この記事では「飲水思源(いんすいしげん)」について解説する。
端的に言えば、飲水思源の意味は「他人から受けた恩を忘れてはいけない」です。中国の故事に由来する四字熟語で、戒め(いましめ)の言葉なんです。そのままだと意味がわかりづらいが、読み下し文にしてみると理解できるぞ。
日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。「飲水思源」の意味や語源をチェックし、例文や類義語などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。時代によって変化する言葉の面白さ、奥深さをやさしく解説する。

「飲水思源」の意味・語源・使い方

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さっそく「飲水思源」の意味と語源をチェックし、例文で使い方を見ていきましょう。

「飲水思源」の意味

まず、国語辞典で「飲水思源」の意味をチェックしましょう。

物事の基本を忘れないという戒めの語。また、他人から受けた恩を忘れてはいけないという戒めの語。水を飲むとき、その水源のことを思う意から。▽「思源」は源のことを考える意。「水(みず)を飲(のみ)て源(みなもと)を思(おも)う」と訓読する。

出典:「新明解四字熟語辞典」(三省堂)「飲水思源」

「飲水思源」といわれてもピンとこないかもしれませんね。しかし「水を飲みて源を思う」だったら、おおよその意味がつかめるのではないでしょうか。「飲水思源」は「水を飲むときは、その水源についても思いをめぐらすこと」から転じて、「他人から受けた恩を忘れてはいけない」「物事の基本を忘れない」という戒めの言葉になりました。

「飲水思源」の語源は『徴調曲』

「飲水思源」の語源は、北周の詩人庾信(ゆしん)が書いた『徴調曲』の一節です。

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落其實者思其樹、飲其流者懐其源。
その実を落とす者はその樹を思い、その流れに飲む者はその源を懐(おも)う。

出典:『徴調曲』

「果実を収穫する人はその樹のことを思い、水を飲む人はその源に思いを致せ」という意味です。蛇口をひねれば水が出る。スイッチを押せば電気がつく。そんな便利な生活が当たり前と思っている現代人に必要な戒めの言葉ですね。

「飲水思源」の使い方

次は例文で「飲水思源」の使い方を見ていきましょう。

1.先生の粘り強い指導がなければ、彼女の才能が開花することはなかっただろうに、彼女には飲水思源という考えがまったくないようだ。
2.ネットで注文すれば何でもすぐに届くが、生産者、販売者、配送業者、それ以外にもどれほど多くの人の手を経て商品が届くのか、飲水思源してみたことはあるか。

最初の例文は、恩師の指導のおかげで才能が開花したにもかかわらず、彼女は先生から受けた恩を忘れているという意味です。2番目の例文は、何でもすぐ手に入る便利さの裏には、多くの人々の労働があることを忘れてはならないという意味ですね。

\次のページで「「飲水思源」の類義語」を解説!/

「飲水思源」の類義語

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「飲水思源」と同じような意味あいの言葉には、どのような言葉があるのでしょうか。

「一言芳恩(いちごんほうおん)」:ひとことに恩を感じる

「一言」は「ひとこと」という意味です。「一言一句(いちごんいっく)間違いなく」などといいますね。「芳」は「よい香り」という意味もありますが、「相手の物事の上につけて敬意を表す言葉」として使われます。結婚式や葬儀で名前を記入するのは「芳名帳(ほうめいちょう)」ですね。

「芳恩」は「相手を敬い、その人から受けた恩」という意味です。「一言報恩」「ひと声かけてもらったことを恩に感じて、その人を主と仰いで従い仕えること」ですよ。

「報本反始(ほうほんはんし)」:祖先の恩に報いる

訓読すると「本(もと)に報(むく)い、始(はじ)めに返(かえ)る」となります。「報本反始」とは、天地や祖先など、存在の根本に感謝し、発生のはじめに思いを致すこと」、つまり「自然や祖先の恩恵に報いる」という意味です。日本では、幕末から第二次世界大戦の頃まで、政府が祖先信仰と国家神道を広めようとして唱えていました。前漢時代の儒教の経典『礼記(らいき)』が語源です。

