつアプローチする肉食系。 草食系は、新しい男女関係のかたちとして歓迎される一方、日本の少子化に影響を与えるという声も聞かれます。

恋愛よりも自分の趣味を優先

恋愛に積極的ではなくお金も使わないさとり世代が優先させるのが趣味。ファッション、スマホなどの電子機器、ゲーム課金など、自分が好きなことには徹底的にお金を使う傾向があります。

さとり世代では、アニメやアイドルに熱中する「ライトヲタク」と言えるだろう若者が増加。なかには見た目はヲタク風ではないものの、過度に熱中する「ガチヲタ」と呼ばれる若い女性が増えたとも言われています。

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インターネットの経験が豊富な「さとり世代」

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さとり世代は完全に「デジタルネイティブ世代」。物心ついたときからインターネットに接していました。また、携帯電話も普及し、SNSやYouTubeなど情報収集の手段も多様化。豊富なインターネット経験はさとり世代の強みとなります。

機能を駆使して効率的に物事をすすめる

インターネットを使うと、自分が知りたい情報にすぐにアクセス。無駄なプロセスなしで、効率的に情報を集められます。アプリなどの機能を使えば、さらに効率的がアップ。さとり世代にとってそれが当たり前となります。

そのためさとり世代は何事も効率性を重視。無駄な時間、お金、労力が発生することを好みません。大きな夢を抱くことは、実現しなければ無駄なことになってしまいます。確実に結果が出ることのみ取り組むようになりました。

SNSに依存する傾向も見られる

デジタルネイティブ世代ということもあり、さとり世代はSNSに対する依存度が大きくなります。スマホ依存症と言われる若者も出現。リアルな世界よりもSNSの世界のコミュニケーションのほうが比率が大きくなるようになります。

そのため、さとり世代の若者は、Twitterで「いいね」の数が少ないと不安になる、LINEの既読が付かないと落ち着かないなど、オンライン上の人間関係を重視するように。リアルな人間関係の構築を苦手とする人も増えてきました。

さとり世代のこれからは日本の経済を左右する?

さとり世代が注目されたのは「ものを欲しがらない」点。消費行動が控えめのため、日本の経済に影響が出てくると言われるようになりました。さらに恋愛に積極的ではなく、異性との交際にお金を使いたがらないため、結婚をしない人が増えるという予測も。さとり世代以降、ライトヲタが増えることにより、新たな産業が生まれると考えることも可能です。このようにさとり世代のこれからは、今後の日本経済の方向を見定めるうえでも注目点と言えそうですね。

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平成現代社会

ものを欲しがらない「さとり世代」とは?生まれた背景や特徴を元大学教員がわかりやすく解説

「さとり世代」とは将来に期待せず無駄な努力を好まない若者を指す言葉です。彼らは、物欲がなく、恋愛に興味がなく、旅行に行かないことが特徴とされた。消費により物欲を満たすよりも、心理的な満足感を重視する世代とも言われている。

「さとり世代」の働き方や生活にはどのような特徴があるのでしょうか。関連する物事や背景と絡めながら、現代社会に詳しいライターひこすけと一緒に解説していきます。

ライター/ひこすけ

文化系の授業を担当していた元大学教員。ときおり「さとり世代」という言葉を耳にすることがあるだろう。バブル崩壊後の不況しか知らないため、お金を使わない控えめな消費行動が特徴だ。ただ「さとり世代」のイメージには現実のギャップがあるとも言われている。そこで定義の問題も含めてまとめてみた。

明確に定義されていない「さとり世代」

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さとり世代とは、ものに対する興味が希薄な若者のこと。世の中を冷めたまなざしで見ている若者を指します。しかし、その定義はいろいろ。はっきりと説明することは難しいという特徴があります。

広義にはバブル崩壊以降の若者を指す「さとり世代」

さとり世代は、広くとらえると、バブル崩壊のあとの若者世代のことを指します。バブル崩壊により日本の景気は悪くなって雇用も停滞。それにより若者は何かに「期待する」ことがなくなりました。

その結果、バブル崩壊後の若者は景気がいい状態を知らずに育ちます。それにより、大きな野心を抱く、夢を持つことが少なくなり、手堅く生きるほうを選ぶように。それが悟りきったように見え、さとり世代とされました。

狭義には「ゆとり世代」の次の若者のこと

さとり世代をもっと狭く定義すると「ゆとり世代」のあとの若者を指しています。「ゆとり教育」を受けているのが1987年から2004年に生まれた若者。脱・ゆとりの流れのなかにあった若者がさとり世代です。

さとり世代は、ゆとり世代の勉強量の少なさなどが批判されるのを見ている世代。社会問題と自分たちの問題がつながっていることを身近に感じてきました。そこから悟りきったような心理が生まれたとされています。

「さとり世代」という言葉が定着するまで

image by PIXTA / 64641496

ゆとり世代はマスコミによって作られた言葉ですが、さとり世代はインターネットのなかで生まれ、浸透した言葉だと言われています。生まれた経緯は諸説あり、はっきりしません。

2ちゃんねるのスレッドで使われ始めた?

さとり世代が生まれた経緯のひとつが、インターネットの掲示板である2ちゃんねるのスレッド。そのなかで、物心ついたときから不景気、物を欲しがらない、お金がないなどの感想からさとり世代というスレッドが登場しました。

2ちゃんねるのスレッドというだけあり、さとり世代の定義はやや自虐的。また、氷河期世代、ゆとり世代と比較するような書き込みも増えます。それにより漠然と世代間の意味が定義されていきました。

2ちゃんねるとは1999年にネットユーザーの個人サイトとして開設されたのが始まりです。当初はひっそりと使われていましたが、2000年に起こった西鉄バスジャック事件の犯人が2ちゃんねるの利用者だったことから知名度が一気にアップ。利用者が一気に増えるものの、殺害予告や有名人の誹謗中傷の場になることもあり、どのように取り締まるのかが課題となりました。運営者を変えながら現在は5ちゃんねるとして継続されています。

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