「飲水思源」の反対語

「飲水思源」と反対の意味あいの言葉には、どのような言葉があるのでしょうか。

「得魚忘筌(とくぎょぼうせん)」:恩を忘れる

「筌」とは水中に仕掛けておいて魚を捕る道具のこと。竹などをかごの形に編んで中に入った魚が出られないようにしたものです。「得魚忘筌」は「魚が捕れると、魚を捕る道具のことは忘れてしまうこと」。つまり「目的を達成してしまうと、そのために役に立ったもののことは忘れてしまう」「恩を忘れる」という意味です。『荘子』に由来していますよ。

\次のページで「「狡兎良狗(こうとりょうく)」:不要になると見捨てられる」を解説!/

「狡兎良狗(こうとりょうく)」:不要になると見捨てられる

「狡兎」は「すばしこいウサギ」、「良狗」は「忠実な猟犬」のこと。「狡兎良狗」は「ウサギが死ぬと、ウサギ狩りに使われた猟犬は不要となり、煮て食べられる」という意味です。語源は『史記』「淮陰侯(わいいんこう)」ですよ。

「敵国が滅びてしまえば、戦闘で功績をあげた家臣は不要になること」から転じて「役に立つときはさんざん利用されるが、不要になると見捨てられる」「功績をあげた部下でも、能力を発揮できる場所がないと価値がないとみなされる」という意味になりました。

「飲水思源」の英訳

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次は英語で「飲水思源」をどのように表現するか見ていきましょう。

「When you drink water, think of its source.」

「drink」は「飲む」、「think of」は「~を思い出す」「~のことを想像する」「~のことを思いやる」、「source」は「源」「根源」「原因」という意味があります。When you drink water, think of its source.」「水を飲むときは、その源のことを思いなさい」という意味ですね。

「Don’t forget where your happiness comes from.」

「forget」は「忘れる」、「happiness」は「幸せ」、「comes from」は「~来ている」「~に由来する」「~が元になっている」などの意味があります。難しい単語はありませんね。Don’t forget where your happiness comes from.「幸せは何のおかげかを忘れるな」という意味ですね。

「飲水思源」を使いこなそう!

この記事では、「飲水思源」の意味や語源を調べ、使い方や類義語などを解説しました。

 「飲水思源」は「水を飲むときは、その水源についても思いをめぐらすこと」から転じて「他人から受けた恩を忘れてはいけない」「物事の基本を忘れない」という戒めの言葉になりました。語源は、北周の詩人庾信が書いた『徴調曲』です。

何か大きな目標を達成すると、それまでの苦労は吹き飛びますね。しかし「飲水思源」の言葉は吹き飛ばさないように、頭の片隅に残しておいてくださいね。

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国語言葉の意味

「飲水思源」は戒めの言葉!意味・語源・類義語などを日本放送作家協会会員がわかりやすく解説

この記事では「飲水思源(いんすいしげん)」について解説する。
端的に言えば、飲水思源の意味は「他人から受けた恩を忘れてはいけない」です。中国の故事に由来する四字熟語で、戒め(いましめ)の言葉なんです。そのままだと意味がわかりづらいが、読み下し文にしてみると理解できるぞ。
日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。「飲水思源」の意味や語源をチェックし、例文や類義語などを見ていきます。

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日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。時代によって変化する言葉の面白さ、奥深さをやさしく解説する。

「飲水思源」の意味・語源・使い方

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さっそく「飲水思源」の意味と語源をチェックし、例文で使い方を見ていきましょう。

「飲水思源」の意味

まず、国語辞典で「飲水思源」の意味をチェックしましょう。

物事の基本を忘れないという戒めの語。また、他人から受けた恩を忘れてはいけないという戒めの語。水を飲むとき、その水源のことを思う意から。▽「思源」は源のことを考える意。「水(みず)を飲(のみ)て源(みなもと)を思(おも)う」と訓読する。

出典:「新明解四字熟語辞典」(三省堂)「飲水思源」

「飲水思源」といわれてもピンとこないかもしれませんね。しかし「水を飲みて源を思う」だったら、おおよその意味がつかめるのではないでしょうか。「飲水思源」は「水を飲むときは、その水源についても思いをめぐらすこと」から転じて、「他人から受けた恩を忘れてはいけない」「物事の基本を忘れない」という戒めの言葉になりました。

「飲水思源」の語源は『徴調曲』

「飲水思源」の語源は、北周の詩人庾信(ゆしん)が書いた『徴調曲』の一節です。

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